日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

COVID-19, 外来患者治療  (2024/07/30 更新)


臨床状況

検査結果陽性(PCRまたは抗原)の有症患者
  • 抗原検査の感度:47%(陽性のピークは症状発現後3日)
  • ウイルス培養の感度:80%(陽性のピークは症状発現後2日)
  • どちらの検査も発熱患者では感度が高くなる:抗原77%,培養94%
初期臨床評価の焦点:
  • 起点は症状発症の日であり,最初に検査陽性となった日ではない(罹病期間と治療開始時点の決定のため)
  • 年齢>65歳(年齢>50歳で背景疾患がある場合にはリスクが増大)
  • 免疫不全状態
  • 長期の免疫治療
  • 悪性疾患,特に化学療法や免疫療法を受けている場合
  • SARS-CoV-2ワクチン未接種
  • 肥満(BMI≧35)
  • 妊娠中(または最近妊娠した)
  • 糖尿病
  • 慢性腎臓病,とくに透析を受けている場合
  • 慢性肺疾患
  • ぜんそく,COPD,気管支拡張症,間質性肺炎,肺塞栓症,肺動脈高血圧症
  • 喫煙
  • 心血管疾患
  • 慢性心不全,心筋症,冠動脈疾患
  • 脳血管疾患
  • 神経疾患
  • 認知症,けいれん疾患,多発性硬化症,重症筋無力症
  • 肝疾患;肝硬変
  • 活動性感染症(結核)
  • HIV(特に抗レトロウイルス治療を受けていない場合)
  • 小児または青少年については,MIS-C/MIC-A参照
重症度
重症度
指標
無症候性
症状なし
軽症
発熱,咳,喉の痛み,悪心/嘔吐,下痢,味覚または嗅覚喪失があるが呼吸困難はない.酸素飽和度正常で胸部X線上も正常
中等症
軽症症状+下気道感染の所見(検査および/または画像),室温での酸素飽和度≧94%
重症
中等症症状だが酸素飽和度<94%,PaO2/FiO2<300mmHg,呼吸数>30breaths/分,肺浸潤>50%
重篤
重症症状だが呼吸不全で挿管中,敗血症性ショック,および/または多臓器不全

現在の変異株
  • オミクロン変異株(2022年12月~現時点)
  • ほとんどの最近の変異株についての情報については,CDCウエブサイトを参照.
  • オミクロン特異的一価ワクチン(XBB)の登場により,オミクロンのすべての株および亜型の中和抗体産生が可能となる.
  • オミクロン変異株は,現在使用可能な,ほとんどのモノクローナル抗体薬でも中和化されない.たとえば,
  • モノクローナル抗体製剤Bebtelovimab,ソトロビマブ,カシリビマブ+イムデビマブ,Bamlanivimab+Etesevimabは,新しい変異株には効果がなく,使用すべきでない.
  • Pemivibartはモノクローナル抗体であり,一次予防に使用され,オミクロン変異株に活性を有する.
  • 承認されている2つの経口抗ウイルス薬:パキロビッド(ニルマトレルビル+リトナビル)およびモルヌピラビルは,新しいオミクロン変異株に対して活性を保っている.パキロビッドはモルヌピラビルより強力であり,より望ましい経口抗ウイルス薬である.
  • レムデシビルは,SARS-CoV-2の(現在までに同定されている)すべての変異株に活性を保っている.ほとんどの患者に対して外来3日処方も有効である;重度の免疫不全の場合には,より長期(たとえば,5日)の治療を行うべきである.
  • 予防

診断/病原体

診断
  • 迅速抗原家庭検査(多くの製造社)
  • PCR(通常は病院/救急治療センターで行われる)
病原体
  • コロナウイルス:SARS-CoV-2

治療

治療の一般原則
  • 迅速なCOVID-19診断
  • 重要な注:治療の決定は最初の症状発症日を起点とする(最初の検査陽性の日ではない)
  • 2段階の病期
  • 抗ウイルス治療は初期段階でもっとも有効と考えられる.
  • ■例:レムデシビルおよび直接作用型抗ウイルス薬(ニルマトレルビル・リトナビル,モルヌピラビル)
  • ■抗ウイルス治療を可能なかぎり速やかに開始することで最大の効果が得られる(発症の5日前).
  • 原則として外来患者にコルチコステロイドや他の免疫修飾薬を使用してはならないが,発病6日以降なら,入院予防,気管支けいれん治療のためにコルチコステロイドを使用してもよい.

