日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

トリパノソーマ症-東アフリカ  (2024/05/07 更新)
東アフリカ睡眠病


臨床状況

  • トリパノソーマ症,Trypanosoma brucei rhodesiense(ローデシアトリパノソーマ)による東アフリカ睡眠病(r-HAT)
  • 早期,I期(血液,リンパ感染)は非常に急性に発症し,しばしば劇症型の発熱性疾患(心疾患を含む)で発疹を伴うことがある.
  • 後期,II期(脳炎)
  • 旅行関連では,ほとんどが初期あるいは第I期と診断される.
  • おもな保有宿主である大型の狩猟動物から,Glossina属(ツェツェバエ)を介して伝播される.
  • 感染初期には潰瘍がみられ,T.b.rhodesienseではリンパ節腫脹が下顎下,腋窩,鼠径部にみられる.
  • 病期の判定には脳脊髄液検査が必要.白血球数≧5/μLまたはPCRで原虫DNAが検出されれば,第II期である.
  • 脳脊髄液中のタンパク増加,非特異的IgMの増加は,第II期である可能性を示す裏付けとなる.

診断/病原体

診断
  • 診断:血液塗抹標本(濃縮またはバフィーコート),血液の湿性標本(運動検査)
  • リンパ節や潰瘍の吸引物,脳脊髄液で原虫を直接確認する.
  • 迅速凝集検査(Rapid card agglutination test)および血清学的検査は,T.b. rhodesienseには利用できず,CDCはPCR検査を行っていない(ヨーロッパでは利用可能).
  • T.b. gambienseT.b. rhodesienseは形態学的な差はないが,ウガンダを除き地理的分布は重ならない.
病原体
  • Trypanosoma brucei rhodesiense (ローデシアトリパノソーマ)

第一選択

Fexinidazole
  • 体重≧35kg:初回1800mg(3錠)1日1回・4日,その後1200mg(2錠)1日1回・6日
  • ≧20~<35kg:初回1200mg(2錠)1日1回・4日,その後600mg(1錠)1日1回・6日
  • すべて経口薬だけの処方で,r-HAT感染の初期・後期のどちらにも有効であり,欧州医薬品庁(EMA)は承認しているが,びまんしている地域では,政府プログラムでしか使用できない(Lancet 391: 144, 2018).米国では,サノフィから直接入手するほかはない.入手困難な抗寄生虫薬の供給元を参照.
  • 第一選択の治療は,経口投与と忍容性にもとづく.
  • 新しいWHOガイドラインは判断保留だが,臨床的基準と用量は東アフリカトリパノソーマ症と同一.
  • 患者は6歳以上,体重20kg以上で,脳脊髄液中の白血球数<100/μLでなければならない.
  • 患者は,適切な食事をした後で600mg錠を嚥下できなければならず,同時に全10日の治療コースを完了させなけければならない.
  • FDAは,eGFR<30mL/分の場合は使用を避けることを推奨している.
  • さもなければ,早期ならばSuramin,後期ならばMelarsoprolを使用すること.
  • 脳脊髄液中細胞数が不明ならFexinidazoleは使用しないこと.

第二選択

早期(血液,リンパ感染)
  • Suramin 5mg/kg静注(テスト用量),その後20mg/kg~1g静注(小児用量は2mg/kgのテスト用量後,20mg/kg)1,3,7,14,21日目
後期(脳炎)
  • Prednisoneによる先行治療は脳障害を予防/弱化する可能性あり.
  • Suramin(上記用量)による前治療は,Melarsoprol投与前に血液リンパ系のTrypanosomaを除去するために,東アフリカトリパノソーマ症の進行した病期でしばしば用いられる:前治療はMelarsoprol関連の副作用を軽減することがある.
後期(脳炎)に対する古い処方
  • Melarsoprol 2~3.6mg/kg/日静注(最大用量まで漸増)・3日,7日後に3.6mg/kg/日の治療コースを繰り返し,2回目の治療コースの7日後から長期処方を行う.

コメント

  • Fexinidazoleはすべて経口の処方で,現在ではT.b. gambienseの選択薬である.T.b. rhodesienseの第2期に対する臨床試験は完了しており,2022年にEMAに対して申請された.
  • データは発表されていないが,T.b. rhodesienseについては2024年に発表されると予想される.
  • 現在は,西アフリカトリパノソーマ症に対する処方としてだけ,サノフィから直接入手することができる.
  • 2023年12月EMAはr-HATに対してFexinidazoleを承認した.
  • 第II/III相試験の詳細は明らかになっていないが,現在までのデータでは,高い有効性と安全性が示された.
  • 12ヵ月以上のフォローアップで,進行した患者1例で再発が起こり,ヒ素剤による治療が必要となった.
  • サノフィはWHOに対して,流行地域での使用に限ってFexinidazoleを提供している.
  • r-HATに対するサノフィからの入手可能性は,米国では未定.
  • アフリカトリパノソーマ症の治癒試験はない.治療後24カ月,患者を綿密にフォローし,再発をモニターする.症状の再発は脳脊髄液を含む体液の検査によりTrypanosomeの存在の検出により確認する.
  • I期またはII期のいずれかで,治療後6カ月ごとに腰椎穿刺を繰り返す.
  • I期の治療でSuraminの方がペンタミジンより優れているかどうかは文献上はっきりしていない.非常に重症の患者で,Suramin開始が遅れた場合は,一時的な処置としてペンタミジン4mg/kg/日筋注または静注・7日までも可で,通常24時間で末梢血のTrypanosomaが消失する.
  • 米国内では,SuraminとMelarsoprolは治験用薬剤としてCDC薬剤サービスから無料で入手可能.
  • ツェツェバエは青や暗い金属色の着衣に引きつけられる:流行地ではこうした色の着用を避ける.
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2024/05/03