日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

感染性心内膜炎-Enterococcus   (2025/05/27 更新)
心内膜炎,Enterococcus 属の培養陽性


臨床状況

  • Enterococcusによる感染性心内膜炎の特異的治療:E. faecalisまたはE. faeciumの培養陽性.
  • 消化管の常在菌叢の一部であるグラム陽性球菌.
  • Enterococcusであるという確認を得ることが重要.
  • SMまたはGMの併用を行う場合には,SMまたはGMのMICが,in vitroでの相乗効果を予想させる範囲にあることを確認して,血清中濃度のモニターを行うこと.
  • 可能なら,感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.

病原体

  • E. faecalis
  • E. faecium

第一選択

状況
処方
コメント
ペニシリンに感受性で,GMの相乗効果がある場合
■ (ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+CTRX 2g静注12時間ごと)・6週(E. faecalisのみ.E. faeciumに対する有効性は未確立)

■(ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+GM 3mg/kg静注・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
GMの至適用量と期間は明確に定められていない.2015年米国心臓協会(AHA)ガイドライン(Circulation 132: 1435, 2015)はGM 3mg/kg/日2~3回に分割・4~6週を推奨,ヨーロッパ心臓病学会(ECS)ガイドライン(Eur Heart J 44: 3948, 2023)は最初の2週のみ3mg/kg1日1回として合計6週治療を推奨.限られたデータだが,GM2週は4~6週と有効性は同等で毒性は少ないことが示唆されている(Circulation 127: 1810, 2013).
AHAガイドラインはPCG 2400万単位4時間ごとに分割をABPCGMに対する第二選択として推奨している.
GMの血清濃度モニターについては抗微生物薬適正使用の項を参照
ペニシリン耐性(MIC>16μg/mL)または患者がペニシリンアレルギーだが,アミノグリコシド(GM)との相乗効果がある(MIC≦500μg/mL)場合
■(VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと+GM 3mg/kg/日・6週
この処方には重大な毒性がある:DAP併用処方の使用を考慮すること(下記ペニシリン,VCM,アミノグリコシドに耐性の場合を参照).
2015年AHAガイドラインはGM3回分割を,2023年ガイドラインは1日1回投与を推奨している.
GMの血清濃度モニターについては抗微生物薬適正使用の項を参照
GM高度耐性(MIC>500μg/mL)E. faecalis
ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+CTRX 2g静注12時間ごと)・6週(Ann Intern Med 146: 574, 2007Clin Infect Dis 56: 1261, 2013
望ましくはないがSMに感受性があるなら選択肢のひとつ(MIC≦1500μg/mL)

■(ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療),または

■(PCG 2400万単位/日静注4時間ごとに分割・4~6週+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
ABPCCTRXのE. faeciumに対する有効性は確立されておらず,この併用処方は使用すべきでない.

SMの血清濃度モニターについては抗微生物薬適正使用の項を参照
GM高度耐性(MIC>500μg/mL)E. faecium
ABPCに感受性の場合

ABPC 2g静注4時間ごと,またはPCG 400万単位静注4時間ごと・8~12週.治癒率はわずか50%.

ABPCに感受性でSMに感受性(MIC≦1500μg/mL)

ABPC 12g/日静注4時間ごとに分割+SM 15mg/kg静注††または筋注 2回に分割)・4~6週(3カ月以上症状が続く患者や人工弁感染では6週治療)
DAPABPC併用が成功した1例についての報告がある:Antimicrob Agents Chemother 56: 6064, 2012Eur J Clin Microbiol Infect Dis 30: 807, 2011
SMの血清濃度モニターについては抗微生物薬適正使用の項を参照
ペニシリン,VCM,アミノグリコシドに耐性の場合
DAP 10~12mg/kg静注24時間ごと+(ABPC 2g静注4時間ごとまたはCeftaroline 600mg静注8時間ごと)(Curr Infect Dis Rep 16: 431, 2014).

他に選択肢がない場合
LZD 600mg静注または経口12時間ごと・8週以上
LZDは静菌的であり,再発率が高い.他に選択肢があるかぎり避ける.可能なら他の活性のある薬剤の追加が推奨される.

††:米国では用いられる.


第二選択

E. faecalisまたはE. faeciumに対して,ペニシリンまたはVCMが使用できない場合
  • DAP 10~12mg/kg静注24時間ごと.
  • もっとも良いのはβラクタム系との併用である.重度のアレルギーでβラクタム系が使用できない場合は,RFPまたはGMいずれかとの併用治療を試してもよい.

抗微生物薬適正使用

  • GMまたはSMを用いる場合には,これらのMICが,ペニシリンまたはABPC(おそらくVCMやDAPとも)と用いた場合に相乗効果が予想される範囲(GMのMIC≦500μg/mL;SMのMIC≦1500μg/mL)にあることを確認する.
  • GM処方の推奨(少なくとも週1回はモニター):
  • GMを8~12時間ごとに投与するなら,ピーク値(投与後30~60分後の濃度と定義される)3~4μg/mL,トラフ値(次の投与の直前の濃度と定義される)<1μg/mLを達成するように用量調整を行わなければならない.
  • GMを1日1回投与するなら,ピーク値10~12μg/mL,トラフ値<1μg/mLを達成するよう用量調整を行わなければならない.
  • SMの用量は,ピーク値20~35μg/mL,トラフ値<10μg/mLを達成するよう調整しなければならない;少なくとも週1回はモニター.

コメント

  • E. faecalis心内膜炎に対するさまざまな治療法の効果および再発リスクについてはClin Infect Dis 76: 281, 2023参照.治療後の再発は頻繁で,無症候性のことが多く,最初の発症から6ヵ月以上経って起こることもある.
  • DAP.全国規模のレトロスペクティブ研究で,DAP用量≧10mg/kgは生存率改善,微生物学的治癒に関連し,筋毒性はみられなかった(Clin Infect Dis 64: 605, 2017).
  • ペニシリン系,VCM,アミノグリコシド系に耐性株の場合は弁置換術を検討する.
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2025/05/26