日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

A型肝炎,ワクチン  (2024/02/06 更新)


ワクチン接種の適応

標準コース(ルーチン)
  • 米国の1歳(すなわち,生後12~23ヵ月)の全小児
  • 男性同性愛者(MSM)
  • HIV陽性(CD4数にかかわらず)
  • B型肝炎,C型肝炎による肝障害
  • 不法薬剤使用者,研究者,慢性肝障害患者(以下を含むが,これに限るわけではない:肝硬変,肝脂肪疾患,アルコール性肝障害,自己免疫性肝炎,ALTまたはASTが正常上限の2倍以上),海外の養子との接触,ホームレス経験のある人,薬物使用者治療施設の従事者,薬物治療居住施設利用者,発達上障害のある人
  • 感染のリスク,あるいは妊娠中の感染に起因する重大な転帰をたどるリスクがある妊婦
  • 成人で,リスク因子はないが,A型肝炎予防を希望する人
海外渡航
  • 感染リスクのある全例(生後≧6ヵ月)発展途上国およびA型肝炎(HAV)感染リスクが中等度~高度な国に渡航する人,そこで働く/生活する人,特にそうした国々への頻回の渡航や長期滞在を予定する人など
流行状況
  • 地域および局地でのHAV流行期間には,高リスクのワクチン未接種者(たとえば,不法薬物使用者[静注または非静注],ホームレス体験のある人,MSM)あるいはHAVによる重症患者(たとえば,慢性肝障害患者またはHIV感染者)に対する曝露前ワクチン接種が推奨される.
商品名(製薬会社)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
年齢
用量,経路
初回接種スケジュール
第1回追加投与
それ以降の追加投与
Havrix(グラクソ・スミスクライン)
HepA, A型肝炎ワクチン,不活化
1~18歳

生後6~12ヵ月の渡航者
1
0.5mL(720ELISA単位)筋注
0,6~12ヵ月
なし
なし
  
  
≧19歳
1mL(1440ELISA単位)筋注
02,6~12ヵ月
なし
なし
Vapta(メルク& Co., Inc.)
A型肝炎ワクチン,不活化
1~18歳

生後6~12ヵ月の渡航者
1
0.5mL(25単位)筋注
0,6~18ヵ月
なし
なし
  
  
≧19歳
1mL(50単位)筋注
02,6~18ヵ月
なし
なし
Twinrix(グラクソ・スミスクライン)
A型肝炎-B型肝炎混合ワクチン(組み替え:HepA-HepB)
≧18歳(標準コース)
1mL(720 ELU HAV+20pg HBsAg),筋注
0,1,6ヵ月
なし
なし
  
  
≧18歳(短縮コース)3
1mL(720 ELU HAV+20μg HBsAg),筋注
0,7,21~30日
12ヵ月
なし
  1. 小児の渡航者は,生後6~11ヵ月:1回(非加算).生後≧12ヵ月:ルーチンスケジュールにしたがって適当な用量を2回追加接種.
  2. ほとんどの健常者では,渡航前であればどの時点での1回接種でも十分な予防効果が得られる.
  3. Twinrix1回のHAV抗原成分は一価HepA成人用ワクチン1回の半分であるため,渡航前に少なくとも2回接種ができない場合には,このスケジュールを使用しないこと.

有効性,予防効果持続期間/互換性

有効性
  • ワクチン2回接種後,被接種者の100%近く(小児および成人)が4週間以内にセロコンバージョンを起こし,第2回接種の1ヵ月後には100%となった.
  • 成人ワクチン被接種者の>90%で防御抗体は>40年持続すると推定されるが,正確な予防期間は不明である.
  • 成人被接種者の研究データでは,接種後20年で>97%が抗HAV抗体血清陽性である.
  • 数学的なモデルでは抗HAV抗体血清陽性が30年維持されるのは≧95%,40年維持は≧90%と予測される.
  • 年齢≧40歳での免疫反応は,第1回接種の1ヵ月後,2ヵ月後では20~30歳と同等(それぞれ,91~99.7%,95.3~100%)だが,接種後15日でのセロコンバージョン率は20~30歳の方が年齢≧40歳成人よりも高かった(92.3%対79.7%).
選択,互換性
  • どちらの製品も免疫原性が高く,臨床的に問題となるような差異はない.
  • 接種は2回とも同じ製品で行わなければならないが,もし同じ製品を使うことができない場合は,スケジュールを遅らせることなく別の製品での接種を行う.

