日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

エムポックスワクチン  (2024/06/25 更新)


ワクチンの適応

はじめに
  • 2023年10月時点において,米国で>30,000例の発症があり,週あたりの新患者は約10例である.
  • エムポックスがサル痘に代わる疾患名になった
  • 現在,エムポックスウイルスが,エムポックスの原因微生物の名称として使用される.
  • クレードI(旧名コンゴ盆地型クレード)
  • クレードII(旧名西アフリカ型クレード)
  • 2019年にFDAが承認したJynneos(複製欠損生ウイルス)は,現時点での感染の多数を占める男性同性愛者でのHIV感染率が高いことを考えると,好ましいワクチンである.
  • 2024年4月までにJynneosは上市され,通常のワクチンを取り扱う業者から入手できるようになる.
  • 天然痘予防のため,またFDAが承認した適応のための使用に先立って,公衆衛生当局の指示を仰がなければならない.
  • 複製能のあるワクシニアウイルスによる従来型の生ワクチンACAM2000は,心筋炎の発症率が高く,生命の危険のある副作用もある.
  • 戦略的国家備蓄(Strategic National stockpile)には少なくとも1億本の備蓄がある.
  • 実際的な目的のためには使用不可能で,近年の米国の状況で使用されたことはない.
ワクチンの適応
  • >18歳でリスク因子のある場合はJynneosを28日間隔を置いて2回接種しなければならない.
  • リスクのある人
  • エムポックス感染者への明らかな曝露またはその疑いがある
  • 過去2週以内のセックスパートナーにエムポックスと診断された人がいる
  • ゲイ,バイセクシャル,またはその他の男性同性愛者,トランスジェンダー,ノンバイナリー,性的多様者で過去6ヶ月に以下のような経験のある人:
  • 1つ以上の性感染症の診断を新たに受けた(たとえば,Chlamydia,淋疾,梅毒),
  • 複数のセックスパートナー
  • 過去6ヶ月に以下のような経験のある人:
  • 性風俗関連施設でのセックス
  • 大規模商業イベントまたはエムポックスウイルス伝播が起こっている地理的領域(たとえば市または郡)でのセックス
  • セックスパートナーが上記のリスクを有する
  • オルソポクスウイルス曝露の職業上リスクがある(たとえば,臨床検査施設や医療機関で働く人々)
曝露前ワクチン接種を受けるべき人
  • オルソポックスウイルスを扱う検査研究機関職員または組み替えワクシニアウイルスワクチンを扱う臨床研究者
  • 指定された権能を有するチームのメンバー(公共の保健機関の裁量により任命された)
  • 複製能のあるワクシニアウイルスワクチンACAM2000の接種を受けた医療従事者
  • エムポックス蔓延地域の居住者
  • 流行中の高リスク地域への旅行者,特に医療従事者
  • 流行地でも非流行地でも,エムポックス感染患者と密な接触をする看護者
   
用量とスケジュール
  • 最近のエムポックス感染はJynneos初回または第2回接種を不要とする.
  • 現在までの米国CDCの経験に基づき,JYNNEOS第3回接種は推奨されない(HIV感染者あるいは重症免疫不全者に対しても).
  • 2022年の緊急時使用許可(EUA)は現在でも12~17歳が対象
  • 全面承認に向けてNIHの臨床試験が進行中
  • 6歳未満の小児での用量に関する研究データはない.
商品名(製造)
Jynneos(Bavarian Nordic);ラベルはImvamuneまたは米国以外ではImvanex
ACAM2000(Emergent Biosolutions)
ワクチン(タイプ,CDC略語)1
複製欠損ワクシニアウイルス(改変ワクシニアアンカラ)(Mpox).FDAおよびEMAはエムポックスおよび天然痘に承認.
複製能力のあるワクシニアウイルス(クローンNYCBOH株).FDAは天然痘にのみ承認.エムポックスの臨床試験が進行中.
年齢
≧18歳(EUAでは12~17歳に使用できる).≦6ヵ月ではVIGIVを使用
≧1歳
用量,経路
FDA承認:0.5mL皮下注(三角筋が望ましい)
FDA承認:2.5μL経皮2
初期スケジュール-ルーチン
0,4週(5週までがのぞましい);さもなければ,可能な限り早く
1回接種
初期スケジュール-加速化
なし
なし
第1回追加接種
既にACAM200接種を受けている場合はJynneosの方が望ましい
天然痘ウイルスまたはエムポックスウイルスへの職業的曝露が続く場合は2年.ワクシニアまたは牛痘への曝露が続く場合は10年
天然痘ウイルスまたはエムポックスウイルスへの職業的曝露が続く場合は2年.ワクシニアまたは牛痘への曝露が続く場合は10年
さらなる追加接種
上記同様に2または10年
上記同様に3または10年
  1. ワクチンには天然痘ウイルスもエムポックスウイルスも含まず,広がったり天然痘やエムポックスを引きおこすことはない.
  2. 特別の訓練を受けた接種者が2股針で三角筋を15回さして注入する.接種者自身もワクチンを受けていなければならない.

