日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

生物学的製剤を開始する患者の感染予防  (2019/6/18 更新)


臨床状況

  • さまざまな生物学的製剤の開発は,多くの自己免疫疾患や悪性疾患の治療に大きな進歩をもたらした.そうした薬剤の多くは正常な免疫反応の一部を阻害することで効果を発揮するため,さまざまな種類の感染症の危険性を増大させる.
  • 生物学的製剤に関連した感染症の危険性を最小限にするために,生物学的製剤使用前に,潜在的あるいは症状が現れる前の感染症のスクリーニングを考慮すること.感染が明らかになったら,生物学的製剤開始前に感染症の治療を行うか,生物学的製剤を中止する.
生物学的製剤
作用機序
FDA適応
感染症リスク
(確認された・または・理論上の)
治療前スクリーニング/予防(コメント参照)
TNF阻害薬
(エタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブ,セルトリズマブ,ゴリムマブ)
TNFと結合またはTNF受容体をブロック
関節リウマチ,炎症性腸炎,乾癬
結核,非結核性抗酸菌
風土性の真菌症
B型肝炎はまれ
リーシュマニア症
潜在性結核
B型肝炎
風土性の真菌症の履歴:たとえばコクシジオイデス症(Clin Infect Dis 68: 1024, 2019
アバタセプト
T細胞活性の変化
関節リウマチ,若年性特発性関節炎
現在のところ記載なし
潜在性結核
B型肝炎
Alemtuzumab
抗CD52,リンパ球(TおよびB細胞)除去薬
慢性リンパ球性白血病
サイトメガロウイルス/単純ヘルペスウイルス/水痘‐帯状疱疹ウイルス/EBウイルス
ニューモシスチス肺炎
寄生虫感染
真菌感染
B型肝炎
Mycobacterium
サイトメガロウイルス/単純ヘルペスウイルス/水痘‐帯状疱疹ウイルス
潜在性結核
B型肝炎
ニューモシスチス肺炎
Anakinra
IL-1受容体アンタゴニスト
関節リウマチ,クリオピリン関連周期性発熱症候群,若年性特発性関節炎,Still病
細菌感染
潜在性結核
B型肝炎
Belimumab
B細胞を減少させる(Bリンパ球刺激因子の阻害)
全身性エリテマトーデス
B型肝炎
B型肝炎
ボルテゾミブ
プロテアソーム阻害薬
多発性骨髄腫,マントル細胞リンパ腫
単純ヘルペスウイルス/水痘‐帯状疱疹ウイルス
単純ヘルペスウイルス/水痘‐帯状疱疹ウイルス予防を考慮すること
B型肝炎
カナキヌマブ
IL-1β阻害薬
全身性若年性特発性関節炎,周期熱症候群
Aspergillus,非結核性抗酸菌,サイトメガロウイルス,水痘-帯状疱疹ウイルス感染が報告されている(データは少ない)
潜在性結核
B型肝炎
エクリズマブ
終末補体阻害薬
発作性夜間ヘモグロビン尿症,非定型溶血性尿毒素症候群
N. meningtidis 感染
治療前に髄膜炎菌ワクチンの接種
B型肝炎
Natalizumab
α4インテグリン抗体
多発性硬化症,クローン病
進行性多巣性白質脳症
髄膜炎,脳炎
JCウイルス
B型肝炎
オファツムマブ
抗CD20抗体(リツキシマブとは異なる)
慢性リンパ球性白血病
B型肝炎
進行性多巣性白質脳症
B型肝炎
リツキシマブ
CD20と結合,成熟B細胞を枯渇させる
関節リウマチ,乾癬性関節炎,抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎,慢性リンパ球性白血病,非ホジキンスリンパ腫
B型肝炎
進行性多巣性白質脳症
B型肝炎
トシリズマブ
IL-6受容体アンタゴニスト
関節リウマチ,若年性特発性関節炎
腹膜炎,消化管感染
潜在性結核
B型肝炎
トファシチニブ
ヤヌスキナーゼ3阻害薬
関節リウマチ
結核
潜在性結核
B型肝炎
ウステキヌマブ
IL-12およびIL-23阻害薬
乾癬
B型肝炎
進行性多巣性白質脳症
B型肝炎
潜在性結核

