トシリズマブ (2024/11/12 更新)
主な商品名:アクテムラ
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Contents
1. 用法および用量
1. 使用
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. 肝障害時の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
3. 薬理学
4. 主要な薬物相互作用
5. コメント
1. 用法および用量
1. 使用
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トシリズマブは組換えヒト化抗インターロイキン6(IL-6)モノクローナル抗体である.
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トシリズマブは,可溶性および膜結合性IL-6受容体と結合し,これらの受容体を介したIL-6細胞内シグナル伝達を阻害することが示されている.
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最新のIDSAガイドラインでは,増悪した重症または重篤なCOVID-19肺炎患者に対して,コルチコステロイドを含む標準的治療にトリシズマブを追加使用することは,条件付き推奨であり.エビデンスの確実性が低いとしている(参照:免疫調節薬に関するIDSAの総説).改訂されたNIHガイドラインも同様の推奨である.
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トシリズマブはデキサメタゾン(または他のコルチコステロイド等価用量)との併用でのみ用いる.以下のような患者ではどのような場合もトリシズマブの使用は避ける:(1)重度の免疫抑制,特に他の生物学的免疫修飾薬の最近の使用歴がある場合,(2)アラニントランスフェラーゼが正常範囲よりも>5倍高値,(3)消化管穿孔のリスクが高い,(4)コントロール不良の重症感染症(細菌,真菌,SARS CoV-2以外のウイルス感染)がある場合,(5)好中球絶対数<500/μL,(6)血小板数<50000/μL.
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臨床試験の結果:
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Rocheからのプレスリリースによれば,重症COVID-19関連肺炎で入院した成人患者を対象とした第III相試験において,一次エンドポイント(酸素吸入治療,集中治療および/または呼吸器使用の必要性に基づく7領域の順序尺度)は達成されなかった.
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COVID-19と確定診断された中等症の入院患者を対象に,トシリズマブとプラセボを比較した第III相二重盲検ランダム化試験(N Engl J Med 383: 2333, 2020)では,挿管,死亡,病状の悪化,酸素吸入中止までの時間中央値に差はみられなかった.
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COVID-19肺炎入院患者を対象に,トシリズマブとプラセボを比較したランダム化比較試験(N Engl J Med 384: 20, 2021)では,トシリズマブは人工呼吸器または死亡の複合アウトカムへの進行リスクを抑制したが,生存率は改善しなかった.
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■鼻カニューレによる高流量酸素吸入,非侵襲的または機械的人工呼吸,圧サポートを受けているICU患者を対象とした,進行中の国際多因子,アダプティブプラットフォームランダム化試験(N Engl J Med 384: 1491, 2021)では,プラセボに比べトシリズマブ群(353例)で死亡率を含むアウトカム改善が報告された.
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■RECOVERYオープンラベル試験(ピアレビューを受けていない,pre-printがMedRXivでみられる)では,2022例がトシリズマブ群に,2094例が通常治療群にランダム化され(全体の82%で全身コルチコステロイド使用),28日での死亡はトリシズマブ群596例(29%),対照群694例(33%)と,トシリズマブ群の有用性が示された(p=0.007).トリシズマブ群では28日以内の生存退院率も47%から54%に上昇した(P<0.0001).酸素吸入のみを必要とする患者から非侵襲的(ただし機械的ではない)人工呼吸を必要とする患者まで,統計的有意には達しなかったもののいくつかのサブグループで有用性の傾向がみられた.トシリズマブとコルチコステロイドの併用は,コルチコステロイド+標準治療に比べ死亡率を減少させたが(457/1664[27%]vs. 565/1721[33%],RR 0.80[95%CI 0.70-0.90]),コルチコステロイド非使用者では有用性はみられなかった.
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2021年6月24日,米国FDAは,全身コルチコステロイド治療を受けており,酸素補充療法または非侵襲的・侵襲的人工呼吸,ECMOが必要な入院成人・小児(2歳以上)患者の治療に,トシリズマブの緊急時使用許可(EUA)を発行した.FDAのニュースリリース,医療従事者用ファクトシート参照.
