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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
Coxiella burnetii
,Q熱
(
2025/07/08 更新
)
臨床状況/診断
臨床状況
人獣共通感染症であり,
Coxiella burnetii
により引き起こされる.ウシ,ヒツジ,ヤギが一般的な宿主である.
感染動物の後産や排泄物のエアロゾル化によりヒトに伝播される.感染源から何キロも離れていても
Coxiella
は空気感染しうる.
リスク集団:農夫,農場労働者,獣医師,食肉処理場作業員,その他宿主の家畜と接する人
急性感染:
潜伏期間2~3週
非特異的で発熱を伴う急性のインフルエンザ様症状,悪寒,寝汗,筋肉痛,頭痛.乾性咳嗽(非定型肺炎症候群を伴うこともある),無黄疸性肝炎
通常軽度で,2週間以内に自然治癒する.
臨床検査所見:白血球数は正常であり,初期に血小板減少症が,それに続いて血小板増加症が起こる.85%の症例でAST/ALT/アルカリホスファターゼが上昇する.
II相菌抗原に対する抗体反応
慢性感染への進行のリスク因子
心臓弁の異常,血管グラフト,大動脈瘤,妊婦または免疫不全患者での急性感染
慢性感染(
Medicine 95: e4287, 2016
;
Clin Infect Dis 73: 1476, 2021
)
発症は急性感染患者のうち5%以下.急性感染後,数ヵ月または数年で発症する.
症状は非特異的で多様であり,疲労,発熱,腹痛または胸痛,体重減少,寝汗,肝脾腫大症,血栓塞栓のエビデンスなど.
慢性感染の症状
ほとんどは培養陰性心内膜炎
で,背景に心臓弁膜疾患のある患者で発症する.あるいは血管グラフトまたは動脈瘤のある患者で血管内感染が起こる(
MMWR 62(RR-03): 1, 2013
;
Clin Infect Dis 57: 836, 2013
).
治療しなければ致死率100%
弁疣腫が小さくて経胸壁心エコー(TTE)では見逃しやすいことがある.心内膜炎が疑われ,TTEで診断できない場合は,経食道心エコー(TEE)を行う必要がある.心エコー検査は比較的感度が低いため,TTEやTEEが陰性であっても,Q熱心内膜炎を除外することはできない.
慢性肝炎,慢性骨および関節感染,慢性肺感染など,その他の慢性感染を多く合併する:
JAMA Netw Open 1: e181580, 2018
.
I相菌抗原に対する抗体反応
診断
急性感染
II相菌抗体反応が主体であり,症状発現後約1週で上昇する.
急性期と回復期の3~6週隔てて得られた血清で,II相菌IgG力価が4倍上昇の免疫蛍光アッセイ(IFA)による血清学的エビデンスがあることがゴールドスタンダードである.
発症初期2週間以内の抗菌薬投与前または直後に得られた全血または血清検体での
C. burnetii
PCR陽性は感度・特異度ともに高く,抗体反応に先行する.PCR陽性は治療後急速に低下し,約2週後には陰性となるため,PCRによって感染を除外することはできない.
PCR陽性も急性血清検体も得られず,回復期検体のみが得られIFAでII相菌IgG≧1:128,患者の症状が>1週続いているならば,おそらくは急性感染である.
II相菌IgM抗体はIgG反応と同時に出現するが,特異度が低く,II相菌IgG反応がない場合には偽陽性になりやすく,診断としては推奨されない.
標準的な血液培養培地では
C. burnetii
は増殖せず,仮に増殖したとしても診断に使えることはまれである.メタゲノム次世代シーケンスが有用かもしれない(
Clin Microbiol Rev 30: 115, 2017
).
慢性感染
I相菌抗体反応が主体であり,症状発現後約1週で上昇する.抗体価は上昇しつづけ,しばしばII相菌抗体力価を上回る.
IFAでのI相菌IgG力価≧1:1024なら確実である.
I相菌IgG力価1:800は,Q熱感染性心内膜炎の2023年Duke基準に当てはまる(
Clin Infect Dis 77: 518, 2023
).
血液または組織PCR陽性;ただし陰性は慢性感染を除外しない.
