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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
脳(神経)嚢虫症
(
2024/04/09 更新
)
条虫幼虫の感染
臨床状況
有鉤条虫(
Taenia solium
:ブタ条虫)の幼虫期
流行地域,特にラテンアメリカからの成人患者では,けいれんの原因としてもっとも多い.
ブタ肉の摂取ではなく,条虫保有者からの卵により感染する.
臨床的に異なるいくつかのタイプがあり,それぞれ異なる治療アプローチが必要.
脳実質の嚢虫症(NCC)
CT/MRI で「活動性」の嚢胞.メタアナリシス:治療により嚢胞が消失すると,けいれん発作とその再発が減少.
変性した嚢胞
死んで石灰化した嚢胞(抗寄生虫薬治療は適応にならない),ただしコントロールの難しいけいれんが何度も起こることがある.
クモ膜下のNCC
脳室内のNCC
脊髄および眼内嚢虫(まれだが,他の部位で囊胞が検出された場合には,嚢虫を探すこと)
薬剤によって眼内嚢虫が死ぬと炎症性の視力障害が起こるため,薬物治療前に眼科以外の医師による検眼鏡検査で眼内嚢虫の存在を除外する.眼科以外の医師による検眼鏡で何も確認できなければ,嚢虫の存在は除外してよい.
抗寄生虫薬の使用は決して急がないこと.まずは発作と頭蓋内圧をコントロールすること.
レベチラセタムはフェニトインやカルバマゼピンよりも忍容性が良好で,望ましい.
限られた数のランダム化比較試験に基づくガイドライン.2017ASTMH/IDSA診断と治療のガイドライン(
Clin Infect Dis 66: 1159, 2018
),および
2021年のWHOガイドライン
.
最近の総説:
Curr Opin Infect Dis 35: 246, 2022
.
病原体/診断
診断
CTとMRIの両方を行う.
画像上で脳実質内に頭節が認められれば診断確定のため,血清学検査は不要.
EITB(Enzyme-linked immunoelectrotransfer blot)法が望ましい.ELISA法は感度,特異度ともに低い.
EITB法はCDCが検証したピアレビュー論文で実施されている.
血清学検査は単独病変,石灰化病変に対しては感度が低い.多発性脳実質病変,クモ膜下NCC,脳室内NCCについては血清学検査の感度は約100%である.
脳脊髄液検査に血清学検査を上回る利点はない.
抗体検出のためのポイントオブケア迅速検査が開発中:
Lancet Infect Dis S1473, 2023
.
非流行地では,診断例の家庭内接触者の便を検査し,条虫卵の有無を確認する.
クモ膜下病変をフォローアップするための抗原検査とPCRが開発中である.
重症で長期ステロイド治療が必要となる可能性がある場合には,治療に先立って結核,糞線虫症の検査を行うこと.
病原体
Taenia solium
(有鉤条虫)
第一選択
脳実質の嚢虫症(NCC)(1~20個の活動性および/または変性した嚢胞)
[
アルベンダゾール
15mg/kg/日(最大1200mg/日)+
プラジカンテル
50mg/kg/日+デキサメタゾン 0.1mg/kg/日(またはプレドニゾン 1mg/kg/日)・抗寄生虫薬開始1日前から開始]・10日±必要なら抗けいれん薬・最低2年(
Lancet Infect Dis 14: 687, 2014
).
10日後からステロイドをゆっくり減量,けいれんが起きた場合は再び増量する.
生きた嚢虫が残存している場合は6カ月後に再治療.
MRIで確認された嚢胞が1~2なら,アルベンダゾール(最大1200mg/日)のみで十分.
脳実質病変の数が多ければ,抗寄生虫薬>30日.
単独病変では6ヵ月,複数病変では2年間けいれんが起こらなければ,その後は抗けいれん薬を中止してよい.
死んで石灰化した嚢胞のみの場合:抗寄生虫薬治療は不要±必要なら抗けいれん薬・最低1年
数百から数千の炎症性または非炎症性嚢胞を伴う多数の脳実質NCC(まれ).ステロイドのみ(デキサメタゾン 0.2~0.4mg/kg/日)を用い,抗寄生虫薬はほとんどの場合禁忌.専門家に相談すること(
PLoS Negl Trop Dis 15: e0009883, 2021
).
