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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
Coxiella burnetii
,Q熱
(
2023/09/12 更新
)
臨床状況/診断
臨床状況
人獣共通感染症であり,
Coxiella burnetii
菌により引き起こされる.ウシ,ヒツジ,ヤギが一般的な宿主.
感染動物の後産や排泄物のエアロゾル化によりヒトに伝播される.
急性または慢性の疾患を引き起こす.
急性感染
急性のインフルエンザ様症状:発熱,悪寒,寝汗,筋肉痛,頭痛.乾性咳嗽があることもある.
通常軽度で,2週間以内に自然治癒する.
弁膜の異常や他の血管疾患,慢性感染の他の症候(発熱,寝汗,体重減少,肝脾腫大)を伴う,心内膜炎を含む慢性感染に進行しうる(
Clin Infect Dis 57: 836, 2013
).
C. burnetii
に関して,全血または血清PCR陽性,培養陽性,免疫組織化学検査陽性
ペア血清において,II相菌に対するIgG抗体価が免疫蛍光アッセイで4倍上昇.
急性Q熱患者1797例を対象としたプロスペクティブ研究では,48例が急性Q熱心内膜炎を発症しており,ほとんどが経胸壁心エコー検査(TTE)により検出された.関連するリスク因子:抗カルジオリピン抗体,高齢(
Clin Infect Dis 69: 1987, 2019
).
非定型肺炎および/または無黄疸性肝炎の臨床像が一般にみられる.
検査値の特徴として,白血球数は正常であり,初期に血小板減少症が,それに続いて血小板増加症が起こる.AST/ALT/アルカリフォスファターゼは上昇する.
慢性感染(
Medicine 95: e4287, 2016
;
Clin Infect Dis 73: 1476, 2021
)
急性感染の後,5%以下の患者で起こる.
弁膜症,血管グラフト,動脈瘤があると慢性疾患に進行する危険性が高く,これらはいずれも感染のリスク因子でもある.
Q熱による心内膜炎の死亡率は治療しない場合100%であり,治療した場合でも10年以内に死亡する確率は19%.
発熱,体重減少,寝汗の症状を呈する.
弁の疣贅は非常に小さく,心エコーで観察できるのはわずか12%.
持続する局所感染により多くの他の合併症が起こる:
JAMA Netw Open 1: e181580, 2018
.
診断
免疫組織化学検査または培養により,臨床的標本で
C. burnetii
が確認される
急性感染がなく,血液または組織PCRが陽性
免疫蛍光アッセイ(IFA)でI相菌に対するIgG抗体価≧1:800は,診断となる.
さまざまな持続性局所感染を検出するPETスキャンの価値が注目されつつある:
JAMA Network Open 1: e181580, 2018
.
血清IFAでのIgG抗体価の解釈.一般に,
急性感染の間は,II相菌抗原に対するIFA抗体価はI相菌抗原に対するIgG抗体価より大きい.
慢性感染の間は,I相菌抗原に対するIgG抗体価はII相菌抗原に対する抗体価より大きいか同等.
抗体の結果に関する解釈
I相菌,II相菌いずれについても抗体価≧1:16の場合,活動性の
C. burnetii
感染の診断となる.
I相菌抗体価≧II相菌抗体価の場合,慢性感染または活動性Q熱からの回復期を意味する.
I相菌,II相菌いずれについても抗体価<1:16の場合,非活動性または非常に早期の
C. burnetii
感染を意味する.
II相菌抗体のみがみられた場合
抗体価≧1:256なら,最近の急性感染を意味する.
抗体価<1:256なら,
C. burnetii
感染でないことを意味する.
I相菌抗体のみがみられた場合
抗体価≧1:800なら,慢性Q熱を意味する.
抗体価<1:800なら,非慢性感染または急性感染からの回復を意味する.
心内膜炎および他の血管感染症に関するオランダの判定基準については,
J Clin Microbiol 52: 1637, 2014
を参照.