有効性,予防効果持続期間

有効性,予防効果持続期間
  • 前もって天然痘ワクチン接種をしておくと,被接種者の約80%でエムポックスに対する長期の免疫性が得られる.
  • しかし,そうした人でもエムポックスブレイクスルー感染が起きているので,天然痘ワクチン接種歴がある人で適応があればエムポックスワクチンを再接種してよい.
Jynneos
  • 霊長類では,Jynneos2回接種による死亡の予防効果は100%であり,対照群での生存率は0~40%だった.
  • ヒトでは,Jynneos1回接種後2週間で力価が誘導されたが,14日から28日にかけて抗体力価は低下した.
  • 抗体レベルのピークは第2回接種後14日
  • 動物研究では,Jynneos1回接種により曝露後予防効果が得られることが示唆されている.
  • 初回接種後42日でワクシニア中和抗体がピークとなり,それはACAM2000の1回接種よりも2倍高値だった.
  • コンゴでの特異的リスクのある医療従事者を対象としたオープンラベル有効性試験では,年間のエムポックス発症率4.4/10,000[医療従事者では17.4/10,000]の地域で,エムポックスの罹患はみられなかった(n=1,000).
  • 1回または2回接種後の免疫持続期間は不明
  • 2024年米国の経験
  • 抗体濃度ピークは第2回接種の14日後(42日目)
  • VEは2回接種で66~89%,1回接種で36~75%
  • 米国でのエムポックス症例32,819例中271例(0.8%)はワクチン接種完了者(Jynneos2回接種).
  • 管轄区域での例では,ワクチン接種完了者188,907例中エムポックス感染187例が報告されており,感染率は0.1%.
  • 感染は,第2回接種後266日(中央値)で起こった(範囲=14~621日;四分位範囲=64~420日).
  • HIV状態の層化のためにはデータが不十分.
 ACAM2000
  • 1980年代初頭のアフリカでの歴史的データでは,天然痘ワクチン(Dryvax,ACAM2000の先行品)を受けた人のエムポックス予防率は85%だった.交差防御期間に関する研究はない.
  • ヒト以外の霊長類を対象とした2つの研究のデータでは,エムポックスウイルス曝露前のワクチン接種による死亡に関する予防率は100%で,対照での生存率は0%だった.
  • 中和抗体のピークは28日目だった.
選択
Jynneos
  • 免疫不全者やHIV感染者を含むすべての個人に対してJynneosは安全に使用できるから,病歴聴取やスクリーニングは必要ない.
  • ACAM2000(複製能のあるワクチン)と比較すると,Jynneos(複製欠損ワクチン)は禁忌が少ない.
  • 接種は標準的な皮下(SC)経路である.
  • 心臓(心筋炎または心膜炎)または他臓器への毒性のリスクは低い.
  • 複製能のあるワクチンで起こるような注射部位の痂皮に対する治療は必要ない(痂皮を形成しない).
 ACAM2000
  • 最初の連続接種初回が成功すると,接種部位に予防効果の証明のめやすとなる「しるし」が現れる.しかし,その病変は治癒するまで6週以上かかる.
  • 差し迫った渡航の場合,初期連続1回接種の完了は,Jynneos1回接種より有効性が大きい.
  • 複製能のあるワクチンで,希釈して使用すればワクチン供給の増大になる.
  • 冷蔵貯蔵はそれほど厳格に行わなくてもよい.
  • 天然痘に対して使用され,除去に成功した実績がある先行のワクシニアウイルスワクチンであるDryvaxの誘導体である:Jynneosには公衆衛生でのはっきりした実績はない.
互換性
  • エムポックスについては,Jynneosの方がより安全性が高いので,ACAM2000より望ましい.
  • 2つのワクチンは,追加投与が必要な場合には,互換性がある.初期2回連続接種をJynneosで始めた場合には,Jynneosで終了させねばならない.
  • エムポックス流行時にJynneos皮内注射で初回接種を受けた場合は,第2回で皮下注接種を受けてもよい.
  • 別の流行時,またはワクチン不足の場合には,初回接種の経路がどうであれ,第2回で皮内注射接種を受けてもよい.

