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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
トリパノソーマ症-東アフリカ
(
2025/01/28 更新
)
東アフリカ睡眠病
臨床状況
トリパノソーマ症,
Trypanosoma brucei rhodesiense(ローデシアトリパノソーマ)
による東アフリカ睡眠病(r-HAT)
早期,I期(血液,リンパ感染)は超急性に発症し,しばしば劇症型の発熱性疾患(心疾患を含む)で発疹を伴うことがある.
後期,II期(脳炎)
病期の判定には脳脊髄液検査が必要.白血球数≧5/μLまたはPCRで原虫DNAが検出されれば,第II期である.
脳脊髄液中のタンパク増加,非特異的IgMの増加は,第II期である可能性を示す指標となる.
旅行関連では,タンザニア,マラウィ,ザンビアが大多数である.
2011~2020年の流行国でない地域での症例:
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010885,2022.
旅行関連では,ほとんどが早期あるいは第I期と診断される.
おもな保有宿主である大型の狩猟動物から,
Glossina
属(ツェツェバエ)を介して伝播される.
T.b.rhodesiense
感染初期には下疳,リンパ節腫脹が下顎,腋窩,鼠径部にみられる.
診断/病原体
診断
診断:血液塗抹標本(濃縮またはバフィーコート),血液の湿性標本(運動性試験)
リンパ節や下疳の吸引物.
I期,II期ともに第一選択であるFexinidazoleが使用可能で治療適応があるなら,r-HAT治療方針決定のための腰椎穿刺や脳脊髄液検査は必要ない.
迅速凝集検査(Rapid card agglutination test)および血清学的検査は,
T.b. rhodesiense
には利用できず,CDCはPCR検査を行っていない(ヨーロッパでは利用可能).
T.b. gambiense
と
T.b. rhodesiense
は形態学的な差はないが,ウガンダを除き地理的分布は重ならない.
病原体
Trypanosoma brucei rhodesiense
(ローデシアトリパノソーマ)
第一選択
I期,II期:年齢≧6歳かつ体重≧20kg
Fexinidazole
体重≧35kg:初回1800mg(3錠)1日1回・4日,その後1200mg(2錠)1日1回・6日
体重≧20~<35kg:初回1200mg(2錠)1日1回・4日,その後600mg(1錠)1日1回・6日
II期:飲み込み困難,Fexinidazoleの禁忌,嘔吐持続または経口吸収率が不確かな場合には
Melarsoprol
静注が望ましいことがある.
2024年から,ローデシアトリパノソーマ症治療は,経口投与と忍容性に基づき,第一選択
2024年WHOガイドライン
流行地ではFexinidazoleは政府プログラムでのみ入手可能(
Lancet 391: 144, 2018
)
米国では,FDAが承認しているが,Sanofiから直接入手する必要がある.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
参照
WHOガイドラインについての議論:
Lancet Infect Dis 2024年10月7日
患者は,十分な食物摂取後に600mg錠を飲み込めること,10日の治療スケジュールを完了できることが必要となる.
FDAは,eGFR<30mL/分の場合は使用を避けることを推奨している.
入院治療では終始経口治療
妊婦:妊娠第2期,第3期ではFexinidazole使用可能
小児のデータ:
Lancet Glob Health 10: e1665, 2022
小児,年齢<6歳または体重<20kg
I期:
Suramin
5mg/kg静注(テスト用量),その後20mg/kg~1g静注(小児用量は2mg/kgのテスト用量)1,3,7,14,21日目
II期:
Melarsoprol
2.2mg/kg/日静注・10日.長期間行う標準処方と比較して非劣性が示された(
PLoS Negl Trop Dis 6: e1695, 2012
).
プレドニゾンによる先行治療は脳症を予防する可能性がある.
血液段階のMelarsoprolの副作用を最小限とするため,一部の臨床家はSuramin(上記用量)による前治療を行っている.
妊婦:急性病変に治療を行わなければ急速に致死的となる.
Fexinidazoleとイセチオン酸ペンタミジンが第一選択として望ましい.
SuraminとMelarsoprolは,救援治療として必要な場合には中止してはならない.
第二選択
年齢≧6歳かつ体重≧20kg
I期では
Suramin
(またはイセチオン酸ペンタミジン4mg/kg/日筋注または静注),II期では若年小児にはMelarsoprolを上記のように追加する.
イセチオン酸ペンタミジン(4mg/kg/日筋注または静注)7日までは,患者に対する一時的処置として使用でき,通常24時間以内に末梢のTrypanosomeを除去する.
I期で年齢<6歳かつ体重<20kg:
イセチオン酸ペンタミジン
(4mg/kg/日筋注また静注)
推奨薬が入手でき次第,推奨治療へと切り替える.
コメント
ツェツェバエは青や暗い金属色の着衣に引きつけられる.
サファリ旅行者は,流行地ではこうした色の着用を避ける.
アフリカトリパノソーマ症の治癒を証明する検査法はない.治療後24カ月,患者を綿密にフォローし,再発をモニターする.症状が再発した場合には,
Trypanosome
の存在を検出するために,脳脊髄液を含む体液検査が必要となる.
I期またはII期のいずれかで,治療後6カ月ごとに腰椎穿刺を繰り返す.
旅行者に関する大規模な臨床経験の報告:
Int J Infect Dis 75: 101, 2018
.
r-HATに対するFexinidasoleのWHOデータ
成人および年齢≧6歳の小児を対象としたオープンラベル単一群試験では,12ヶ月での治療成功はI期で100%,II期で94.3%,死亡率はそれぞれ0,2.9%だった.
I期の治療でSuraminの方が
ペンタミジン
より優れているかどうかは文献上はっきりしていない.非常に重症の患者で,Suramin開始が遅れる場合は,一時的な処置として
ペンタミジン
4mg/kg/日筋注または静注・7日まででも可で,通常24時間で末梢血のTrypanosomaが消失する.
米国内では,SuraminとMelarsoprolは治験用薬剤として
CDC薬剤サービス
から無料で入手可能
WHOからも無料で入手できる.
抗寄生虫薬の入手先
を参照.
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2025/01/27