日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

破傷風,ジフテリア,百日咳,ワクチン  (2024/04/23 更新)


ワクチン接種の適応

はじめに
  • DTaPおよびDTaPを含む混合ワクチン(Pediarix,Petacel, Kinrix,Quadracel,Vaxelis)による小児へのルーチンのワクチン接種は,生後2,4,6,15~18ヵ月,4~6歳の5回連続接種である.
  • 第3回接種後≧6ヵ月経過していれば,早くも12ヵ月での第4回接種も可能
  • 第4回接種が≧4歳で第3回接種から≧6ヵ月に行われた場合には,第5回接種は不要.
  • 乳児の海外渡航のための加速化:DTaP第1回接種の最小齢は6週で最小投与間隔は4週;この乳児はDaptacel,Infanrixあるいは5価/6価混合ワクチンによる初回接種を生後6,10,14週で受けることになり,渡航は,可能なら,接種完了まで延期しなければならない.
  • ワクチン未接種あるいは接種不十分な乳児および年齢<18歳の小児で必要とされるDTaP,DT(サノフィ製品は2022に製造中止),TdまたはTdapの組み合わせのキャッチアップ指針は非常に複雑であり,以下のCDCアルゴリズムに従うべきである:
  • 本項の以下に記載するスケジュールと用量の情報は,年齢≧11歳に適応となる.
  
ワクチン接種の適応
 ルーチン
  • 年齢≧11歳の全員に3回の初回連続接種(年少の小児期での適切な4または5回接種の完了がない場合)
  • 海外渡航予定のない成人(医療従事者を含む)で,どこかの時点でTdap接種を既に受けており(初回追加接種),かつ最終Tdap接種から≧10年が経過している場合には,Tdap接種(禁忌でなければ),あるいは次善の選択だがTdの接種を受けなければならない.
  • 11歳またはそれより年長で,Tdap接種を一度も受けたことがない場合には,たとえ最近10年間にTd接種を受けていたとしても,ただちにTdapの1回接種を受ける.
  • 10歳で接種したTdapは青少年11歳での接種とする
  • 年齢≧65歳の全員(1回接種)
  • 破傷風,ジフテリア,百日咳からの回復者はルーチンの間隔でTdap接種をうけなければならない;通常これらの疾患に罹患しても免疫は獲得できない.
 海外渡航
  • 連続接種を完了していない海外渡航者は,渡航前にできるだけ多くの接種を受けなければならない.
  • 11歳以降でのTdap1回接種の記録を探さねばならない.
  • 最終追加接種から5年以上経過している場合,破傷風ワクチン追加接種が容易にはできない遠方の国へ行く渡航者に対しては,外傷の汚染の後での国内でのワクチン接種が必要となる事態を避けるために,破傷風含有ワクチンの追加接種を行う.
 用量とスケジュール
 (年齢≧11歳)
商品名
(製造元)
Adacel(サノフィ Pasteur)
Boostrix(グラクソ・スミスクライン)
ワクチン
(タイプ,CDC略語)
破傷風トキソイド,弱毒化ジフテリアトキソイドおよび無細胞百日関吸収(Tdap1,2
破傷風トキソイド,弱毒化ジフテリアトキソイドおよび無細胞百日関吸収(Tdap1,2
年齢
年齢10~64歳(CDCは≧65歳での適応外使用を認めている)
≧10歳
用量,経路
0.5mL筋注
0.5mL筋注
初回接種スケジュールー≧11歳かつワクチン未接種
0,≧4週および第2回の6~12ヵ月後
0,≧4週および第2回の6~12ヵ月後
初回接種スケジュールー加速化
なし
なし
追加接種
11歳またはそれより年長で,Tdap接種を一度も受けたことがない場合には,たとえ最近10年間にTd接種を受けていたとしても,ただちにTdapの1回接種を行い,その後は10年ごと.
11歳またはそれより年長で,Tdap接種を一度も受けたことがない場合には,たとえ最近10年間にTd接種を受けていたとしても,ただちにTdapの1回接種を行い,その後は10年ごと.
妊婦
1回の妊娠ごとに1回接種,27~36週にできるだけ早く
1回の妊娠ごとに1回接種,27~36週にできるだけ早く
  1. Adacel(Tdap)はDaptacel(DTaP;サノフィ Pasteur),Boostric(Tdap),Infanrix(DTaP;グラクソ・スミスクライン)と同一抗原だが,各々のジフテリア,百日咳毒素含有量は低い
  2. Tenivac(Td;サノフィ Pasteur)およびTdVax(Td;MassBiologics/Grifols)は百日咳を含まない古いワクチンであり,初回連続接種の2回分まで(Tdは初回接種の第1回あるいは1回目の追加接種には使えない),または第1回追加接種以降の,Tdapで行わなければならない追加接種でTdapの代わりに使うことができるが,最良の処方ではない.

