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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
エムポックス
(
2023/06/20 更新
)
臨床状況
痘瘡(天然痘)と同様の症状を呈する人畜共通病原体で,リンパ節腫脹を呈する点だけが異なる.
WHOとCDCは,エムポックスウイルスによる病気の名称としてMpoxを採用した.
感染は主にエムポックス罹患者の皮膚または粘膜表面の病変(たとえば,咽頭,肛門,または直腸)に接触する性的行為による.
ほとんどの場合,潜伏期間は約12日.
曝露後の隔離は推奨されない:むしろ,症状をモニターすること(
CDC 改訂2023年1月
).可能なら,曝露後にワクチン接種.曝露後4日以内の天然痘/
エムポックスワクチン
接種は予防的であるようだ(
エムポックスワクチン
参照)
2022年の世界的流行
(
CDC Health Alert Network Advisory No.466
, 2022年5月20日):アフリカでの曝露がない症例(西アフリカ株)が非流行地(ヨーロッパ,北アメリカ,オーストラリア)で報告された(
Lancet Infect Dis 22: 1321, 2022
).米国での症例ーCDCの改訂報告(
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 71: 1018, 2022
).
米国における最初の1,190例のうち99%は男性であり,さらにその94%に最近の男性同士の性的または濃密な関係があったと報告されている.
症状/伝播
伝播の多くは直接のヒトーヒト接触による(
CDC 改訂2023年2月
).皮膚接触,汚染された衣服,ベッドシーツとの接触.呼吸器感染もありうる(おそらくは非常にまれ).汚染された皮膚病変部,鋭利なあるいは入れ墨のある身体ピアスに用いた針を通じての感染.
医療施設での伝播はありうるが,まれ.接触予防策を用い,N95マスクを着用する.
すべての患者は発症後に感染力を示すが,一部の患者は症状/徴候発現の4日前にはウイルスを伝播することが可能になる.
エムポックス発症から発疹が完全に消失するまでの期間は,家での隔離が推奨される.
前駆症状は必ずあるというものではない(42%は前駆症状がなかった),皮膚病変の播種は患者の20~45%でみられた.孤発性の性器病変は一般的な性感染症と取り違えられてきた.
症状として現れるのは,前駆的な発熱,頭痛,咳嗽,それに続いてリンパ節肥大,小水疱性丘疹性の発疹(臍窩,頭部,体幹,鼠径部,四肢でのかさぶたとなる).すべての病変は通常同時的である.斑は掌および足底に生じることがある(梅毒と同様).爪周囲,口腔,結膜での病変の報告もある.
病変部の痛み(たとえば,性器,肛門周囲)は感染の顕著な特徴.
疑いの低さの指標:検査側のエラー(スワブによる病変部PCR)
抗ウイルス薬による治療の適応(Tecovirimat)
重症患者(出血性疾患,コンフルエント病変,敗血症,脳炎,またはその他の入院を必要とする疾患)
以下のような,重症疾患のリスクが高い患者
・ 免疫不全状態(HIV/AIDS,白血病,リンパ腫,悪性腫瘍,固形臓器移植,アルキル化剤/抗代謝剤/放射線/腫瘍壊死因子阻害剤/高用量のコルチコステロイドなどによる治療,移植後<24カ月または
≧
24カ月だが移植片対宿主病(graft-versus-host disease)または疾患再発の造血幹細胞移植,臨床的免疫不全を有する自己免疫疾患,など)
・ 小児患者,とくに8歳未満の患者
・ 妊娠/授乳中の女性
・ アトピー性皮膚炎の既往/症状,その他の活動性剥離性皮膚疾患(湿疹,熱傷,膿痂疹,水痘帯状疱疹感染,単純ヘルペスウイルス感染,重症ニキビ,広範囲の皮膚が剥離した重症おむつ皮膚炎,乾癬/Darier病[毛包性角化症]など)を有する患者
・ 1つ以上の合併症を伴う者(細菌性二次感染,重度の吐き気・嘔吐,下痢,脱水を伴う胃腸炎,気管支肺炎,併発症,その他の併存疾患)
免疫不全患者(HIVその他)での重症症状に関するCDC Health Alert Network Advisory.
