日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

BCG, ワクチン  (2024/03/12 更新)


ワクチン接種の適応

  • BCG(Bacille Calmette Guerin)ワクチンは,ほとんどの先進国では出生時に接種される.
  • BCGは,海外渡航者については限定的な使用であり,米国CDCは渡航前または後の結核(TB)検査の方が望ましいとしている.
  • しかし,ほとんどの国内の専門家は,ワクチン未接種の乳児および年齢5歳未満の小児が結核低発症率の国から高発症率の国へ渡航する場合にはBCG1回接種を考慮することを推奨している.
  • 接種する場合は,最近のPPD(精製ツベルクリン)5TUによる結核皮膚検査(TST)の結果が陰性の場合に限る
  • BCGワクチン接種歴があれば通常TSTは陽性となるが,IGRA(たとえばQuantiferonまたはT-spot)は陽性にならない.
  • 派生的および関連のワクチン候補がいくつかあり,結核に対する臨床試験が行われているが,進行段階はさまざまである(Front Immnunol 14: 1238649).
標準コース(ルーチン)
  • TB発症率が高い180超の発展途上国では出生時に接種
  • WHOは,年間発症率が10万人中5人より低い国ではルーチン使用をしないよう勧告している.
  • TST陰性の小児で,以下の高リスク条件の場合にはワクチン接種する:未治療または有効な治療がなされていない成人のTBまたはMDR/XDR TB患者への濃厚で長期にわたる曝露がある,または曝露が避けられず,長期の一次予防治療を受けることができない.
  • 以下のような状況にある医療従事者
  • MDR TB症例と多く関わる
  • 包括的な結核感染制御措置が有効でなかった
  • 雇用のため,または医療従事者を特定の業務領域に配属するために,ワクチン接種を義務付けるべきではない.
海外渡航での検討
  • 年齢5歳未満の健常者が非常に高リスクな国々へ1年以上渡航する場合.
  • 年齢16歳未満で,非常に高リスクな国々へ3ヵ月以上渡航して現地に居住する場合.
  • TST陰性の小児で,未治療または有効な治療がなされていない成人のTBまたはMDR/XDR TB患者への持続的な接触がある.
  • 医療従事者で,非常にリスクの高い国々へ渡航して,現地でも特にMDR/XDR TB患者への高リスクな曝露が予想される場合.
  • 非常にリスクの高い国々への渡航者で,現地で刑務所,ホームレス収容施設,難民キャンプ,貧民街,または薬物およびアルコール依存者への曝露が予想される場合.

  用量およびスケジュール
商品名(製造元)
BCGワクチンUSP(メルク)1(皮下注使用)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
細菌BCGワクチン(M. bovisのTICE株),弱毒化,生
年齢
出生以降どの年齢でも
用量,経路
0.2~0.3mLを専用の器具を用いて三角筋に経皮接種,生後1ヵ月以上なら乾燥凍結バイアルを1mLに,1ヵ月以下なら2mLに希釈
初回接種スケジュール-標準コース
1回接種
第1回追加接種
なし
  1. TICE BCGは膀胱内投与用の高力価の製剤となっている;TBワクチンとしては使用しないこと.
  2. FDAは静注,筋注,皮内注,皮下注を承認していない;カナダ,日本,英国では,BCGワクチンは皮内接種.
  3. 米国では多重穿刺器具をメルクから入手して使用書に従って用いる.その後24時間ゆるく覆い,生きた細菌が他の人に感染しないよう患者に注意する.

有効性,予防効果持続期間/選択,互換性

有効性,予防効果持続期間
  • 有効性データは差が大きく(臨床的TBに対して0~80%),多様な弱毒化M. bovis株が長年にわたって使用されており,何十という製剤が今も市販されているため議論が続いている.
  • BCGを出生時に接種された場合,主にTBが蔓延している国において,5歳未満の小児における播種性結核や結核性髄膜炎の予防に>70%の有効性がある.
  • BCGは,TB初期感染や潜在性TBの再活性化の予防にはならない.
  • BCGワクチン接種を繰り返してもTB予防効果が増大することはない.
  • MDR TBに対する効果のデータは乏しい.
  • BCGは非結核性抗酸菌感染に対する予防にもなる.
選択,互換性
  • 1回接種ワクチン
  • 通常1国に1種類の製剤しかないため,比較研究ができず,どのBCG株がより有用かは明らかになっていない.

毒性

禁忌
  • 活動性TB患者またはHIV感染者(免疫状態によらず)
  • 免疫不全者
  • ただし,WHOは,医療資源の乏しい国で,ARTを受け始めているHIV感染者(小児も含む)で,臨床的に良好で,免疫学的に安定している場合には,接種を推奨している.
  • 重症複合性免疫不全症候群のスクリーニングを受けていない乳児,特に免疫不全の家族歴がある場合.
  • 子宮内あるいは授乳を通じて免疫抑制治療に曝露された乳児.
警告
  • 定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.
  • 中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず).
  • TST(硬結<5mm)またはIGRA陰性の人にのみワクチン接種する.
  • HIV感染リスクが高い人には要注意.
副作用
  • 局所的副作用が多い:重症あるいは長期の合併症はまれ.
  • 局所的反応としては,中等症の腋禍または頸部リンパ節腫脹,接種部位の硬結および膿疱(3ヵ月ぐらい続く場合がある)などがある.
  • ワクチン接種部位の潰瘍化,排出膿瘻を伴う局所膿性リンパ節炎,穿刺部位の乾酪性病変あるいは排膿が起こることがある.
  • 医療従事者(過去に乳児期でワクチン接種を受けた例を含む)における副作用に関する大規模ランダム化対照比較試験(Hum Vaccin Immunother 19: 2239088, 2023),
  • 注射部位膿瘍および局所リンパ節腫脹は良性であり,自然治癒する.
薬物相互作用
  • 抗菌薬,免疫抑制薬はBCGに対する免疫反応を妨げることがある.
  • 可能な限り,非経口生ワクチンは同一日に接種すること.
  • 同一日でなければ,生ワクチンは最低4週おいて接種するべきである.
  • BCGワクチンUSP(メルク)(膀胱内投与用)とTSTに使用するPPDとを混同する可能性がある.

特に注意が必要な対象

妊婦,授乳
  • 妊娠中は禁忌
  • ワクチン接種後4週は妊娠を避ける
  • ルーチンのBCG接種前妊娠検査は推奨されない.
  • 授乳中でも禁忌ではない.
免疫不全/HIV
  • 免疫不全者への偶発的投与は,播種性BCG症のリスクが増加する.

血清検査

  • 事前のBCGワクチン接種でTSTが陽性になることがあるが,IGRA陽性と結びつくことはない.
  • BCGワクチン接種によるTST反応はTB曝露後の反応と簡単には区別できない
  • TST反応が以前の検査より大幅に増大する場合には,さらなる検査が必要となる
  • 事前のBCGワクチン接種はツベルクリン検査の禁忌ではない.IGRAは,BCG被接種者での特異性が高いのでTB検査法としては望ましい.

コメント

  • 国ごとの,現在および過去のBCGワクチン接種方針については,BCG World Atlas参照.
  • 米国では2025年に新しい生産施設ができるまで供給不足が続く.
  • ハンセン病に対するBCGの部分的な予防効果については,非常に限られたデータしかない
  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
  • 情報源
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2024/03/11