レムデシビル (2024/10/29 更新)
主な商品名:ベクルリー
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「サンフォード感染症治療ガイド」の中で推奨されている薬剤の適応および用量は,日本で認可されているものとは異なっている場合がありますので,薬剤選択を考慮する場合には,必ず日本での添付文書および最新安全性情報に基づいて行って下さい. →日本の添付文書情報検索サイト
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Contents
1. 用法および用量
1. 使用
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. その他の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
5. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
6. 主要な薬物相互作用
7. コメント
1. 用法および用量
1. 使用
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FDAは,入院を必要とするCOVID-19成人患者および小児患者(生後~<18歳で体重1.5kg以上)に対してレムデシビルを承認した(2020年10月).投与は,病院,または病院での入院患者と同等の救急対応が可能な医療施設でのみ行うこと.添付文書参照.
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レムデシビルはヌクレオシド(アデノシン)アナログのプロドラッグであり,フィロウイルス,パラミクソウイルス,ニューモウイルス,出血熱ウイルス(エボラ,マールブルク),MERS,SARS,SARS-CoV-2などのコロナウイルスを含む幅広いウイルスに対し活性がある.
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静注後すみやかにアラニン代謝物(GS-704277)に変化し,その後非CYP酵素によりヌクレオシド一リン酸中間代謝物(GS-441524,主要な血中代謝物)に変化する.GS-441524は細胞内キナーゼにより活性のある三リン酸代謝物GS-443902に変化する.GS-443902はアデノシン三リン酸アナログとして働き,SARS-CoV-2のRNA依存性ポリメラーゼによるRNA鎖生合成の際に競合的に取り込まれる.
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1回使用凍結乾燥粉末バイアル(100mg).注射のために100mLまたは250mLの生食に希釈再構成する
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1回使用注射溶液バイアル(100mg/20mL).250mLの生食(総量)に希釈
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生食以外の注射用水の適合性は不明
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Gilead社の販売提携先Amerisouce Bergenを通じて市販されている(米国の事情).
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人工呼吸器を必要としない重症COVID-19患者では,レムデシビルの5日治療と10日治療の効果は同等(N Engl J Med 383: 1827, 2020)
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COVID-19治療に対する安全性と有効性に関する臨床試験
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入院成人患者の回復までの時間を短縮することにおいてプラセボより優れていた.
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1063例のCOVID-19進行患者を評価.
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データ安全性モニタリング委員会は,一次エンドポイントである回復までの時間について,レムデシビルはプラセボより優れているとした.
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レムデシビルは,プラセボに比べ回復までの時間を31%短縮させた(p<0.001).
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回復までの時間中央値は,レムデシビル群で11日,プラセボ群で15日だった.
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生存率も改善傾向であり,死亡率はレムデシビル群で8.0%,プラセボ群で11.6%(p=0.059).
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重症のCOVID-19患者397例で,レムデシビル5日治療と10日治療が評価された.
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5日治療群のアウトカムは10日治療群と同様であった(オッズ比:0.75,95%CI 0.51~1.12)
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50%の患者に治療による改善がみられるまでの時間は,5日治療群で10日,10日治療群で11日だった.
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14日の時点で,5日治療群では64.5%,10日治療群では53.8%が臨床的に回復した.
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有害事象として,悪心(10%),呼吸困難(10%),ALT上昇(3~7%)がみられた.
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進行したCOVID-19患者237例をレムデシビル群とプラセボ群に2:1にランダム化.
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臨床的改善までの全時間に,両群で差はみられなかった(ハザード比 1.23,95%CI 0.87~1.75).
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症状持続期間が短い(≦10日)患者で臨床的改善までの時間が短い傾向がみられた(ハザード比 1.52,95%CI 0.95~2.43).
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両群で死亡率に差はみられなかったが,治療中止に至った有害事象はレムデシビル群のほうが多くみられた(12% vs 5%).
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上気道検体の定量的PCRでは,SARS-CoV-2ウイルス量低下に差はみられなかった.ただし下気道からの検体が得られた患者では,5日目のウイルス量に両群間で有意な差はみられなかったものの,ウイルス量低下がレムデシビル群でやや早い傾向がみられた(p=0.0672).
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直近7日以内での発症で1つ以上の重症化リスク(年齢≧60歳,肥満,または特定の疾患の合併)がある外来COVID-19患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験.
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対象患者は静注レムデシビル(200mg1日目,100mg2日,3日目)群とプラセボ群にランダム化された.
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562例の患者が,レムデシビル群279例,プラセボ群283にランダム化された.
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COVID-19関連の入院または何らかの原因による死亡が,レムデシビル群では2例(0.7%),プラセボ群では15例(5.3%)に認められた(ハザード比,0.13;95%信頼区間[CI] 0.03~0.59:p=0.008).
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28日までにCOVID-19関連の治療のための外来受診をしたのは,レムデシビル群246例中4例(1.6%),プラセボ群252例中21例(8.3%)だった(ハザード比,0.19;95%CI 0.07~0.56).
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28日までの死亡例はなかった.
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副作用がみられたのは,レムデシビル群42.3%,プラセボ群46.3%だった.
