日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

抗レトロウイルス治療(ART)-日和見感染症に対する効果  (2025/08/19 更新)


日和見感染症に対するARTの効果

  • 一般的な臨床症状とART後の症状
カンジダ症(口腔)
  • 一般的な臨床症状:口腔内および咽頭粘膜の白斑(鵞口瘡)
  • ART後:抗真菌薬治療なしでも臨床的に消失.これは免疫再構築とは無関係で,おそらくは免疫システム機能を低下させていた血漿HIV RNAが減少したことへの直接的な効果.
Catsleman病
  • 一般的な臨床症状:発熱,リンパ節炎
  • ART後:リンパ節腫脹消失で臨床的回復.しかし,5例の患者は免疫が再構築されたにもかかわらず,最初の奏効後に再発し死亡.
Cryptococcus neoformans
  • 一般的な臨床症状:通常は無痛の髄膜炎で,脳脊髄液中の白血球増加はまれ.
  • ART後:明らかな髄膜炎,脳脊髄液中の白血球も明らかに増加.Cryptococcus 髄膜炎患者の13%でIRISが発症するが,それは治療前の血清中Cryptococcus 抗原量の上昇と関連している(Clin Infect Dis 49: 931, 2009).
  • ART開始を抗真菌治療開始~2週まで遅らせる.
クリプトスポリジウム症,微胞子虫症
  • 一般的な臨床症状:下痢
  • ART後:臨床的・微生物学的治癒はウイルス量の大幅な減少に関連する.
サイトメガロウイルス(CMV)
  • 一般的な臨床症状:網膜炎,硝子体炎,ブドウ膜炎(まれ).
  • ART後:CMVの非定型的(網膜炎以外の)臨床症状としては,肺炎,偽腫瘍性大腸炎,腺炎,ウイルス血症症状などがある.免疫再構築に伴うブドウ膜炎.
好酸球性毛嚢炎
  • 一般的な臨床症状:炎症反応により,特に顔面や体躯に新規の毛嚢炎が起こる.
  • ART後:毛嚢虫に対する炎症反応.イベルメクチンで急速に改善することがある.
B型肝炎(慢性)
  • 一般的な臨床症状:無症候あるいは非特異的な症状.
  • ART後:ART開始後5~12週で肝炎の急激な再燃.通常は治療を変更しないでも解消.5年間HBe抗原陽性だったB型肝炎患者でHBe抗原消失の報告がある.ARV治療を突然中断した場合にトランスアミナーゼ酵素の急激な上昇が起こる(特に抗HBV活性をもった薬剤,たとえばテノホビル,エムトリシタビン,ラミブジン).
C型肝炎(慢性)
  • 一般的な臨床症状:無症候性
  • ART後:ART開始後1~9カ月以内に急性肝炎,肝硬変,クリオグロブリン血症のようなHCV関連の障害.HCVが血清学的陽性の場合,ARTを行ってもCD4が十分回復しないことがある.ART後にHCV RNAの上昇・下降ともに報告されているが,全体的なアウトカムは不明.ARV治療によりHIV RNAが<200c/mLに低下しさえすれば,HCV治療が推奨される(HCV RNAが検出されるかぎり).
単純ヘルペス(肛門-性器)
  • 一般的な臨床症状:痛みを伴う潰瘍性病変.
  • ART後:肛門-性器病変の再発エピソードの再燃.ARTを受けたHIV感染患者でのHSV特異的T細胞免疫の再構築に注意すること.
帯状疱疹
  • 一般的な臨床症状:合併症を起こして重症化することがある.
  • ART後:軽症で難治化しない.ART開始後に帯状疱疹が多発することがある.
HIV-1関連の腎炎
  • 一般的な臨床症状:高度の蛋白尿を伴う腎機能障害.
  • ART後:ART早期開始で病理像の回復と機能回復.
HIV関連の非ホジキンリンパ腫
  • 一般的な臨床症状:典型的な第I~IV期リンパ腫.
  • ART後:臨床的アウトカムと生存率の改善.
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染
  • 一般的な臨床症状:性器疣贅,子宮頸部の扁平上皮内病変(SIL),子宮頸がん.
  • ART後:ARTが有効でアドヒアランスが高ければ,HPV感染とSILの危険性は減少する.
カポジ肉腫
  • 一般的な臨床症状:皮膚病変,播種性疾患,口腔内病変.
  • ART後:ウイルス量減少に伴って病変が消退.粘膜浮腫による喉頭閉塞はARTのIRIS合併症としてはまれ.米国ではART導入後,発症は少なくなった.
リンパ上皮耳下腺嚢胞
  • 一般的な臨床症状:耳下腺嚢胞.
  • ART後:ARTによって消失.
伝染性軟属腫
  • 一般的な臨床症状:播種性皮膚病変.
  • ART後:CD4細胞が10倍に増加するに伴って重症病変は消失.
Mycobacterium avium complex(MAC)
  • 一般的な臨床症状:播種性病変,体重低下,下痢菌血症.
  • ART後:局所性リンパ節炎,肉芽性腫瘤,気管支内増殖性病変,腹腔内リンパ節腫脹および腹痛(詳細は上記参照),抗菌薬治療なしで菌血症の消失,肺結節内の空洞の形成.腹腔内病変は末梢性リンパ節炎より発症率が高い.
Mycobacterium tuberculosis
  • 一般的な臨床症状:臨床症状なし.
  • ART後:ART開始後に「顕在化した結核性IRIS」が発症することがある.薬剤耐性菌感染患者でも起こることがある.進行したHIV患者では結核治療開始後の2週間以内にARTを開始する:それほど進行していない患者(たとえば,CD4>200/μL)では,2~4週間待って治療を開始してもよい.

