日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

クリプトコッカス症-髄膜炎(HIV/AIDS患者)  (2023/05/16 更新)


臨床状況

  • HIV陽性/AIDS患者におけるクリプトコッカス血症,クリプトコッカス髄膜炎.抗レトロウイルス治療(ART)により減少したが,新規に診断されたAIDS患者では依然多くみられる日和見感染症.ARTにより急性髄膜炎の症状が戻る可能性がある:免疫再構築症候群(IRIS)参照.
  • Cryptococcus感染は血液培養陽性または血清Cryptococcus抗原検査(CRAG:感度>95%)陽性で明らかとなる.血清CRAGは治療のモニターとしては有用でない.
  • 上昇した髄液圧の治療が重要.
  • 髄液圧の上昇(>250mmH2O)は高い死亡率と関連する.治療的な腰椎穿刺により急性の死亡が減少する(Clin Infect Dis 59: 1607, 2014).
  • 髄液圧>250mmH2Oかつ頭蓋内圧上昇が疑われる症状がある場合,腰椎穿刺および髄液ドレナージで減圧する:極端に圧が高い場合には初圧を50%まで低下させるか,正常の髄液圧<200mmH2Oまで下げる.
  • >250mmH2Oの髄液圧上昇と症状が持続する場合には,髄液圧および症状が2日間安定するまで腰椎穿刺を繰り返す.
  • 頻回の腰椎穿刺が不可能ならば,脳室腹膜シャントまたは腰部ドレナージも選択肢(Surg Neurol 63: 529,2005).

病原体

  • Cryptococcus neoformans

第一選択

  • 導入(2週,髄液培養が陰性化しないなら,より長期に):
  • L-AMB 3~4mg/kg静注24時間ごと,またはABLC†5mg/kg静注24時間ごと,またはAMPH-B 0.7~1mg/kg静注24時間ごと)+5-FC 25mg/kg経口6時間ごと
  • 地固め治療(10週):FLCZ 400mg経口24時間ごと
  • 二次予防:FLCZ 200mg経口1日1回(中止の基準については下記参照)

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • 導入(治療期間は処方によって異なる)
  • L-AMB 3~4mg/kg静注24時間ごと,またはABLC†5mg/kg静注24時間ごと,またはAMPH-B 0.7~1mg/kg静注24時間ごと)+FLCZ 800~1200mg/日静注または経口・2週(地固め治療ではFLCZ 800mg経口24時間ごとを併用)
  • L-AMB 3~4mg/kg静注24時間ごと,またはABLC†5mg/kg静注24時間ごと,またはAMPH-B 0.7~1mg/kg静注24時間ごと・4~6週
  • FLCZ 800~1200mg/日(高用量が推奨される)静注または経口+5-FC 25mg/kg経口6時間ごと・4~6週
  • FLCZ 1200~2000mg経口1日1回・10~12週
  • L-AMB 10mg/kg静注1回+(5-FC 100mg/kg24時間ごと+FLCZ 1200mg経口24時間ごと・14日)
  • 地固め治療(10週):FLCZ 400~800mg経口24時間ごと
  • 二次予防:FLCZ 200mg経口1日1回(中止の基準については下記参照)

(†:日本にない剤形)

コメント

抗レトロウイルス治療(ART)をいつ開始するか?
  • 議論がある.サハラ砂漠以南のアフリカでのランダム化試験では,クリプトコッカス髄膜炎診断後1~2週でARTを開始したほうが,診断後>5週に開始した場合よりも死亡率が高かった(N Engl J Med 370: 2487, 2014).しかし,米国およびヨーロッパでは(N Engl J Med 337: 15, 1997N Engl J Med 326: 84, 1992)では死亡率が低かった(治療の最初の10週で約10%,全体で約15%).細菌のコホート研究では,ARTをHIV関連クリプトコッカス髄膜炎治療の最初の2週中に開始した場合と,2週後に開始した場合で死亡率に差がなかった(ART早期開始とより後での開始の死亡率6.8%対10.5%,シミュレーションランダム化試験)(Clin Infect Dis 2023年3月8日).以上をとりまとめれば,医療資源の豊かな国では,HIV感染者でのARTの開始は,クリプトコッカス髄膜炎治療開始後約10~20日後とするのが合理的であるようだ.
導入治療
  • 固形臓器移植患者では,AMPH-B脂質製剤使用のほうがAMPH-Bデオキシコール酸よりも死亡率が低かった(Clin Infect Dis 48: 1566, 2009).
  • 3~4mg/kg/日以上の高用量L-AMBを用いることを支持するデータはない:効果が増強せず毒性は増大する(Clin Infect Dis 51: 225, 2010).
  • 5-FC濃度のモニターは必須.ピーク値70~80mg/L,トラフ値30~40mg/L.これ以上の高濃度では骨髄毒性を招く.静注でも経口でも予後は変わらない(Antimicrob Agents Chemother 51: 1038, 2007).
  • AMPH-B 1mg/kg静注24時間ごと+5-FC 25mg/kg経口6時間ごとは,AMPH-B単独治療よりも生存期間を延長させる.AMPH-BにFLCZ 800mg1日1回を追加すると,AMPH-B単独より効果が大きいようだ(N Engl J Med 368: 1291, 2013).
  • 導入治療でAMPH-Bが使用できない場合には,FLCZ+5-FC はFLCZ単独よりも好ましい(N Engl J Med 378: 1004, 2018).
  • L-AMB 20mg/kg+(5-FC 100mg/kg24時間ごと+FLCZ 1200mg経口24時間ごと・14日)による導入治療は,サハラ以南のHIV患者においては,AMPH-Bデオキシコレート1mg/kg24時間ごと+5-FC 100mg/kg24時間ごと・7時間,その後FLCZ 1200mg/日・7日に非劣性だった(N Engl J Med 386: 1109, 2022).
  • FLCZ以外のアゾール薬の役割は不明:Cryptococcus髄膜炎患者29例中14例(48%)でPSCZによる治療が成功したという報告がある(J Antimicrob Chemother 56: 745, 2005).VRCZも同様に有効だろう.
  • 特に治療開始時に菌数が多かった場合,FLCZの治療失敗が耐性真菌によるものであることは少ない.FLCZ 200mg1日1回と400mg1日1回は同等だが,生存期間中央値はそれぞれ76日,82日であり,著者らは400mg経口1日1回が良いと考える(BMC Infect Dis 6: 118, 2006).
維持治療
  • ARTを受けCD4>100/mm3で抑制治療を中止した100例の患者での再発率は,0.4~3.9/100人年である.
  • 導入治療が完了し,少なくとも1年の地固め治療を受け,ARTが奏効し(ウイルス量<50/mL),無症状,3カ月以上CD4≧100~200/mm3となった患者では,抗真菌薬治療の中止を検討してもよい.
  • ITCZはFLCZほど有効ではなく,再発率が高いため推奨されない(23%対4%).
  • 維持治療についてのVRCZのデータなし.
クリプトコッカス髄膜炎を伴うHIV患者に対するコルチコステロイドの補助的使用は,死亡率を抑制せず,副作用を増大させた(N Engl J Med 374: 542, 2016).
IDSA治療ガイドライン:Clin Infect Dis 50: 291, 2010
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2023/05/15