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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
エキノコックス
(
2024/01/30 更新
)
臨床状況
数年~数十年の年月をかけてゆっくり広がり,大きな1つの,あるいは数多くの嚢胞を肝臓や肺に形成する.
肝臓が最も多い.
脳,心臓,膵臓,腎臓に発症することはまれ.
嚢胞が自然にあるいは医原的に破れて体腔内に広がることもある.
胆道系,気管支,肺血管など,他の器官が易感染性でなければ,無症候のまま.
感染やアナフィラキシーによる破裂の後,隣接臓器(たとえば胆道系,腸,気管支)へのフィステル形成が起こることがある.
呼吸器に病変が及ぶと,胸痛,咳,喀血をきたすことがある.
肺胞性包虫症(
E. multilocularis
のみ)は,局所侵襲的という点で悪性腫瘍に類似する.
Echinococcus granulosus
は,イヌの糞で汚染された物質を介して伝播される.
病原体/診断
病原体
Echinococcus granulosus
(包虫症).
E. canadensis
(命名について十分な合意はされていない)などの遺伝子型/株がいくつかある
Echinococcus multilocularis
(肺胞性嚢胞疾患)
主にヨーロッパ:まれだが米国(バーモント,アラスカ)およびカナダでも報告があり,問題になる可能性がある:
Clin Infect Dis 72: 1124, 2021
;
N Engl J Med 381: 384, 2016
.
Echinococcus vogeli
および
E. oligarthrus
(多嚢性疾患)
診断
多くの場合画像による診断.超音波診断がステージ分類において重要.
血清学的検査の感度は嚢胞がある部位によって大きく異なる.肝嚢胞では60~90%だが,肺,脳,脾臓の嚢胞では50%未満である.他の蠕虫との交差反応により偽陽性が起こる.ウエスタンブロットでは特異度が上昇.
アナフィラキシーを避けるために,専門家による肝(肺ではない)針生検が可能.
第一選択
包虫症(
Clin Microbiol Rev 32: e00075, 2019
;
Curr Opin Infect Dis 31: 383, 2018
).両試験ともに画像(超音波)によるステージ分類後,以下に示すような,適切かつ特定の治療が行われた.
肝嚢胞
<5cmのCE1,CE3a嚢胞,または<5cmのCE2,CE3b嚢胞で可能なら,アルベンダゾール400mg経口1日2回・3~6カ月を考慮し,反応を評価する.反応率30~50%.
■アルベンダゾールは囊胞を軟化させ,アレルギーの原因となる内容物をゆっくりと漏出させるため,アナフィラキシーを引き起こす可能性がある.コルチコステロイドによる長期治療が必要となることがある.
合併症のない5~10cmのCE1,CE3a嚢胞(内部の娘嚢胞ではない):経皮的吸引-注入-再吸引(PAIR)+
アルベンダゾール
.ドレナージ前後に
アルベンダゾール
:体重≧60kgでは400mg経口1日2回,<60kgでは15mg/kg/日1日2回に分割,計少なくとも30日.PAIRでのアナフィラキシー発症率は1.6%.
■吸引後およびscolocidal薬注入前に造影剤を注入し,胆管との交通を有しないことを確認する.
CE2,CE3b囊胞には多くのコンパートメント(小胞)があり,それぞれ個別に穿刺する必要がある.
■生殖細胞層を破壊することを目的として行うPAIRの後には再発することが多いが,しかし嚢胞を膜外に排出させないようにしてはならない.
■もう一つに,大口径カテーテルを用いて嚢胞全体を排出する方法がある.これは一般に,排膿が困難な嚢胞やPAIR後に再発しやすい嚢胞(娘嚢胞を含む可能性がある)の管理として行われている.
■上記2つの方法に補助的アルベンダゾールを併用する.
■現在のところ,これらの膿疱に対しては手術が望ましい.
5~10cmのCE2,CE3b嚢胞および10cm以上のすべての生きた嚢胞に対しては,外科的切除(必ず経験をつんだ外科医が行う)+アルベンダゾール・手術1週前から開始して手術後4週まで.合併症,多数の小胞,または感染した嚢胞がある場合は,ほとんどで外科的介入が必要となる.>7.5cmの大きな肝嚢胞は胆管感染に関連する可能性が高いため,手術が必要.
腹腔鏡および大口径での腹腔鏡アプローチは,蔓延地域でさらに発展している.
無症候になるか,または縮小しない嚢胞であるかを経過観察してアドバイスする.
死んだ嚢胞(CE4およびCE5)に対しては治療不要.
肺嚢胞
外科的切除.手術前のアルベンダゾール処方は避ける.手術後にはアルベンダゾール 400mg経口1日2回・最低28日を用いてもよい.嚢胞が破裂した場合や合併症を起こした場合は,より長期の治療が必要となることがある.
■PAIRを肺嚢胞やあらゆる肝外囊胞に行わないこと.
播種性病変:アルベンダゾール 400mg経口1日2回・臨床反応が得られるまで無期限に続ける.可能なら定期的に病変の除去手術を行う.
肺胞性嚢胞疾患
アルベンダゾール
の効果ははっきりとは証明されていないが,手術できない場合にHydatid diseaseに対する用量で用いてもよい.
広範囲の外科的切除だけが信頼できる治療であり,技術は発達しつつある(
Am J Med 118: 195, 2005
;
Acta Trop 114: 1, 2010
).
コメント
比較試験は行われておらず,専門家のあいだでもさまざまに異なる意見がある.画像上の嚢胞の性状(嚢胞の型,位置,大きさ,合併症など)により薬物治療または外科的介入の治療適応が異なる.
嚢胞治療後,所見が安定するまでCT/MRIを3ヵ月ごとに行い,最低5年間は経過観察すること.
メタアナリシス:
BMC Infect Dis 18: 306, 2018
.
まれな部位の病変に対する明解なガイドラインはない.臨床状況に応じて手術とアルベンダゾール(特に小さな囊胞に対し)を組み合わせた治療を行う.
嚢胞の多くは,とくに石灰化(CE5)がある場合は活動性ではなく,治療介入の必要はない.国際的な基準に従って嚢胞の活動性を評価するために,経験をつんだ放射線科医に相談することが重要.
アルベンダゾール治療が長期にわたる場合は,肝機能のモニター,月に1度の全血算を行う.肝機能検査値が上昇している場合は休薬期間を設け,その後再開してもよい.
自然発生的または手術中の嚢胞破裂に対し,アルベンダゾール/プラジカンテルの併用治療を行う.
Acta Trop 114: 1, 2010
アルベンダゾール/プラジカンテルの併用治療が,破裂のない嚢胞に対する治療として現在臨床試験中である.先行研究からの非常に限られたデータだが,外科的介入をしない例における併用治療が支持されている:
BMC Infect Dis 18: 306, 2018
.
包虫症および肺胞性疾患に関する参考文献:
Clin Microbiol Rev 32: e00075-18, 2019
アルベンダゾール200mgカプセル†は
Expert Compounding Pharmacy
から入手可(
入手困難な抗寄生虫薬の供給元
参照).
アルベンダゾール(Albenza)はAmnealから販売されているが,薬価が非常に高く,一般の薬局からは入手しにくい.
【日本の情報】全数報告対象(4類感染症)であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない(「
感染症法に基づく医師の届出について
」参照).北海道を中心としたわが国での疫学情報については国立感染症研究所「
エキノコックス症
」参照.
(†:日本にない剤形)
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2024/01/29