日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

B型肝炎ワクチン  (2024/04/02 更新)
Hep B,HBV,HepA-HepB


ワクチンの適応

標準コース(ルーチン)
  • <19歳の小児
  • とりわけ,HBsAg陽性,あるいはHBsAg状態が不明の母親から生まれた乳児
  • 19~59歳でワクチン未接種または免疫性がない(3検体パネル陰性;HBsAb陰性,HBsAg陰性,HBcAb陰性)全成人
  • 薬局などの施設で,3検体パネル検査が利用できない場合は,HepBコースを開始して,その後で検査を依頼しなければならない.
  • ≧60歳で,以下のようなリスク因子のある人は,HBVワクチン連続コースを完了しなければならない
  • 糖尿病(共同意思決定支援)
  • HIV
  • C型肝炎
  • 血液透析または血液透析適応
  • 静注薬使用者
  • 慢性肝疾患
  • 移植レシピエント(移植可能な移植待機の患者)
  • 男性同性愛者(MSM)
  • HBV陽性のパートナーまたは同居者
  • 複数のセックスパートナー
  • 投獄されている人
  • 年齢60歳以上では,はっきりしたリスク因子がなくても,HBVワクチンコースを完了させるべきとの要求がある場合.
  • 臨床医は,>60歳の全患者に対してHepB使用の相談を行うべきである.
海外渡航
  • ワクチン未接種者または免疫のない渡航者には特に推奨される
  • HBV感染リスクの高い地域への渡航,とりわけ長く滞在する,または短期滞在を多数回繰り返す場合
  • 下記のリスク因子が1つでもある場合
  • ・滞在中に新しいセックスパートナーを作る可能性がある
  • ・現地の医療機関で医学的または歯科的治療を受ける可能性がある
  • ・内科的疾患がある人,または冒険旅行者
  • ・入れ墨,ボディピアス,針治療を受ける可能性がある
  • ・医療従事者
  • ・地区または公共の交通機関を頻繁に利用する可能性がある
用量とスケジュール
商品名(製造元)
ワクチン
(タイプ;CDC略語)
年齢
用量,
接種経路
初期接種
スケジュール
第1回
追加接種
(非反応者で
ない場合)
その後の
追加接種
Heplisav-B
(Dynavax)
B型肝炎ワクチン(組み替え+新規CpGアジュバント,HepB-CpG)
>18歳
0.5mL(20μg HBsAg),筋注
0,1ヵ月
なし
なし
Engerix-B
(グラクソ・スミスクライン)
母親がHBsAg陽性とわかっているなら,生後12時間以内にHBIGを追加
B型肝炎ワクチン(組み替え,HepB)
0~19歳
(標準コース)
0.5mL(10μg HBsAg),筋注
0,1~2,6~18ヵ月(4ヵ月で第3回を接種してもよい)
なし
なし
  
  
≧20歳
(標準コース)
1mL(20μg HBsAg),筋注
0,1,6ヵ月(4ヵ月で第3回を接種してもよい)1
なし
なし
  
  
0~10歳
(短縮コース)
0.5mL(10μg HBsAg),筋注
0,1,2ヵ月
12ヵ月
なし
  
  
11~19歳
(短縮コース)
1mL(20μg HBsAg),筋注
0,1,2ヵ月
12ヵ月
なし
  
  
≧20歳
(短縮コース)
1mL(20μg HBsAg)
0,1,2ヵ月
12ヵ月
なし
Recombivax HB(メルク)
母親がHBsAg陽性とわかっているなら,生後12時間以内にHBIGを追加
B型肝炎ワクチン(組み替え:HepB)
0~19歳
(標準コース)
0.5mL(5μg HBsAg),筋注
0,1,6~18ヵ月(4ヵ月で第3回を接種してもよい)1
なし
なし
  