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トシリズマブはCOVID-19外来患者での使用は許可されていない
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警告[Black box warning](FDA承認の処方情報より):細菌,抗酸菌,真菌,ウイルス,またはその他の日和見感染病原体による重症感染.
2. 成人用量
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COVID-19で入院中の成人および小児患者(年齢≧2歳)
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体重<30kg:12mg/kg60分以上かけて静注1回
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体重≧30kg:8mg/kg60分以上かけて静注1回
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最大用量:1回注射につき800mg
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最初の投与後に,臨床所見/症状の悪化がみられた,あるいは改善しなかった場合には,最初の投与の少なくとも8時間後に追加投与を考慮する
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体重<30kg:注射用に0.9%または0.45%塩化ナトリウム水溶液50mLバッグを使用
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体重≧30kg:注射用に0.9%または0.45%塩化ナトリウム水溶液100mLバッグを使用
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薬剤は20mg/mLバイアル(サイズはさまざま)で供給され,さらに希釈される.
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患者に必要なトシリズマブ用量と同量の生理食塩水(8mg/kg投与に対して0.4mL/kg,12mg/kg投与に対して0.6mL/kg)をバッグから抜き,ゆっくりとトシリズマブを加える.泡立ちを避けるためバッグをひっくり返して混合する.
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0.9%塩化ナトリウム水溶液を用いた場合:室温または2~8℃で24時間.遮光する.
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0.45%塩化ナトリウム水溶液を用いた場合:室温で4時間,または2~8℃で24時間.遮光する.
3. 小児用量
用量(生後>28日)
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年齢≧2歳,体重<30kg:12mg/kg静注 年齢≧2歳,体重≧30kg:8mg/kg静注
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最大/日
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800mg
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4. 腎障害時の用量調整
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軽症~中等症の腎障害患者では用量調整不要
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重症腎障害患者のデータはない
5. 肝障害時の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
副作用
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細菌,抗酸菌,真菌,ウイルス,またはその他の日和見感染病原体による重症感染.
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消化管穿孔
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肝毒性
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好中球減少症,血小板減少症
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脂質異常
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アナフィラキシーを含む過敏反応
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脱髄障害
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悪性腫瘍
妊娠時のリスク
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FDAリスク区分(新):動物データ:胎児へのリスクの可能性あり.ヒトでのデータは不十分
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授乳中の使用:データなし.臨床診療ガイドラインに従い,乳児のCOVID-19曝露を避ける.
3. 薬理学
PK/PD指標
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データなし
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剤形
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注射
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食事に関する推奨(経口薬)1
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経口吸収率(%)
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Tmax(時間)
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最高血清濃度2(μg/mL)
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151(8mg/kg静注,SD)
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最高尿中濃度(μg/mL)
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データなし
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蛋白結合(%)
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データなし
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分布容積3(Vd)
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8.75 L
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平均血清半減期4
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約21.5日(終末期)
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排泄
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異化(IgGと同様)
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胆汁排泄5(%)
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データなし
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脳脊髄液/血液6(%)
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データなし
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治療が可能になるだけの脳脊髄移行性7
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データなし
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AUC8(μg・時間/mL)
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データなし
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注記のない場合は成人用経口製剤
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SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
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V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能)
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CrCl>80 mL/分と想定
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(胆汁中の最高濃度)÷(血清中の最高濃度)×100
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炎症時における脳脊髄液濃度
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薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
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AUC:血漿中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
4. 主要な薬物相互作用
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肝CYP450酵素は感染およびIL-6のような炎症性刺激により下方制御される.したがって,トシリズマブによる治療はCYP450活性を回復させることがあり,CYP450基質の代謝の増大(および活性減少)につながる.たとえば,トシリズマブ1回投与の1週後に,オメプラゾールおよびシンバスタチンの曝露はそれぞれ28%,57%減少することが観察されている.
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治療域の狭いCYP450基質の投与を受けている患者にトシリズマブを使用する場合は,十分に注意すること.
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CYP450に対するトシリズマブの影響は,治療中止後も数週持続する.
5. コメント
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80mg/4mL,200mg/4mL,400mg/20mLの1回投与バイアルがあり,静注前にさらに希釈して用いる.
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保存:2~8℃
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