日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ポリオウイルス,急性灰白髄炎  (2023/03/14 更新)
ポリオ


臨床状況

  • ポリオまたは急性灰白髄炎は障害を残し致命的なこともあるウイルス性疾患であり,脊髄の前角細胞に感染し麻痺を引き起こす.感染性が強く,ヒト・ヒトの接触によって伝播する.乳児および年少児童に多く,特に衛生状態の悪い状況で感染が起こる.
  • ウイルス伝播は口を通じて起こり,口腔咽頭および消化管で増殖する.通常1~2週は鼻汁中に存在し,長期にわたって糞便中に排出される.
  • 通常は無症候性.4人に1人はインフルエンザ様症状が2~5日続く.腕,脚,またはその両方に脱力や麻痺が起こるのは1%以下.
  • 麻痺以外の症状では潜伏期間は3~6日.麻痺の発症は,通常感染後7~21日で起こる
  • ポリオはワクチンで予防可能な疾患である.ワクチンが最良の予防法.ポリオ,ワクチンを参照.
  • 世界的に,ほぼ根絶された.しかし,散発的な症例の報告があり,もっとも多いのは経口ポリオワクチンから糞便中に排出された弱毒化ウイルスによるもの.
  • 1件の臨床症例は100件の地域感染を意味し,ワクチン接種率の低い地域のワクチン未接種者または接種不十分な者のみがリスクが高い
  • おおよその症例定義と報告
  • 急性に発症した一肢以上の弛緩性麻痺で,患肢では腱反射の減弱または消失し,他の明らかな原因はなく,知覚麻痺や認知機能障害もない.
  • 麻痺を伴うポリオは緊急の届け出疾患に分類され,特に緊急性が高く4時間以内に届け出なければならない.
  • 麻痺を伴わないポリオは,緊急の届け出疾患に分類され,緊急性が高く24時間以内に届け出なければならない.
  • CDC緊急処置科(770-488-7100)に連絡して相談すること
  • 【日本の状況】「急性灰白髄炎」は全数報告対象(2類感染症)であり、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
  • 急性弛緩性脊髄炎の鑑別診断には,以下のように多くのものが含まれる
  • 他のエンテロウイルス:D68,A71,コクサッキーA,パレコウイルス
  • さらなる類似疾患:ギラン・バレー症候群,重症筋無力症,ランバート・イートン筋無力症症候群,ボツリヌス中毒,ダニ麻痺症

診断/病原体

診断
  • 細胞培養での分離のための全糞便および咽頭検体(中咽頭スワブ).州および地方の保険局に連絡して検査を依頼する.
  • PCRが使用可能かつ/または細胞培養での分離ができれば,脳脊髄液からの検出を試みることができる.
病原体
  • エンテロウイルス,ピコルナウイルス科(ポリオウイルスには3種類の自然的血清型がある:WPV1,WPV2,WPV3)
  • WPV1型のみが現在でも存在している(おもにパキスタン,アフガニスタンなど5カ国で30症例/年)
  • 50カ国以上でワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の発生が広まっている(1000症例/年)ことで根絶が脅かされている.
  • 臨床症例1例があれば,地域での感染は100例の可能性があり,リスクがあるのは,ワクチン普及率が低い地域でのワクチン未接種者または十分なワクチンを接種していない人である.

第一選択

  • 支持療法
  • FDA承認の抗ウイルス療法はない(開発の現状に関しては,コメントを参照のこと)

第二選択

  • IVIG.有効性に関する明確なエビデンスはない

予防

  • ワクチンの適応,使用可能な製剤,用量,曝露前予防に関するワクチンの特徴については,ポリオワクチン参照
  • 移民および避難所居住者に,米国で接種される用量と同等のものとしてCDCが認めているのは,ある一定タイプのワクチンのみである.

コメント

  • 開発中のカプシド阻害薬
  • Pocapavir.B細胞欠損患者におけるポリオウイルス感染症に限る.Pocapavirは,ポリオウイルスおよび他のエンテロウイルスの経口生物学的阻害薬で,ワクチン由来および野生型ポリオの治療薬として研究中である(J Infect Dis 215:335, 2017)
  • 2022年7月,ニューヨーク州において,ワクチン未接種者でのワクチン由来ポリオウイルス2型によるポリオの症例報告があった.複数の郡の排水から広くウイルスが検出され,広い地域社会での感染が示唆される.
  • 1979年以降,米国での症例報告はない.最後の輸入感染例の報告は1993年.
  • エンテロウイルスD68に感染すると,同タイプの急性弛緩性脊髄炎(AFM)が発生することがある.AFMは全例,地元の公衆衛生局またはCDCに報告しなければならない.
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2023/03/13