日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

マラリア-合併症なし-Plasmodium ovaleP. malariaeP. knowlesi  (2024/10/29 更新)


臨床状況

  • P. ovaleP. malariaeP. knowlesiによるマラリアで,合併症のない場合の治療
  • 米国では通常の旅行者のマラリアはまれ.
  • 多くの症例は移民,友人や親類に会うために帰郷した移民,流行地への一時的滞在を延長しているにもかかわらず長期の予防を遵守していない例である.
  • P. ovaleP. malariaeP. knowlesiによるマラリアは,米国では3種類あわせても10%以下
  • 複数のPlasmodium種による重複感染の可能性もある.
  • 合併症のないマラリアに対しては,米国CDCは経口ACT,アルテメテル・ルメファントリンを,Chloroquine感受性が不確かでない限り,すべてのマラリア種に対して第一選択として推奨している.
  • P. falciparumがChloroquine感性であることはまれであり,他の種がChloroquine耐性であることは少ない
  • WHO強化ガイドラインGRADEでは,成人および小児におけるP. vivaxP. ovaleP. malariaeP. knowlesiによる合併症のないマラリアに対しては経口ACT(妊娠第1期を含むすべての妊婦も対象)が望ましいと推奨している
  • しかしACTを用いるべき例でChloroquine耐性が確認された場合以外にはChloroquineが選択肢である
  • 米国におけるマラリアの診断と治療のためのアルゴリズム

診断/病原体

診断
  • マラリア迅速診断検査が承認されている:BinaxNOW.今後多くの医療施設で迅速診断検査のみが行われ,血液塗抹検査は行われなくなるだろう.
  • 通常のケースである低度の非falciparum寄生虫血症については感度50%
  • 特異度は高い:陽性例を治療する
  • 種の決定には顕微鏡検査が必要
  • 治療が奏功しても1ヵ月以上は陽性が続くことがある
  • 血液フィルムは,適切な訓練を受けた検査者が評価しなければならない.
  • 民間の検査会社からのPCRが利用可能であり,ゴールドスタンダードである.
  • 血清検査は限られた価値しかない.
病原体
  • P. ovale
  • P. ovale curtisiおよびP. ovale walikeriの2株が同定されたが,生物学的および治療上の位置づけはまだ明らかでない.
  • P. malariae
  • P. knowlesi(サルのマラリアでヒトに感染することがある)

第一選択

P. ovaleP. malariaeP. knowlesi
  • 成人
  • Chloroquine 1g(600mg塩基)経口,その後6時間以内に0.5g,その後0.5g1日1回・2日.総投与量2500mg(全コース500mg錠×5)
  • ヒドロキシクロロキン 800mg塩(620mg塩基)経口,その後400mg塩(=310mg塩基)経口6,24,48時間後.合計2000mg塩(=1550mg塩基)
  • CDCはP. ovaleP. malariaeP. knowlesiについてACTを言及していない.
  • 上記の3薬剤はどの妊娠期間でも使用できる
  これに加えて(上記3薬剤すべてに対して)
  • P. ovale のみの場合:これに加えてプリマキン 52.6mg(30mg塩基=2錠)経口1日1回・14日.
  • 体重≧70kgの患者では,プリマキン総投与量は6mg/kgに調整する必要があり,この総投与量に達するまで30mg/日・1日1回を投与する.
  • WHOは,現在では適応可能な選択肢として,14日未満のプリマキンを推奨しない.
  • 妊婦でのプリマキン/Tafenoquine使用については,下記コメントを参照.
  • 小児
  • Chloroquine 10mg/kg塩基経口,その後5mg/kg塩基6,24,48時間後.合計25mg/kg塩基(成人用量を超えないこと)
  • 5~<15 kg:1錠1回,8時間後さらに1錠,その後1錠を12時間ごと・2日
  • 15~<25 kg:2錠1回,8時間後さらに2錠,その後2錠を12時間ごと・2日
  • 25~<35 kg:3錠1回,8時間後さらに3錠,その後3錠を12時間ごと・2日
  • ≧35 kg:成人と同様
  • P. ovaleのみの場合,これに加えて

第二選択

  • なし

コメント

  • ある薬剤での化学予防が失敗した場合には,同じ薬剤の使用は避ける
  • 肥満(WHO警告):過体重または体の大きい成人での用量,薬物動態と治療アウトカムとの関連についてのエビデンスは限られているため,介入試験では,別の処方選択肢は評価されてこなかった.
  • データがないため,治療を行う医師は,体が大きい成人の場合は,可能な限り治療効果をフォローアップしなければならない.
  • P. ovale治療にプリマキンを追加して,肝臓での潜在的な寄生虫を除去する
  • プリマキン投与を開始する前にG6PD欠損の有無を確認すること.軽度G6PD欠損の場合は,プリマキンの用量を45mg経口週1回・8週とすること.注:重症反応はまれ.
  • WHOガイドライン:ほとんどの流行地域では定量的G6PD検査が利用できないため,Tafenoquineは,P. ovale根治治療としては認められない.
  • 帰国した旅行者でのP.ovale再燃は,プリマキン治療を受けた患者では2.8%,受けていない患者では10.0%であった(統計的有意差なし).
  • 米国でのACT:アルテメテル・ルメファントリンがFDAの承認した唯一のACTである.
  • Coartem(アルテメテル・ルメファントリン)は,米国の病院や小売薬局のどこでも在庫があるわけではない.
  • 通常は,地域の薬物物流倉庫に在庫があり,緊急の場合でも治療開始から入手は24時間遅れる.
  • 他の第一選択薬が容易に入手できる場合は,Coartem(アルテメテル・ルメファントリン)を入手するために治療開始を遅らせてはならない.
  • 迅速に入手するための情報は,1855-COARTEMに連絡.
  • FDAはP. ovaleP. malariaeP. knowlesiに対するACTを承認していない.
  • ACT治療薬であるDihydroartemisinin/Piperaquineはヨーロッパで承認され入手可能となっている.
  • WHOが推奨する追加的ACTにはArtesunate/メフロキン,Artesunate/Amodiaquine,Artesunate+Sulfadoxine/Pyrimethamine(Fansidar)があり,地域によっては使用可能.
  • 妊婦
  • 妊婦ではプリマキン/Tafenoquineは避ける.P. ovale感染の妊婦は,妊娠期間中Chloroquineによる予防(300mg塩基週1回)を続ける.出産後は,G6PD欠損がなければプリマキンまたはTafenoquineで治療する.
  • アルテメテル・ルメファントリンをCDCは妊娠の全期で,すべてのマラリア種に対する選択薬として推奨している.
  • 有用性がリスクを上回る場合には,DOXYやTCを用いてもよい.
  • Chloroquineは半減期が長く,QTc延長を引き起こす.わずかな用量超過あるいは数日間の投与回数超過により,毒性が発現したり死亡することもある.
  • 東南アジアではP. knowlesiに注意.P. marariaeに類似するが,病勢はP. falciparumに似ており(Clin Infect Dis 46: 165, 2008),重症マラリアを引き起こす.
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2024/10/28