脳室内の嚢虫症:神経内視鏡による除去
クモ膜下の嚢虫症(ブドウ状):
アルベンダゾール
15mg/kg/日(最大1200mg/日)+デキサメタゾン(上記同様,ゆっくりと減量)+
アルベンダゾール
治療に先立ってV-Pシャント.30日治療,臨床症状およびMRI上の進行により複数回または数カ月にわたる治療が必要となることもある(
Curr Opin Infect Dis 33: 339, 2020
).放射線画像上で治癒が認められ,(可能ならば)抗原が検出されなくなるまで継続(
Am J Trop Med Hyg 102: 78, 2020
).経験をつんだ医師による頭蓋内圧モニターとコントロールが必要である.びまん性脳浮腫または頭蓋内圧亢進があれば,抗寄生虫薬治療に先だってステロイドまたはシャントを行う.
T. solium
腸管条虫が存在する場合:
ステロイド治療を開始した後で
プラジカンテル
5~10mg/kg経口1回.
第二選択
脳実質の嚢虫症:
アルベンダゾール
+デキサメタゾン(上記同様),プラジカンテルは用いない.
デキサメタゾンを8mg/kg/日・28日に増量し,その後2週間かけて減量することでけいれん発作が減少する.ただし限られたデータしかなく,ステロイド曝露期間は長くなる:
Epilepsia 55: 1452, 2014
.
脳室内の嚢虫症:
アルベンダゾール
+デキサメタゾン(上記同様)+神経内視鏡が使えない場合は,治療に先立ってV-Pシャント
クモ膜下の嚢虫症:難治性の場合は,長期の
アルベンダゾール
/
プラジカンテル
併用療法.
コメント
ランダム化比較試験で,脳実質の疾患に対するアルベンダゾール/プラジカンテル併用治療は単剤治療に比べ劇的に優れていた(
Lancet Infect Dis 14: 687, 2014
;
Clin Infect Dis 62: 1375, 2016
).
抗寄生虫薬治療後に寛解し1年までに石灰化した脳実質嚢胞の約38%が,残存するけいれん発作のリスクを上昇させる.ステロイドを増量または投与期間を延長する処方が研究中である(
Clin Infect Dis 73: e2592, 2021
).
まず抗てんかん薬でけいれんの治療を行う.抗けいれん薬の使用は症例に応じるが,単一の病変しかなく,その嚢胞が抗寄生虫薬治療で消失した患者では,6~12カ月で抗けいれん薬を中止してもよい.ただし嚢胞が石灰化している場合には長期の抗けいれん薬使用が有用なようだ(
PLoS Negl Trop Dis 15: e0009193, 2021
).
抗寄生虫薬治療を開始すると症状が一過性に悪化することがある.多数の高度の炎症浮腫を伴う脳実質病変では,抗寄生虫薬を使用する前に,数週~数カ月ステロイドおよび抗けいれん薬での症状コントロールを行うこと.
アルベンダゾールを長期にわたって使用する場合は,2週ごとに全血算および肝機能検査を行うこと.
クモ膜下疾患については,アルベンダゾールを15mg/日から最大1200mg/日まで増量する専門家もいる(FDA未承認).臨床試験データはない.
プラジカンテルは,嚢胞に対する活性がアルベンダゾールより低い.ステロイドにより血清プラジカンテル濃度が減少する.
クモ膜下NCCのように長期治療が必要な場合には,メトトレキサート≦20mg/週でステロイドを減量できることがある(
Clin Infect Dis 44: 549, 2007
).
嚢虫症はときとして中枢神経病変を起こさず,筋肉や皮下組織に発見されることがある.条虫がいなければ治療の必要はない.
アルベンダゾール200mg錠はExpert Compounding Pharmacyから入手可(
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
参照).
アルベンダゾールのジェネリック(Albenza)はAmnealから販売されているが,薬価が非常に高く,一般の薬局からは入手しにくい.
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2024/04/08