false
日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
リーシュマニア症
(
2024/12/17 更新
)
皮膚型,粘膜型,内臓型,カラアザール
臨床状況
3つの臨床型:皮膚型,粘膜型(鼻咽頭リーシュマニア症),または内臓型(カラアザール)リーシュマニア症.
皮膚型リーシュマニア症の治療は重症度による.
軽症:直径1cm以上の病変が4個以下,直径5cmを超えるものなし,美容上気になる部分に病変なし,関節や性器上に病変なし.経過観察してもよい.
複雑性病変:病変>4個,直径5cmを超える病変,関節上の皮膚あるいは美容上気になる部分での病変,以前の治療が無効だった,比較的広い範囲の局所またはリンパ節病変,あるいは広い範囲のリンパ節腫脹.
旅行者におけるリーシュマニア症は,ほとんどの場合経過観察か局所治療で十分.
Clin Infect Dis 57: 370, 2013
.
L. brasiliensis
による皮膚病変は,粘膜播種の危険があるため治療が必要.
皮膚型リーシュマニア症の概念に疑問が呈されている:
Int Health 4: 153, 2012
参照.
粘膜型(
L. brasiliensis
,あるいはまれに他の
Viannia
属:新世界のみ).
口蓋,声帯を含む口腔咽頭部.基本的に旅行者ではみられない.
内臓型(VL)は,ゆっくりと発病するが発熱は持続し,体重減少,顕著な脾臓腫大を示す.
HIV感染者では消化器病変が起こる.
主にブラジル,インド,エチオピア,南スーダン,スーダン.
まれな症候群:カラアザール後皮膚型リーシュマニア(
Clin Infect Dis 67: 667, 2018
),再発性リーシュマニア,びまん性皮膚型リーシュマニア,播種性皮膚型リーシュマニア,腺型リーシュマニア,ぶどう膜炎
ヨーロッパで多数の旅行者感染の事例(
Euro Surveill 27: 2002028, 2022
)
同じ地域でも種が異なれば,薬剤の効果も大きく異なる.
診断/病原体
診断
皮膚型:潰瘍の隆起した縁から十分な深さのパンチ生検で標本を採取.
種の同定にはPCRが必須であり,培養や組織学的検査も利用可能.広く流行している地域でのSporotrichosisのための培養.
多くの場合,病変縁の針吸引,皮膚スメア,擦過,剥離検体をギムザ染色することにより迅速診断が可能.
血清学的検査は有用でない.いくつかの国ではリーシュマニア皮膚検査が用いられている.
粘膜型:もっとも活動性の病変部からの生検サンプルで組織学的検査およびPCRを行う.
血清学的検査は有用でない.
内臓型:骨髄吸引サンプルで組織学的検査,培養,PCRを行う.
脾臓吸引は感染歴としての意味しかない.診断検査としては行わないこと.
血清学的またはK39検査は現在中止されている.
病原体
L. brasiliensis
(皮膚型,粘膜型:ラテンアメリカ)
高リスク地域:マヌー国立公園,ペルー,マディディ国立公園,ボリビア)
L. donovani
(内臓型:インド,アフリカ)
L. infantum
(内臓型:地中海)
L. chagasi
(内臓型:西半球)
L. infantum
と
L. chagasi
は同一微生物
L. major
(皮膚型:旧世界)
L. tropica
(皮膚型:旧世界)
L. aethiopica
(皮膚型:旧世界)
L. peruviana
(皮膚型:新世界)
L. mexicana
(皮膚型:新世界)
L. amazonensis
(皮膚型:新世界)
L. guyanensis
(皮膚型:新世界)
L. panamensis
(皮膚型:新世界)
おおよその分布地図:
Clin Infect Dis 63: e202, 2016
.
第一選択
皮膚型:軽症
ほとんどの症例では自然治癒に任せることが望ましく,経過観察のみ
パロモマイシン
軟膏†1日2回・10日,10日休薬,その後追加で10日塗布
パロモマイシン/GM 局所製剤(Aquaphilic:米国軍でのみ使用される)がパナマとボリビアで一定の有効性を示した(
Clin Infect Dis 68: 844, 2019
).
パナマでの他の臨床試験ではパロモマイシン軟膏単独を上回る有効性は示されなかった(
PLoS Negl Trop Dis 13: e0007253, 2019
).
旧世界の旅行者では皮膚型に有効:
PLoS Negl Trop Dis 17: e0011492, 2023
.
