バリシチニブ (2024/09/24 更新)
主な商品名:オルミエント
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「サンフォード感染症治療ガイド」の中で推奨されている薬剤の適応および用量は,日本で認可されているものとは異なっている場合がありますので,薬剤選択を考慮する場合には,必ず日本での添付文書および最新安全性情報に基づいて行って下さい. →日本の添付文書情報検索サイト
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Contents
1. 用法および用量
1.
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. 肝障害時の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
3. 薬理学
4. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
5. 主要な薬物相互作用
6. コメント
1. 用法および用量
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バリシチニブ(Oliumiant)(Lilly)はヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬であり,特にJAK-1およびJAK-2を阻害する.
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2020年11月19日,米国FDAは,酸素投与,侵襲的人工呼吸またはECMOを必要とする成人および小児(年齢≧2歳)のCOVID-19入院患者に対して,本薬とレムデシビルの併用投与により中程度の改善が示されたACTT-2試験の結果に基づき,緊急時使用許可(EUA)を発行した.
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一次エンドポイントは最初の28日間での回復までの時間だった.回復までの時間中央値は,全コホートを通じてバリシチニブ+レムデシビル群7日,プラセボ+レムデシビル群8日と前者の方が短かった(率比1.16;95%CI 1.01~1.32;p=0.03).
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回復までの時間は,治療前に高流量酸素の非侵襲的人工呼吸を受けていた患者では8日短かった(10日対18日).
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死亡または侵襲的人工呼吸への増悪率は併用治療群で低かった(12.2%対17.2%,率比0.69;95%CI 0.50~0.95).
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併用治療群では28日死亡率が低い傾向がみられたが(死亡のハザード比0.65;95%CI 0.39~1.09),統計的有意差には至らなかった.
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この試験では,コルチコステロイド投与を受けている患者は登録から除外された.バリシチニブとデキサメタゾンを直接比較したリスク/有用性(後者はRECOVERY試験で生存率改善が認められている)は不明であり,さらなる研究が必要だろう.したがって,レムデシビル+デキサメタゾンの方がレムデシビル+バリシチニブより望ましく,後者はコルチコステロイドが使用できない状況でのみ使用すべきである.
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COVID-19入院患者で1つ以上の炎症マーカー上昇のある1525例を対象とした,ブラジルにおけるランダム化プラセボ対照試験(Lancet Respir Med 9: 1407, 2021)では,複合主要評価項目(高流量酸素,非侵襲的・侵襲的人工呼吸が必要となる割合,または死亡)について,バリシチニブとプラセボとの間に差はみられなかった(バリシチニブ群28% vs プラセボ群30%).しかし,28日での全死亡はバリシチニブ群8%(n=62),プラセボ群13%(n=100)であり,死亡率において38%の相対的低下が示された(p=0.0018).
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患者の78%は全身性コルチコステロイドの投与を受けており,19%はレムデシビルの投与を受けていた.
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バリシチニブの有用性は,高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を試験開始時に受けていた患者でもっとも高かった.
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2021年7月28日,EUAが改訂され,酸素補充療法または非侵襲的・侵襲的人工呼吸,ECMOが必要なCOVID-19入院成人・小児(2歳以上)患者の治療として,バリシチニブ単独使用(レムデシビルなし)が認められた.ファクトシート参照.
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バリシチニブは,プロベネシドのような強力なOAT3阻害薬と併用すると曝露が増大する.下記「主要な薬物相互作用」の用量推奨を参照.
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警告【Black Box Warning】:重症感染症(結核,真菌感染,その他の日和見感染),リンパ腫その他の悪性腫瘍,深部静脈血栓症や肺塞栓を含む血栓症.
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妊娠中のリスク,授乳中の安全性参照.
2. 成人用量
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EUAでのCOVID-19に対する推奨用量:4mg1日1回,食事の影響は受けない
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治療期間:14日または退院のいずれか早いほうまで
3. 小児用量
用量(生後>28日)
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年齢≧9歳:4mg24時間ごと 年齢2~<9歳:2mg24時間ごと 年齢<2歳:許可されていない
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最大/日
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4. 腎障害時の用量調整
半減期(時間)(腎機能正常)
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12
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半減期(時間)(ESRD)
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データなし
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用量(腎機能正常)
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2~4mg経口24時間ごと
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CrClまたはeGFR
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年齢2歳~<9歳: eGFR≧60 (mL/分/1.73m²):2 mg24時間ごと eGFR 30~<60:1mg24時間ごと eGFR<30:推奨されない
年齢≧9歳: eGFR≧60 (mL/分/1.73m²):4mg24時間ごと eGFR 30~<60:2mg24時間ごと eGFR 15~30:1mg24時間ごと eGFR<15:推奨されない
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血液透析
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データなし
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CAPD
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データなし
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CRRT
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データなし
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SLED
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データなし
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5. 肝障害時の用量調整
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軽症~中等症肝障害では用量調整の必要なし.
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重症肝障害患者での使用は推奨されない(データなし).
2. 副作用/妊娠時のリスク
副作用
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重症感染症(結核,真菌感染,その他の日和見感染症)
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リンパ腫,その他の悪性腫瘍
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深部静脈血栓症,肺塞栓を含む血栓症
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消化管穿孔
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過敏反応(血管浮腫,じんま疹,発赤)
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AST,ALT上昇
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好中球減少症,リンパ球減少症,貧血
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脂質上昇(総コレステロール,LDL,HDL)
妊娠時のリスク
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FDAリスク区分(新):ヒトでのデータは不十分,動物では毒性
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授乳中の使用:データなし.臨床診療ガイドラインに従い,乳児のCOVID-19曝露を避ける
3. 薬理学
PK/PD指標
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データなし
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剤形
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1mg†,2mg錠
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食事に関する推奨(経口薬)1
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錠:食事の影響を受けない
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経口吸収率(%)
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80
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Tmax(時間)
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1
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最高血清濃度2(μg/mL)
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データなし
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最高尿中濃度(μg/mL)
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データなし
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蛋白結合(%)
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50
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分布容積8(Vd)
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76 L
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平均血清半減期4(T1/2, 時間)
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12
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排泄
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主に腎から
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胆汁移行性5(%)
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データなし
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脳脊髄液/血液移行性6(%)
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データなし
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治療が可能になるだけの脳脊髄移行性7
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データなし
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AUC9(μg・時間/mL)
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データなし
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†:日本にない剤形
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注記のない場合は成人用経口製剤
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SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
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V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能)
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CrCl>80 mL/分と想定
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(胆汁中の最高濃度)÷(血清中の最高濃度)×100
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炎症時における脳脊髄液濃度
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薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
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AUC:血漿中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
4. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
CY450の基質
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トランスポーターの基質
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PGP,OAT3,BCRP,MATE2-K
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CYP450の阻害
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トランスポーターの阻害
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CYP450誘導
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トランスポーターの誘導
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血清中薬物濃度への影響
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血清中薬物濃度への影響は,当該抗微生物薬により影響を受ける併用薬の血清中濃度である.↑:上昇,↓:低下
5. 主要な薬物相互作用
薬剤
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濃度への影響
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推奨される対応
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強力なOAT3阻害薬
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バリシチニブ↑
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2~4mg24時間ごとの投与なら50%減量 1mg24時間ごとの投与ならOAT阻害薬中止を考慮
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6. コメント
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バリシチニブは,重症COVIDでうっ血を伴う入院患者に対する第二選択治療と考えられている.デキサメタゾンとの併用についての研究は行われていない.
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