日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

トリパノソーマ症-西アフリカ  (2023/1/31 更新)
西アフリカ睡眠病


臨床状況

  • トリパノソーマ症,西アフリカ睡眠病.
  • 早期,I期(血液,リンパ感染)はT. brucei rhodesienseと比べると亜急性または軽症のことが多い.
  • 後期,II期(脳炎):睡眠・覚醒サイクルの失調,さまざまな運動障害,神経精神障害が徐々に現れる.傾眠はうつ病と誤診されることも多い.
  • 米国では移民にみられる.旅行者ではまれ.
  • ヒトをおもな保有宿主として,Glossina属(ツェツェバエ)を介して伝播される.
  • 感染初期はまれに潰瘍がみられ,後期には後頸部リンパ節腫大がみられる.
  • 病期の判定には脳脊髄液検査が必要.白血球数≧5/μL,虫体そのもの,トリパノソーマ特異的IgM,またはPCRでトリパノソーマDNAが検出されれば第II期.第II期で白血球数>100の場合はFexinidazole治療は適切でない.

診断/病原体

診断
  • 血液塗抹標本(濃縮後またはバフィーコートを用いる),血液の非染色生標本(運動性),リンパ節や潰瘍の吸引物,脳脊髄液で原虫を直接確認する.迅速凝集検査(Rapid card agglutination test)および血清学的検査は有用性が一定しない.
  • 迅速検査,血清学検査,PCRは米国CDCからは入手できない.ヨーロッパの施設では利用可能.
病原体
  • Trypanosoma brucei gambiense (ガンビアトリパノソーマ)

第一選択

早期(血液,リンパ感染,中枢神経系の感染なし)
後期(脳炎)

第二選択

早期(血液,リンパ感染,中枢神経系の感染なし).オンコセルカ症の重複感染がない場合にのみSuraminを使用
  • Suramin 100mg静注(テスト用量),その後1g静注(小児用量:テスト用量2mg/kg,その後20mg/kg)1,3,7,14,21日目
後期(脳炎)
  • 毒性のあるヒ素剤に代わり,NECTが用いられる.
  • いずれも投与前にPrednisonによる前治療を行う.
  • Fexinidazole
  • ≧35kg:初回1800mg(3錠)1日1回・4日,その後1200mg(2錠)1日1回・6日
  • ≧20~<35kg:初回1200mg(2錠)1日1回・4日,その後600mg(1錠)1日1回・6日
  • Fexinidazoleは第I期,II期どちらにも有効な完全経口処方であり,欧州医薬品局の承認を受けた.ただし流行地域での政府プログラムを介してのみ利用できる.Lancet 391: 144, 2018.FDAは2021年に承認したが,現在米国では入手できない.FDAは,eGFR<30mL/分ならば使用を避けることを提言している.
  • Fexinidazoleは年齢≧6歳,体重≧20kgで脳脊髄液中の白血球<100/μLの患者での第一選択治療(新しいWHOガイドライン).
  • 適当な食物摂取後に600mg錠を飲み込めること,10日の治療スケジュールを完了できることが必要となる.
  • そうでなければ,I期ならペンタミジン,II期ならNECTを用いる.脳脊髄液中の細胞数が不明の場合は,Fexinidazoleは用いないこと.
  • 非流行国での選択肢とはならない.

コメント

  • FDAは2020年8月にT. cruziだけに対しNifurtimoxを承認し,現在,市販されており,医師はNECTの適応外使用が可能となっている..
  • 妊娠中あるいは授乳中の女性に対するEflornithineの安全性データはない.
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2023/01/26