日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

感染性心内膜炎-Enterococcus   (2023/09/19 更新)
心内膜炎,Enterococcus 属の培養陽性


臨床状況

  • Enterococcusによる感染性心内膜炎の特異的治療:E. faecalisまたはE. faeciumの培養陽性.
  • 消化管の常在菌叢の一部であるグラム陽性球菌.
  • 抗菌薬の選択については,抗微生物薬適正使用の項参照.

病原体

  • E. faecalis
  • E. faecium

第一選択

状況
処方
コメント
ペニシリンに感受性で,GMの相乗効果がある場合
■ (ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+CTRX 2g静注12時間ごと)・6週(E. faecalisのみ.E. faeciumに対する有効性は未確立)

■(PCG 2400万単位/日静注4時間ごとに分割+GM 1mg/kg静注8時間ごと)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)

■(ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+GM 1mg/kg静注8時間ごと)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
限られたデータだが,ABPC/GM併用治療2週,その後ABPC単独・4~6週は,有効性において標準的併用処方4~6週と同様であり,毒性は少なかった(N Engl J Med 383: 567, 2020).
ペニシリン耐性(MIC>16μg/mL)または患者がペニシリンアレルギーだが,アミノグリコシド(GM)との相乗効果がある(MIC≦500μg/mL)場合
■(VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと+GM 1mg/kg8時間ごと)・6週
  
GM高度耐性(MIC>500μg/mL)E. faecalis
ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+CTRX 2g静注12時間ごと)・6週(Ann Intern Med 146: 574, 2007Clin Infect Dis 56: 1261, 2013

SMに感受性(MIC≦1500μg/mL)

■(ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療),または

■(PCG 2400万単位/日静注4時間ごとに分割・4~6週+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
ABPC+CTRXのE. faeciumに対する有効性は確立されておらず,この併用処方は使用すべきでない.
GM高度耐性(MIC>500μg/mL)E. faecium
ABPCに感受性の場合

ABPC 2g静注4時間ごと,またはPCG 400万単位静注4時間ごと・8~12週.治癒率はわずか50%.

ABPCに感受性でSMに感受性(MIC≦1500μg/mL)

ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
DAPABPC併用が成功した1例についての報告がある:Antimicrob Agents Chemother 56: 6064, 2012Eur J Clin Microbiol Infect Dis 30: 807, 2011
ペニシリン,VCM,アミノグリコシドに耐性の場合
DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと+(ABPC 2g静注4時間ごとまたはCeftaroline 600mg静注8時間ごと)(Curr Infect Dis Rep 16: 431, 2014).

次善の策

LZD 600mg静注または経口12時間ごと・8週以上
LZDは静菌的であり,再発率が高い.他に選択肢があるかぎり避ける.他の活性のある薬剤との併用が推奨される.

††:米国では用いられる.


第二選択

E. faecalisまたはE. faeciumに対して,ペニシリンまたはVCMが使用できない場合:
  • DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと.
  • もっとも良いのはβラクタム系との併用である.重度のアレルギーでペニシリン系,セファロスポリン系,カルバペネム系が使用できない場合は,RFPまたはGMいずれかとの併用治療を試してもよい.

抗微生物薬適正使用

  • 治療選択:心内膜炎の場合,ペニシリンとGMまたはSMの併用が,分離株に対しin vitroで相乗効果を示すかを明らかにすることが重要である.
  • 併用治療はDAPへの耐性が存在する場合でも耐性の進展を妨げ,活性を回復させることができる.文献:Curr Infect Dis Rep 16: 431, 2014

コメント

  • E. faecalis心内膜炎に対するさまざまな治療法の効果および再発リスクについてはClin Infect Dis 76: 281, 2023参照.治療後の再発は頻繁で,無症候性のことが多く,最初の発症から6ヵ月以上経って起こることもある.
  • DAP.全国規模のレトロスペクティブ研究で,DAP用量≧10mg/kgは生存率改善,微生物学的治癒に関連し,筋毒性はみられなかった(Clin Infect Dis 64: 605, 2017).
  • ペニシリン系,VCM,アミノグリコシド系に耐性株の場合は弁置換術を検討する.
  • 望ましいVCMのトラフ値は15~20μg/mL.
  • GMは相乗作用のために用いる.ピーク濃度は4μg/mLを超える必要はない.アミノグリコシド系薬1日1回投与は,Enterococcusによる感染性心内膜の治療としては無効.
  • GM耐性株はSM感受性のことがあるが,高度SM耐性を除外するために,SMのMICもチェックする必要がある.
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2023/09/19