温熱療法については
www.thermosurgery.com
および
Mil Med 177: 345, 2012
を参照.
データは
L. tropica
,
L. major
,
L. mexicana
に関するもののみ.
1回治療は痛みが大きい.
アンチモン
による病変内(IL)治療.Meglumine antimoniate (Glucantime) 20mg/kgまでを病変局所に週1回・5~10週.希釈していない薬剤を用いること.
軽症例に対しては,凍結治療を5~8回治癒するまで行うことが可能.
PAHOガイドラインでは,病変が少数の場合には局所治療のほうが望ましいとしている.
CDCはILを支持していない;ヨーロッパと南米で一般的に使用されている.
旧世界での皮膚型リーシュマニア症での局所治療に関するデータ(
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010569, 2022
).
ILについての考察:
Clin Infect Dis 77: 583, 2023
凍結治療:液体窒素で3回凍結させる(±アンチモンを病変局所に投与)
レーザー治療
いずれの局所治療でも事前に壊死組織をデブリドマン
皮膚型:複雑性病変
Meglumine antimoniate 20mg/kg/日静注または筋注・20日
L-AMB
3mg/kg静注1日1回・1~5日目,10日目(
J Am Acad Dermatol 68: 284, 2013
),あるいは1~7日目
皮膚型および粘膜型に対するL-AMB短期治療使用に関するシステマティックレビュー:
Open Forum Infect Dis 10: ofad348, 2023
.
HIV患者では,L. donovani治療を,
L-AMB
または
Miltefosine
またはMeglumine antimoniate 20mg/kg静注または筋注・28日のどれかで行う(併用はしない)
皮膚型:
L. braziliensis
によるもの(重症度にかかわらず)
Meglumine antimoniate 20mg/kg/日静注または筋注・20日
L-AMB
3mg/kg静注1日1回・1~5日目,14,21日目,あるいは1~5日目,10日目(
J Am Acad Dermatol 68: 284, 2013
).
粘膜型
L-AMB
(処方はさまざま)を累積投与量20~60mg/kg(
Trans R Soc Trop Med Hyg 108: 176, 2014
),または
Meglumine antimoniate 20mg/kg/日静注または筋注・28日,または
AMPH-B
0.5~1mg/kg静注1日1回または隔日,合計20~45mg/kgまで
内臓型
免疫正常患者:
L-AMB
3mg/kg静注1日1回・1~5日目,14,21日目(合計21mg/kgが必要).
内臓型に対する短期併用治療は無効だった:
Lancet Infect Dis 24: e36, 2024
.
東アフリカ(高度耐性):[Meglumine antimoniate+パロモマイシン]17日が公衆衛生上の第一選択
高用量
L-AMB
総計40mg/kgの使用も可能.
HIV/AIDS
L-AMB
(累積投与量30mg/kg,5mg/kgを第1,3,5,7,9,11日)+
Miltefosine
(100mg/日経口・アジアのほとんどの地域では14日,東アフリカでは28日)
L. infantum/chagasi
:L-AMB 総投与量20~60mg/kgを下記要領で
3~5mg/kg1日1回,または
中断を含むスケジュール,たとえば4mg/kg静注を第1~5日,10,17,24,31日
このスケジュール(Miltefosineなし)は
L. donovani
に対する第二選択
二次予防(CD4<200):
L-AMB
(3~5mg/kg)または
AMPH-B
(1mg/kg)3~4週ごと,CD4>350となるまで.
CD4数>350/μL,6ヵ月間ウイルス量検出限界以下,症状なしならば二次予防の中止を考慮する.
第二選択治療
・
AMPH-B脂質製剤
3mg/kg21日ごと,または
・5価アンチモン(Meglumine antimoniate)20mg/kg静注または筋注4週ごと
・
イセチオン酸ペンタミジン
4mg/kg(最大300mg)静注2~4週ごと
参考資料:
WHOガイドライン2022年7月7日
およびNIH HIV日和見感染ガイドライン.
注:Meglumine antimoniate(Glucantime)の用量は5価アンチモンmgで表す.1.5/5mgの注射用溶液が市販されており,5mLアンプルに0.4050gのアンチモンが入っている(たとえば,Glucantime75mgにはアンチモン20mgが入っている).
(†:日本にない剤形)
第二選択
皮膚型:複雑性病変
FLCZ
200mg経口1日1回・6週.データは
L. major
に関するもののみ.
KCZ
600mg経口1日1回・30日.データは
L. mexicana
,
L. panamensis
,
L. major
に関するもの.