  
≧20歳
(標準コース)
1mL(10μg HBsAg),筋注
0,1,6ヵ月(4ヵ月で第3回を接種してもよい)
なし
なし
  
  
11~15歳
(青少年,短縮コース)
1mL(10μg HBsAg),筋注
0,4~6ヵ月
なし
なし
PreHevbrio
(VBI)
B型肝炎ワクチン(組み替え,3種抗原 S,pre-S1,pre-S2;CDC略語検討中)
>18歳
(標準コース)
1mL(10μg 全HBsAg),筋注
0,1,6ヵ月
なし
なし
Twinrix
(グラクソ・スミスクライン)
A型肝炎・B型肝炎混合ワクチン(組み替え;HepA-HepB)
≧18歳
(標準コース)
1mL(720 ELU HAV+20μg HBsAg),筋注
0,1,6ヵ月
なし
なし
≧18歳
(短縮コース)
1mL(720 ELU HAV+20μg HBsAg),筋注
0,7,21~30日
12ヵ月
なし
  1. 理想的には0日で,退院前の出産時.RecombivaxHBとEngerixBの最短間隔:第1回接種~第2回接種:4週/第2回接種~第3回接種:8週/第1回~第3回:16週.第3回接種での乳児の最小年齢は生後24週.

有効性,予防効果持続期間

標準的組み替えワクチン
  • 乳児:健常乳児での抗体保有は95%.
  • 成人:<40歳の健常成人の第1回接種後の抗体保有は30~55%,第2回接種後は75%,第3回接種後は90%以上.
  • 年齢とともに反応率は低下し,60歳までの抗体保有は75%.
  • T細胞・B細胞記憶のため,HBV感染に対する免疫は,抗HBs濃度が10mIU/mL以下に低下しても,数十年は持続する.
  • ワクチン接種者の90%超は接種後30年は抗体を保有.
  • HBVに対するHepA-HepBワクチンによる抗体保有は,3回接種スケジュール完了後1ヵ月で98.5%.
新たに承認されたワクチン
  • Heplisav-B2回接種後にHepB-CpBを接種した健常例での抗体保有は,Engerix-Bの3回接種(6ヵ月以上かけて)と比較した場合に以下のとおり:18~55歳では95%対81%;40~70歳では90%対71%.糖尿病患者でもHeplisav-Bの方がEngerixよりも反応が高かった.
  • 3種抗原ワクチンPreHevbio(S, pre-S,Pre-S1;他のHepBワクチンは1種抗原)は,Engerix-Bに比べて,すべての対象者(≧18歳)で血清陽性率が高く(91.4%対76.5%),≧45歳でも同様であった(98.4%対73.1%).JAMA Netw Open 4: e2128652
  • Engerixと比較して,高反応者では血清保有がより長く持続する可能性がある:Vaccine 41: 3584, 2023
  • 現在のデータに基づき,ACPグレード分析では,他のHepBワクチンに対して全般的に非劣性と結論づけている.
  • 従来HepBに対する反応が乏しかった対象集団で,Heplisav-BおよびPreHevbrioのどちらも高いセロコンバージョン率を示した.
  • Engerix-BおよびRecombivax-HBの免疫反応は,40歳以降徐々に低下する.肥満または糖尿病のある人々では,より低くなる可能性がある.

選択,互換性

選択
  • 血液透析患者,免疫不全,HIV患者に対して,多くの臨床家は標準的な組み替えワクチンの2倍用量よりもアジュバント含有Heplisav-Bの方を多用している.
  • Heplisav-Bに非反応ならば,標準処方の2倍用量の第2連続接種を行う.
  • 渡航者については,ほとんどの場合,渡航前診療が渡航<6ヵ月であるため,Heplisav-Bの1ヵ月以上かけて2回接種が現在では多用されている.
  • Twinrix短縮コースは現在では好まれない.
  • 出発が差し迫っている場合,CDCの4日猶予期間ルールを適応して,24日目から第Hepsav-Bの2回接種をすることがある.
  • Hep B製剤を混用することは,非常に複雑で患者が接種完了を誤解することがあるために避ける.
互換性
  • 混合ワクチンの効果と安全性は,同じ製造元で以前に認可された同じ抗原成分による一価製品または混合製品と同様であり,ワクチン接種シリーズを継続するために交換して使用することもできる
  • 成人では,HepBワクチン接種シリーズは以下のような構成となる
  • 2回接種となるのは,どちらもHeplisav-Bである場合のみ
  • Engerix-BまたはRecombivax HBが何回目かに使用されたら,3回接種
  • Heplisav-Bが1回使用されたら,3回連続投与を最小の投与期間で行わなければならない(第1回と第2回の間が4週,第2回と第3回の間が8週,第1回と第3回の間が16週).
  • 最初の1回の接種で使用されたのがEngerix BまたはRecombivax HBであっても,少なくとも28日あけてのHeplisav-B 2回接種は正当である.
  • HepBワクチン接種シリーズの何回目かをTwinrix1回接種に代えてもよい(ただしHepA接種シリーズには代えられない).成人HepBワクチンとTwinrixでの3回接種の組み合わせは,HepBワクチン接種シリーズの完了となる.

