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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
アメリカトリパノソーマ症
(
2024/11/19 更新
)
シャーガス病,急性アメリカトリパノソーマ病
臨床状況/治療の適応
臨床状況
シャーガス病,アメリカトリパノソーマ病.総説:
The Lancet 403: 203, 2024
;
Ann Intern Med 176: ITC17, 2023
;
Am J Trop Med Hyg 109: 1006, 2023
.
Trypanosoma cruzi
の6つの系統は個別のタイプ集団(TcI~VI)に分類され,それぞれ発生地域,宿主特異性,病原性が異なる.
現在のところ,治療に関しては差がない.
南アメリカで,感染したサシガメ虫からの排泄物の接種で感染する.
菌量が多い場合は経口接種でも感染し,30を超える集団発生がある:
Trop Med Int Health 28: 689, 2023
.
経口感染の場合,リンパ節腫脹,肝脾腫を伴う原因不明の急性発熱症候群となるが,接種部位での皮膚病変(シャゴーマ)はない.
米国の有病率:
Emerging Infect Dis 28: 1313, 2022
.
1950年~2022年に米国内で確認された感染はわずか78例で,最後の報告は2018年のミズーリ州の症例であった:
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 69: 193, 2020
.
キタオポッサムなど米国の哺乳類27種に
T cruzi
が検出された:
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010974,2022
.
汎米保健機構のガイドライン:
PAHOガイドライン
シャーガス病は臓器移植や輸血によって感染することもある(
移植患者-トリパノソーマ症の予防
参照).
ドナーまたはレシピエントがシャーガス病だった場合は,治療に関する助言を得るためにCDCに連絡すること:1-718-4745(緊急時:770-488-7100).
ドナーに感染が見つかった場合は,レシピエントの血液を顕微鏡およびPCRで調べること(
Clin Transplant 33: e13546, 2019
).
感染が証明されなければレシピエントは治療しない
先天性感染
未治療の母親からの生児出生の1~10%で伝播が起こる.
米国では,挙児年齢の女性43,000人が慢性シャーガス病に罹患していると推計される.
米国では,毎年22~305人の乳児が慢性シャーガス病をもつと推計される:
Emerg Infect Dis 28: 1313, 2022
.
治療の適応
臨床検査で感染が証明された以下の場合には,全コース治療の強い適応となる
急性疾患
過去3ヶ月に媒介生物オオサシガメへの曝露が確認された,あるいは疑われる
感染した母親から生まれた先天性疾患(常に急性疾患)の乳児で,生後3ヶ月以内
先天性シャーガス病に関する総説:
Ped Rev 44: 213, 2023
.感染したドナーからの血液,臓器,組織移植のレシピエント
慢性疾患
年齢18歳以下の小児,生後3ヵ月以後に感染していると診断された乳児を含む.
小児では,治療時の年齢が若いほど,抗体陰性化が高率に起こる:
Antimicrob Agents Chemother 17: 66: e0202121, 2022
.
妊婦および妊娠を考えている女性(妊娠および授乳の後に治療)
免疫抑制患者(HIV,臓器移植後,その他の医原性)で再燃化を疑わせる所見がある場合
年齢>18歳の成人で慢性疾患または感染再燃のエビデンスがあり,下記のような条件の場合の
治療は任意となり,これについては議論がある
(弱いエビデンス):
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010386, 2022
.
心電図,心エコー図が正常で,消化器疾患を疑わせる症状はない
心電図所見からは初期の心筋症が疑われるが,左室機能は温存されている
診療開始時,またはその後のキャッチアップでHIVが判明した
臓器移植のドナー候補(移植前の検査)
慢性
T. cruzi
感染が確認されている臓器移植レシピエント
年齢>18歳の成人で中等度~重度心室不全または吸収障害を伴う消化器疾患のある場合は,
治療は禁忌
血液バンクのスクリーニング検査で陽性が判明した献血者に治療を行うかは,CDCの基準に従った臨床検査で確認された後でも,上記の成人感染者と同一の基準を満たしているかによる
さらなる詳細と慢性感染の継続的なフォローアップについては,
JAMA 331: 2037, 2024
参照.
診断/病原体
診断
スクリーニング対象
メキシコ,中央アメリカ,南アメリカに>6ヵ月滞在していた全例
上記領域に>6ヵ月居住していた母親から生まれた乳児および小児
上記領域で媒介生物オオサシガメとの接触があったと報告がある例
陽性率が0.68% であるため,中南米大陸に6ヵ月以上滞在したHIV感染者全員に対し(たとえば,診療での来院時に)スクリーニング(IgG血清学検査)することが推奨される(
Clin Infect Dis 78:453,2024
).
急性期(移植,輸血を含む),先天性疾患,免疫抑制患者での再燃では血液塗抹とPCR.
2箇所を標的としたPCRが必要.CDCでのみ利用可能で,市販はされていない.
検査についての総説:
PLoS Negl Trop Dis 6: e1881, 2012
.
IgG血清学検査は,理想的に2種類のIgG検査を同時に行い,結果が一致しない場合には第3のIgG検査を行う.
それが実際的でないならば,感度の高いIgG検査でスクリーニングし,最初の結果が陽性または不明の場合に追加検査を行う.
FDAが認可した4つの検査法の感度は88~97%,特異度は92~100%である
血液バンクの検査(Ortho EIA kit)でスクリーニング陽性となった場合:
異なった抗原ないし方法(EIAとイムノブロット [TESA])による血清学的検査を間隔をあけて行い,診断を確定する必要がある.
