日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

COVID-19, 入院患者治療  (2024/07/23 更新)


COVID-19の管理

初期臨床評価
  • 有症状で検査結果陽性(PCRまたは抗原)
  • PCRは,迅速(抗原)家庭検査より感度が高い(PCR陽性を参照として使用):MMWR 73: 365, 2024
  • 抗原検査の感度:47%(陽性のピークは症状発現後3日)
  • ウイルス培養の感度:80%(陽性のピークは症状発現後2日
  • どちらの検査も発熱患者では感度が良くなる:抗原77%,培養94%.
  • 初期臨床評価の焦点
  • 起点は症状発症の日であり,最初に検査陽性となった日ではない(罹病期間と治療開始時点の決定のため)
  • 重症化のリスク因子
  • 年齢>65歳
  • 免疫不全状態
  • 肥満(BMI≧35)
  • 糖尿病
  • 慢性腎不全
  • 治療の障害となる臓器不全(腎,肝)
  • 重症度(下記参照)
  • 小児または青少年については,MIS-C/MIS-Aも参照
現在の変異株
  • オミクロン変異株(2022年12月~現時点)
  • ほとんどの最近の変異株についての情報については,CDCウエブサイトを参照.
  • オミクロン特異的一価ワクチン(XBB)の登場により,オミクロンのすべての株および亜型の中和抗体産生が可能となる.
  • オミクロン変異株は,現在使用可能な,ほとんどのモノクローナル抗体薬でも中和化されない.たとえば,
  • ■ モノクローナル抗体製剤Bebtelovimab,ソトロビマブ,カシリビマブ・イムデビマブ,Bamlanivimab+Etesevimabは,新しい変異株には効果がなく,使用すべきでない.
  • ■Pemivibartはモノクローナル抗体であり,一次予防に使用され,オミクロン変異株に活性を有する
重症度
重症度
指標
無症候性
症状なし
軽症
発熱,咳,喉の痛み,悪心/嘔吐,下痢,味覚または嗅覚喪失があるが呼吸困難はない.酸素飽和度正常で胸部X線上も正常
中等症
軽症症状+下気道感染の所見(検査および/または画像),室温での酸素飽和度≧94%
重症
中等症症状だが酸素飽和度<94%,PaO2/FiO2<300mmHg,呼吸数>30/分,肺浸潤>50%
重篤
重症症状だが挿管されていて呼吸不全,敗血症性ショック,および/または多臓器不全

治療

治療の一般原則
  • 迅速なCOVID-19診断
  • 重要な注:治療の決定は最初の症状発症日を起点とする(最初の検査陽性の日ではない)
  • 2段階の病期
  • 1~7日目:ウイルス複製が活発
  • ■この段階では抗ウイルス治療がもっとも有効と考えられる
  • 例:レムデシビル,抗ウイルスモノクローナル抗体および直接作用型抗ウイルス薬(ニルマトレルビル・リトナビル,モルヌピラビル)
  • 抗ウイルス治療を可能なかぎり速やかに開始することで最大の効果が得られる.
  • 7~14日目
  • ■この段階では抗ウイルス治療の効果は低く,おそらくは無効
  • ■重症患者にはコルチコステロイドなどの免疫調整薬が有用である可能性がある
重症度別の治療推奨
  • 薬剤の用量/適応については以下の推奨処方を参照.また,個々の薬剤のページも参照.
状況, 重症度,
重症化リスク
治療
コメント
入院, 軽症
(下気道疾患なし),
重症化高リスク
レムデシビル(用量は下記参照),または


予防的抗凝固療法(下記参照)
デキサメタゾンは推奨されない
入院, 中等症
(下気道疾患の所見あり)だが酸素吸入の必要なし.
重症化高リスク
レムデシビル

予防的抗凝固療法(下記参照)
デキサメタゾンは推奨されない
入院, 重症
(酸素飽和度<94%,
および/またはPaO2/FiO2<300)で酸素吸入が必要
レムデシビル+デキサメタゾン±トシリズマブ

バリシチニブ:入院患者で,人工呼吸器やECMO未使用で,重症・重篤な場合;入院後72時間以内に投与するのが理想的.

治療的抗凝固療法:妊娠していない患者でDダイマー>ULN,出血リスクが高くなく,高流量酸素吸入やICUレベルの治療を必要としない場合(詳細は下記抗凝固療法参照).

