日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

壊死性筋膜炎-Streptococcus  (2024/09/03 更新)


臨床状況

  • 急激な痛みに続いて,発熱および局所的な皮膚の炎症と紅斑が起こる.通常四肢に生じる.
  • 丹毒に類似するが,皮膚の壊死(たとえば,虚血性壊死により血流の充満した水疱が皮膚上に形成される)が明瞭であり,急速に範囲が拡大する.
  • 痛みの減少および黒みがかったチアノーゼ性皮膚の減少とともに壊死が明らかになり,しばしば充血した水疱を伴う.皮下組織と筋との間の筋膜面の壊死により診断される.
  • 毒素性ショック症候群(血圧低下,悪心,嘔吐,下痢,腎不全,呼吸不全,さらに紅皮症が起こることもある)を合併することもある.

病原体

  • B,C,G群Streptococcusもある

第一選択

  • 外科的デブリドマンがもっとも重要
  • 経験的治療:
  • PCG 400万単位静注4時間ごと+CLDM 900mg静注8時間ごと
  • CLDM増量についての議論は下記コメントを参照
  • 患者の50%はStreptococcusによる毒素性ショック症候群を合併する.毒素性ショック症状の有無にかかわらず,局所でのS. pyogenesの毒素産生をブロックするために,CLDMを含む併用治療が推奨される.
  • 注:CLDMに対するin vitro耐性が増加している
  • in vitro感受性をチェック
  • 耐性の場合,LZDまたはTZDが合理的な選択肢
  • コメント参照
  • 早期のIVIG使用を考慮する:0.5g/kg・1日目,その後25g・2,3日目.この処方により血漿中のスーパー抗原を効率よく中和できる(Clin Infect Dis 71: 1772, 2020).(コメント参照)

第二選択

  • 外科的デブリドマン
  • ペニシリンアレルギーの場合の経験的処方では,代わりにVCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLを目標とする)を用いる.
  • CLDMアレルギー患者に対し,必要な場合はCLDMに代えてLZDまたはTZDを使用してもよい.

抗微生物薬適正使用

  • CLDM耐性の問題が増大しつつある:米国では15%まで,中国では95.5%までが耐性.したがって,in vitroの感受性が確認されないかぎり,CLDM単剤治療は行わないこと.耐性は内因性のことも誘導性のこともある.

コメント

  • CLDMは毒素および他の毒性因子の産生を抑えるために使用される.
  • マウスの壊死性筋膜炎モデルの研究では,Streptococcus分離株がCLDMに耐性の場合でも,CLDMは重要な毒性因子を阻害した:J Infect Dis 215: 269, 2017
  • さらに,阻害濃度以下では,CLDMはA群Streptococcus毒性因子の産生を促進した.
  • したがって,壊死組織での十分な薬物濃度を確保するために,CLDMは高用量が推奨される:CLDM 900mg静注6時間ごと.
  • 後向きコホート研究において,クリンダマイシン補助療法は院内死亡率を低下させた(Lancet Infect Dis 21: 697, 2021).
  • 全般に,治療には診断確定のための早期の試験的切開,壊死組織の積極的なデブリドマンと抗菌薬治療が必要である.
  • ペニシリンは増殖期の細菌に対しては活性があるが,静止期には有効性が低い.
  • CLDMは治療濃度で,増殖期,静止期の細菌におけるタンパク合成,毒素産生を阻害する.
  • 高圧酸素は標準治療の一部ではない.高圧酸素の準備や設定のために外科的デブリドマンを遅らせてはならない.
  • 患者は横紋筋融解症を伴うことがある.
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2024/09/02