日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

マラリア-予防-Chloroquine耐性マラリア  (2024/02/13 更新)
熱帯熱マラリア (P. falciparum),三日熱マラリア P. vivax


臨床状況

  • Chloroquine耐性熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のいる地域への旅行時の予防.
  • 予防のための薬剤使用については,Fansidar(Pyrimethamine-Sulfadoxine)参照.
  • 予防には抗マラリア薬+個人の防御[スクリーン,ネット,30~35%DEET皮膚防虫剤(>50%DEET製品は避ける),服や蚊よけネットにPermethrinをスプレー]がある.
  • 抗レトロウイルス治療を受けているHIV患者に推奨される治療選択肢についてはコメント参照.
  • Tafenoquineは2018年にFDAに承認された.米国およびオーストラリアでは現在市販されているが,米国での流通は不安定.
  • WHOは,RTS,S/AS01(Mosquirix, GSK)およびR21/Matrix Mという2種類のマラリアワクチンを,マラリア感染リスクが中等度~高度な地域での生後5~17ヵ月に対して推奨している.
  • RTS,S/AS01(Mosquirix,GSK)のワクチン効果は乳児では約40%だが,複雑な4回摂取コースは18ヵ月未満に投与しなければならない.
  • アジュバントの占有のため供給が不足している.
  • R21/Matrix Mのワクチン効果は,乳児では3年間で約75%だが,4回目追加接種コースでは,さらに抗体産生増加が可能となる.

病原体

  • Plasmodium falciparum (熱帯熱マラリア原虫)(中央アメリカとカリブ海以外)
  • Plasmodium vivax(三日熱マラリア原虫)(パプアニューギニアとインドネシアのみ)

第一選択

  • 成人
  • アトバコン・プログアニル(アトバコン 250mg/プログアニル 100mg合剤:マラロン)1錠/日食事とともに.流行地への出発前1~2日から開始し,旅行中,および旅行後7日
  • 小児
  • アトバコン・プログアニル.用量は体重によって異なる.
    小児用錠剤(アトバコン 62.5mg/プログアニル 25mg)を使用した場合の1日1回用量
  • 5~8 kg:1/2錠
  • 9~10 kg:3/4錠
  • 11~20 kg:1錠
  • 21~30 kg:2錠
  • 31~40 kg:3錠
  • ≧41 kg:成人用錠剤1錠

第二選択

  • 成人,旅行者
  • DOXY 100mg経口1日1回,出発前1~2日から開始し,旅行中,および旅行後4週
  • 米国小児科学会は現在,DOXYは短期間(≦21日)ならば患者の年齢にかかわらず安全に投与できると推奨しているが,マラリア予防では長期にわたる投与が必要となるため,この推奨は適用できない.
  • メフロキン 250mg(塩基として228mg)1錠経口週1回.出発前2~3週から開始し,旅行中,および旅行後4週
  • 可能ならば,忍容性確認のために3週前から開始する
  • マラリア流行地への旅行前(初期処方):200mg1日1回・3日(出発の3日前に開始)
  • 流行地での滞在中(維持処方):200mg週1回(初期処方最終日から7日後に開始)
  • 流行地での滞在後:200mg1日1回(維持処方最終投与から7日後)
  • 小児
  • 8~12歳: DOXY 2.2mg/kg/日(最大100mg/日まで).出発前1~2日から開始し,旅行中,および旅行後4週
  • <9 kg:5mg/kg・週1回
  • 10~19 kg:1/4成人用錠・週1回
  • 20~30 kg:1/2成人用錠・週1回
  • 31~45 kg:3/4成人用錠・週1回
  • >45 kg:成人用錠1錠・週1回
  • 中等度~高度のマラリア伝播があり,現在もSulfadoxine+Pyrimethamine(SP)が有効な地域については,乳児および小児の多数回マラリア化学予防(PMC),季節性マラリア化学予防(SMC),学齢児童に対する間欠的予防治療(IPTsc),退院後マラリア化学予防(PDMC),集団投薬(MDA)について,さまざまなSP処方がWHOにより推奨されている(WHO強化ガイドライン).