全員に:予防的抗凝固療法(詳細は下記抗凝固療法参照).
デキサメタゾン投与が受けられない患者では,第二選択としてバリシチニブ(+レムデシビル)を用いる.トシリズマブの使用については推奨処方の注を参照.
入院, 重篤-
機械的人工呼吸
またはECMOが必要
デキサメタゾン±レムデシビル±トシリズマブ

人工呼吸またはECMO使用開始後2日以内の患者では,標準的処方にVilobelimabを追加できる

予防的抗凝固療法(下記参照)
レムデシビルの有用性は証明されていないが,一部の専門家は推奨している

ICU入室の最初の24時間ではIL-6受容体阻害薬を考慮(レムデシビルおよびデキサメタゾンとは併用可能だが,バリシチニブとの併用は推奨されない)

デキサメタゾンを投与できない患者では,バリシチニブを考慮する.トシリズマブの使用については,下記「推奨される処方,用量」を参照.

  • アセトアミノフェン,イブプロフェン(またはナプロキセン),グアイフェネシン,オンダンセトロン,イモジウム,吸入アルブテロール,吸入ステロイド,H2拮抗薬および/または睡眠薬(たとえばメラトニン)などによる補助治療を必要に応じて行う.
  • 軽症~中等症の入院患者または機械的人工呼吸/ECMOが必要な重症患者には,ヘパリンによる予防的抗凝固療法が推奨される.酸素吸入が必要でD-dimerが上昇(>正常上限値)している重症患者(妊婦以外)には,ヘパリンによる治療的抗凝固療法を考慮すること.(下記の抗凝固療法を参照).
推奨される処方,用量
種類
薬剤
用量/期間
適応
コメント
抗ウイルス
レムデシビル
成人(体重>40kg):初回200mg静注・1日目,その後維持用量100mg静注1日1回,各回30~120分かけて投与

小児(体重3.5~40kg):初回5mg/kg 1日目,その後維持用量2.5mg/kg

期間:人工呼吸/ECMO使用がなければ5日.5日で臨床的改善がみられなければ10日まで延長.機械的人工呼吸/ECMO使用患者では10日
重症の入院患者.中等症および重篤患者でも考慮する.
軽症,中等症でも3日コースとして使用可能
   
抗炎症
デキサメタゾン
酸素吸入または機械的人工呼吸患者で6mg1日1回静注または経口・10日
重症および重篤な入院患者
酸素吸入を受けていない患者には推奨されない

RECOVERY試験(N Engl J Med 384: 693, 2021)では28日死亡率が低下.重篤な患者に関するメタアナリシス)(JAMA 324: 1330, 2020)では,デキサメタゾンで28日生存率が上昇した.
抗炎症
(IL-6阻害薬)
トシリズマブ
8mg/kg,実際の体重で最大800mgを1回静注,改善がみられなければ12~24時間後に2回目投与
重症または重篤な入院患者.RECOVERY試験の登録基準はCRP≧75mg/Lで定義された全身性炎症反応を含む
早期(つまり入院48時間以内またはICU入室後<24時間)の投与で効果は最大.
特にコルチコステロイドとの併用時に感染リスク増大の可能性.細菌,真菌および他の日和見感染による二次感染を臨床的にモニターすること.
抗炎症
(JAK阻害薬)
バリシチニブ
4mg経口1日1回(14日まで)+レムデシビル200mg1日目,その後100mg静注1日1回10日まで±デキサメタゾン
入院患者で,重症または重篤だが機械的人工呼吸またはECMOを使用していない場合,理想的には入院後72時間以内に投与する.
コルチコステロイドが使用できないまれな状況で,レムデシビルとの併用で用いてよい.また,IL-6阻害薬の代わりにコルチコステロイドと併用することもあるが,IL-6阻害薬とは併用しないこと.
抗炎症
(JAK阻害薬)
トファシチニブ
10mg経口12時間ごと(14日まで)+レムデシビル200mg1日目,その後100mg静注1日1回・10日まで+デキサメタゾン
入院患者で,重症または重篤だが機械的人工呼吸またはECMOを使用していない場合,理想的には入院後72時間以内に投与する.
バリシチニブの代わりに使用可.理想的には,IL-6阻害薬の代わりにデキサメタゾンとの併用で用いるが,IL-6阻害薬とは併用しないこと.
抗炎症
(抗補体(C5a))
ビロベリマブ
800mg静注(最大6回投与),第1,2,4,8,15,22日
入院患者で重症,機械的人工呼吸またはECMO使用開始後48時間以内
標準的治療(SOC)との併用でSOC+プラセボより死亡率を低下させたという臨床試験が2つある

