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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
アメリカトリパノソーマ症
(
2024/07/16 更新
)
シャーガス病,急性アメリカトリパノソーマ病
臨床状況
シャーガス病,アメリカトリパノソーマ病.総説:
The Lancet 403: 203, 2024
;
Ann Intern Med 176: ITC17, 2023
;
Am J Trop Med Hyg 2023年9月11日
.
Trypanosoma cruzi
の6つの系統は個別のタイプ集団(TcI~VI)に分類され,それぞれ発生地域,宿主特異性,病原性が異なる.
現在のところ,治療に関しては差がない.
南アメリカで,感染したサシガメ虫からの排泄物の接種で感染する.
経口感染で,発症しないことも多いが,30例を超える症例発症がある:
Trop Med Int Health 28: 689, 2023
.
先天性感染は急性疾患とみなす.
急性疾患では,リンパ節腫脹,肝脾腫,接種部位での皮膚病変(シャゴーマ)(経口感染の場合にはない)を伴う原因不明の発熱症候群がみられる.
慢性感染は無症候性であるか,心臓や腸の病変を伴う.
米国の有病率:
Emerging Infect Dis 28: 1313, 2022
.
1950年~2022年に米国で確認された自国での感染はわずか78例で,最後の報告は2018年のミズーリ州の症例であった:
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 69: 193, 2020
.
キタオポッサムなど米国の哺乳類27種に
T cruzi
が検出された:
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010974,2022
.
汎米保健機構のガイドライン:
PAHOガイドライン
シャーガス病は臓器移植や輸血によって感染することもある(
移植患者-トリパノソーマ症の予防
参照).ドナーまたはレシピエントがシャーガス病だった場合は,治療に関する助言を得るためにCDCに連絡すること:1-718-4745(緊急時:770-488-7100).
ドナーに感染が見つかった場合は,レシピエントの血液を顕微鏡およびPCRで調べること(
Clin Transplant 33: e13546, 2019
).
診断/病原体
診断
陽性率が0.68% であるため,中南米大陸に6ヵ月以上滞在したHIV感染者を高感度
T. cruzi
血清学IgG 検査で(たとえば,診療での来院時に)体系的にスクリーニングすることが推奨される(
Clin Infect Dis 78:453,2024
).
診断:急性期(移植,輸血を含む),先天性疾患,免疫抑制患者での再燃では血液塗抹とPCR.2箇所を標的としたPCRが必要.CDCでのみ利用可能で,市販はされていない.検査についての総説:
PLoS Negl Trop Dis 6: e1881, 2012
.
血液バンクの検査(Ortho EIA kit)でスクリーニング陽性となった場合には,異なった抗原ないし方法(EIAとイムノブロット [TESA])による血清学的検査を間隔をあけて行い,診断を確定する必要がある.最初のEIAとTESAの結果が一致しない場合,蛍光抗体法(IFA)が“tie-breaker"検査として用いられる.
無血液バンク検査のスクリーニング:EIA(Wienerキット)を行った後TESA/IFAで確認する.すべてCDCを通じて入手可能.
米国の多くの民間の検査施設ではHemagenまたはInbios EIAキットを使用しているが,中央アメリカの集団では偽陽性率が高かったようだ.市販のEIAで陽性の場合は,治療開始前にCDCで確認すること.
さまざまな血清学検査方法が,世界中で市販されている.
慢性期では血液塗抹は陰性であり,PCRも通常は陰性か信頼性が低い.血清学的検査を用いること.
治療1年後のIgG力価の著明な低下は治癒の指標である.
病原体
Trypanosoma cruzi
第一選択
標準治療:成人(≧12歳):
Benznidazole
5~7mg/kg/日経口2回に分割(12時間ごと)・60日
副作用のため5mg/kg以上は使用しない.一部の専門家は,成人患者に対し患者の体重にかかわらず300mg/日・60日投与するか,300mg/日の投与として治療期間を5mg/kg/日・60日の総投与量に達するまで延長する.
短期処方に関する予備的試験には期待が寄せられている.
100mg経口1日3回・2週または4週処方の第III相試験が開始されようとしている.
米国ガイドライン進行したシャーガス心筋症のない50歳未満の成人患者では,慢性感染(偶然発見されることが多い)の治療を行い,50歳以上なら心筋症を考慮すること.
しかし,症状のない慢性の不確定期感染での有用性は不明のままである(
PLoS Negl Trop Dis 16: e0010386, 2022
),
小児(<12歳):
Benznidazole
7.5mg/kg/日経口2回に分割(12時間ごと)・60日
米国では錠剤が2~12歳に対してのみ承認されている.懸濁液にして用いてもよい.
南米で用いられている小児用錠剤(LAFEPEおよびELEA)は,広くは流通していない.
第二選択
成人(>16歳)
Nifurtimox
8~10mg/kg/日経口4回に分割・90~120日
小児
≦10歳:
Nifurtimox
15~20mg/kg/日経口3~4回に分割・90日
11~16歳:
Nifurtimox
12.5~15mg/kg/日経口3~4回に分割・90日
副作用:
Clin Infect Dis 63: 1056, 2016
コメント
Benznidazole(Exeltis Incより入手可能,TEL:+1 877-303-7181,WEB:
www.benznidazoletablets.com
)
Benznidazole 12.5mg錠および100mg錠は,2~12歳についてFDAにより承認された.CDCは成人での適応外使用を推奨している.
Exeltis(Foundation Care)に連絡すれば,ファストアクセスプログラムを通じて十分な保険に入っていない患者にも無料で提供される.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
参照.
Benznidazoleの標準用量では不耐の確率が高い(
Clin Infect Dis 60: 1237, 2015
).
成人におけるPKモデルでは,Benznidazole 5mg/kg/日12時間ごとに分割は過剰用量である可能性が示唆されている(
Antimicrob Agents Chemother 59: 3342, 2015
).
治癒率:先天性感染(100%),その他の急性感染(60~80%),12歳未満の慢性感染(60%),50歳未満の慢性感染(20~40%),進行した心疾患あるいは消化器疾患(0%)
>50歳または軽度の心血管異常のある場合の慢性感染に対しては治療を考慮するが,治癒率は不明.
シャーガス心筋症と確定診断された患者で,Benznidazoleは血清中の寄生虫検出を低下させたが,5年後の心機能の臨床的悪化について有意な減少はみられていない(
N Engl J Med 373: 1295, 2015
).
BenznidazoleとNifurtimox
どちらも妊婦には禁忌であり,治療中は適切な避妊を行う.
妊娠可能年齢の女性の感性は,妊娠していない場合に行うのが望ましい.
どちらも食事とともに服用すれば消化器副作用が軽くなる.
Am J Trop Med Hyg 63: 111, 2000
を参照.
どちらも忍容性が低く,高齢患者では治療が完結できないことが多い.
NifurtimoxはCDC Drug Serviceから入手可能.
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
を参照.FDAは2020年8月に承認,市販は未定.
レトロスペクティブ・コホート研究では,若年患者ほどセルコンバージョン率が高かった:
Antimicrob Agents Chemother 66: e0202121, 2022
.
ポサコナゾールはin vitroでは非常に有効だが,ヒトでは明らかに無効,おそらく寄生虫の活動を静止させる効果のみ.
Fexinidazoleは現在,
T.b gambiense
および
T.b rhodesiense
に対する選択薬となっている.しかし,T. cruziに関する臨床試験結果は,長期使用での毒性のため,現在までのところ期待外れである(
Clin Infect Dis 2022年8月4日
)
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2024/07/16