日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ジフテリア  (2024/07/09 更新)
膜様咽頭炎:ジフテリア


臨床状況

  • 症状
  • 喉の痛み,頸部リンパ節症,軽度の発熱,不十分なジフテリア予防接種歴.
  • 所見:紅斑から白い滲出液に進行し,その後癒着した灰色の偽膜となる
  • 膜はジフテリア毒素による粘膜細胞の壊死による
  • 毒素は,心筋,腎,中枢神経の損傷を引き起こすこともある
  • ジフテリアによる膜性咽頭炎は免疫をもつ人でも発症することがある.
  • 抗菌薬は毒素産生を抑え,病原微生物の蔓延を抑える.
  • 飛沫感染を防ぐために隔離の適応となる.
  • ジフテリア毒素
  • 鼻腔,咽頭,咽頭気管支に灰色の偽膜が付着する
  • 毒素は心筋炎も引き起こす(22%の患者)
  • 毒素は神経障害も引き起こす(軟口蓋,脳神経)
  • 要約:
  • 毒素産生性C. diphtheriaeは主として気道の炎症および壊死を引き起こす.治療には抗毒素および通常はマクロライド系抗菌薬注射治療を行う.
  • C. diphtheriae毒素非産生株,および他の侵襲的なCorynebacteriae属は,皮膚潰瘍を引き起こすことがもっとも多く,抗毒素治療は必要なく,経口マクロライド系薬に反応することがある.
  • 毒素非産生性ジフテリアによる皮膚潰瘍のデータについては下記のコメント参照
  • 【日本の情報】国内でのジフテリア抗毒素の保管場所,抗毒素測定実施機関などについては国立感染症研究所・感染症情報センター「ジフテリアの基礎知識」参照.

診断/病原体

診断
  • 診断は,鼻咽頭の培養による(特別な培地が必要であることを検査室に伝えておく)
  • 加えて,PCRは病原微生物および/またはC. diphtheriae毒素を検出できる.CDCに協力を求めてもよい:電話404-639-1231
病原体
  • Corynebacterium diphtheriae,毒素産生株:ヒトからヒトへ感染
  • 毒素産生株:ヒトからヒトへ感染
  • 毒素非産生株が重症疾患(たとえば,菌血症,心内膜炎,骨髄炎,敗血症性関節炎など)の原因となることはまれ(MMWR 73:405, 2024
  • 他のCorynebacterium属が毒素産生性をもつことはまれ(動物からヒトへ感染)
  • C. ulceransまたは
  • C. pseudotuberculosis

第一選択

  • 患者は飛沫感染を防ぐために隔離.連続2回の培養(少なくとも24時間の間隔をおいた)が陰性となるまで隔離を続ける
  • 気道の十分な確保を注意深く,持続的にモニターすること.挿管が必要な場合もある.
  • 治療は抗菌薬,抗毒素,気道確保を含む
  • 抗菌薬治療
  • ペニシリン系薬に対する耐性が増大しているため,マクロライド系薬を第一選択とするのが望ましい(Genome Med 12: 107, 2020
  • マクロライド系薬
  • AZM(静注/経口)
  • 小児:10~12mg/kg1日1回(最大500mg/日)
  • 成人:500mg静注/経口1日1回
  • EM(小児および成人)
  • 40~50mg/kg/日(最大2g/日)静注/経口4回に分割
  • 静注の場合は,1回60分以上かけて
  • ペニシリン系薬:マクロライド系薬が入手できず,in vitroでの感受性が確認された場合にのみ使用する
  • 小児
  • 水性PCG 10万~30万単位/kg/日静注6時間ごとに分割(最大100万単位/回),または
  • プロカインPCG5万単位/kg/日筋注1日1回 (最大120万単位/日),または
  • Penicillin VK 10~15mg/kg/回(最大500mg/回)経口1日4回
  • 成人
  • 水性PCG 2万5千単位/kg静注6時間ごと(最大100万単位/回),または
  • プロカインPCG 120万単位筋注1日1回
  • 患者にとって可能なら,Penicillin VK 500mg経口(食事なしで)1日4回に替えることも可能
  • ジフテリア抗毒素
  • 米国ではCDCから入手できる:電話での問い合わせは 1-404-639-2889.
  • 感受性検査は必要ない.症候性ジフテリアが疑われる,または明らかであれば,抗毒素1回用量を投与.
  • 抗毒素静注治療:用量は病期により異なる.
  • ・<48時間:2万~4万国際単位
  • ・鼻咽頭に偽膜病変がある場合:4万~6万国際単位
  • ・>3日および牛頸(bull neck):8万~12万単位.60分以上かけて静注
  • 濃厚接触者
  • 患者を特定し,培養を行い,濃厚接触者を管理すること.予防的な抗菌薬投与が必要となる場合もある.
  • 接触者をAZM 500mg経口1日1回・7~10日またはEM(上記用量)で治療
  • マクロライド系薬が入手できない場合,6歳未満ならプロカインPCG筋注60万単位,6歳以上なら120万単位.
  • 気道からの菌の根絶を確認するために治療後1~2日で培養を行い,さらに治療終了の2週間後に再度培養を行う.
  • 治療後,患者はジフテリア毒素ワクチン接種を受ける必要がある.

第二選択

  • 他の薬剤については臨床データがない.

抗微生物薬適正使用

  • 治療期間:通常は14日
  • C. diphtheriae はin vitroでは CAM,AZM,フルオロキノロン系,CLDM,ST,VCM,LZDに感受性がある.マクロライドやペニシリンに耐性の株の場合は,VCMまたはLZDが合理的な第二選択である.
  • 全βラクタム薬に耐性(カルバペネム系薬への誘導耐性を含む)で致死的な毒素産生C. diphtheriaeが報告されている:Clin Infect Dis 73: e4531, 2021

コメント

  • AZMはEMよりも忍容性が高い(経口も静注も).EM静注は静脈炎と,経口は悪心・下痢と関連がある.
  • 気道を確実に確保すること.心電図および心筋酵素の検査を行う.
  • 皮膚ジフテリア
  • 慢性浅部潰瘍
  • 汚れた偽膜の存在
  • 培養またはPCRで診断
  • 皮膚潰瘍を引き起こすCorynebacteriumは通常毒素非産生で,抗毒素は必要ない.
  • 接触予防
  • 密接な接触があれば,同定,培養を行い,抗菌薬による予防を考慮する
  • 最近のワクチン接種歴がない,または不明ならば,接種する
  • 培養後:接触者を治療:AZM 500mg経口1日1回・7~10日
  • 一般に治療後48時間は伝播することはない.
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2024/07/09