入院患者の臨床検査に関する推奨
時期
検査依頼の順序
入院時
・血算および分画,トロポニン,肝機能検査,生化学検査Chem10,CPK
・フェリチン,CRP,LDH,Dダイマー,PT/PTT/フィブリノゲン
・リスク層別化のため(患者が臨床的に悪化したら繰り返す)
 LDH(上昇したら毎日繰り返す)
 トロポニン
 治療前心電図
・ウイルス血清学(最近チェックしていなければ)
 HIV
 HCV抗体
 HBs抗体,HBc抗体およびHBs抗原
・臨床的に適応の場合:
 血液培養2セット,喀痰培養,培養を反映する検尿,
 尿中Streptococcus/Legionella抗原
 妊娠可能な女性ではβHCG
推奨される毎日の検査
(安定するまで)
・血算および分画(特に総リンパ球数)
・全代謝検査
・CPK
・入院1週目にCRP.1週を過ぎると炎症マーカーは解釈が困難
推奨される1日おきの検査
(上昇するか患者がICUに入室したら毎日)
・PT/PTT/フィブリノゲン
・Dダイマー
放射線検査
入院時にポータブル胸部X線.評価に基づき,二次細菌感染,肺塞栓などの懸念がある場合にはさらなる画像検査を行う.

重症,予後不良の指標となる臨床検査
  • リンパ球絶対数の減少
  • 好中球数絶対値/リンパ球数絶対値>3.5
  • CPK,CRP,フェリチン,Dダイマー,LDH,トロポニン,PT上昇
  • 血小板減少症
  • 肝機能検査値が正常の5倍以上
  • 急性腎障害

抗微生物薬適正使用

  • したがって,細菌の重複感染に対するルーチンのカバーは推奨されない.
  • COVID-19肺炎での入院患者は医療施設内で細菌性および真菌性肺炎を発症することがある.
  • 2020年3月1日~4月28日までのNew York市で一施設の入院患者4267例を対象とした研究(Infect Control Hosp Epidemiol 42: 84, 2021)では,細菌性および真菌性の全感染は3.6%であり,呼吸器のみの感染が46%,血液のみが40%,両者の感染が14%であった.呼吸器培養陽性患者の95%が挿管されていた.同様の所見は,これに続く多施設研究でもみられた(Open Forum Infect Dis 8: ofaa578, 2020).