曝露後予防
(外傷)
  • 破傷風トキソイドを含むワクチンの3回以上接種が完了している場合:
  • 汚れのない清潔な外傷:破傷風含有ワクチンの最終接種から10年以上経過していれば,TdapまたはTd;
  • そうでない外傷すべて:破傷風含有ワクチンの最終接種から>5年経過していれば,Tdap(望ましい)またはTd.
  • ワクチン接種歴不明または破傷風含有ワクチン接種が<3回
  • 汚れのない清潔な外傷:TdapまたはTdおよび,適応に従って,その後の初回連続接種
  • そうでない外傷すべて:以下の場合を含むが,これらに限るものではない:土,糞便,泥,唾液などで汚染された外傷;刺し傷;剥離;矢,粉砕,火傷,凍傷の外傷.
  • Tdap/TD+TIG:HyperTET S/D(Grifols Therapeutics),ヒト破傷風免疫グロブリン・薬剤充填シリンジ(250単位/回,筋注).TIGは受傷後21日以内に投与しなければならない.
  • TIGが使用できない場合,専門家と相談の上でIGIVを用いてもよい(適応外処方)
  • リスクのある患者と接触して百日咳に曝露した医療従事者は,それ以前にTdapワクチン接種を受けていても,曝露21日以内に抗菌薬による曝露後予防を受けなければならない.
  • AdacelおよびBoostrixは,いかなる年齢の外傷治療にも適応外使用されることがあり,それ以前にTdap接種をしていない人には望ましい.

有効性,予防効果持続期間/
選択,互換性

有効性,予防期間
  • ジフテリア・破傷風トキソイド含有ワクチン3回接種はすべての乳児/成人へ予防力価の抗体を与える.
  • 思春期での破傷風含有ワクチンの追加接種により,長期間(少なくとも20~30年)の破傷風に対する免疫性が確保される.
  • ジフテリアに対する免疫性を維持するためには,10年ごとの追加接種が必要.
  • 百日咳に対する免疫性は持続期間が短く,10年ごとの追加接種でも持続することはまれであるため,現在米国やヨーロッパでしばしば流行が起こっている.
  • 免疫性は思春期前には5年で71%に低下し,追加接種を受けた青少年では2年後に34%になる.
  • 青少年および成人での百日咳に対するワクチン効果(VE)は,小児でDTPとDTaPの両方を接種した場合には66~78%と推計される
選択,互換性
  • BoostrixとAdacelは,百日咳の抗原は異なるが,TDaPの初回接種と追加接種ではどちらも選択可能である.
  • 年齢>65歳ではAdacelは適応外使用になるが,ACIPはこの年齢層での使用をはっきりと推奨している.
  • 1種抗原百日咳ワクチンは米国/カナダでは入手できないが,他の国では入手できることがある.

毒性

禁忌
  • 以前のワクチン接種後の,あるいはワクチン成分に対する重症アレルギー反応(たとえば,アナフィラキシー反応).
  • Tdapのみ:他に原因の考えられない脳炎,以前のDTP,DTaP,Tdap接種後7日以内
警告
  • 定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.
  • 中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず)
  • 以前の破傷風含有ワクチン接種後6週間以内にギラン・バレー症候群(GBS)
  • 以前のジフテリアまたは破傷風含有ワクチン接種後のアルサス反応;接種を10年延期.
  • Tdapのみ:現在進行性または不安定な神経疾患,治療されていないけいれん,または進行性脳炎がある;現在の状態が安定するまでの期間のみ
副作用
  • 発熱はまれ.
  • 注射部位の反応,頭痛,身体の痛み,筋力低下,疲労.
  • 青少年での,けいれんや神経原性有害事象(片側顔面麻痺を伴う重症偏頭痛,頸部および左腕の神経圧迫)はまれ.
  • 成人でTdによるアルサス反応が起こることがあるが,Tdapでは起こらない.
  • TIGでまれに血栓塞栓症が起こることがある.
薬物相互作用
  • TdapおよびTdは米国FDAが許可/承認したどのワクチン(COVID-19ワクチンを含む)とも同時(または前後のどの時点でも)併用可能.

特に注意の必要な患者集団

妊婦,授乳
  • 1回の妊娠ごとに,27週~36週のできるだけ早い時点で1回接種する
  • 妊娠中に接種しなかった場合には,出産直後にTdapを接種する.
  • ワクチン接種が完了していなければ,出産後に初回連続接種をすべて完了させる
  • 百日咳予防のために妊婦ではTdap接種が適応となる:したがって,Tdapが禁忌の場合,Tdを接種する必要はない.
  • Tdap接種を受けたことは授乳の禁忌ではなく,母親にも乳児にもリスクが及ぶことはない.
免疫不全/HIV
  • TdapはHIV感染者に禁忌ではない
  • HIV感染者または重症免疫不全で,汚染された外傷のある場合には,ワクチン接種歴がどうであろうと,必ずTIG接種を受ける.

血清検査

  • いかなる状況でも適応とならない.

コメント

  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
  • 情報源
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2024/04/22