2022年9月
:Tecovirimatによる早期治療を考慮,可能ならば
ACTG STOMP試験
への登録を勧める.
眼,口,あるいはエムポックスウイルス感染が特別なリスクとなる可能性のあるその他の解剖学的部位(性器,肛門など)への想定外の病原体付着などを含めた異所性感染を伴う患者
診断/病原体
診断
診断は病変部のPCR(シャープでないスワブを用いて,活動性の皮膚病変から採取).肛門直腸または口腔スワブも検体採取場所として用いられる.痂皮性病変が剥脱するまでPCRは陽性のことがある.痂皮性病変が消失するまでは感染性があるとみなされる.
病原体
エムポックスウイルス,オルソポックスウイルス属
第一選択
Tecovirimat
(TPOXX) 600mg(200mgカプセル3個)1日2回・14日(治療適応は上記参照).静注剤も入手可能.
第二選択
Cidofovir
はin vitroで活性あり.製品として入手可能なのはCMV網膜炎に対するものだけ.一般的には治療に推奨される(ただし臨床試験のデータはない).
ワクシニア免疫グロブリン(VIGIV:米国FDAはワクシニアワクチン合併症治療に承認している).VIGIVは,重症免疫不全者がエムポックスに曝露した場合の予防的使用に考慮されることがある.
予防
PEP(曝露後予防)のワクチン,Jynneos(非複製ワクシニアワクチン:Bavarian Nordie A/S:商品名は,ヨーロッパおよび英国ではImvanex,カナダではImvamune)が適応となるのは主にCDC定義による高リスク曝露の場合である:CDC
エムポックス-曝露者のモニタリング
.
エムポックスワクチン
参照
コメント
感染の大半は中央アフリカの流行地帯で起こる.ナイジェリア,コンゴ,中央アフリカ共和国で現在流行が起きている.西アフリカ株(主にナイジェリア)はコンゴ株よりも病毒性が弱いようだ.死亡率が低い.
米国での2003年の流行の感染源は,輸入されたアフリカオニネズミ(Gambian giant rat)と推定される(
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 52: 642, 2003
).コンゴではリスの仲間であるロープリス (Funisciurus squirrel) 中にも存在することが報告されている.1970年代の天然痘ワクチン効果減少により,2010年以降流行地が拡大し続けている.2016~2021年で10例を超す症例がナイジェリアから英国,イスラエル,シンガポール,米国へ輸入されてきた.英国での流行のまとめ(
Lancet Infect Dis 22: 1153, 2022
)には,2021年のアフリカ以外での最初の伝播例(家庭内および病院内)が含まれている.
抗ウイルス薬
Tecovirimat
,
Cidofovir
,VIGIVの米国CDC EOCへの請求は,州の保健当局を通じてのみ行うことができる.
Tecovirimat
:入手は
こちら
を参照.サルのin vivoデータについては
添付文書
参照.
Cidofovir
はin vitroおよびマウスモデルで活性あり(
Antimicrob Agents Chemother 46: 1329, 2002
;
Antiviral Res 57: 13, 2003
).
Brincidofovir
は,天然痘に対してFDAから承認されているが,エムポックスに対しては有効ではないようで,CDCから入手はできず,市販もされていない.レトロスペクティブな総説:
Lancet Infect Dis 22: 1153, 2022
.
総説:
Clin Infect Dis 58: 260, 2014
;
N Engl J Med 387: 1783, 2022
(画像を含む).
【日本の情報】
感染症法において4類感染症に指定されており,診断した医師はただちに最寄りの保健所に届出が必要である(厚生労働省「
感染症法に基づく医師の届出について
」参照).
関連情報:国立感染症研究所「
エムポックスとは
」
国立感染症研究所/国立国際医療研究センター/国際感染症センター「
エムポックス患者とエムポックス疑い例への感染予防策
」
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2023/06/19