日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

バベシア症  (2023/10/31 更新)


臨床状況

  • B. microtiの中間宿主は通常マダニ(Ixodes scapularis). 宿主は白アシネズミ(およびその他).ダニ媒介性疾患-概説参照.
  • B. microtiは輸血の安全性に関連しており,200を越える輸血による感染の報告がある(Transfusion 59: 2908, 2019).
  • 2019年から,FDAは15の高リスクの州に対して,赤血球製剤のBabesia検査を要求している.
  • ライム病とヒト顆粒球アナプラスマ症の中間宿主(ダニ)および宿主は,Babesia microtiと共通である.
  • ダニ媒介の多くの症例は米国では中部大西洋地域,北東部および中西部の北方.新しい種による散発的な Babesia感染症例が,米国のさまざまな地域で確認されている.
  • 寄生虫Babesiaは宿主の赤血球に感染する.症状は溶血によるもの.
  • 無症候の感染は通常は治療する必要はない.
  • 患者は高齢男性がほとんどで,6月~8月に多い:全死亡率1.6%.
  • バベシア症は,無脾患者および免疫不全患者では致命的となりうる,Clin Infect Dis 46: 370, 2008を参照.重症化のリスク因子:年齢60歳以上,リツキシマブ使用,血小板減少症,10%を超える寄生虫血症.

診断/病原体

診断
  • 末梢血染色スメアの検査
  • 可能ならばPCRによる検出
  • 現在では血清学的検査は推奨されない.過去の感染については適応となることがある.
  • 注:B.microtiに対する分子検査および血清学的検査では他の病原体/種を検出できない.
病原体
  • Babesia microti(米国)
  • Babesia duncani(米国西部)
  • Babesia motasi(韓国,中国)

第一選択

  • 脾臓のある健常者での無症候性疾患では,治療は不要
  • 成人の軽症/中等度(外来患者.寄生虫血症<4%)
  • アトバコン 750mg経口12時間ごと+AZM 500mg経口1日目,その後250mg/日経口)合計7~10日.
  • 急性重症疾患(入院)成人:アトバコン750mg経口12時間ごと+AZM 500~1000mg静注24時間ごとを症状軽減まで,その後経口step-down治療
  • Step-down治療でフォロー:アトバコン750mg経口12時間ごと+AZM 250~500(免疫不全なら500~1000)mg経口24時間ごと,全7~10日治療を完了させる
  • 重度の免疫不全患者:連続6週,重症例での処方を行い,最後の2週で確実に血液塗抹陰性とする
  • 寄生虫血症>10%の患者または寄生虫血症が中等度~高度で,重症溶血性貧血または呼吸器・腎・肝臓の障害がある場合には交換輸血を考慮する.
  • 小児用量:アトバコン20mg/kg/回経口;AZM 10mg/kg静注/経口・上記成人のスケジュール/経路で,ただし軽症/中等症では1回目投与後は5mg/kg経口.
  • 成人用量を超えないこと.
  • アトバコン/AZMが推奨されているが,重症バベシア症治療でのこの処方の臨床試験はない.

第二選択

  • 妊婦,およびアトバコン+AZM開始後に寄生虫血症および症状が軽減しなかった場合には,CLDMQuinineが好ましい
  • 軽症/中等症:CLDM 600mg経口8時間ごと+Quinine sulfate 542mg塩基(650mg塩と同等)経口6~8時間ごと・7~10日
  • 急性重症入院患者:CLDM 600mg静注6時間ごと+Quinine sulfate 542mg塩基経口6~8時間ごと・症状軽減まで,その後経口step-down治療に切り替え
  • Step-down治療でフォロー:CLDM 600mg経口8時間ごと+Quinine sulfate 542mg塩基経口6~8時間ごとで全7~10日の治療を完了させる
  • 小児用量:CLDM 7~10mg/kg経口8時間ごと;Quinine sulfate 6mg塩基/kg(8mg塩/kgと同等)上記成人のスケジュール/経路.成人用量を超えないこと.
  • 治療失敗または再燃の場合には以下の併用を考慮する
  • アトバコン+AZM+CLDM
  • アトバコン+CLDM
  • アトバコン・プログアニル+AZM
  • アトバコン+AZM+CLDM+Quinine.AZMは500~1000mgを使用

コメント

  • 免疫正常患者では急性症状がある間だけ,免疫不全患者では血液塗抹が陰性となるまで血液塗抹をモニターする.
  • 抗菌薬による予防はできない.
  • B.motasiのヒト感染例は現在までのところ少数しかない.
  • 末梢血スメアで病原体が肉眼で見える7つの熱帯感染症:アフリカ/アメリカトリパノソーマ症,バベシア症,バルトネラ症,フィラリア症,マラリア,回帰熱
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2023/10/30