日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

B型肝炎-治療  (2024/06/11 更新)


治療の適応

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染の治療.
  • HBV遺伝子は存在するとしても検出が難しい.HBs抗原陰性およびHBs抗体陰性ではHBc抗体の存在が唯一のエビデンスとなる.このような患者でははがん化学療法や移植のための免疫抑制によって再活性化の危険性がある.詳細はB型肝炎-再活性化を参照.

治療開始時期

  • 重要な指標は次のとおり:HBe抗原の状況,HBVウイルス量(HBV DNA),肝酵素の上昇(ALTレベル),肝硬変の有無.HBe抗原陽性患者の治療は,HBe抗原陽性が陰性となり自然にセロコンバージョンが観察されるまで3~6カ月保留するのが一般的である.
HBe
抗原
HBV DNA
(ウイルス量)
ALT
線維化*
治療**
コメント
陽性
>20,000
<2×ULN
F0~F2
経過観察
現在の治療は効果が低い:治療を行うかどうかの決定には生検が有用.高齢あるいは肝細胞がんの家族歴があれば治療するほうがよい.
陽性
>20,000
<2×ULN
F3~F4
治療:IFNまたは核酸アナログ
非代償性肝硬変ではIFNは使用しない
陽性
>20,000
>2×ULN
どの段階
でも
治療:IFNまたは核酸アナログ
IFNでセロコンバージョンしてHBe抗原, HBs抗原ともに陰性となる可能性が大きい.
陰性
<2,000
<1×ULN
どの段階
でも
経過観察
F4なら治療すべき場合もある.非代償性肝硬変ではIFNは使用しない
陰性
2,000~20,000
<2×ULN
F0~F2
経過観察

陰性
2,000~20,000
<2×ULN
F3~F4
治療:核酸アナログ(またはIFN)
HBeAg陰性なら核酸アナログのほうが好ましい.治療期間ははっきり決まっていない.確実に>1年は治療,長期治療(生涯)の可能性もあり.
陰性
>20,000
>2×ULN
どの段階
でも
治療:核酸アナログまたはIFN
HBe抗原陰性なら核酸アナログのほうが好ましい.治療期間は長期/生涯

ULN:基準値上限,IFN:インターフェロン

参考:AASLD HBV治療ガイドライン(AASLD practice guidelines),Hepatology 50: 1, 2009

*:肝生検またはFibroSURE検査は,いつどのように治療するかを決定するのに役に立つ.

**:治療の処方は次項に示す.


処方

  • 通常は単剤治療で十分.併用治療はHIV重複感染の場合に用いられる
 
薬剤/用量
コメント
好ましい処方
ペグインターフェロンα2a 180μg皮下注週1回,または
エンテカビル0.5mg経口1日1回,または
テノホビルアラフェナミド(TAF)25mg経口1日1回
ペグインターフェロン:48週治療.
エンテカビル:ラミブジン耐性があるなら用いない.
エンテカビル/テノホビル:HBe抗原から抗HBe抗体へのセロコンバージョン後,少なくとも24~48週治療.
HBe抗原陰性患者に対しては無期限の長期的治療.
腎機能障害の場合投与量調整が必要.
他の選択肢となる処方
ラミブジン100mg経口1日1回,または
エムトリシタビン200mg経口1日1回(研究中),または
アデホビル 10mg経口1日1回,または
テノホビルジソプロキシル(TDF)300mg経口1日1回
これら他の選択肢となる薬剤は併用治療以外ではほとんど使われない.用いる場合は,耐性発現率が高いので短期間の治療に限定する.第一選択治療としては推奨されない.アデホビルはほとんどテノホビルに代替された.
HIV-HBV重複感染での好ましい処方
ツルバダ(テノホビルジソプロキシル300mg/エムトリシタビン200mg)経口1日1回+他の抗HIV薬
抗HIV/抗HBV完全抑制処方の一部として,可能ならすべての患者を治療.治療は無期限に続ける.

予防

  • ワクチンの適応,使用可能な製剤,用量,曝露前予防に関するワクチンの特徴については,B型肝炎ワクチンを参照.

コメント

  • HBe抗原陽性患者での治療目標は,陽性から陰性へのセロコンバージョン(しかし,これが起こるのはまれ).HBe抗原陰性患者での目標はHBV DNAを<50IU/mLまで抑えること.
  • 1年治療後の持続的ウイルス反応のまとめを下に示す.注:HBe抗原消失率は低い.

PEG
-IFN 2a
3TC
ADF
ETV
TLBV
TDF
HBe抗原セロコンバージョン
27%
16~21%
12%
21%
22%
21%
HBV DNA<50IU/mL
25~63%
60~73%
51~64%
67~90%
60~88%
80~95%
ALT正常化
39%
41~75%
48~61%
68%
60%
77%
HBe抗原消失
3%
<1%
0
2%
<1%
3%
ウイルス耐性
0
15~30%
最小限
0
6%
0

Hepatology 45: 507, 2007から改変.
3TC:ラミブジン,ADF:アデホビル,ETV:エンテカビル,TLBV:Telbivudine,TDF:テノホビルジソプロキシル


  • HBV感染患者では全員,D型肝炎(HDVまたはデルタ)ウイルス感染の有無を評価する.
  • インターフェロンはHBe抗原陽性患者でもっとも有効.核酸アナログ薬に比べ,インターフェロンの方がHBe抗原陽性から陰性,HBs抗原陽性から陰性へのセロコンバージョン率が高い.
  • インターフェロン治療遺伝子型A(およびB)患者の治療にすぐれている.HBV DNAが低値,ALT高値,若年,女性などでは,いずれも高いセロコンバージョン率を示す.
  • HBe抗原から抗HBe抗体へとセロコンバージョンした患者で,追加の1年地固め治療を行うと,20%の患者で1~3年以内にHBe抗原陽性の状態になる逆セロコンバージョンが起こる.すべての患者で継続的なモニタリングが必要.
  • 注:HBV感染患者が化学療法や免疫調整薬治療を受けた場合,HBs抗原逆セロコンバージョン,HBV DNAの急上昇,肝臓の炎症/障害といった活動性HBV複製状態が引き起こされることがある!これはリツキシマブを用いている患者や幹細胞移植を受けた患者で特に懸念される.HBs抗原陽性患者および一部のHBs抗原陰性,抗HBs抗体陽性,抗HBc抗体陽性患者では,化学療法および/または免疫療法開始前に核酸アナログを用いることが推奨される.
  • 肝硬変,HBe抗原陽性,高齢,肝細胞がんの家族歴がある患者では全員,超音波±αフェト蛋白アッセイによる定期的な(6カ月ごとの)肝細胞がんスクリーニングを行う.
  • 耐性:ラミブジン,Telbivudine,アデホビルの単剤使用は高レベルの耐性出現と関連する.変異が頻繁に出現するため,治療期間は長くなる(>6カ月).総説:Lancet Infect Dis 12: 341, 2012
  • 併用療法:研究中.初期の研究では高いウイルス学的奏効率(HBV DNA<50IU/mL),HBe抗原セロコンバージョン,および耐性が生じにくい可能性が示された.耐性がすでに存在する場合や,HIV-HBV重複感染患者,進行した疾患および非代償性肝硬変以外では,第一選択としてはまだ推奨されない.
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2024/06/11