コメント

推奨されない治療法
  • IL-1阻害薬:有効性は証明されていない,臨床試験以外では推奨されない.
  • 回復期血漿:有用性は証明されていない
  • NIH治療ガイドラインは免疫機能正常な入院患者に対する使用に反対しており,免疫不全患者での推奨を裏づける十分なエビデンスもないとしている.
  • コルヒチン:有効性は証明されていない
  • COVID-19と確診されたまたは疑いがある外来患者を対象としたランダム化プラセボ対照試験(ピア・レビューを受けていない,pre-printがMedRXivでみられる)では,COVID-19による死亡または入院の主要有効性複合エンドポイントについて,主要解析集団では統計的な有意差はみられなかったが,COVID-19のPCR検査陽性例のサブ解析では,有用である可能性が示された(4.6% vs 6%).
  • インターフェロンβ1-a:効果は不明,臨床試験以外では推奨されない
  • 2020年7月のSynairgenからのプレスリリースでは,吸入インターフェロンβの第II相プラセボ対照試験の結果は良好であった.
  • イベルメクチン:推奨されない
  • 4つの大規模ランダム化試験で,有効性は認められなかった(JAMA 325: 1426, 2021BMC Infect Dis 21: 635, 2021N Engl J Med 386:1721,2022JAMA 329: 888, 2023).最後の研究はイベルメクチン高用量(600μg/kg)が用いたものだが,この用量は,より低用量を用いた臨床試験でのエビデンスがないにもかかわらずイベルメクチンの治療的有用性を主張する人々が推奨する用量である.軽度~中等度の症状を示すCOVID-19患者1206例を対象としたランダム化試験であり,症状回復までの時間は高用量イベルメクチン群とプラセボ群で差はなかった(どちらも11日).入院,死亡,救急搬送を組み合わせても差はみられず(イベルメクチン群34,プラセボ分36,ハザード比1.0),死亡はイベルメクチン群で1例,プラセボ群で0例だった.
  • 製薬会社(メルク)はCOVID-19の治療にイベルメクチンを用いることに反対している.
  • Chloroquineまたはヒドロキシクロロキン±アジスロマイシン:有効性がなく,重大な,致死的となりうる不整脈のリスクがあるため,いかなる状況でも推奨されない.
  • HIVプロテアーゼ阻害薬:推奨されない,臨床的有用性が証明されなかった
抗凝固療法
  • COVID-19感染は凝固能亢進を伴う.予防的抗凝固療法と治療的抗凝固療法を比較したいくつかの大規模研究の結果からは,中等度感染患者での治療的抗凝固療法の有用性が示唆されたが,重症感染での有用性は認められなかった.酸素吸入を必要とするが高流量鼻カニュラや人工呼吸器は必要ではないCOVID-19入院患者は,予防的ヘパリン療法に比べ,治療的ヘパリン療法では酸素吸入なしで生存退院する可能性が高くなったが,全生存率は改善しなかった.重症患者(たとえばICUでの治療や高流量酸素)には治療的抗凝固療法の有用性はなく,出血リスクが高まることがあった.文献(N Engl J Med 385: 790, 2021N Engl J Med 385: 777, 2021),NIHガイドライン
  • 予防的ヘパリン抗凝固療法
  • 用量:通常の静脈血栓塞栓症予防のためのヘパリンまたはエノキサパリン皮下注用量
  • 推奨される患者
  • ・ 酸素吸入を必要としない患者またはCOVID-19以外の理由で入院している患者
  • ・ 酸素吸入を必要とする患者で,患者自身または医療者が治療的療法よりも予防的療法の方が望ましいとする(たとえば,出血リスクが有用性を上回る)場合
  • ・ 非侵襲的陽圧呼吸療法,>20Lの酸素療法,ICUレベルでの治療を必要とする患者
  • 禁忌
  • ・ 治療的または予防的抗凝固療法に対するすべての禁忌,たとえば,活動性の中枢神経系出血,血小板数<25,000の重症血小板減少症,ヘパリンによる血小板減少症の既往
  • 治療的ヘパリン抗凝固療法
  • 用量:通常の静脈血栓塞栓症治療に抗凝固薬として用いるヘパリン用量を用いなければならず,治療期間は14日までで,退院すれば中断.
  • ・ CrCL<15あるいは他の禁忌がなければ,未分画ヘパリンよりもエノキサパリンの方が望ましい.
  • ・ 以下のような場合は,予防用量への減量を考慮する:臨床状態が改善した(たとえば酸素吸入が中止できた)場合,またはICUレベルでの治療や>20Lの酸素治療が必要となるほど臨床状態が重症化した場合,ただし,この領域でのデータが少ないため医療者の慎重さが必要.
  • ・ 既に持続的なフルドーズの抗凝固療法(たとえば,直接作用型経口抗凝固薬,ワルファリン)を受けている患者は,ヘパリンの抗凝固治療ではなく,現在受けている治療を継続してもよい.
  • 推奨される患者
  • ・ 酸素吸入が必要だが非重症,または高流量鼻カニュラ<20Lで安定/改善している患者.注:予防ではなく治療的な抗凝固療法開始の決定は,予想される有用性とリスクおよび患者自身の希望を勘案して上でなされなければならない.
  • 予想される有用性:酸素吸入の必要性減少,ただし,生存率に差はない.
  • 予想されるリスク:出血の合併
  • 禁忌
  • ・ ヘパリンまたは治療的抗凝固療法に対する禁忌のすべて,たとえば,2剤併用抗血小板療法,直近30日以内の大出血,後天的または遺伝的出血疾患がある,ヘパリンによる血小板減少症の既往,最近の虚血発作,血小板数<50×109/L,ヘモグロビン<8g/dL,主治医の臨床判断.

COVID-19,感染伝播,曝露,隔離を参照
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2024/07/22