日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

エキノコックス  (2024/01/30 更新)


臨床状況

  • 数年~数十年の年月をかけてゆっくり広がり,大きな1つの,あるいは数多くの嚢胞を肝臓や肺に形成する.
  • 肝臓が最も多い.
  • 脳,心臓,膵臓,腎臓に発症することはまれ.
  • 嚢胞が自然にあるいは医原的に破れて体腔内に広がることもある.
  • 胆道系,気管支,肺血管など,他の器官が易感染性でなければ,無症候のまま.
  • 感染やアナフィラキシーによる破裂の後,隣接臓器(たとえば胆道系,腸,気管支)へのフィステル形成が起こることがある.
  • 呼吸器に病変が及ぶと,胸痛,咳,喀血をきたすことがある.
  • 肺胞性包虫症(E. multilocularisのみ)は,局所侵襲的という点で悪性腫瘍に類似する.
  • Echinococcus granulosusは,イヌの糞で汚染された物質を介して伝播される.

病原体/診断

病原体
  • Echinococcus granulosus (包虫症).E. canadensis(命名について十分な合意はされていない)などの遺伝子型/株がいくつかある
  • Echinococcus multilocularis(肺胞性嚢胞疾患)
  • Echinococcus vogeli および E. oligarthrus(多嚢性疾患)
診断
  • 多くの場合画像による診断.超音波診断がステージ分類において重要.
  • 血清学的検査の感度は嚢胞がある部位によって大きく異なる.肝嚢胞では60~90%だが,肺,脳,脾臓の嚢胞では50%未満である.他の蠕虫との交差反応により偽陽性が起こる.ウエスタンブロットでは特異度が上昇.
  • アナフィラキシーを避けるために,専門家による肝(肺ではない)針生検が可能.

第一選択

  • 肝嚢胞
  • <5cmのCE1,CE3a嚢胞,または<5cmのCE2,CE3b嚢胞で可能なら,アルベンダゾール400mg経口1日2回・3~6カ月を考慮し,反応を評価する.反応率30~50%.
  • ■アルベンダゾールは囊胞を軟化させ,アレルギーの原因となる内容物をゆっくりと漏出させるため,アナフィラキシーを引き起こす可能性がある.コルチコステロイドによる長期治療が必要となることがある.
  • 合併症のない5~10cmのCE1,CE3a嚢胞(内部の娘嚢胞ではない):経皮的吸引-注入-再吸引(PAIR)+アルベンダゾール.ドレナージ前後にアルベンダゾール:体重≧60kgでは400mg経口1日2回,<60kgでは15mg/kg/日1日2回に分割,計少なくとも30日.PAIRでのアナフィラキシー発症率は1.6%.
  • ■吸引後およびscolocidal薬注入前に造影剤を注入し,胆管との交通を有しないことを確認する.
  • CE2,CE3b囊胞には多くのコンパートメント(小胞)があり,それぞれ個別に穿刺する必要がある.
  • ■生殖細胞層を破壊することを目的として行うPAIRの後には再発することが多いが,しかし嚢胞を膜外に排出させないようにしてはならない.
  • ■もう一つに,大口径カテーテルを用いて嚢胞全体を排出する方法がある.これは一般に,排膿が困難な嚢胞やPAIR後に再発しやすい嚢胞(娘嚢胞を含む可能性がある)の管理として行われている.
  • ■上記2つの方法に補助的アルベンダゾールを併用する.
  • ■現在のところ,これらの膿疱に対しては手術が望ましい.
  • 5~10cmのCE2,CE3b嚢胞および10cm以上のすべての生きた嚢胞に対しては,外科的切除(必ず経験をつんだ外科医が行う)+アルベンダゾール・手術1週前から開始して手術後4週まで.合併症,多数の小胞,または感染した嚢胞がある場合は,ほとんどで外科的介入が必要となる.>7.5cmの大きな肝嚢胞は胆管感染に関連する可能性が高いため,手術が必要.
  • 腹腔鏡および大口径での腹腔鏡アプローチは,蔓延地域でさらに発展している.
  • 無症候になるか,または縮小しない嚢胞であるかを経過観察してアドバイスする.
  • 死んだ嚢胞(CE4およびCE5)に対しては治療不要.
  • 肺嚢胞
  • 外科的切除.手術前のアルベンダゾール処方は避ける.手術後にはアルベンダゾール 400mg経口1日2回・最低28日を用いてもよい.嚢胞が破裂した場合や合併症を起こした場合は,より長期の治療が必要となることがある.
  • ■PAIRを肺嚢胞やあらゆる肝外囊胞に行わないこと.
  • 播種性病変:アルベンダゾール 400mg経口1日2回・臨床反応が得られるまで無期限に続ける.可能なら定期的に病変の除去手術を行う.
  • 肺胞性嚢胞疾患
  • アルベンダゾールの効果ははっきりとは証明されていないが,手術できない場合にHydatid diseaseに対する用量で用いてもよい.

コメント

  • 比較試験は行われておらず,専門家のあいだでもさまざまに異なる意見がある.画像上の嚢胞の性状(嚢胞の型,位置,大きさ,合併症など)により薬物治療または外科的介入の治療適応が異なる.
  • 嚢胞治療後,所見が安定するまでCT/MRIを3ヵ月ごとに行い,最低5年間は経過観察すること.
  • まれな部位の病変に対する明解なガイドラインはない.臨床状況に応じて手術とアルベンダゾール(特に小さな囊胞に対し)を組み合わせた治療を行う.
  • 嚢胞の多くは,とくに石灰化(CE5)がある場合は活動性ではなく,治療介入の必要はない.国際的な基準に従って嚢胞の活動性を評価するために,経験をつんだ放射線科医に相談することが重要.
  • アルベンダゾール治療が長期にわたる場合は,肝機能のモニター,月に1度の全血算を行う.肝機能検査値が上昇している場合は休薬期間を設け,その後再開してもよい.
  • 自然発生的または手術中の嚢胞破裂に対し,アルベンダゾール/プラジカンテルの併用治療を行う.Acta Trop 114: 1, 2010
  • アルベンダゾール/プラジカンテルの併用治療が,破裂のない嚢胞に対する治療として現在臨床試験中である.先行研究からの非常に限られたデータだが,外科的介入をしない例における併用治療が支持されている:BMC Infect Dis 18: 306, 2018
  • アルベンダゾール(Albenza)はAmnealから販売されているが,薬価が非常に高く,一般の薬局からは入手しにくい.

(†:日本にない剤形)

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2024/01/29