毒性

  • HepBワクチンは組み替えワクチンであり,ヒト血漿からの抽出物ではない.
    
禁忌
  • 以下の記述はHepBおよびHepA-HepB(Twinrix)について
  • 以前のワクチン接種後の,またはワクチン成分に対するアナフィラキシー
  • 酵母アレルギー(酵母を含有していないのはPreHevbrioだけ)
警告(定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.)
  • 以下の記述はHepBおよびHepA-HepB(Twinrix)について
  • 中等症または重症急性患者(発熱のあるなしにかかわらず)
  • PreHevbrioは酵母を含んでいない唯一のワクチンでであり,このため酵母アレルギーの被接種者にも安全である.
副作用
  • 多いのは,接種部位の痛み,発熱,局所の圧痛,痛み,発赤および/またはかゆみ.すべて軽度の副作用.
  • HepA-HepBの副作用は,成分のそれぞれと同じ.
  • HepB-CpGの28日以内の副作用は,アジュバントがあってもEngerix-Bと同じ.
  • HepBワクチン接種といくつかの神経学的,慢性的,自己免疫性疾患との因果関係は証明されていない.
薬物相互作用
  • ワクチン接種シリーズに使用する製剤は同一の製造元のものでなければならないが,医療提供者はワクチン接種を延期せず,入手可能なワクチンを接種すべき.
  • HepB含有ワクチンは抗体含有製剤と同時に(または前または後のいずれかのときに)併用してもよいが,接種部位は別にしなければならない.
  • 一部の血液センターでは,ワクチン接種から献血まで21日の期間を置かなければならないことになっている.
  • アジュバント含有ワクチン(たとえば,Heplisav-B,Shingrix,Fluad(インフルエンザワクチン)は,より重度の副作用と関連することがある.1剤以上のアジュバント含有ワクチンが必要な場合には,アジュバント含有ワクチンを四肢の別のところに注射するか,数日置いて接種するようにする.

特に注意が必要な対象

妊婦,授乳
  • Heplisav-BおよびPreHevbrioの母乳栄養乳児,乳汁産生と乳汁中への薬剤排出に対する影響に関するデータはない.
  • Heplisav-BおよびPreHevbrioに関するデータは不十分であるため,現在のところは妊婦に対しては推奨されない
  • 妊婦にはEngerix-B,Recombivax HB,Twinrixの接種を行う.
免疫不全/HIV
  • 血液透析患者および他の免疫不全患者(HIV感染者も全て含め)は以下の高用量(抗原量増量)処方での1回接種を受けなければならない
  • <20歳
  • Recombivax HB(5μg)1回接種を0,1,6ヵ月(それぞれ0.5mL)
  • Engeric-B(10μg)1回を0,1,2,6ヵ月(それぞれ0.5mL)
  • ≧20歳
  • Recombivax HB透析用製剤(40μg/mL)1回を0,1,6ヵ月(それぞれ1mL)
  • Engerix-B(20μg/mL)を0,1,2,6ヵ月(4回接種)の来院ごとに2回分(各1mLずつ),合計が40μg(2mLを1回または1mLを2回注射)となるように接種.
  • Heplisav-B 1回(0.5mLずつ)をルーチンスケジュールに従って0および28日.こうした患者でのHeplisav-Bの安全性と有効性についてのデータはなく(臨床試験が進行中),適応外処方となるが,多くの移植専門医には好まれている.2回接種処方は非常に実際的.
  • 血液透析の成人患者でのPreHevbrioの安全性と有効性は確立されていない.
  • 下記血清検査を参照

