日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

髄膜炎-グラム陰性桿菌(E. coliP. aeruginosa)  (2024/08/27 更新)
E.coliP. aeruginosaによる髄膜炎,特異的治療


臨床状況

  • 最大3分の1までの髄膜炎がグラム陰性桿菌によるものである.リスク因子は頭部外傷,脳神経外科手術,シャントまたは脳神経外科デバイス,脳脊髄液(CSF)の漏出など.
  • 死亡率は40~80%
  • 免疫不全患者では,隠れたStrongyloides stecoralisの糞便汚染による侵入を通じてグラム陰性菌が循環中に入ることがある.
  • 下記の治療推奨は,髄液培養が陽性でin vitroでの感受性検査結果が得られていることを前提とする.
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
  • 特異的治療の選択にはさまざまな要素が関与する:in vitroでの感受性や耐性の判定,薬剤の脳脊髄液移行性の程度(髄液濃度はin vitroでのMICの10倍以上が理想),合併症の存在,髄液中の補体およびオプソニン活性がないことによる殺菌活性,患者の抗菌薬アレルギー.

病原体

  • E. coli
  • P. aeruginosa
  • 他のColiformsおよび他のグラム陰性桿菌

第一選択

  • 同定された病原体とin vitro感受性に基づき処方を選択.
  • 重大な抗菌薬耐性のエビデンスがない場合の成人に対する初期用量
  • CAZ 2g静注8時間ごと,またはCFPM 2g静注8時間ごと)
  • 長時間点滴または持続的点滴により脳脊髄液中の抗菌薬濃度が改善するというエビデンスがある
  • 用量の詳細についてはCAZおよびCFPM参照
  • 補助的なアミノグリコシド脳室内(髄腔内)投与(GMがもっとも多い)の使用が増大している.詳細については,下記コメント参照
  • 脳脊髄液が無菌となるまでに成人では2~4日,新生児では3~8日を要する.
  • 治療期間は通常21日

第二選択

βラクタム薬耐性菌の感染で,培養陽性が持続する,または抗菌薬アレルギーの場合の治療選択
  • ST(トリメトプリムとして)5mg/kg静注6時間ごと
  • ESBL産生グラム陰性菌による耐性の場合
  • 分離株がすべてのβラクタム薬に耐性の場合:
  • CPFX 400mg静注8~12時間ごと(Pseudomonas に対しては8時間ごと)
  • MFLX 400mg静注24時間ごと(脳脊髄液移行性に優れているが,有効性に関するデータが少ない)
  • 重症のIgE性βラクタムアレルギーの場合:
  • AZT 2g静注6時間ごと

抗微生物薬適正使用

  • 抗菌薬選択で考慮すべきこと
  • AZT:
  • ESBL産生菌により簡単に加水分解されるため,in vitroの感受性を確認する必要がある.
  • 脳脊髄液移行性は良好.
  • ST:
  • 脳脊髄液移行性が良好で,Salmonella, Enterobacter, Citrobacter, Klebsiella属など多くの菌に活性がある.
  • Acinetobacter calcoaceticus, Burkhoderia cepacia, Flavobacterium meningosepticumなど,まれではあるがやっかいな菌も感受性があることが多い.
  • GMと相乗効果を示すことがある.

コメント


  • デキサメタゾン(ステロイド)治療は推奨されない.
  • CTLZ/TAZは,最大3g静注8時間ごとの後,CSF脳室ドレナージ濃度が低くなるため,推奨しない(Antimicrob Agents Chemother 65: e01698, 2020)
  • アミノグリコシド系注射薬(GM,TOB,AMK)は推奨されない
  • 脳脊髄液:治療4~5日後に再度培養を行い,培養結果が依然として陽性の場合,追加的な髄腔内/脳室内抗菌薬投与が必要となることがある(オンマヤリザーバー留置が望ましい).
  • リザーバーにGM:小児では1~2mg/日,成人では4~8mg/日
  • 脳脊髄液中のGM濃度をモニターすること
  • 培養結果陽性が続く場合,用量を8~12mg1日1回に増量することもある
  • S. pneumoniaeN. meningitidisにはデキサメタゾンが推奨されるが,グラム陰性菌による髄膜炎に対しては,このアプローチを正当化する研究がないため推奨されない.
  • 髄腔内/脳室内投与
  • アミノグリコシド系薬に耐性でポリミキシンのみに感受性の菌に対してのみ用いる.
  • PL-Bの投与法:
  • 初回(1回):2.5mg/kg静注2時間かけて
  • その12時間後から1.5mg/kg静注1時間かけて,12時間ごとに繰り返す
  • 髄膜炎の70%で脳室炎が合併する.両側脳室とくも膜下腔の両方に到達するよう,側脳室にオンマヤリザーバーを留置することは有用かもしれない.
  • GMの髄腔内/脳室内投与用量は上記のとおり.
  • TOBを用いてもよい.用量はGMと同じ.
  • AMKを用いる場合は30mg/日.
  • コリスチン(ポリミキシンE)およびPL-B
  • 脳神経手術を受けた新生児でのグラム陰性菌による髄膜炎に対し,コリスチン静注治療が奏効したとの報告がある:Ped Infect Dis J 37: e79, 2018
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