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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
トリパノソーマ症-東アフリカ
(
2024/05/07 更新
)
東アフリカ睡眠病
臨床状況
トリパノソーマ症,
Trypanosoma brucei rhodesiense(ローデシアトリパノソーマ)
による東アフリカ睡眠病(r-HAT)
早期,I期(血液,リンパ感染)は非常に急性に発症し,しばしば劇症型の発熱性疾患(心疾患を含む)で発疹を伴うことがある.
後期,II期(脳炎)
旅行関連では,タンザニア,マラウィ,ザンビアが大多数である.
J Travel Med 19: 44, 2012
Non-endemic cases 2011-2020:
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010885,2022.
旅行関連では,ほとんどが初期あるいは第I期と診断される.
おもな保有宿主である大型の狩猟動物から,
Glossina
属(ツェツェバエ)を介して伝播される.
感染初期には潰瘍がみられ,
T.b.rhodesiense
ではリンパ節腫脹が下顎下,腋窩,鼠径部にみられる.
病期の判定には脳脊髄液検査が必要.白血球数≧5/μLまたはPCRで原虫DNAが検出されれば,第II期である.
脳脊髄液中のタンパク増加,非特異的IgMの増加は,第II期である可能性を示す裏付けとなる.
診断/病原体
診断
診断:血液塗抹標本(濃縮またはバフィーコート),血液の湿性標本(運動検査)
リンパ節や潰瘍の吸引物,脳脊髄液で原虫を直接確認する.
迅速凝集検査(Rapid card agglutination test)および血清学的検査は,
T.b. rhodesiense
には利用できず,CDCはPCR検査を行っていない(ヨーロッパでは利用可能).
T.b. gambiense
と
T.b. rhodesiense
は形態学的な差はないが,ウガンダを除き地理的分布は重ならない.
病原体
Trypanosoma brucei rhodesiense
(ローデシアトリパノソーマ)
第一選択
Fexinidazole
体重≧35kg:初回1800mg(3錠)1日1回・4日,その後1200mg(2錠)1日1回・6日
≧20~<35kg:初回1200mg(2錠)1日1回・4日,その後600mg(1錠)1日1回・6日
すべて経口薬だけの処方で,r-HAT感染の初期・後期のどちらにも有効であり,欧州医薬品庁(EMA)は承認しているが,びまんしている地域では,政府プログラムでしか使用できない(
Lancet 391: 144, 2018
).米国では,サノフィから直接入手するほかはない.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
を参照.
第一選択の治療は,経口投与と忍容性にもとづく.
新しいWHOガイドラインは判断保留だが,臨床的基準と用量は東アフリカトリパノソーマ症と同一.
患者は6歳以上,体重20kg以上で,脳脊髄液中の白血球数<100/μLでなければならない.
患者は,適切な食事をした後で600mg錠を嚥下できなければならず,同時に全10日の治療コースを完了させなけければならない.
FDAは,eGFR<30mL/分の場合は使用を避けることを推奨している.
さもなければ,早期ならば
Suramin
,後期ならば
Melarsoprol
を使用すること.
脳脊髄液中細胞数が不明ならFexinidazoleは使用しないこと.
小児のデータ:
Lancet Glob Health 10: e1665, 2022
.
第二選択
早期(血液,リンパ感染)
Suramin
5mg/kg静注(テスト用量),その後20mg/kg~1g静注(小児用量は2mg/kgのテスト用量後,20mg/kg)1,3,7,14,21日目
後期(脳炎)
Melarsoprol
2.2mg/kg/日静注・10日.長期間行う標準処方と比較して非劣性が示された(
PLoS Negl Trop Dis 6: e1695, 2012
).
Prednisoneによる先行治療は脳障害を予防/弱化する可能性あり.
Suramin
(上記用量)による前治療は,
Melarsoprol
投与前に血液リンパ系の
Trypanosoma
を除去するために,東アフリカトリパノソーマ症の進行した病期でしばしば用いられる:前治療は
Melarsoprol
関連の副作用を軽減することがある.
後期(脳炎)に対する古い処方
Melarsoprol
2~3.6mg/kg/日静注(最大用量まで漸増)・3日,7日後に3.6mg/kg/日の治療コースを繰り返し,2回目の治療コースの7日後から長期処方を行う.
コメント
Fexinidazoleはすべて経口の処方で,現在では
T.b. gambiense
の選択薬である.
T.b. rhodesiense
の第2期に対する臨床試験は完了しており,2022年にEMAに対して申請された.
データは発表されていないが,
T.b. rhodesiense
については2024年に発表されると予想される.
現在は,西アフリカトリパノソーマ症に対する処方としてだけ,サノフィから直接入手することができる.
2023年12月EMAはr-HATに対してFexinidazoleを承認した.
第II/III相試験の詳細は明らかになっていないが,現在までのデータでは,高い有効性と安全性が示された.
12ヵ月以上のフォローアップで,進行した患者1例で再発が起こり,ヒ素剤による治療が必要となった.
サノフィはWHOに対して,流行地域での使用に限ってFexinidazoleを提供している.
米国FDAはg-HATについて承認しており,医師はサノフィに請求して入手することができる.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
を参照.
r-HATに対するサノフィからの入手可能性は,米国では未定.
アフリカトリパノソーマ症の治癒試験はない.治療後24カ月,患者を綿密にフォローし,再発をモニターする.症状の再発は脳脊髄液を含む体液の検査によりTrypanosomeの存在の検出により確認する.
I期またはII期のいずれかで,治療後6カ月ごとに腰椎穿刺を繰り返す.
旅行者に関する大規模な臨床経験の報告:
Int J Infect Dis 75: 101, 2018
.
I期の治療でSuraminの方が
ペンタミジン
より優れているかどうかは文献上はっきりしていない.非常に重症の患者で,Suramin開始が遅れた場合は,一時的な処置として
ペンタミジン
4mg/kg/日筋注または静注・7日までも可で,通常24時間で末梢血のTrypanosomaが消失する.
米国内では,SuraminとMelarsoprolは治験用薬剤としてCDC薬剤サービスから無料で入手可能.
薬剤はWHOから無料で入手できることもある.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元一覧
を参照.
ツェツェバエは青や暗い金属色の着衣に引きつけられる:流行地ではこうした色の着用を避ける.
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2024/05/03