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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
結核-中枢神経系
(
2022/11/8 更新
)
臨床状況
中枢神経系結核
髄膜炎
脳底髄膜炎,脳神経および他の神経学的巣症状,精神状態の変化,水頭症を伴うことがある.
脳脊髄液中のリンパ球増多,タンパク増加,および/または髄液糖減少
結核腫:脳実質の肉芽腫性病変,治癒病変の石灰化
脳膿瘍
脊髄クモ膜炎,症状は髄膜炎に似るが,脊髄圧迫症状,神経根刺激症状が主に現れる.
病原体/診断
病原体
Mycobacterium tuberculosis
診断
J Clin Microbiol 59: e01771, 2021
参照
培養:感度 50~60%(疑わしい例はすべて培養を行うこと)
選択すべき検査法:核酸増幅検査,感度 60~80%
WHOは結核性髄膜炎の診断について,Xpert MTB/RIFまたは培養よりも感度が高いことから,培養に加えCepheid Xpert MTB/RIF Ultra cartridge(米国では入手できない)を用いることを,古いバージョンのXpert MTB/RIFよりも推奨している(
Lancet Infect Dis 18: 68, 2018
).
抗酸菌染色:感度 約10~30%
アデノシンデアミナーゼ(ADA):感度 約30%
第一選択
成人および小児の薬剤感受性株による髄膜炎の治療
専門医へのコンサルテーションが強く推奨される
WHO標準治療(SOC)処方:
INH
+
RFP
+
EB
+
PZA
用量は
結核の1st-line薬剤の投与量
を参照(重要な考慮事項について,下記コメント参照)
2カ月後に
EB
と
PZA
は中止.
計9~12カ月治療(コメント参照).
多剤耐性(MDR)またはRFP耐性による髄膜炎,または薬剤耐性結核の第一選択処方薬剤に不耐な場合の髄膜炎治療
専門医へのコンサルテーションが強く推奨される,標準治療処方はない.
MDR株(INHおよびRFPの双方に耐性の株)による髄膜炎治療については
結核-肺結核-多剤耐性
を参照
可能なかぎり脳脊髄液移行性のよい薬剤を選択すること(
Curr Treat Options Neurol 20: 5, 2018
).INH(10~20%),RFP(10~20%),PZA(90~100%),EB(20~30%),LVFX(70~80%),MFLX(70~80%),ETH(80~90%),CS(80~90%),LZD(30~70%),アミノグリコシド系は移行性が低く(10~20%),治療濃度域に達しない.
結核性髄膜炎患者にはコルチコステロイド併用が強く推奨される(コメント参照).
成人:デキサメタゾン0.4mg/kg/日・第1週,0.3mg/kg/日・第2週,0.2mg/kg/日・第3週,0.1mg/kg/日・第4週,その後減量して3~4週間かけて終了
小児:デキサメタゾン0.6mg/kg/日またはプレドニゾロン4mg/kg/日・4週,その後減量して4週間かけて終了
虚血または梗塞のエビデンスおよび補助的アスピリン治療の必要性を探るために脳MRIを撮ること.
第二選択
MDRやRFP耐性結核の疑い,あるいはエビデンスのない小児および青少年でのWHO第二選択処方(コメント参照)
INH
20mg/kg/日+
RFP
20mg/kg/日+
PZA
40mg/kg/日+
ETH
20mg/kg/日を6ヵ月
コメント
薬剤感受性結核に対するWHO標準治療処方について,一部の専門家はRFPのより高用量の使用を推奨している.
現在のRFP推奨用量は成人10mg/kg/日,小児10~20mg/kg/日である.脳脊髄液移行性が低いため,この用量では膿性気随液中濃度が治療域に達せず,RFPのより高用量なら効果の改善がはたせるのではないかと考えられている.3用量比較研究のメタアナリシスでは,高用量RFPは生存率改善に結びついていた(
Clin Infect Dis 71: 1817, 2020
).しかし,最初の8週に高用量RFP(15mg/kg/日)およびLVFX(20mg/kg/日)を含んだ強化処方と標準処方を比較したランダム化対照比較研究(
N Engl J Med 374: 124, 2016
)では,強化処方群で生存率改善は認められなかった.高用量RFP 35mg/kg/日を含んだ強化処方とWHO標準処方を比較する2つのランダム化対照比較試験(NCT05383742,NCT04145258)が計画または進行中である.
重症患者(たとえば,精神状態の変化,神経学的巣症状)には,RFP用量を20mg/kg/日まで増量し,可能ならば,臨床的改善が得られるまで静注薬の使用を考慮する.
従来の12ヵ月処方に代わるWHOの6ヵ月第二選択処方は,標準処方よりも高用量のINH,RFP,PZAを用い,小児および青少年の結核性髄膜炎(薬剤耐性のリスクがない場合)にはEBに代えてETHを用いるというものだが,6ヵ月処方が標準的12ヵ月処方に比較して良好な結果の可能性を示したとするメタアナリシス(
Open Forum Infect Dis 9(6): ofac108, 2022
)のエビデンスの確実性は非常に低い.異なる臨床状況での非ランダム化試験や研究からの観察研究も含まれていることからすれば,注意が必要である.
ステロイドは結核性髄膜炎の死亡率を低下させる(
Cochrane Database Syst Rev 4: CD002244, 2016
).英国感染症学会のガイドライン(
J Infect 59: 167, 2009
),ATS/CDC/IDSAガイドライン(
Clin Infect Dis 63: e147, 2016
)も参照.RFPはステロイド代謝を増強させる:反応が得られなければ増量を考慮する.
アスピリン(用量範囲75~81mg1日1回から100mg/kg/日3回分割投与まで,通常は1~2カ月)は,結核性髄膜炎の成人で死亡率を低下させ,脳卒中リスクを低下させるようである(
Curr Treat Options Neurol 20: 5, 2018
;
Neurol India 67: 993, 2019
;
Acta Neurol Belg 121: 11, 2021
).小児での有用性は未確立.
結核性髄膜炎のあるHIV患者では,抗レトロウイルス治療を8週遅らせる:結核治療開始直後(治療開始後1~2週以内)と治療が進んだ時点(2カ月後)を比較すると,開始直後の抗レトロウイルス治療は中枢神経系結核の逆説的な増悪(免疫再構築炎症症候群)を増加させ,アウトカムを改善しない(
Clin Infect Dis 52: 1374, 2011
;
Clin Infect Dis 56: 450, 2013
).
治療薬物モニタリング(TDM)はルーチンでは推奨されていないが,臨床反応が遅い,あるいは不良な場合,特に重症患者の場合には,血清または血漿の薬物濃度を検査し十分な薬物曝露を確認すること.薬物濃度は,胃腸障害による薬物吸収不良,薬物相互作用,服薬指示不遵守,その他の薬物クリアランスに影響をあたえる要素などによって低下してしまうことがあるためである.
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2022/11/07