コメント

  • アトバコン・プログアニル
  • 短期間の旅行あるいは旅行の回数が少なければ,服用の利便性からアトバコン・プログアニルが好ましい.価格にばらつきが大きく,ジェネリック2剤がFDAに承認されたが,3週間を超える旅行には適さない.
  • メフロキン
  • 心臓伝導系異常,けいれん,精神疾患(うつ病,精神病)がある場合はメフロキンは推奨されない.
  • 忍容性があれば,6カ月以上の旅行で望ましい.
  • 米国以外では,メフロキン275mg錠には塩基として250mgが含まれる.
  • メフロキンとDOXYはQT延長を引き起こすおそれがある.
  • FDAのメフロキンについての警告(Black box warning)は最大級のものであり,神経精神科的副作用および前庭症状が薬剤中断後も消失することなく続くとされている.
  • 薬剤師は,上記警告が書かれた説明書き・ポケットカードを患者に渡さなければならない.
  • 幼児で長期に滞在する場合は,週1回の服用は利便性が高い.体重<5kgの小児では唯一の選択肢であり,<10kgの小児では全例で処方に組み込むべきである.
  • DOXY:
  • ジェネリックが使用可能だが,28日間の曝露後投与が必要なことから,小旅行ではアトバコン・プログアニルよりも高価となった.
  • 重大な副作用:光線過敏症(日焼け止めを念入りに使うことが推奨される),胃炎,カンジダ膣炎(自己治療のための薬を携帯すること).
  • DOXYはmonohydrateの方がhyclate saltより忍容性が高いというエビデンスがある.
  • 室温で安定なDOXY懸濁液†が利用でき,小児にとって利便性が高い.
  • Tafenoquine:
  • 週1回投与のため長期,特に旅行回数が多い場合に適しており,そうした状況ではメフロキンよりも望ましい.処方前にG6PDの正常を確認すること(一生に一度).
  • G6PD検査のために服用が遅れる.G6PDの迅速定量的POC(poin of care)の開発が進んでいる.
  • 現在6カ月までの持続投与のみが承認されている.
  • 妊婦:
  • メフロキンは現在最もよい選択肢.妊娠危険区分はB.
  • アトバコン・プログアニルについてのデータは不十分.おそらくは妊婦では安全だろうが,現在までのところ添付文書の変更はない(J Travel Med 27: taaa074, 2020).
  • DOXYとTafenoquine/プリマキンは避ける(胎児のG6PDが未知の場合).DOXYによる歯牙着色のリスクがあるのは妊娠15週以降のみであり,まれな状況では妊娠早期に使用されることもある.
  • 現地住民の妊婦に対する(Sulfadoxine+Pyrimethamine)合剤(Fansidar)の使用については,上記参照.
  • 授乳
  • クロロキンとメフロキンは乳児に処方しても安全なため,母乳中に分泌される程度の少量への曝露も安全と考えられる.授乳中の女性におけるDOXY使用に関するデータは非常に限られるが,多くの専門家は,乳児への副作用の可能性は理論的に非常に小さいと考えている.
  • 母乳中へ移行する抗マラリア薬の量はマラリアを適切に予防するには不十分なため,予防が必要な乳児に対しては,投与可能な抗マラリア薬を推奨用量用いる必要がある.
  • HIV:ARTを受けている患者のマラリア予防
  • HIV感染者ではマラリアの重症度は高くなる.マラリア感染はHIVのウイルス量を上昇させるため,疾患の進行を悪化させる.
  • 予防薬に関する臨床的意義が確定しているわけではない.
  • 広く用いられているインテグラーゼ阻害薬とヌクレオシド逆転写酵素阻害薬との組み合わせ(デシコビ+ドルテグラビル,ツルバダ+ドルテグラビルなど)については,CDCが推奨するマラリア予防薬との相互作用は知られていない.ただしコビシスタット併用エルビテグラビル合剤(スタリビルド,ゲンボイヤ)は理論的にはメフロキンの濃度を上昇させうる.
  • リルピビリン,エムトリシタビン,テノホビルアラフェナミド/テノホビルジソプロキシルの組み合わせ(オデフシィおよびComplera)についても,抗マラリア薬との相互作用はない.
  • クロロキン,メフロキン,プリマキンは,以前のHIV維持処方との間で相互作用を起こしうる.
  • エファビレンツはアトバコン,プログアニル両方の血清中濃度を低下させ,プロテアーゼ阻害薬では相互作用の可能性もある.

(†:日本にない剤形)

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2024/02/13