日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Bordetella pertussis  (2025/05/27 更新)


臨床状況

  • ワクチンが普及したことから発症率は低下したが,近年増加してきた.無細胞百日咳ワクチンの免疫性が全細胞ワクチンと比べて短期であることが関連しているかもしれない(Nat Rev Microbiol 22: 722, 2024).
  • 3段階の病期がある:
  • 初めに1~2週間のカタル期(めったに診断できない,この段階での抗菌薬治療は有効),
  • その後2~4週間の発作性咳嗽(咳が続いて2週間以降は,抗菌薬治療はどんな効果も示さない),
  • 最後に,1~2週間の回復期.後期での治療は,鼻腔からの菌根絶と疾患の伝播防止のためになされる.
  • 咳後の喘鳴,嘔吐,失神,失禁を伴う発作
  • 合併症としては,無呼吸,徐脈,肺高血圧,肺炎,けいれん,死亡(死亡率は生後<2ヵ月の生後間もない乳児で約1%).
  • リンパ球増加症は,生後間もない乳児では肺高血圧,呼吸不全,死亡といった重大な転帰を招く.
  • Bordetella parapertussisも同様の臨床症状を引き起こすことがある.

診断/分類

診断
  • 気管支分泌物のPCRまたは特別な培地での培養
  • リンパ球増加症は百日咳を示唆する
分類
  • グラム陰性球桿菌

第一選択

  • 年長の小児や成人では,咳発症3~4週間以内なら抗菌薬治療が推奨される.乳児では,菌排出が続くことがあるため,咳発症後6週間まで治療
  • 咳発症が3週間より以前なら抗菌薬治療は推奨されない.以下の場合は例外:
  • 咳発症が6週間以内の分娩間近の妊婦で,新生児への伝播を防ぐため
  • 喘息,COPD,65歳以上,その他の免疫不全条件がある場合,咳発症後6週間まで
  • 成人:
  • AZM 500mg経口1回,その後250mg経口1日1回・4日
  • CAM 500mg経口1日2回・7日(または1g/日経口2回に分割・7日)
  • 小児:
  • AZM 10mg/kg/日経口1日目,その後5mg/kg1日1回2~5日目(最大1日500mg/250mg)
  • CAM 15mg/kg/日経口2回に分割・7日
  • 生後<2ヵ月の乳児
  • AZM 10mg/kg/日経口・5日
  • 注:生後1カ月以内の乳児では,AZMに関連した肥厚性幽門狭窄症のリスクがわずかにある

第二選択

  • 成人:ST 2錠経口1日2回・14日
  • 小児:ST(トリメトプリムとして)8mg/kg/日経口2回に分割・14日

予防

  • 曝露後予防(PEP)は家庭内での接触,託児所にいる小児などとの濃厚接触がある人,曝露がある,あるいは高リスク患者(新生児,妊婦)に曝露する可能性のある医療従事者には推奨される.これらの例では,PEPはワクチン接種歴と無関係に推奨される.
  • ワクチン接種がなく曝露した場合は,可能なかぎり速やかに百日咳を含む適切なワクチンの接種を受けなければならない.
  • 予防薬とその用量は治療の場合と同じ.

コメント

  • 生後<2ヵ月の乳児でリンパ球増加症がある場合には,交換輸血と救命救急診療が適応となることがある(Clin Microbiol Rev 29: 449, 2016).
  • AZMは,治療期間が短く,投与回数が少なくてすみ,副作用が少ないことから好まれる.CAMの方がAZMより消化管副作用が多い
  • STはAZMまたはCAMに不耐またはマクロライド耐性株感染の生後2ヵ月の患者の代替薬である.
  • 文献:
  • 予防とワクチンについては:Clin Infect Dis 58: 830, 2014を参照.免疫は終生続くわけではないため,急性疾患からの回復後は再び予防接種の推奨に従うこと.
  • 妊娠中にワクチン接種した母親と接種しなかった母親の(生後8週まで)乳児で百日咳の発症を調査した症例対照研究がある:Clin Infect Dis 60: 333, 2015.
  • 妊娠中に百日咳ワクチン接種した母親からの乳児での発症は17%(58例注10例)だったのに対し,ワクチン未接種の母親からの乳児では71%(55例中39例)だった.計算された調整後ワクチン効果は93%.破傷風,ジフテリア,百日咳,ワクチンを参照.
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2025/05/26