日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

サルモネラ菌血症  (2022/1/25 更新)
サルモネラ菌血症,腸チフス,パラチフス


臨床状況

  • 菌血症は,Salmonella関連下痢性疾患の腸管外感染症.下痢を伴わない場合は「腸熱」とよばれる.
  • 通常,汚染水や汚染食品を摂取して感染する.
  • 典型的には腸熱はSalmonella Serotype TyphiまたはSalmonella Serotype ParatyphiSalmonella typhiSalmonella paratyphiと略記されることが多い)によって引き起こされる
  • 菌血症リスクグループは以下のとおり:
  • 非常に低年齢あるいは高年齢
  • 免疫不全患者
  • HIV/AIDS
  • 肝障害
  • 鎌状赤血球症
  • 胃酸分泌抑制
  • 抗菌薬を最近使用(過去30日以内)
  • 発展途上国における,マラリア,貧血,または栄養失調を伴う小児
  • 非チフス性Salmonellaによる非下痢性疾患(敗血症やその他の侵襲性疾患を含む)が悪性腫瘍患者でみられた(BMJ Infectious Diseases 21: 1021, 2021).

病原体

  • Salmonella enterica-様々なセロタイプがある(Typhi,Paratyphi,Enteriditis,Choleraesuisなど)

第一選択

  • CPFX 400mg静注12時間ごとまたは750mg経口12時間ごと
  • LVFX 750mg経口または静注24時間ごと
  • 治療期間は,腸外の感染の有無によって異なる:すなわち
  • 腸外の感染がなければ,14日間治療.
  • 腸外の感染(たとえば,真菌性動脈瘤,骨髄炎)がある,あるいは免疫抑制がある場合には,4~6週までの治療が必要.

第二選択

  • 腸外感染がない場合は,CTRX 2g静注24時間ごと14日.真菌性動脈瘤があれば6週まで治療.
  • 他のあまり使われない薬剤:ST(トリメトプリムとして)8~10mg/kg/日8時間ごとに分割.治療期間は上記と同様.
  • パキスタン,東南アジア,アフリカからの患者で,特に耐性の高い病原菌または重症感染症の経験的治療:MEPM 1~2g静注8時間ごと14日,真菌性動脈瘤があればより長期の治療.

抗微生物薬適正使用

  • 患者が無熱となり臨床的に安定すれば,経口処方に替えてもよい.
  • 特に発展途上国(とくにパキスタン,東南アジア)で耐性が出現しているため,治療は株が分離された地域に基づく.
  • ナリジクス酸へのin vitro耐性は,相対的なフルオロキノロン系薬耐性の代替指標であり,認められた場合は他の処方を使用する.
  • 治療は,直接抗菌薬検査の結果に基づいて行う.

コメント

  • 2003~2013年に米国で分離された非チフス性Salmonella株では第一選択薬に対する耐性が増大している.CTRX耐性は約6%,CPFX耐性は6%,ST耐性は22%,これら3薬に同時に耐性だったのは3%だった(J Infect Dis 214: 1565, 2016).
  • フルオロキノロン耐性
  • 米国臨床検査標準協議会(CLSI)は,CPFX感受性解釈の新しいブレイクポイントを提案している(Clin Infect Dis 55: 1107, 2012).
  • 感受性株:MIC≦0.06μg/mL
  • より高いMIC(0.12~1.0は中等度,≧2.0は耐性)では,gyrA,gyrB変異またはプラスミドによるフルオロキノロン耐性の存在が示唆される.
  • 市販の抗菌薬感受性試験では,テストパネルに低希釈領域が存在しないため,CPFX感受性低下と高度の耐性を確認するために,CPFX Etest,またはCPFXとナリジクス酸両方を用いたディスク拡散試験(CPFXでゾーン直径≧31mmなら感受性)を行うことが推奨される.
  • 菌血症により肺,尿路,関節,中枢神経,心臓弁膜などの感染が引き起こされる.
  • 大動脈あるいは高齢患者で粥状動脈硬化プラーク播種のリスク増大.
  • 鎌状赤血球症患者で骨髄炎のリスク増大.
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2022/01/25