日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Yersinia pestis, ペスト  (2024/05/07 更新)


臨床状況

  • ペスト(Yersinia pestis)は感染したノミに咬まれること,または肺ペストの場合には飛沫を吸引することにより感染する.
  • ペストの臨床症状には3つのタイプがある:
  • 腺ペスト:80~95%と最も多い.急性で痛みを伴う波動のないリンパ節炎.「Bubo」はギリシア語で鼠径部を意味する“groin"という言葉に由来する.
  • 敗血症または敗血症型ペスト:ペスト患者の10~20%を占める.腺ペストと合併することもそうでないこともある.感染初期には消化器症状が起こり,後期になると血圧低下,DIC,多臓器不全をきたす.
  • 肺ペスト:血行性播種の結果あるいは他の肺ペスト患者からの飛沫を吸い込むことにより発症する.まれな疾患だが死亡率は60%以上に達する.

分類

  • Yersinia pestis:グラム陰性桿菌(閉じた安全ピンのように見えることもある)

第一選択

  • まず接触感染予防を行い,呼吸器症状がある場合は飛沫感染予防のための隔離を行う.
  • 重症肺炎または敗血症性ペスト患者およびYersinia pestisの意図的な散布により感染した患者の初期治療には,2種類の抗菌薬による併用療法(たとえば,CPFX+GM)を行う必要がある.

第二選択

  • 上記参照.

予防

  • 以前には,ワクチン接種すれば,ペストに対するその予防効果は長く維持されると考えられていた.
  • 現在認可され承認されたワクチンはない.
  • WHOは,旧世代のペストワクチン(細胞全体を殺傷)を推奨していない.
  • システマティックレビューでは,古いワクチンの有効性も長期安全性も定量化できなかった(Curr Res Immunol 4: 100072, 2023).

コメント

  • 大量の死者が出る状況では,経口薬で治療しなければならない場合もある.
  • 治療開始後48時間は肺ペスト患者を隔離すること.
  • 米国ではペストワクチンは市販されていない.
  • 職業的な曝露を避けるために,微生物検査担当者にはペストの可能性を知らせておくこと.
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2024/05/03