副作用/禁忌,警告

禁忌
  • Jynneos
  • Jynneos(GM,CPFX,卵タンパク),ACAM2000,またはワクチンの添加剤に対するアナフィラキシー反応の既往がある場合には,さらなるワクチン接種や,そうした添加剤を含むワクチン接種は禁忌.流行時には,エムポックス重症化リスクの方がワクチン接種のリスクを上回ることがある.
  • Jynneos接種に上記以外の禁忌はない.
  • ACAM2000
  • アトピー性皮膚炎または他の剥離性皮膚疾患のある個人やその濃厚接触者に対する緊急性のないワクチン接種
  • 免疫機能不全(HIVを含む),自己免疫疾患,がん,放射線治療,免疫抑制薬,または他の免疫障害のある個人,またはその濃厚接触者
  • 妊婦,授乳中の女性,またはワクチン接種後28日以内に妊娠する可能性のある女性
  • 1つ以上の重症心疾患を有する個人
警告
  • 心筋症のリスクがあるため,小児および18歳未満の青少年に対するJynneos(こちらの方が望ましい)またはACAM2000の接種は注意が必要である.
  • 3つ以上の心リスク因子がある人については,Jynneos接種前に心臓専門医にコンサルトすること.
  • 中等症~重症急性疾患患者では(発熱の有無にかかわらず),改善するまでワクチンを延期する.
副作用
  • Jynneos
  • 米国の症例多発期の経験:全副作用600/100万回接種,重症副作用22/100万回接種
  • 心筋炎の症例は,通常の発症率を超えるものではない.
  • 予想外の副作用はなかった.
  • 臨床試験での18歳未満では,重症副作用はなかった.
  • ACAM2000
  • 三人に一人が不調のため仕事や学校を休んだり,レクリエーションを中止しなければならず,睡眠障害もみられた.
  • 心筋炎および心膜炎(自他覚症状:胸痛,トロポニン/心筋酵素の上昇,心電図異常)が,天然痘ワクチン接種後1,000例のうち5.7例で報告されている.
  • 種痘性湿疹(ワクシニア),ワクチン後脳症,進行性ワクシニア,その他のいくつかの致死性となる可能性のある反応がしばしばみられ,懸念されている.
薬物相互作用
  • Jynneosと他のワクチンの併用についてのデータはない.
  • ほとんどの他のワクチンについては,その接種タイミングとは関係なくJynneosを接種してもよい
  • エムポックス流行中の場合は,最近COVID-19mRNAワクチンを接種したからという理由でJynneosまたはACAM2000接種を延期してはならない.間隔をあける必要もない.
  • JynneosまたはACAM2000ワクチン接種を受けた場合は,COVID-19mRNAワクチンまたはノババックスは少なくとも4週接種を遅らせることを考慮する.
  • VIIVを最近接種した場合は,Jynneos接種を延期しなければならない(どれだけの間隔をおけば安全かについてのデータはない);こうしたことが起こるのはまれである.

特に注意の必要な対象

妊娠,授乳
  • 現在推奨はないが,上記のリスクを有する妊婦はJynneos接種をしてもよい.
  • Jynneosが人乳中に分泌されるかは不明だが,複製能はない.
  • 授乳中であるという理由でJynneos接種が禁忌になることはない.
免疫不全/HIV
  • HIVその他の免疫不全の危険がある人で,最近エムポックス曝露を受けたか,受ける可能性が予想される場合には,優先的に曝露前のワクチン接種を受けるべきである.
  • エムポックスに曝露した個人に対するワクチン接種には絶対的な禁忌はない.
  • 重度の免疫不全者がエムポックスウイルスに曝露した場合には,ワクチン接種の有用性はないが,抗ウイルス薬が直接に入手できなければJynneosが安全である.
  • 免疫機能が低下している個人およびその濃厚接触者または家庭内接触者はACAM2000の接種を受けてはならない.

コメント

  • 現在のJynneos製剤は冷凍の液剤で最適状態の長期保存は-90℃~-70℃で行う.温度が低いと保存期間は短くなる.
  • 長期保管場で-20℃から解凍した後,その場で2~8℃で4週間保管してもよい.
  • 凍結乾燥の製剤は,FDAはまだ承認していないが,超低温で保管する必要はない. Vaccine 41: 397, 2023
  • ACAM2000は-25℃~-15℃で長期保存が可能.
  • LC16化血研(LC16mS:KMバイオロジクス:乾燥細胞培養痘そうワクチン)は複製能を最小限にしたワクシニアウイルスワクチンであり,小児および成人について日本で承認され,入手可能となっている.
  • CNJ-016(VIGIV:Emergent BioSolution)は抗ワクシニア抗体を含んだIgG分画の精製であり,特に免疫不全者でのACAM2000のワクシニアウイルス合併症(種痘性湿疹,進行性ワクシニア,重症全身性ワクシニア)に承認された.
  • VIGIVは,エムポックスウイルスに曝露した重症免疫機能不全者での予防的使用を考慮してもよい.
  • 米国ではVIGIVは市販されていない.
  • すべての備蓄は戦略的国家備蓄にある.
  • 各州およびその他の公共の保健機関への配布はCDCが行う.
  • 関連項目参照
  • 他のリソース
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2024/06/25