日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

トリパノソーマ症-西アフリカ  (2025/01/28 更新)
西アフリカ睡眠病


臨床状況

  • トリパノソーマ症,西アフリカ睡眠病
  • 早期,I期(血液,リンパ感染)はT. brucei rhodesienseと比べると亜急性または軽症のことが多い.
  • 後期,II期(脳炎):睡眠・覚醒サイクルの失調,さまざまな運動障害,神経精神障害が徐々に現れる.傾眠はうつ病と誤診されることも多い.
  • 米国では移民にみられる.旅行者ではまれ.
  • ヒトをおもな保有宿主として,Glossina属(ツェツェバエ)を介して伝播される.
  • 感染初期はまれに下疳がみられ,後期には後頸部リンパ節腫大がみられる.
  • 病期の判定には脳脊髄液検査が必要.白血球数≧5/μL,虫体そのもの,トリパノソーマ特異的IgM,またはPCRでトリパノソーマDNAが検出されれば第II期
  • 第II期で白血球数>100の場合,重症度からFexinidazole治療は適切でない.

診断/病原体

診断
  • 血液塗抹標本(濃縮後またはバフィーコートを用いる)
  • 血液の非染色生標本(運動性),リンパ節や下疳の吸引物,脳脊髄液で原虫を直接確認する.
  • 血清学的検査および迅速凝集検査(Rapid card agglutination test)は有用性が一定しない.
  • 迅速検査,血清学検査,PCRは米国CDCからは利用できない.ヨーロッパの施設では利用可能である.
病原体
  • Trypanosoma brucei gambiense (ガンビアトリパノソーマ)

第一選択

I期およびII期,年齢≧6歳,体重≧20kgで,脳脊髄液中白血球数<100/μL
Fexinidazole
  • 体重≧35kg:初回1800mg(3錠)1日1回・4日,その後1200mg(2錠)1日1回・6日
  • 体重≧20kg~<35kg:初回1200mg(2錠)1日1回・4日,その後600mg(1錠)1日1回・6日
  • 経口投与と忍容性に基づくガンビアトリパノソーマ症に対する第一選択治療
  • 適当な食物摂取後に600mg錠を飲み込めること,10日の治療スケジュールを完了できることが必要となる.
  • FDAは,eGFR<30mL/分の場合は使用を避けることを推奨している.
  • 入院治療では終始経口治療
  • 脳脊髄液中細胞数が不明な場合はFexinidazoleを使用しない.
  • 妊婦:妊娠第2期,第3期ではFexinidazole使用可能
第II期で脳脊髄液中白血球数≧100/μLの重症患者
小児年齢<6歳または体重<20kg
  • II期:NECT(同上)

第二選択

年齢≧6歳かつ体重≧20kg
  • II期(脳脊髄液中白血球数>100):Fexinidazole同上
年齢<6歳または体重<20kg
  • I期:NECT
  • II期:Eflornithine 400mg/kg/日静注12時間ごとに分割・7日

コメント

  • 医療資源の乏しい状況では,血液または体液中にトリパノソーマがいる患者に,以下の場合には腰椎穿刺なしで治療してもよい
  • 重症(脳脊髄液中白血球数>100)の疑いが低い,かつ
  • 患者が早期再発検出のための適切なフォローアップを確実に受けられる.
  • 患者がFexinidazoleを拒否あるいは不耐の場合にペンタミジンかNECTかを決めるために腰椎穿刺が必要になることがある.
  • アフリカトリパノソーマ症の治癒を証明する検査法はない.
  • 治療後,患者は6ヶ月ごとに詳細な診療・検査を受け,再発を24ヶ月監視されなければならない.
  • 症状が再発した場合には,Trypanosomeの存在を検出するために,脳脊髄液を含む体液検査が必要となる.
  • 再発:いずれかの体液中でTrpanosomeが検出される.
  • あるいは,治療後5~9ヶ月に脳脊髄液中白血球数>5,または10~24ヵ月に脳脊髄液中白血球数>20.
  • 妊娠中あるいは授乳中の女性に対するEflornithineの安全性データはない.
  • FDAは2020年8月にT. cruziに対してだけNifurtimoxを承認し,現在,市販されており,医師はNECTの適応外使用が可能となっている.
  • 第II/III層試験では,Acoziborole 960mgによる経口治療で,ガンビア睡眠病後期患者167例中18ヶ月治療で有効だったのは95%,初期患者41例中では100%だった:Lancet Infect Dis 23: 463, 2023
  • WHOはコントロールプログラムでの使用のために迅速な対応をとった(1回投与,経口).
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2025/01/27