最初のEIAとTESAの結果が一致しない場合,蛍光抗体法(IFA)が“tie-breaker"検査として用いられる.
無血液バンク検査のスクリーニング:EIA(Wienerキット)を行った後TESA/IFAで確認する.すべてCDCを通じて入手可能.
米国の多くの民間の検査施設ではHemagenまたはInbios EIAキットを使用しているが,中央アメリカの集団では偽陽性率が高かったようだ.
市販のEIAで陽性の場合は,治療開始前にCDCで確認すること.
先天性感染の診断
母親を血清学的に評価,不明ならば,上記のように乳児を評価
生後8ヵ月から連続して血清学検査を行う
血清学検査が1回でも陽性であれば,乳児の血液の染色またはPCRで病原体を検索
母親の血液での汚染がなければ臍帯血を使用することもできる:
J Infect Dis 225: 1601, 2022
.
さまざまな血清学検査方法が,世界中で市販されている.
慢性期では血液塗抹は陰性であり,PCRも通常は陰性か信頼性が低い.血清学的検査を用いること.
治療1年後のIgG力価の著明な低下は治癒の指標である.
病原体
Trypanosoma cruzi
第一選択
標準治療:成人(≧12歳):
Benznidazole
5~7mg/kg/日経口2回に分割(12時間ごと)・60日
副作用のため5mg/kg以上は使用しない.一部の専門家は,成人患者に対し患者の体重にかかわらず300mg/日・60日投与するか,300mg/日の投与として治療期間を5mg/kg/日・60日の総投与量に達するまで延長する.
短期処方に関する予備的試験には期待が寄せられている.
100mg経口1日3回・2週または4週処方の第III相試験が進行中.
米国ガイドライン進行したシャーガス心筋症のない50歳未満の成人患者では,慢性感染(偶然発見されることが多い)の治療を行い,50歳以上なら心筋症を考慮すること.
しかし,症状のない慢性の不確定期感染での有用性は不明のままである(
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010386, 2022
),
小児(<12歳):
Benznidazole
7.5mg/kg/日経口2回に分割(12時間ごと)・60日
米国では錠剤が2~12歳に対してのみ承認されている.懸濁液にして用いてもよい.
年少の小児に対しても,臨床判断に基づいて使用してもよい
南米で用いられている小児用錠剤(LAFEPEおよびELEA)は,広くは流通していない.
第二選択
成人:
Nifurtimox
8~10mg/kg/日経口4回に分割・60日
小児:
Nifurtimox
体重≧41kg:8~10mg/kg/日経口1日4回に分割・60日
体重<41kg:10~20mg/kg/日
重度の消化器不耐性のため第一選択にはならない
副作用:
Clin Infect Dis 63: 1056, 2016
コメント
Benznidazole(Exeltis Incより入手可能,TEL: +1 877-303-7181,WEB:
www.benznidazoletablets.com
)
Benznidazole 12.5mg錠および100mg錠は,2~12歳についてFDAにより承認された.CDCは成人での適応外使用を推奨している.
Exeltis(Foundation Care)に連絡すれば,ファストアクセスプログラムを通じて十分な保険に入っていない患者にも無料で提供される.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
参照.
Benznidazoleの標準用量では不耐の確率が高い(
Clin Infect Dis 60: 1237, 2015
).
成人におけるPKモデルでは,Benznidazole 5mg/kg/日12時間ごとに分割は過剰用量である可能性が示唆されている(
Antimicrob Agents Chemother 59: 3342, 2015
).
治癒率:先天性感染(100%),その他の急性感染(60~80%),12歳未満の慢性感染(60%),50歳未満の慢性感染(20~40%),進行した心疾患あるいは消化器疾患(0%)
>50歳または軽度の心血管異常のある場合の慢性感染に対しては治療を考慮するが,治癒率は不明.
シャーガス心筋症と確定診断された患者で,Benznidazoleは血清中の寄生虫検出を低下させたが,5年後の心機能の臨床的悪化について有意な減少はみられていない(
N Engl J Med 373: 1295, 2015
).
BenznidazoleとNifurtimox
2つの薬剤では,FDAが認可した対象年齢が異なる.
Benznidazole:2~12歳
Nifurtimox:出生~18歳
どちらの薬剤についても,FDAが定めた年齢制限を超えた適応外使用であっても,CDCは,医学的訓練を受けた医師の臨床診断と決定に基づいて治療することを推奨している.
どちらも妊婦には禁忌であり,治療中は適切な避妊を行う.
妊娠可能年齢の女性の感性は,妊娠していない場合に行うのが望ましい.
どちらも食事とともに服用すれば消化器副作用が軽くなる.
Am J Trop Med Hyg 63: 111, 2000
を参照.
どちらも忍容性が低く,高齢患者では治療が完結できないことが多い.
NifurtimoxはFDAからの承認を2020年8月に受け,市販されている.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
を参照.
レトロスペクティブ・コホート研究では,若年患者ほどセルコンバージョン率が高かった:
Antimicrob Agents Chemother 66: e0202121, 2022
.
ポサコナゾールはin vitroでは非常に有効だが,ヒトでは明らかに無効,おそらく寄生虫の活動を静止させる効果のみ.
Fexinidazoleは現在,
T.b gambiense
および
T.b rhodesiense
に対する選択薬となっている.しかし,T. cruziに関する臨床試験結果は,長期使用での毒性のため,現在までのところ期待外れである(
Clin Infect Dis 76(3): e1186, 2022
)
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2024/11/18