血清検査

ワクチン接種前
  • すべての成人は,ワクチン接種歴にかかわらず,3検体パネル検査(HBs抗原,抗HBs,抗HBc)を用いたスクリーニングを1回受けなければならない.
  • スクリーニングを必要とする医療従事者,抗HBsだけでなく3検体パネル検査をうけなければならない.
  • 妊婦は,検査歴あるいはワクチン接種歴にかかわらず,各妊娠の期間中にHBs抗原検査を受けなければならない.
  • 1回のスクリーニング後,ワクチン未接種者,リスクが持続している感受性ある人は,定期的に検査を受けなければならない
  • 機会の喪失を避けるため,スクリーニングの直後(同じ診療日)にHepB接種を行う
  • 血清検査により,その後のワクチン接種が不要となったら,第1回接種後にワクチン接種コースは中断してよい.
  • 抗HBs陰性は,ワクチン接種後数年でテストした場合に多くみられる結果であり,ワクチン再接種は必要でない.多くの健常人は,曝露があっても,疾患から保護されていると安心してよい.
ワクチン接種後
  • 以下にあげるような,将来の治療のために免疫状態を知る必要のある人,または低い免疫反応しか予想されない人以外では検査はルーチンには推奨されない
  • 医療従事者および公衆衛生関連の職員
  • 透析患者
  • HIV患者
  • 免疫不全者
  • HBsAg陽性者のセックスパートナー
  • HBsAg陽性または不明の母親から生まれた乳児
  • 検査は,ワクチン連続接種の1~2ヵ月後に行わなければならない.
  • 免疫機能正常で力価≧10mIU/mLなら,追加接種も血清検査も必要ない.
  • HIV陽性,免疫不全で力価≧10mIU/mLの場合,一部の専門家は,HBV感染高リスクが持続していれば,年1回検査を推奨している.
  • 血液透析患者は年1回抗HBs検査を受けなければならず,抗HBsが10mIU/mLより低下した場合は必ず追加接種を受けなければならない
  • 毎回ワクチン再接種後に力価チェックすることは推奨されない
  • 抗HBsが初回接種後に≦10mIU/mLの非反応者は2回または3回のHepBワクチン接種を繰り返して完了させなければならず(4週ずつあけて3回となるだろう),その後最終接種の1~2ヵ月後に検査を行う.
  • 反応があれば,これ以上の対応は必要ない.
  • HIV:一部の専門家は40μg2回接種コース4回を0,1,2,6に行っているが,これを支持するエビデンスは弱い.
  • HIV:CD4>200となるまで再接種コースの延期を考慮する.
  • 接種コースを繰り返した後でも反応がないなら,真の非反応者である
  • コース完了後に推奨された2ヵ月よりもかなり遅れて検査が行われた場合は,HepBをさらに1回接種して,その後1~2ヵ月で検査を行う.
  • 力価≧10mIU/mLならば,さらなる抗体検査も追加接種も不要.
  • 力価<10mIU/mLならば,未完了の2回または3回のB型肝炎ワクチン接種シリーズを完了させ,最終接種後上記と同様に1~2ヵ月後に力価を測定する.
  • 2シリーズ以上のHepBワクチン接種シリーズを行うことは,一般的には推奨されないが,血液透析患者は例外.

コメント

  • HepBおよび/またはHBIGによるHBV感染の曝露後予防(職業的,性的,非職業的)は,曝露前のワクチン接種状況および曝露後の検査結果に基づく.
  • ワクチン接種が完了しており,反応者である記録がある場合には,検査もワクチン接種も不要.
  • テノホビルまたはラミブジン使用中の免疫のないHIV患者が漠御された場合には,HBIGは不要のことがある.
  • 5価小児用ワクチン(Pediarix,Vaxelis)は,年齢に応じた量のHepB成分を含んでいて,接種スケジュールが異なる.
  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
  • 情報源
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2024/05/27