日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

免疫再構築症候群  (2022/10/11 更新)
IRIS(Immune Reconstitution Inflammatory Syndrome)


概要

  • しかし,ART開始後の免疫再構築は感染症や悪性疾患を背景にもつ患者で炎症性反応の原因となり,背景疾患からの臨床症状の出現や悪化を引き起こすことがある.こうした反応を免疫再構築症候群(IRIS)と呼んでいる.

IRISについて

  • 発症率と重症度:AIDS関連の日和見感染発症後にARTを開始した場合の,IRISの発症率と重症度は日和見感染,悪性疾患の種類によりさまざまである.IRISの1年間累積発症率は,カポジ肉腫で29%,結核で16%,Cryptococcus で14%,MAI complexで10%,ニューモシスチス肺炎(PCPまたはPJP)で4%だった.発病率と死亡率が最も高いのは内臓カポジ肉腫であった(Clin Infect Dis 54: 424, 2012).

症状

  • 日和見感染におけるIRIS:ART導入後の日和見感染関連IRISリスクに関する詳細な情報,および治療に関する提言は,clinicalinfoHIVガイドライン参照.
  • 播種性MAC症.ARTは,MAC感染の顕在化,または既存疾患の逆説的な悪化を引き起こしうる.肺浸潤および気管支内増殖性病変に関連した腸間膜リンパ節症で,重度の腹痛と胸部リンパ節腫大を伴う例も報告されている(J Infect Dis 179: 329, 1999J Infect Dis 180: 76, 1999AIDS 13: 177, 1999).これらの患者の多くは発熱,白血球増多症,倦怠感を伴い,全身状態が不良のため入院が必要となる(Lancet 351: 252, 1998).播種性MAC症患者で,ART開始後にMACによる有症候性の脳膿瘍を発症した1患者を筆者は経験したことがある.結果として起こる活発な肉芽腫反応やマクロファージ活性化が,1,25水酸化ビタミンD濃度上昇や高カルシウム血症を起こすことがある.筆者らの一人は,こうした状況での高カルシウム血症を5例経験した.
  • M. tuberculosis.IRISは,M. tuberculosis感染患者でART開始に伴って起こる合併症として知られており,既治療の結核の逆説的な増悪(消耗性発熱,リンパ節腫脹,胸部X線所見の悪化)をきたしたり,明らかになっていなかった感染を顕在化させることがある(J Infect Dis 196(Suppl 1): S63, 2007).重症例ではコルチコステロイド治療が必要となることがある(Clin Infect Dis 48: 101, 2009).
  • サイトメガロウイルス(CMV).CMVによる有症候性の網膜炎がART開始直後に起こるのも同様の現象だろう.CMV IRISによる網膜障害は不可逆的となりうる.臨床的に可能であれば,CMV治療を2週間行うまでARTを延期することで,IRISの影響を抑制できることがある(上記DHHSサイト参照).
  • 肝炎.HBVやHCVの慢性感染患者での肝炎の再燃も,免疫機能の改善の結果と考えられる(Lancet 349: 996, 1997).この症候群は,ARTで用いられる薬剤に関連した軽度の肝障害とは区別すべきことに注意.
  • 進行性多巣性白質脳症(PML).ART開始によりPMLが増悪したり,明らかになっていなかった感染が顕在化することがある.コルチコステロイドが必要となる症例もある.
  • ニューモシスチス肺炎(PCPまたはPJP).ART開始後に,ニューモシスチス感染の症状やX線所見が逆説的に悪化することがある.
  • 悪性新生物.
  • カポシ肉腫(HHV-8)の初期症状または悪化は,IRISの症状として最も多く見られるものの一つである.ARTによる免疫機能強化が有効だが,直接的な化学療法が必要となることもある.
  • HIV感染者を対象としたCFARコホートでは,リンパ腫の12%がART導入後に顕在化したと判断された(Clin Infect Dis 59: 279, 2014).
  • サルコイドーシスまたは自己免疫疾患.IRISは,サルコイドーシスや自己免疫疾患を基礎疾患としてもつ患者でもみられることがあり,どちらの場合も「古典的な」IRISとは免疫学的に異なるようである(Clin Infect Dis 48: 101, 2009).

臨床経過と治療

  • 免疫再構築症候群の症状は,通常は基礎疾患に対する持続的な治療あるいは非ステロイド性抗炎症薬の使用により自然に治癒する.ときとして生命の危険を伴うほど重症となることがあり,コルチコステロイド治療が必要になる場合がある(Clin Infect Dis 38: 1159, 2004).個々の日和見感染については,clinicalinfoHIVガイドラインのコメントを参照.
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2022/10/06