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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
トキソプラズマ症,免疫不全患者(AIDS,移植後)
(
2025/10/14 更新
)
AIDS,移植患者
臨床状況
最初の感染は通常無症状であり,潜在的な感染は生涯にわたって維持される.
AIDS患者(CD4<100/μL),移植患者およびその他の免疫不全患者では再活性化が起こることがある.
CD4数<100,トキソプラズマ抗体陽性,予防を受けていない場合の再活性化リスクは30%.
血清陽性の個人は,造血幹細胞移植後の再活性化リスクが高く(
Lancet Infect Dis 24: e291, 2024
),血液PCRによるモニターを行わねばならない.
脳炎,播種性疾患として発症することもあり,PCR陽性でも無症状のこともある.
症状
トキソプラズマ脳炎は頭痛,混迷,発熱を呈する.
脳炎のほとんどの患者は
Toxoplasma
血清反応陽性である(ただし,HIV感染者では,陽性境界域の場合もある)
脳生検にはリスクがあるため,経験的治療を行い,臨床症状とX線での改善を監視すること(CTよりもMRIの方が感度が高い).
7~10日間の治療で臨床的改善がみられない場合には,生検を行うこと.
T. gondii
は肺炎,脈絡網膜炎,肝炎,筋炎,播種性敗血症性病変,その他脳以外の感染症も引き起こす.
1つの症例シリーズで,移植後またはHIV/AIDS感染の患者の60日死亡率は82%であった(
Clin Infect Dis 57: 1535, 2013
).
病原体/診断
病原体
Toxoplasma gondii
診断
通常は臨床症状と抗体(IgMまたはIgG)検査陽性に基づく.確定診断には組織中の病原体同定が必要.
脳のCTやMRIでリング状の増強病変.7~10日間の経験的治療で臨床的改善がみられない場合は,生検を行うこと.
PCRは潜在性感染組織で陽性となり,活動性の病変を意味しないことがある.血液または脳脊髄液(特異度は高いが感受性は低い)で陽性ならPCRは有用.
血漿cell-freeDNAメタゲノミクスを用いた診断についての多くの症例報告がある.結果が陽性ならば治療の必要がある.
T.gondii
血清陽性の造血幹細胞移植レシピエントは毎週定期的に血液PCRでモニターする.ヨーロッパでの経験に基づく診療ガイドライン:
Lancet Infect Dis 24: e291, 2024
.
CDCの参照検査室:Dr. Jack S. Remington Laboratory for Specialty Diagnostics (remingtonlab@sutterhealth.org;旧名 Palo Alto Medical Foundation Toxoplasma Serology Lab)+1 650-853-4828
成人/青少年HIV患者での日和見感染の予防と治療のガイドライン
のトキソプラズマ症治療(HIVおよび非HIV)の要約を参照.
第一選択
Pyrimethamine
200mg経口1回,その後75mg/日経口+
スルファジアジン
経口6時間ごと(体重<60kgなら1g,体重≧60kgなら1.5g)+ホリナートカルシウム25mg/日経口.症状消失後6週間治療し,その後抑制治療(二次予防).または
ST
(トリメトプリムとして)10mg/kg/日静注または経口12時間ごとに分割・6週,その後二次抑制(
Antimicrob Agents Chemother 42: 1346, 1998
).
免疫不全者に対する治療のほとんどは,HIV感染患者治療の経験に基づくものである.
臨床的なトキソプラズマ症患者またはPCR陽性の幹細胞移植後の患者は上記のように6週治療を行い,臨床症状が解消しqPCRで2回陰性ならば,二次予防を開始する.
第二選択
Pyrimethamine
200mg経口・1回,その後75mg/日経口+ホリナートカルシウム 10~25mg/日経口+以下の中から1剤
CLDM
600mg静注または経口8時間ごと
アトバコン
750mg経口6時間ごと
AZM
900~1200mg経口1日1回
6週間治療し,その後二次抑制.
一次予防:CD4<100/μLかつトキソプラズマIgG抗体陽性の場合,CD4数>200/μLが3カ月続くまで続ける.
ST
2錠または1錠経口1日1回(ニューモシスチス肺炎[PJP]の予防にも有効)
ジアフェニルスルホン
50mg経口24時間ごと+
Pyrimethamine
50mg経口週1回+ホリナートカルシウム 25mg経口週1回
週1回:
ジアフェニルスルホン
200mg経口+
Pyrimethamine
75mg経口+ホリナートカルシウム 25mg経口(
J Acquir Immune Defic Syndr Hum Retrovirol 15: 104, 1997
).
アトバコン
1500mg経口24時間ごと
二次予防:脳トキソプラズマ症の治療後,CD4数>200/μLが6カ月続くまで抑制治療を続ける.
スルファジアジン
500~1000mg経口1日4回+
Pyrimethamine
25~50mg経口24時間ごと+ホリナートカルシウム 10~25mg経口24時間ごと(PJPとトキソプラズマ症を防ぐ)
CLDM
300~450mg経口6~8時間ごと+
Pyrimethamine
25~50mg経口24時間ごと+ホリナートカルシウム 10~25mg経口24時間ごと(PJPの予防にはならない)
アトバコン
750mg経口6~12時間ごと
同種幹細胞移植後の血清陽性レシピエントに対する一次予防:
Lancet Infect Dis 24: e291, 2024
.少なくとも6ヵ月の計画で行う.
第一選択:
ST
経口または静注80~400mg1日1回(代替:
ST
経口または静注800mg/160mg週3回):より少ない投与回数や,他の処方(Pyrimethamine/スルファジアジン,アトバコン,ジアフェニルスルホン,AZM,CLDMなど)は推奨されない.
STは,しばしば骨髄毒性のために生着までは頻繁には使用できないことがある.逐次的な血液PCRでフォローしなければならないが,PCRが使用できない場合には,生着までの間
アトバコン
1500mgを考慮してもよい.
コメント
トキソプラズマ症の予防に関する総説,および欧州の専門家による第二選択の処方については,
Clin Microbiol Infect 14: 1089, 2008
を参照.
Pyrimethamineは高価で入手しにくいため,多くの臨床家はトキソプラズマ症治療としてST-DS†12時間ごとを治療選択とすることが多くなっている.
Pyrimethamineは,炎症が起こっていない場合でも脳へ移行する:STの治療失敗の症例報告が多いため,ほとんどの専門医は可能ならPyrimethamineの方を選択する.
ホリナートカルシウムはPyrimethamineの血液学的毒性を予防する.
持続的抑制:
(Pyrimethamine+スルファジアジン)またはSTはニューモシスチス肺炎およびトキソプラズマ症を予防する.
(CLDM+Pyrimethamine)が予防するのはトキソプラズマ症のみ.
(†:日本にない剤形)
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2025/10/14