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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
抗レトロウイルス治療(ART)-日和見感染症に対する効果
(
2023/10/31 更新
)
日和見感染症に対するARTの効果
一般的な臨床症状とART後の症状
免疫再構築炎症症候群(IRIS)
を参照
カンジダ症(口腔)
一般的な臨床症状:口腔内および咽頭粘膜の白斑(鵞口瘡)
ART後:抗真菌薬治療なしでも臨床的に消失.これは免疫再構築とは無関係で,おそらくは免疫システム機能を低下させていた血漿HIV RNAが減少したことへの直接的な効果.
治療:
口腔咽頭カンジダ症
Catsleman病
一般的な臨床症状:発熱,リンパ節炎
ART後:リンパ節腫脹消失で臨床的回復(
J Infect 40: 90, 2000
).しかし,5例の患者は免疫が再構築されたにもかかわらず,最初の奏効後に再発し死亡(
Clin Infect Dis 35: 880, 2002
).
Cryptococcus neoformans
一般的な臨床症状:通常は無痛の髄膜炎で,脳脊髄液中の白血球増加はまれ.
ART後:明らかな髄膜炎,脳脊髄液中の白血球も明らかに増加.
Cryptococcus
髄膜炎患者の13%でIRISが発症するが,それは治療前の血清中
Cryptococcus
抗原量の上昇と関連している(
Clin Infect Dis 49: 931, 2009
).
ART開始を抗真菌治療開始~2週まで遅らせる.
治療:
クリプトコッカス症-髄膜炎(HIV陽性/AIDS患者)
クリプトスポリジウム症,微胞子虫症
一般的な臨床症状:下痢
ART後:臨床的・微生物学的治癒はウイルス量の大幅な減少に関連する(
Lancet 351: 256, 1998
).
サイトメガロウイルス(CMV)
一般的な臨床症状:網膜炎,硝子体炎,ブドウ膜炎(まれ).
ART後:CMVの非定型的(網膜炎以外の)臨床症状としては,肺炎,偽腫瘍性大腸炎,腺炎,ウイルス血症症状(
Lancet 351: 228, 1998
)などがある.免疫再構築に伴うブドウ膜炎(
JAMA 282: 1633, 1999
;
Eur J Clin Microbiol Infect Dis 22: 114, 2003
).
好酸球性毛嚢炎
一般的な臨床症状:炎症反応により,特に顔面や体躯に新規の毛嚢炎が起こる.
ART後:毛嚢虫に対する炎症反応.イベルメクチンで急速に改善することがある(
AIDS 18: 701, 2004
;
Dermatology 205: 394, 2002
).
B型肝炎(慢性)
一般的な臨床症状:無症候あるいは非特異的な症状.
ART後:ART開始後5~12週で肝炎の急激な再燃.通常は治療を変更しないでも解消.5年間HBe抗原陽性だったB型肝炎患者でHBe抗原消失の報告がある(
Lancet 349: 996, 1997
).ARV治療を突然中断した場合にトランスアミナーゼ酵素の急激な上昇が起こる(特に抗HBV活性をもった薬剤,たとえばテノホビル,エムトリシタビン,ラミブジン).
C型肝炎(慢性)
一般的な臨床症状:無症候性
ART後:ART開始後1~9カ月以内に急性肝炎,肝硬変,クリオグロブリン血症のようなHCV関連の障害(
J Infect Dis 181: 2033, 2000
).HCVが血清学的陽性の場合,ARTを行ってもCD4が十分回復しないことがある(
Lancet 356: 1800, 2000
).ART後にHCV DNAの上昇・下降ともに報告されているが,全体的なアウトカムは不明(
Clin Infect Dis 35: 873, 2002
).
単純ヘルペス(肛門-性器)
一般的な臨床症状:痛みを伴う潰瘍性病変.
ART後:肛門-性器病変の再発エピソードの再燃(
Clin Infect Dis 42: 418, 2006
).ARTを受けたHIV感染患者でのHSV特異的T細胞免疫の再構築に注意すること(
J Infect Dis 195: 410, 2007
).
帯状疱疹
一般的な臨床症状:合併症を起こして重症化することがある.
ART後:軽症で難治化しない.ART開始後に帯状疱疹が多発することがある.
HIV-1関連の腎炎
一般的な臨床症状:高度の蛋白尿を伴う腎機能障害.
ART後:病理像の回復と機能回復(
Lancet 352: 783, 1998
).
HIV関連の非ホジキンリンパ腫
一般的な臨床症状:典型的な第I~IV期リンパ腫.
ART後:臨床的アウトカムと生存率の改善(
Clin Infect Dis 37: 1556, 2003
).
女性におけるヒトパピローマウイルス(HPV)感染
一般的な臨床症状:性器疣贅,子宮頸部の扁平上皮内病変(SIL),子宮頸がん.
ART後:ARTが有効でアドヒアランスが高ければ,HPV感染とSILの危険性は減少する(
J Infect Dis 201: 681, 2010
).
カポジ肉腫
一般的な臨床症状:皮膚病変,播種性疾患,口腔内病変.