感染組織の免疫組織化学検査陽性
メタゲノム次世代シーケンスが有用かもしれない(
Clin Microbiol Rev 30: 115, 2017
).
持続性局所感染を検出するには,PET-CTが有用かもしれない(
JAMA Netw Open 1: e181580, 2018
).
標準的な血液培養培地または組織培養培地では
C. burnetii
は増殖せず,仮に増殖したとしても診断に使えることはまれである.
分類
Coxiella burnetii
,多形性グラム陰性桿菌または球桿菌,偏性細胞内寄生細菌
第一選択
急性感染
(診断上疑わしければ,ただちに治療開始)
成人
DOXY
100mg経口1日2回・2週
妊婦:
ST
2錠経口1日2回を,早産を防ぐために妊娠期間中投与.新生児の高ビリルビン血症のリスクを軽減するために出産前に治療を中断すること.DOXYとフルオロキノロン系は妊婦では禁忌.
心臓弁膜症(リウマチ熱の既往,大動脈二尖弁,人工弁,狭窄症,逆流症)が明らかならば,心内膜炎への進行リスクを低減するために(
DOXY
100mg経口1日2回+ヒドロキシクロロキン 200mg経口1日3回)・12カ月を考慮する
小児
DOXY
1回2.2mg/kg静注†または経口1日2回・14日(最大1回100mgまで)
慢性感染
心内膜炎または感染性動脈瘤/移植片:
DOXY
+ヒドロキシクロロキン (特異的治療の推奨および詳細は
感染性心内膜炎-Q熱
を参照)
骨,関節,肝臓が感染している場合:心内膜炎と同様の治療を,抗体価の低下が確認されるまで行う.
妊婦:
ST
2錠1日2回+葉酸サプリメント,産後は
DOXY
+
ヒドロキシクロロキン
に切り替え.
小児:データが限られている,感染症専門家への相談が推奨される.ST,CPFX,RFP,DOXY,CAM,AZMの併用が持続性局所感染に用いられてきた(
Clin Microbiol Rev 30:115, 2017
).
(†:日本にない剤形)
第二選択
急性感染,患者がDOXY治療を受けられない場合
成人
ST
2錠経口1日2回・14日
MFLX
400mg経口1日1回・14日
CAM
500mg経口1日2回・14日
小児
ST
5mg/kg/日(トリメトプリムとして)2回に分割経口・14日
慢性感染
大規模レトロスペクティブ観察コホート研究では,
DOXY
+
MFLX
と
DOXY
+ヒドロキシクロロキンの効果は同等であった(
Clin Infect Dis 66: 719, 2018
).ヒドロキシクロロキンに不耐な患者では有効かもしれない.
コメント
慢性Q熱診断に関するオランダのコンセンサスガイドライン(
Emerg Infect Dis 21: 1183, 2015
).
明らかな慢性Q熱
急性感染がなく,
C. burnetii
に関する血液または組織のPCRが陽性,または
IFAで
C. burnetii
I相菌に対するIgG抗体価≧1:800,かつDuke基準による心内膜炎の確定診断,またはPET-CT,CT,MRI,超音波で大血管や人工物の感染を確認.
慢性Q熱の可能性が高い
IFAで
C.burnetii
I相菌に対するIgGが確認され,かつ以下のいずれかが存在する:Duke基準の大項目に当てはまらない弁膜症のエビデンス,動脈瘤または人工弁の存在,慢性Q熱の症候(骨髄炎,肝炎,発熱,寝汗,体重減少,肝脾腫大,妊娠または免疫不全状態,肉芽腫組織の炎症).
慢性Q熱の可能性あり
IFAで
C. burnetii
I相菌IgG抗体価≧800.
DOXYは短期間(≦21日)ならば,患者の年齢にかかわらず安全に投与できる(
AAP Red Book 2018
).
臨床症状,診断と治療に関するCDCの推奨についての総説:
MMWR Recomm Rep 62(RR-03): 1, 2013
.
総説:
StatPearls: 2025年1月,2023年5月22日
.
【日本の情報】
Q熱は4類感染症に定められており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る.厚生労働省「
感染症法に基づく医師の届出について
」参照
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2025/07/07