日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

潜在性結核の治療-検査陽性  (2024/07/16 更新)


臨床状況

  • 潜在性結核感染
  • 結核皮膚検査(TST),インターフェロンγ遊離試験(IGRA:QuantiFERON,T-SPOT,ELISpot)などの潜在性結核検査が陽性で,かつ活動性病変のエビデンスがない(結核ー診断検査も参照)
  • 以下の高リスク例では,硬結≧5mmでTST陽性:
  • HIV陽性:進行したHIV患者は,それ以外の人と比較して活動性結核への進行リスクが10倍高い.
  • 活動性病変患者との最近の接触
  • 画像検査で陳旧性の治癒した結核が認められるが,治療歴がない
  • 免疫抑制
  • 長期のステロイド治療(Prednisone>15mg/日)
  • 次のようなリスク因子のある例では硬結≧10mmでTST陽性:結核罹病率の高い外国出身,注射薬剤使用,慢性腎不全,不法静注薬使用,珪肺症,糖尿病,正常より>10%の低体重,慢性的低栄養状態,胃切除の既往,喫煙
  • TNF-α阻害薬治療は,活動性結核への進行リスクを有意に増大させるので,治療を予定している場合は,あらかじめ潜在性結核の検査を受け,TSTまたはIGRAが陽性なら潜在性結核の治療を受けなければならない(Infect Dis Clin North Am 34: 413, 2020),
  • 処方選択は以下により決定される
  • わかる場合は,発端者からの検出菌がINHおよび/またはRFPに感性か耐性か
  • 年齢
  • 妊娠の有無
  • 多剤耐性結核曝露後の予防的治療は確立されていない.

病原体

第一選択

INH感性と考えられる場合(INH 6~9カ月レジメンよりも,リファマイシンを主剤にした短期間レジメンが望ましい)
  • INH(+ピリドキシン経口週1回[2~11歳の小児:12.5~25mg,成人:50mg])
  • 成人:15mg/kg(約50または100mgに切り上げ[最大900mg])経口週1回
  • 2~11歳の小児:25mg/kg(最大900mg)経口週1回
  • Rifapentine:成人および小児で経口週1回
体重
用量
10.0~14.0kg
300mg
14.1~25.0kg
450mg
25.1~32.0kg
600mg
32.1~49.9kg
750mg
>50kg
900mg

  • 2歳以上の小児に対しては安全で有効
  • HIV/AIDS患者では,抗レトロウイルス薬との間で起こりうる薬物相互作用を考慮しつつ使用してもよい.
  • <2歳の小児,INHまたはRFP耐性の潜在性結核の疑いには推奨されない.
  • 妊婦または12週治療中に妊娠が予想される女性には推奨されない.
  • DOTでも自己処方の治療としても使用できる.
  • RFP 4カ月
  • 成人:10mg/kg(最大600mg)経口1日1回
  • 小児:15~20mg/kg(最大600mg)経口1日1回
  • INH+RFP 3カ月
  • 成人:INH 5mg/kg(最大300mg)経口1日1回+RFP 10mg/kg(最大600mg)経口1日1回+ピリドキシン50mg経口1日1回
  • 小児:INH 10~20mg/kg(最大300mg)経口1日1回+RFP 15~20mg/kg(最大600mg)経口1日1回+ピリドキシン6.25mg(乳児)~25mg(学童)経口1日1回
  • 妊婦
  • ほとんどの女性の場合,妊娠中の不必要な投薬を避けるために,治療を産後2~3カ月まで遅らせてよい.
  • 潜在性結核感染から活動性結核への進行リスクが高い女性,とくに感染性のある結核患者と最近接触した場合は,妊娠第1期であっても妊娠だけを理由に潜在性結核感染症の治療を遅らせるべきではない.
  • RFP 4カ月,またはINH+RFP+ピリドキシン 3カ月,上記のとおり
INH耐性,RFP感性と考えられる場合(INHに忍容性のない患者でのINH感性菌に対する選択肢でもある)
  • 成人:10mg/kg(最大600mg)経口1日1回
  • 小児:15~20mg/kg(最大600mg)経口1日1回
  • 妊婦:10mg/kg(最大600mg)経口1日1回
  • 潜在性結核感染から活動性結核への進行リスクがある女性,とくにHIV感染者または最近感染した女性については,妊娠第1期であっても治療を遅らせてはならない.危険因子がない場合は,出産後まで治療を遅らせる.
多剤耐性(MDR),INH耐性,RFP耐性と考えられる場合
  • LVFX 1日1回経口・6ヵ月(WHO多剤耐性結核に対する処方の最新ガイダンス速報を参照),体重別用量
  • 3~6.9kg:62.5mg
  • 7~9.9kg:125mg
  • 10~15.9kg:250mg
  • 16~24.9kg:375mg
  • 25~49.9kg:500mg
  • 50kg以上:750mg
  • 妊婦:専門家へのコンサルテーションが必要

第二選択

INH 9カ月
  • INHによる予防治療の推奨期間は9カ月だが,INH 300mg経口1日1回・6カ月でもある程度有効であり,9カ月に不耐または遵守できない一部の患者では考慮してもよい(小児,HIV感染者,胸部画像で線維性病変が認められた例には推奨されない)(Ann Intern Med 167: 248, 2017).
  • 成人:INH 5mg/kg(最大300mg)経口1日1回+ピリドキシン50mg経口1日1回
  • 小児:INH 10~15mg/kg(最大300mg)経口1日1回+ピリドキシン6.25mg(乳児)~25mg(学童)経口1日1回
  • 妊婦:INH 5mg/kg(最大300mg)経口1日1回+ピリドキシン50mg経口1日1回
RFPを選択できないHIV感染者:RFPの代わりにRBT 300mgを1日1回投与してもよい(薬物相互作用を考慮して投与量を調整する必要がある).
他の選択肢となる処方(MMWR Recomm Rep 49(RR-6): 1, 2000
  • INH 15mg/kg(成人),20~30mg/kg(小児)最大900mg週2回・9カ月+ピリドキシン50mg(成人),6.25mg(乳児)~25mg(学童)経口週2回
  • INH 15mg/kg(成人),20~30mg/kg(小児)最大900mg週2回・6カ月+ピリドキシン50mg(成人),6.25mg(乳児)~25mg(学童)経口週2回
  • RBT 300mg1日1回・4カ月
  • 注:RFP+PZAは毒性のため,推奨されない.

コメント

  • INH治療を受ける患者に対しては,肝炎の所見/症状について教育し,臨床的に徴候および症状のモニターを行うこと.
  • 血液検査モニター
  • ルーチンには適用されない.
  • ベースラインでの肝化学血液検査は,特定の状態にある患者に対して適応となる:HIV感染者,肝疾患,産褥期(産後3カ月以内),飲酒習慣のある患者,注射薬の使用,INHまたはRFPとの相互作用が知られている薬物の使用
  • 高齢患者,とくに慢性疾患のために薬を服用している患者に対しては,ベースラインの肝化学血液検査を個別に検討すること.
  • ベースライン検査で異常がみられた患者や,肝疾患リスクがある患者に対しては,次の診療で血液検査を実施すること.
  • 症状がなくてもALT/ASTが正常値上限の5倍以上の場合,あるいは,症状がありALT/ASTが正常値上限の3倍以上の場合は,INH+Rifapentine 12週レジメンを中止すること.
  • 治療開始時の肝機能検査値が異常の場合,肝疾患のその他の危険因子がある場合,あるいは副作用の可能性を確認する場合は,治療中の肝機能検査も適応となる.
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2024/07/16