コメント

  • 結核:潜在性結核の再活性化リスク増大がはっきりと報告されているのはTNF阻害薬使用後であるが(N Engl J Med 345: 1098, 2001),上記の表のように,他の生物学的製剤も再活性化リスクを増大させる.潜在性結核スクリーニングには,TST,IGRA,胸部X線,詳しい結核曝露履歴調査を含めること.TST/IGRAで潜在性結核が明らかとなった患者,陰性または不定だが他のリスク因子(曝露履歴,胸部X線上で結核感染の既往が示唆される)がある場合には潜在性結核の治療を行う.潜在性結核の治療(TST陽性高リスク患者)を参照.
  • B型肝炎:多くの免疫抑制薬についてB型肝炎再活性化のリスクが報告されている.上にあげた生物学的製剤の中では,リツキシマブでB型肝炎再活性化との関連性が最も強く(J Clin Oncol 27: 605, 2009),またTNF阻害薬も関連が示唆される(Clin Rheumatol 31: 931, 2012).これらの生物学的製剤を使用する前には,血清HBs抗原,HBs抗体(IgG),HBc抗体(IgG)によるB型肝炎スクリーニングを行う.HBs抗原陰性かつHBc抗体陽性(±HBs抗体陽性)の患者で再活性化がみられた.抗ウイルス薬によるB型肝炎再活性化予防を行うか,B型肝炎ウイルスDNAのモニターを行うかは,血清学検査の結果,B型肝炎ウイルスDNAレベル,生物学的製剤の使用状況に基づいて決定する.リツキシマブまたはAlemtuzumabを用いた患者では,治療をやめても少なくとも12カ月は予防を続ける.半減期の短い生物学的製剤(TNF阻害薬)を用いた患者では,治療終了後少なくとも6カ月が合理的である.
  • JCウイルス:進行性多巣性白質脳症リスクがナタリズマブ使用と相関している.リスク因子としてはJCウイルスIgG陽性および過去の免疫抑制があげられる(N Engl J Med 366: 1870, 2012).治療に先立って,血清JCウイルスIgG検査を行うことが推奨される.リツキシマブ(J Clin Virol 48: 291, 2010)およびオファツムマブ(J Clin Oncol 28: 1749, 2010)使用患者の症例も報告されている:JCウイルス血清学的スクリーニングはルーチンでは推奨されないが,各症例ごとにリスク/ベネフィットを検討する.
  • 風土性真菌症:活動性のヒストプラスマ症およびコクシジオイデス症感染またはそれらの最近の既往のスクリーニングは,曝露および症状についての問診,身体所見±胸部X線によって行われる.ヒストプラスマ症に対する血清学的スクリーニングはルーチンには推奨されない(Clin Infect Dis 50: 85, 2010)が,コクシジオイデス症流行地域の多くの専門家は,生物学的製剤による治療前あるいは治療中に血清学的スクリーニングを行っている(Arthritis Care Res (Hoboken) 64: 1903, 2012).ただし,TNF阻害薬を処方されている患者でのコクシジオイデス症の主な機序は,再活性化ではなく新規感染である(Arthritis Rheum 50: 1959, 2004).活動性の感染あるいは最近の感染がある患者では,生物学的製剤による治療の前に感染を治癒させることが推奨される.
  • サイトメガロウイルス:Alemtuzumab使用患者でのサイトメガロウイルス感染防止には予防的アプローチあるいは早期予防的アプローチが検討される.サイトメガロウイルス予防を参照.
  • ニューモシスチス肺炎:Alemtuzumab使用患者に対しニューモシスチス肺炎の予防が推奨される.ニューモシスチス肺炎予防の推奨を参照.
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2019/06/13