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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
腸チフス,腸熱
(
2024/02/27 更新
)
チフス症候群:腸チフス,パラチフス熱,腸熱
臨床状況
Salmonella
属による重症の全身性発熱疾患であり,通常,他の感染者の糞便中の細菌叢で汚染された食物や水を摂取することにより起こる.
下痢の発症率は50~78%,患者の30%は便秘となる.
急激な発熱があることおよび腸が感染源のため,一般に「腸熱」という名称でよばれる.
処方の選択は,感染が起こった地域によって異なる.南および東南アジアでの分離株は以下の薬剤に耐性のことが多い:
ST,セファロスポリン系薬第3世代,ABPC,およびCP
ほとんどの分離株がフルオロキノロン系薬に対して耐性
2016年,パキスタンでABPC,CTRX,CP,CPFX,およびSTに対する超多剤耐性(XDR)株の集団発生が報告された.
イラクで別のXDRの集団発生:
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 69: 618, 2020
2021年2月現在,海外渡航歴のない米国人でのXDR Typhiが報告されている.
病原体
Salmonella enterica serovar Typhi
(旧名
S. typhi
)
Salmonella enterica serovar Paratyphi
A,B,C(
S. paratyphi
)
Salmonella enterica serovar Choleraesuis
(
S. choleraesuis
)
第一選択
海外渡航に関連した感染で,パキスタンまたはイラクでの感染ではない場合:
合併症のない場合:
CTRX
2g静注24時間ごと・7~14日
パキスタンまたはイラクでの感染,または海外渡航歴がない米国でのTyphi:
高度耐性のため,フルオロキノロン系薬による経験的治療は避ける.
合併症のない場合(消化器症状のみ):
AZM
1g経口・1回,その後500mg経口24時間ごと・5~7日(コメント参照)
合併症のある場合(たとえば,腸管穿孔,真菌性動脈瘤,ショック),または重症感染
MEPM
1~2g静注8時間ごと(または,その他のカルバペネム系)
MEPM
1~2g静注8時間ごと+
AZM
1g経口1回,その後500mg経口24時間ごと・5~7日
重症例ではデキサメタゾンを考慮(コメント参照).
第二選択
感受性検査の結果に従う
AZM
1g経口・1回,その後500mg経口24時間ごと・5~7日
CTRX
2g静注24時間ごと・7~14日,合併症のない感染に対して
CTX
1~2g静注6~8時間ごと・7~14日(米国では入手困難)
CPFX
400mg静注または500mg経口1日2回,あるいは
LVFX
750mg静注/経口1日1回毎日・7~14日
CP
500mg静注または経口6時間ごと・14日を考慮してもよいが,おそらく
CP
は他の薬剤よりも劣っている:
J Antimicrob Chemother 70: 979, 2015
.
抗微生物薬適正使用/予防
抗微生物薬適正使用
抗菌薬耐性株の増加のため,治療効果を得ることが困難になっている.
フルオロキノロン系薬に対する耐性
ナリジクス酸耐性の検査を行う.もし耐性なら,フルオロキノロン系薬に対する反応は乏しい.
現在,米国で分離された分離株のほとんどが耐性菌であるため,
AZM
または
CTRX
による経験的治療を行う(
Clin Infect Dis 50: 241, 2010
).
感受性のある株に対しては,フルオロキノロン系薬が使用可能:
Ann N Y Acad Sci 1323: 76, 2014
.
ESBL産生
S. enterica
serovar Typhi株が蔓延(
Emerg Infect Dis 20: 1918, 2014
).通常は
MEPM
による治療を行う.
AZM
単独による治療では耐性菌の危険性が増すため,入院患者では
AZM
と
CTRX
の併用,あるいは
AZM
と
MEPM
の併用を考慮する
予防
ワクチンの適応,使用可能な製剤,用量,曝露前予防に関するワクチンの特徴については,
腸チフスワクチン
参照.
S.paratyphi
または非チフス性
Salmonella
属に対しての予防効果はほとんど,またはまったくない
コメント
超薬剤耐性腸チフスに関するCDCのサイト:
Extensively Drug-Resistant Typhoid Fever in Pakistan
.
現在までの調査結果はCDCの全米薬剤耐性監視システム(
NARMS
)でみられる.
治療選択肢についての総説:
Cochrane Database Syst Rev 11(11): CD010452, 2022
.
臨床的改善の後で再発が起こることがある.
重症例(脳炎またはショック)ではデキサメタゾンが適応となる:初回用量3mg/kg,その後1mg/kg6時間ごと・48時間.
N Engl J Med 310: 82, 1984
.
合併症に注意すること.たとえば,感染性動脈瘤(50歳以上の患者の約10%に起こる),骨髄炎,化膿性関節炎,血行性の肺炎など.腸壁の壊死の後に穿孔が起こることもある.
持続的に(>12カ月)便培養が陽性でも患者に危険はないが,公衆衛生上の問題になる.除菌の試みは理にかなったことである:感受性があればCPFX 500~750mg経口1日2回・14~28日(患者の90~93%で除菌された).
慢性保菌状体となる部位(一般的には背景に構造的病変がある:胆嚢,胆管道,尿管)(
PLoS Negl Trop Dis 17: e0011168, 2023
).
文献:
Lancet 385: 1136, 2015
;
N Engl J Med 379: 1493, 2018
.
【日本の情報】全数報告対象(3類感染症)であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない.厚生労働省「
感染症法に基づく医師の届出について
」参照
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2024/02/26