ART後:ウイルス量減少に伴って病変が消退(
AIDS Patient Care STDS 11: 161, 1997
;
Lancet 357:1411, 2001
;
J Acquir Immune Defic Syndr 31: 384, 2002
;
J Antimicrob Chermother 51: 1095, 2003
).粘膜浮腫による喉頭閉塞はARTのIRIS合併症としてはまれ.米国ではART導入後,発症は少なくなった(
JAMA 305: 1450, 2011
).
リンパ上皮耳下腺嚢胞
一般的な臨床症状:耳下腺嚢胞.
ART後:ARTによって消失(
Ann Intern Med 128: 455, 1998
).
伝染性軟属腫
一般的な臨床症状:播種性皮膚病変.
ART後:CD4細胞が10倍に増加するに伴って重症病変は消失(
Clin Infect Dis 24: 1023, 1997
).
Mycobacterium avium
complex(MAC)
一般的な臨床症状:播種性病変,体重低下,下痢
,
菌血症.
ART後:局所性リンパ節炎,肉芽性腫瘤,気管支内増殖性病変,腹腔内リンパ節腫脹および腹痛(詳細は上記参照),抗菌薬治療なしで菌血症の消失(
Clin Infect Dis 26: 758, 1998
),肺結節内の空洞の形成(
Clin Infect Dis 27: 1542, 1998
).AZMの予防投与をしていても,免疫再構築に伴うリンパ節炎が発症することがある(
Clin Infect Dis 34: 371, 2002
;
Clin Infect Dis 42: 418, 2006
).腹腔内病変は末梢性リンパ節炎より発症率が高い(
Clin Infect Dis 41: 1483, 2005
).
Mycobacterium tuberculosis
一般的な臨床症状:臨床症状なし.
ART後:ART開始後に「顕在化した結核性IRIS」が発症することがある(
J Infect Dis 199: 437, 2009
).薬剤耐性菌感染患者でも起こることがある(
Clin Infect Dis 48: 667, 2009
).進行したHIV患者では結核治療開始後の2週間以内にARTを開始する:それほど進行していない患者(たとえば,CD4>200/μL)では,2~4週間待って治療を開始してもよい.
一般的な臨床症状:肺浸潤.
ART後:発熱,リンパ節腫脹,肺浸潤の増悪.注:ARTにより結核の発症率は低下(
Clin Infect Dis 45: 1518, 2007
).
口腔疣贅
一般的な臨床症状:口腔病変は比較的まれ.
ART後:進行性で切除しても再発する口腔疣贅が明らかに増加する(
Lancet 357: 1411, 2001
;
Clin Infect Dis 34: 641, 2002
).最近の前向き研究では,ART開始後,口腔疣贅の増加は確認されなかったがHPV DNAの増加が確認された(
AIDS 30: 1573, 2016
).
パルボウイルスB-19感染(慢性)
一般的な臨床症状:貧血;HIV消耗症候群,脳炎
ART後:ARTを受けた患者で,それぞれの症候群に反応が見られたという散発的な報告(The AIDS Reader 8: 32, 1998;
Clin Infect Dis 36: 1191, 2003
).パルボウイルスB-19による脳炎がARTを受けた患者1例で発症したという症例報告がある(
Clin Infect Dis 36: 1191, 2003
).
進行性多巣性白質脳症(PML)
一般的な臨床症状:神経学的欠損症状,MRIで造影コントラストのない濃度低下.
ART後:神経学的欠損症状:MRT濃染部位に対応した神経学的欠損,しばしば辺縁部濃染(
AIDS 13: 1426, 1999
);長期的には,神経学的症状の寛解および放射線学的知見の改善がみられ(
Lancet 349: 850, 1997
),約50%の症例で生存率が向上(
Clin Infect Dis 36: 1047, 2003
;
J Infect Dis 180: 621, 1999
).IRISを疑わせるような炎症がある場合,コルチコステロイドを使用しながらARTを継続することも可能.ART開始直後の患者において,致死的で逆説的なPML(ステロイドに反応しない)の増悪がみられ(
Clin Infect Dis 35: 1250, 2002
),IRISである可能性が高かった.
サルコイドーシス
一般的な臨床症状:皮膚病変,びまん性肺病変,アデノパシー
ART後:既存のサルコイドーシスの再燃または新規発症がARTを受けた患者で報告されている(
Radiology 218: 242, 2001
).
全身性エリテマドーデス(SLE)
一般的な臨床症状:免疫抑制を受けているAIDS患者でのSLEの発症は減少している.
ART後:ART後にSLE新規発症や既存のSLEの再燃が散発的に報告されている(
J Rheumatol 27: 2711, 2000
).
外皮性リーシュマニア
一般的な臨床症状:病変なし,または紅斑性丘疹
ART後:既存病変の増悪または播種性病変への進行(
J Infect Dis 192: 1819, 2005
).
内臓リーシュマニア
一般的な臨床症状:発熱,肝脾腫.
ART後:長期寛解(
J Infect 40: 94, 2000
);カラアザール後の皮膚リーシュマニアの発症(
J Infect 40: 199, 2000
).フランスでは1996年のART導入後,内臓リーシュマニア発症率が減少した(
J Infect Dis 186: 1366, 2002
).
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2023/10/30