2. 成人用量
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体重>40kg:初回200mg静注,その後100mg静注1日1回
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人工呼吸器/ECMO使用患者では10日治療
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人工呼吸器/ECMO非使用では5日,5日で臨床的改善がみられなければ10日まで延長
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外来患者では3日治療(1日目200mg,2日および3日目100mg)
3. 小児用量
用量(生後>28日)
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生後 <28日,体重≧1.5kg:初日2.5mg/kg,その後1.25mg/kg24時間ごと 生後≧28日,体重1.5~<3 kg:初日2.5 mg/kg,その後1.25mg/kg24時間ごと 生後≧28日,体重3~<40kg:初日5 mg/kg,その後2.5mg/kg24時間ごと 体重≧40kg: 初日200mg,その後100mg24時間ごと 治療期間: 5日(人工呼吸器/ECMOなし) 10日(人工呼吸器/ECMO使用)
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最大/日
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4. 腎障害時の用量調整
半減期(時間)(腎機能正常)
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1.0
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半減期(時間)(ESRD)
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データなし
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用量(腎機能正常)
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100mf静注24時間ごと
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CrClまたはeGFR
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腎障害時の用量調整不要
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血液透析
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用量調整不要
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CAPD
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データなし
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CRRT
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データなし
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SLED
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データなし
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5. その他の用量調整
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軽症,中等症,重症肝障害患者(Child-Pugh分類A,B,C)で用量調整不要
2. 副作用/妊娠時のリスク
副作用
妊娠時のリスク
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FDAリスク区分(新):ヒトでは妊娠第2,3期での毒性のエビデンスはないが,第1期のデータは不十分.動物での毒性エビデンスなし
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授乳中の使用:親薬物と代謝物は乳汁中に存在するが,乳児での副作用のエイデンスなし.乳児のCOVID-19曝露を避けるために臨床診療ガイドラインに従う
3. 抗微生物スペクトラム
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フィロウイルス
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パラミクソウイルス
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ニューモウイルス
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出血熱ウイルス(エボラ,マールブルク)
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以下のコロナウイルス
4. 薬理学
PK/PD指標
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データなし
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剤形
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注射
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食事に関する推奨(経口薬)1
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経口吸収率(%)
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Tmax(時間)
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データなし
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最高血清濃度2(μg/mL)
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レムデシビル:2.23(100mg静注24時間ごと,SS) GS-441524:0.14(100mg静注24時間ごと,SS)
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最高尿中濃度(μg/mL)
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データなし
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蛋白結合(%)
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レムデシビル:88~93.6 GS-441524:2
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分布容積3(Vd)
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データなし
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平均血清半減期4(時間)
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レムデシビル:1 GS-441524:27
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排泄(%)
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GS-441524:腎
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胆汁移行性5(%)
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データなし
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脳脊髄液/血液6(%)
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データなし
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治療が可能になるだけの脳脊髄移行性7
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データなし
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AUC249(μg・時間/mL)
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レムデシビル:1.56(100mg静注24時間ごと,0~24時間) GS-441524:2.23(100mg静注24時間ごと,0~24時間)
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注記のない場合は成人用製剤
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SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
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V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能)
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CrCl>80 mL/分と想定
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(胆汁中の最高濃度)÷(血清中の最高濃度)×100
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炎症時における脳脊髄液濃度
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薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
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AUC:血漿中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
5. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
CY450の基質
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2C8,2D6,3A4
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トランスポーターの基質
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PGP,OATP1B1
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CYP450の阻害
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3A4
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トランスポーターの阻害
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OATP1B1/3,BSEP,MRP4,NTCP
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CYP450誘導
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トランスポーターの誘導
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血清中薬物濃度への影響
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予測される臨床的に重要な影響はごくわずか
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血清中薬物濃度への影響は,当該抗微生物薬により影響を受ける併用薬の血清中濃度である.↑:上昇,↓:低下
6. 主要な薬物相互作用
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レムデシビルの代謝はCYP酵素ではなく,主にヒドロラーゼを介すると考えられる.この点や血漿半減期が短いなど他の要素から,一般に薬物相互作用の可能性は低いことが示唆される(Clin Transl Sci 13: 842, 2020).
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重症COVID-19患者で,レムデシビル治療開始5日後に肝毒性が発現した.患者はレムデシビル開始2日後に心房細動が新たに発現したためアミオダロンの投与を受け,さらに,最近Chloroquineの5日治療を受けていた(最終投与はレムデシビル開始の9日前).レムデシビルはP糖タンパク(PGP)の基質であり,アミオダロンとChloroquineはPGPを阻害する.PGPは腸,肝臓,腎臓に発現している排出トランスポーターであり,肝臓では薬物分子を肝細胞から胆汁中へ排出する.そのためこの症例では,薬物相互作用のために肝細胞でのレムデシビル濃度が毒性閾値を超え,肝毒性につながったことが推測される(Clin Infect Dis 72: 1256, 2021).
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レムデシビル投与開始後にトラマドールの血漿濃度が低下し,疼痛発作が起こる可能性がある.相互作用の機序は不明(J Palliat Med 24: 1582, 2021).
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培養細胞で拮抗作用が観察されているため,レムデシビルとクロロキンまたはヒドロキシクロロキンとの併用は推奨されない.
7. コメント
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1回使用凍結乾燥粉末バイアル(100mg):使用時まで30℃以下で保存
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1回使用注射溶液バイアル(100mg/20mL):使用時まで冷蔵庫(2~8℃)で保存
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バイアルには保存料が含まれない.一部使用したバイアルは廃棄する.
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