毒性

禁忌
  • 以前のワクチン接種での,またはワクチン含有成分(ネオマイシンを含む)に対するアナフィラキシー反応があった場合,それ以降,そのワクチンまたはそれらの成分を含むすべてのワクチンの接種は禁忌.
警告
  • 定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.
  • 中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず).
副作用
  • HepAワクチンの副作用は局所的,軽度で一過性.重大な有害事象は観察されていない.
  • 免疫グロブリン筋注(IGIM)の副作用としては,注射部位の反応や塞栓症があり,通常のリスク因子がない場合でも起こることがある.
薬物相互作用
  • HepA-HepB混合ワクチンは,どの抗体含有製剤とも同時(または前後のどの時点でも)併用可能.
  • HepA予防のために使用するIGIMおよびMMRワクチンは同時併用してはならない.生ワクチン(たとえば,MMR,水痘ワクチン)はIG接種の少なくとも2週前あるいは少なくとも6ヵ月後に接種する.

特に注意が必要な対象

妊婦,授乳
  • 妊婦にHepA含有ワクチンを接種した場合の胎児へのリスクについてはエビデンスがない.
  • 妊娠中にHAV感染リスクがある妊婦(渡航者を含む)は,それ以外の点で適応があるならば,接種をしなければならない.
  • Hep-A含有ワクチンの接種は授乳の禁忌ではなく,母子になんらのリスクも加えない.
免疫不全/HIV
  • HIV陽性者,B型肝炎,C型肝炎の肝疾患患者では標準コース接種
  • 免疫抑制剤(TNF阻害薬を含む)による治療を受けている免疫不全者は,HepAワクチン1回接種後にはセロコンバージョンが不十分なことがある.
  • A型肝炎のリスクが高いCD4数<200のHIV患者:ただちに接種し,コース後に力価チェックを行う.A型肝炎リスクが低い場合には,CD4>200となるまで待って力価チェック.
  • 力価が不十分な場合:どの場合もCD4>200となるまで待ってから再接種
  • そうした人は,渡航前に6ヵ月にわたってHepAワクチン接種を2回受けるのが理想的である.
  • 多くの経験豊かな臨床家たちは,限られたデータに基づき,時間の制限のある渡航者には,第1回接種の少なくとも4週後に第2回接種を行っている.第1回接種後<6ヵ月の場合は,連続接種の回数には加算されない.これもデータは乏しいが,むしろ,標準抗原用量を倍にするか,追加接種を行うと免疫反応が増大することがある.
  • 造血幹細胞移植を受けた人は,移植後にワクチン再接種を受けなければならない.
  • 免疫器官でない固形臓器(たとえば肝臓)移植の待機患者はHepAワクチン連続接種を受けなければならない.

血清検査

ワクチン接種前
  • まれではあるが,以下のような場合には検討されることがある.
  • HAV有病率が高~中の地域の生まれ,または長期間そこで生活していた人
  • アメリカ原住民,アラスカ原住民,ヒスパニックの年長の青年または成人
  • 男性同性愛者(MSM)および静注薬使用者
ワクチン接種後
  • 成人および小児でのワクチン反応が高率なため,通常は適応とならない.
  • 免疫不全またはHIV感染者で,第2回連続接種が適応となり,初回連続接種完了1ヵ月後の抗体価が不明の場合には考慮してもよい.

コメント

  • 海外渡航のための曝露前予防の選択肢としては弱い,渡航直前ならIGIMを接種しなければならない.
  • 1ヵ月未満の滞在:0.1mL/kg IGIM
  • 1ヵ月以上・2ヵ月以内の滞在:0.2mL/kg IGIM
  • 2ヵ月超の滞在:滞在期間中2ヵ月ごとに0.2mL/kg IGIMを繰り返す
  • HIV陽性で渡航まで<2週の場合はIGIMを考慮する.
  • 生後≧12ヵ月の曝露後予防には,HepAワクチンの年齢に応じた用量1回接種の方がIGIMより望ましく,可能な限り速やかに,理想的には曝露後2週以内に接種する.
  • 他の選択肢:生後<12ヵ月で,HepAワクチンが使用できない場合は,IGIM 0.1mL/kg1回接種
  • 40歳以上,HIV陽性,免疫不全者には,リスク評価に基づいて両剤とも投与可能である.
  • 米国以外では,不活性化HepAとVi莢膜多糖腸チフスワクチンの混合製剤が何種類か使用可能になっている.
  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
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2024/02/06