  • 一般的な臨床症状:肺浸潤.
  • ART後:発熱,リンパ節腫脹,肺浸潤の増悪.注:ARTにより結核の発症率は低下.
口腔疣贅
  • 一般的な臨床症状:口腔病変は比較的まれ.
  • ART後:進行性で切除しても再発する口腔疣贅が明らかに増加する.最近の前向き研究では,ART開始後,口腔疣贅の増加は確認されなかったがHPV DNAの増加が確認された(AIDS 30: 1573, 2016).
パルボウイルスB-19感染(慢性)
  • 一般的な臨床症状:貧血;HIV消耗症候群,脳炎
  • ART後:ARTを受けた患者で,それぞれの症候群に反応が見られたという散発的な報告.
進行性多巣性白質脳症(PML)
  • 一般的な臨床症状:神経学的欠損症状,MRIで造影コントラスト増強のない密度低下.
  • ART後:神経学的欠損症状:MRI濃染部位に対応した神経学的欠損,しばしば辺縁部濃染;長期的には,神経学的症状の寛解および放射線学的知見の改善がみられ,約50%の症例で生存率が向上.IRISを疑わせるような炎症がある場合,ARTを継続しながらコルチコステロイドを使用することも可能.
サルコイドーシス
  • 一般的な臨床症状:皮膚病変,びまん性肺病変,アデノパシー
  • ART後:既存のサルコイドーシスの再燃または新規発症がARTを受けた患者で報告されている.
全身性エリテマトーデス(SLE)
  • 一般的な臨床症状:免疫抑制を受けているAIDS患者でのSLEの発症は減少している.
  • ART後:ART後にSLE新規発症や既存のSLEの再燃が散発的に報告されている.
外皮性リーシュマニア
  • 一般的な臨床症状:病変なし,または紅斑性丘疹
  • ART後:既存病変の増悪または播種性病変への進行.
内臓リーシュマニア
  • 一般的な臨床症状:発熱,肝脾腫.
  • ART後:長期寛解;カラアザール後の皮膚リーシュマニアの発症.
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2025/08/19