日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

トキソプラズマ症-免疫正常患者  (2025/04/08 更新)


臨床状況

  • 免疫正常な宿主では,初期トキソプラズマ症は通常無症候である.症候には脈絡網膜炎(網脈絡膜炎),リンパ節炎,先天性トキソプラズマ症が含まれる.
  • ヒトの感染経路:
  • ネコ糞便からのオーシストに汚染された食物や水の摂取
  • 加熱が不十分な感染獣肉(牛肉,ラム肉,狩猟肉[鹿肉]など)からのブラディゾイトのある嚢胞の摂取
  • 新たに感染した妊婦から胎児へ
  • 感染したドナーからの輸血や臓器移植
  • 軽度の炎症反応(たとえば,発熱,単核球症)を伴う頸部または全身リンパ節症として発症し,自然治癒する.
  • 子宮内での初感染はその後(小児期,青年期)に臨床的に脈絡網膜炎(網脈絡膜炎とも呼ばれる)を引き起こすことがある.
  • 水媒介性の流行に関連し,典型的には眼病変として発症する(バンクーバー,南アメリカでの症例多発があった)が,播種性疾患もありうる.
  • 南アメリカからのgenotypeは病原性が強く,ブラジルや南/中部アメリカからの患者では有症性の疾患が多い.
  • 症例多発に関連するのは狩猟肉(鹿肉)の接種:しばしば重症となる(発病率が高く,播種性となることも多い).
  • 世界の多くの地域(遠くに南アメリカ)で,感染性後部ぶどう膜炎のもっとも多い原因

病原体/診断

病原体
  • Toxoplasma gondii
診断
  • 血液,脳脊髄液,後房,羊水のPCRが診断に用いられることがあるが,特異度は高いが感度は低い.
  • 血漿のメタゲノミクスによる診断について多くの報告がある.
  • 特異的診断についてはDr. Jack Remington Laboratoty(remingtonlab@sutterhealth.org)へのコンサルテーションが考慮される:CDC関連検査施設であり,以前はPalo Alto Medical Foundation Toxoplasma Serology Lab と呼ばれていた:(+1) 650-853-4828.
  • T. gondiiの生体は宿主中に長期に生存するため,PCR陽性は,活動性疾患よりも潜在的な寄生虫を表すことがある.

第一選択

免疫正常で妊娠していない場合:通常治療は必要ない.全身性疾患や長期の発熱,脈絡網膜炎では治療を行うが,ステロイドは用いない.
  • Pyrimethamine/スルファジアジン/ホリナートカルシウムが第一選択だが,Pyrimethamineの入手が難しいため,STが用いられることがますます多くなっている.
活動性脈絡網膜炎:
  • Prednisone 1mg/kg/日・2回に分割,脳脊髄液蛋白濃度が低下または視力に影響する炎症が軽快するまで追加する(失明の危険がなければ使用されないことが多い)
  • CBC結果にしたがってホリナートカルシウム量を調節する.
  • 所見・症状が消失後1~2週治療,Pyrimethamineを中止後ホリナ-トカルシウムを1週継続.
  • 脈絡網膜炎の再発防止に,ST-DS†12時間ごと・45日は1年間の発症を減少させたが,視力に関する明確な効果はみられなかった:Am J Ophthalmol 157: 762, 2014.RCTの報告では,ST長期投与(ST-DS 12時間ごと・45日,その後隔日1回・311日投与)は,6年にわたる追跡期間において1年間の再発率を減少させた(Am J Ophthalmol 213: 195, 2020).
妊婦の急性感染(Clin Infect Dis 47: 554, 2008Clin Infect Dis 54: 1545, 2012):
  • スピラマイシン 1g経口8時間ごと18週まで.特異的診断として,Dr. Jack S, Remington Laboratoty(remingtonlab@sutterhealth.org)(以前はPalo Alto Medical Foundation Toxoplasma Serology Lab (+1 650-853-4828) と呼ばれていた)から血清学的検査陽性結果を得た後,治験薬の例外使用としてFDA(+1 301-796-1600)に連絡.それによりSanofi-Aventisから無料で受けられる.
  • Pyrimethamine 50mg経口12時間ごと・2日,その後50mg/日+スルファジアジン 75mg/kg経口†・1回,その後50mg/kg12時間ごと(最大4g/日)+ホリナートカルシウム 10~20mg経口1日1回]・超音波検査で胎児仮死が明らかになった場合は最低4週間または妊娠期間中治療を行う(Clin Infect Dis 54: 1545, 2012).
  • 妊娠<14週で診断された場合:スピラマイシンを出産まで処方(妊婦の急性感染がすべて胎児に伝播するわけではない),PCR検査のための羊水穿刺を行い,4週ごとに胎児の超音波検査を行う.
  • 妊娠>14週で診断された場合:記録されている例では羊水PCRは陽性で画像での検出がされている:スピラマイシンは胎盤を通過しないためPyrimethamine/スルファジアジンで治療
胎児性/先天性
  • Pyrimethamine1mg/kg経口12時間ごと・2日,その後1mg/kg/日・2または6ヵ月,その後1mg/kg/日・週3回+スルファジアジン50mg/kg12時間ごと(最大4g/日)+ホリナートカルシウム10mg経口週3回)合計1年治療を行う.
  • シカゴ国家共同先天性トキソプラズマ症治療研究+1 312-513-6365またはrmcleod@bsd.uchicago.eduは,臨床診断・小児の治療の援助を提供する(または薬剤の入手についての助言も行う)

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • Pyrimethamine/スルファジアジンが入手できない場合は,ST 10mg/kg/日(トリメトプリム成分・静注または経口)2~3回に分割
  • 難治性の場合は Pyrimethamineスルファジアジンに下記から1剤を追加する.サルファ薬アレルギーの場合は下記のうちの1剤に変更してもよい.
  • CLDM 300mg経口6時間ごと
  • AZM 900~1200mg経口1日1回

コメント

  • Pyrimethamineの薬価が高く入手が難しいため,多くの臨床家によりトキソプラズマ症に対する治療選択としてSTDS†12時間ごとが確立されつつある.
  • 妊婦や新生児に対するトキソプラズマ症スクリーニングの実施は地域によって異なり,フランスやヨーロッパの他の国々では全例検査が行われている一方,米国では行われていない(PLoS Negl Trop Dis 11: e0005222, 2017).未治療で新規感染の母親から胎児への感染は妊娠後期でより多く起こるが,児に与える影響は妊娠初期でのほうが大きい.
  • 治療に用いられる薬剤は同一でも,通常免疫機能正常の患者では低用量が用いられ,治療期間は臨床的反応によって決まる.
  • 南アメリカからの株はより毒性が強く,敗血症,肺炎,播種性疾患,急性脈絡網膜炎を呈することがあるため,旅行歴の情報が重要である.
  • 妊婦:血清学的IgG/IgM検査を検査会社で行う.IgG陽性/IgM陰性=かなり以前の感染;IgG陽性/IgM陽性=セロコンバージョンの可能性-IgMは確実に新規感染を示すものではないため,追加検査が必要である.
  • 特異的診断については,Dr. Jack S, Reming ton laboratory (remingtonlab@suttterhealth.org) へのコンサルテーションが考慮される:CDC関連施設であり,以前はPalo Alto Medical Foundation Toxoplasma Serology Labと呼ばれていた: (+1)650-853-4828.

(†:日本にない剤形)

ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2025 Life Science Publishing↑ page top
2025/04/07