分類
多形性グラム陰性桿菌または球桿菌,偏性細胞内寄生細菌
第一選択
急性(診断上疑わしければ,ただちに治療開始)
成人
DOXY
100mg経口1日2回・2週
妊婦:
ST
2錠1日2回を,早産を防ぐために妊娠期間中投与.新生児の高ビリルビン血症のリスクを軽減するために出産前に治療を中断すること.DOXYとフルオロキノロン系は妊婦では禁忌.
心弁膜症(リウマチ熱,二尖大動脈弁,人工弁,狭窄性弁膜症,弁膜逆流の既往)が明らかならば,(
DOXY
100mg経口1日2回+ヒドロキシクロロキン 200mg経口1日3回)・12カ月により心内膜炎への進行リスクを低減できる.
小児
免疫抑制状態および/または弁疾患がある場合:
DOXY
1回2.2mg/kg静注†または経口1日2回・14日(最大1回100mgまで)(21日までなら安全:
J Pediatr 166: 1246, 2015
).
年齢8歳未満だが,軽度で慢性疾患への進行リスクがない場合:
DOXY
1回2.2mg/kg経口1日2回・5日(最大1回100mgまで),または
ST
4~20mg/kg経口1日2回・14日(スルファメトキサゾールとして最大1回800mgまで).
慢性の持続性局所疾患:
成人
心内膜炎または感染性動脈瘤/移植片:
DOXY
100mg静注/経口1日2回+ヒドロキシクロロキン 200mg経口1日3回・最低18カ月
骨,関節,肝臓が感染している場合:心内膜炎と同様の治療を,抗体価の低下が確認されるまで行う.
産後:心内膜炎と同様の治療を行うが,おそらく12カ月でよい.
小児:専門家への相談が推奨される.
(†:日本にない剤形)
第二選択
急性
フルオロキノロン系(たとえば,
MFLX
400mg経口1日1回・2~3週)
EM
,
CAM
,
AZM
.ただしマクロライドにはQTc延長の危険性がある.
慢性
大規模レトロスペクティブ観察コホート研究では,
DOXY
+
フルオロキノロン系薬
(
CPFX
または
MFLX
)と
DOXY
+ヒドロキシクロロキンの効果は同等であった(
Clin Infect Dis 66: 719, 2018
).ヒドロキシクロロキンに不耐な患者では有効かもしれない.
ST
および
CP
が奏効したという症例報告がある.
コメント
慢性Q熱診断に関するオランダのコンセンサスガイドライン(
Emerg Infect Dis 21: 1183, 2015
).
明らかな慢性Q熱
急性感染がなく,
C. burnetii
に関する血液または組織のPCRが陽性,または
免疫蛍光アッセイで
C. burnetii
I相菌に対するIgG抗体価≧1:800,かつデューク臨床診断基準による心内膜炎の確定診断,またはPET-CT,CT,MRI,超音波で大血管や人工物の感染を確認.
慢性Q熱の可能性が高い
免疫蛍光アッセイで
C.burnetii
I相菌に対するIgGが確認され,かつ以下のいずれかが存在する:デュークの大基準に当てはまらない弁膜症のエビデンス,動脈瘤または人工弁の存在,慢性Q熱の症候(骨髄炎,肝炎,発熱,寝汗,体重減少,肝脾腫大,妊娠または免疫不全状態,肉芽腫組織の炎症).
慢性Q熱の可能性あり
免疫蛍光アッセイで
C. burnetii
I相菌に対するIgG抗体価≧800.
DOXYは短期間(≦21日)ならば,患者の年齢にかかわらず安全に投与できる(
AAP Red Book 2018
).
診断と治療に関するCDCの推奨:
MMWR Recomm Rep 62(RR-03): 1, 2013
.
急性感染については,
Clin Infect Dis 52: 1431, 2011
参照.
最近の総説:
StatPearls: 2023年1月,2023年5月22日
.
【日本の情報】
Q熱は4類感染症に定められており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る.厚生労働省「
感染症法に基づく医師の届出について
」参照
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2023/09/11