第一選択

重症度別の治療推奨
  • 上記の重症化リスク因子のある患者に対しては外来での抗ウイルス治療が推奨される.
  • 外来治療:アセトアミノフェン,イブプロフェン(またはナプロキセン),グアイフェネシン,オンダンセトロン,イモジウム,吸入アルブテロール,吸入ステロイド,H2拮抗薬および/または睡眠薬(たとえばメラトニン)などによる補助治療を必要に応じて行う.
  • ヘパリンによる予防的抗凝固療法は外来患者には推奨されない.
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル)が適応の場合には,パキロビッドリバウンドの懸念から使用を遅延させてはならない.研究では,臨床試験でパキロビッド使用後のリバウンドはプラセボ投与患者でみられたリバウンドと違いはなかった(Ann Intern Med 176: 348, 2023). 治療を中断した時には,リバウンドを警戒.パキロビッドでさらに5日再治療を行うことは適応になっていない;ほとんどの専門家は再治療しようとしない.リバウンドの状況では,通常はCOVID-19の重症化は起こらない.
  • 重度の免疫不全患者の治療において抗ウイルス薬2剤(たとえば,パキロビッドとレムデシビル)の使用が有用でありうるという症例報告が発表された(Clin Infect Dis 76: 926, 2023).
推奨される処方,用量
種類
薬剤
用量/期間
適応
コメント
抗ウイルス
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル)
ニルマトレルビル 300mg(150mg錠2錠)+リトナビル 100mg(1錠),計3錠経口1日2回
1つ以上の重症化リスク因子(肥満,年齢>60歳,糖尿病,心血管疾患)のある軽症~中等症の成人患者
薬物間相互作用に注意(リトナビルは強力なCYP3A4阻害薬)

治療最終投与後3~4日に
パキロビッドリバウンド(症状の再燃)が起こる.リバウンドの発症率はパキロビッドとプラセボで差がない.再治療は適応とならない.
抗ウイルス
モルヌピラビル
800mg(200mgカプセル4錠)経口12時間ごと・5日,食事の影響を受けない
SARS-CoV-2ウイルス検査陽性で,少なくとも1つの重症化リスク因子(たとえば,肥満,年齢>60歳,糖尿病,心血管疾患,免疫不全その他,上記リスト参照)のある年齢>12歳以上の患者

抗ウイルス
レムデシビル
成人(体重>40kg):初回200mg静注・1日目,その後維持用量100mg静注1日1回,各回30~120分以上かけて投与

外来治療期間は,免疫不全でなければ3日,その後5日治療
中等症の外来患者および重大な免疫不全が背景にある患者(リツキシマブ[および類似薬]使用,抗がん化学療法・免疫療法中,移植患者),特に薬物相互作用でパキロビッドが使用できない場合.


推奨されない治療
  • COVID-19の特異的治療用モノクローナル抗体はオミクロン株に対して有効でない.
  • 回復期血漿:有用性は証明されていない.
  • NIH治療ガイドラインは免疫機能正常な入院患者に対する使用に反対しており,免疫不全患者での推奨を裏づける十分なエビデンスもないとしている.
  • コルヒチン:有効性は証明されていない.
  • COVID-19と確診されたまたは疑いがある外来患者を対象としたランダム化プラセボ対照試験(ピア・レビューを受けていない,pre-printがMedRXivでみられる)では,COVID-19による死亡または入院の主要有効性複合エンドポイントについて,主要解析集団では統計的な有意差はみられなかったが,COVID-19のPCR検査陽性例のサブ解析では,有用である可能性が示された(4.6% vs 6%).
  • インターフェロンβ1-a:効果は不明,臨床試験以外では推奨されない.
  • 2020年7月20日のSynairgenからのプレスリリースでは,吸入インターフェロンβの第II相プラセボ対照試験の結果は良好であった.
  • イベルメクチン:推奨されない.
  • 4つの大規模ランダム化試験で,有効性は認められなかった(JAMA 325: 1426, 2021BMC Infect Dis 21: 635, 2021N Engl J Med 386:1721,2022JAMA 329: 888, 2023).最後の研究ではイベルメクチン高用量(600μg/kg)が用いられたが,この用量は,より低用量を用いた臨床試験でエビデンスがなかったにもかかわらずイベルメクチンの治療的有用性を主張する人々が推奨する用量である.軽度~中等度の症状を呈するCOVID-19患者1206例を対象としたランダム化試験であり,症状回復までの時間は高用量イベルメクチン群とプラセボ群で差はなかった(どちらも11日).入院,死亡,救急搬送の複合でも差はみられず(イベルメクチン群34,プラセボ群36,ハザード比1.0),死亡はイベルメクチン群で1例,プラセボ群で0例だった.
  • 製薬会社(メルク)はCOVID-19の治療にイベルメクチンを用いることに反対している.
  • Chloroquineまたはヒドロキシクロロキン±アジスロマイシン:有効性がなく,重大な,致死的となりうる不整脈のリスクがあるため,いかなる状況でも推奨されない.

コメント

  • 変異型SARS CoV-2の出現
  • 変異型の出現とワクチンの有効性への影響および再感染の可能性については,CDCの現在の情報を参照
  • アルファおよびベータ株は,最初の野生型株よりも約50~60%感染力が強い.
  • デルタ株はアルファ株よりも約60%感染力が強く伝播しやすい(最初の野生株よりも約90%感染力が強い).
  • オミクロン株はデルタ株よりも約2倍伝播しやすい.基本再生産数は麻疹に近い.
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2024/07/29