Miltefosine
体重>45kg 50mg経口1日3回,30~44kg 50mg経口1日2回を28日.
FDAは12歳未満または体重30kg未満では承認していない.
他の国では,2.5mg/kg/日(最大150mgまで).
L braziliensis
,
L guyanensis
,
L panamensis
についてのみ.
AMPH-B
0.5~1mg/kg静注1日1回または隔日,合計15~30mg/kgまで
粘膜型
Miltefosine
経口は効果が一定しない.
Miltefosine
体重>45kg 50mg経口1日3回,30~44kg 50mg経口1日2回を28日.
内臓型
Miltefosine
体重>45kg 50mg経口1日3回,30~44kg 50mg経口1日2回を28日.
FDAは12歳未満または体重30kg未満では承認していない.他の国では,2.5mg/kg/日(最大150mgまで).南アフリカの一部では,単剤治療に対する耐性も出現している.
FDAの承認は
L. donovani
に対してのみ,
L. infantum
には承認されていない.HIV患者についてはデータが乏しいので使用しないこと.
AMPH-B
非脂質製剤1mg/kg静注1日1回・合計15~20mg/kgまで(HIV患者でも使用可)または隔日・8週(合計15~20mg/kgまで)
5価アンチモン
(Sodium StibogluconateまたはMeglumine antimoniate)20mg/kg/日静注または筋注・28日(インド亜大陸での曝露の場合を除く)
ヨーロッパでの
L. infantum
感染小児には,
L-AMB
10mg/kg静注・1,2日目.
東アフリカの治療抵抗性内臓型リーシュマニア症には
Miltefosine
+
パロモマイシン
(
Clin Infect Dis 76: e1177, 2023
)
HIV患者の
L. infantum/chagasi
AMPH-B
非脂質製剤 0.5~1.0mg/kg静注1日1回,総量1.5~2.0g,または
Meglumine antimoniate 20mg/kg静注または筋注28日
コメント
治療反応を観察すること.皮膚病変の>50%は4~6週で治癒するが,治療終了までに治癒の徴候がなければ治療失敗を意味し,さらなる治療のために専門施設へ紹介する.
経過観察での再生検は不要.治療が成功した場合でも寄生虫のDNAや死んだ残渣は残る.
米国およびカナダでの状況に対する明確かつ詳細な専門家コンセンサス・ガイドライン:
Clin Infect Dis 63: e202, 2016
.
いずれの種に対してもランダム化比較試験はほとんどなく,ガイドラインでは皮膚型についての特定の推奨はされていない.
上記すべての可能性は代替処方としてあげられており,個々の状況に応じて選択する必要がある.
Glucantime(Meglumine antimoniate)
個別の治験薬としてFDAの承認を得ればSanofiから入手できる(
抗寄生虫薬の供給元
参照).
■GSKはStibogluconate sodium(Pentostam,GSK)を全世界で生産中止し,CDCからも入手はできない.
■さまざまな質の多くの後発5価アンチモン製剤が,発展途上国で広く出回っている.
新世界の皮膚型リーシュマニア症に対して,温熱治療とMiltefosine短期処方(14日)の併用(
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010238, 2022
).
皮膚型または粘膜型疾患に対するL-AMB治療後の後期再発について(
PLoS Negl Trop Dis 11: e0006094, 2017
)
イラクから帰国後10年以上たっており,活動性感染の寄生虫学的証明がなく無症候の米国退役軍人における,潜在性内臓型リーシュマニアに関する実験的なサロゲートマーカー:
Clin Infect Dis 68: 2036, 2019
.
Miltefosineは皮膚型,粘膜型,内臓型に対してFDAにより承認された.
直接Profounda Inc.に注文する必要がある:407-270-7790(
www.impavido.com
).
ヨーロッパ,中央/南アメリカでも承認されている.
局所パロモマイシン軟膏†(硫酸パロモマイシン 15%,Methylbenzethonium chloride 12%,不快感が強く,効果は不明)は製造元から入手可能.
LeishcutanはVictoria Pharmacy(
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
を参照)から入手可能.
局所治療は粘膜への拡大の可能性が低いときのみ適応となる.
妊婦で有用性がリスクを上回る場合は,内臓型,粘膜型の治療を考慮する.
妊婦の内臓型リーシュマニア治療の第一選択はL-AMBである.
ヒトの妊婦での5価アンチモンの使用は毒性の懸念があり,経験が乏しい.
(†:日本にない剤形)
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing
↑ page top
2024/12/16