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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
麻疹
(
2026/03/17 更新
)
麻疹(はしか)
疫学/自然経過/臨床症状
疫学
米国における麻疹は2000年に「排除された」と宣言された.2000年~2013年の米国における麻疹患者数は少数であり,37~220例/年の散発的な症例多発のみであった.ワクチン効果の減弱が,ここ数年の麻疹患者の増加につながった.2025年の北米(カナダ,メキシコ,米国)での症例多発は根絶以来最悪の症例多発であり,2026年も続いている.
麻疹は予防可能である;MMRワクチン1回接種で感染予防効果は93%,2回接種で97%である.下記予防を参照
効果的なワクチンの登場以前,麻疹は小児死亡の主要な原因だった.1963年当時の米国の人口は現在の約40%だったが,麻疹による入院患者数は推計48,000例,脳炎が1,000例,死亡は400~500例にも上った.
若い臨床医の多くは,麻疹の患者を診察したことも治療したこともない.
自然経過
麻疹はエアロゾル感染により広がり,基本再生数は12~15である.このため,おそらくもっとも感染性の強い疾患として知られており,ワクチン未接種者の罹患率は90%に及ぶ.
麻疹ウイルスは,接触感染した患者が部屋(たとえば,待合室)を退去した後もエアロゾル中に2時間までとどまる.
患者に感染性があるのは,前駆症状の発症から発疹出現の4日後まで.
死亡率1/1000:1000人中1人が脳炎を発症する.亜急性硬化性全脳炎(SSPE)はまれだが致死性の合併症(
Clin Infect Dis 65: 226, 2017
).
5歳未満の小児,>20歳の成人,妊婦,免疫不全者で合併症のリスクが高い(下記の臨床症状を参照).
移植レシピエントが麻疹に罹患すると,脳炎のリスクが高い(
Clin Infect Dis 57: 1182, 2013
).
臨床症状
麻疹は重症疾患である.通常は,以下のような経過が予想される.8~10日の潜伏期の後に,次のような前駆症状が現れる.
発熱(高熱であることが多い)
咳,非化膿性結膜炎,鼻風邪(鼻水)-「3C(cogh,conjunctivitis,coryza)」と呼ばれる
コプリック斑(口腔粘膜の白い丘疹)がみられることがある.下の写真を参照
CDCより
発疹は発熱の3~4日後に,最初は顔面,通常は髪の毛の生え際または耳の後ろに現れる.その後体幹に,さらに手足へと広がる.
発疹は多形性であり,通常は斑と丘疹が混合する.少しざらついていることもある,褐色肌の場合,皮疹はわかりにくいことがある.
すべてCDCより
合併症
は多い.約20%は入院が必要となる.合併症としては,中耳炎(7~9%),角膜炎,クループ(急性閉塞性喉頭炎),下痢(8%),肺炎(1~6%).二次性の細菌性肺炎も起こることがある.
神経系の合併症としては初期には脳炎(しばしば急性散在性脳脊髄炎[ADEM]の特徴を呈する[1,000例中1~3例]).通常感染後1年で発症する麻疹封入体脳炎,感染7~10年後で発症するまれだが致死的合併症の亜急性硬化性全脳炎がある.
それ以外の健康な集団では,死亡率は約1,000例に1例
小児<5歳,妊婦,免疫不全患者は合併症と死亡のリスクが高い
麻疹により記憶T細胞およびB細胞が失われ,免疫記憶喪失となることがある.
診断/病原体
診断
血清学検査もPCR検査もすぐには結果がでないので.初期の対応は臨床的判断に基づかなければならない.
麻疹IgM血清:発疹出現後数日で陽性となる.麻疹初期には偽陰性となることがあり,低力価で偽陽性となることもある.
麻疹での鼻咽頭分泌物:感度が高く,すぐに利用可能(通常は公衆衛生機関を通じて行われる).尿PCRが陽性のことがある.
病原体
麻疹ウイルス
第一選択/支持療法
第一選択
有効であることが証明されている抗ウイルス治療はない
重症肺炎または脳炎の免疫不全の一部の患者で
リバビリン
が使われている
予防が重要:下記「予防」参照
支持療法
輸液,疼痛管理,眼症状に対する角膜潤滑,呼吸補助,起こりうる二次的細菌感染に対する経過観察
予防的抗菌薬は適応とならない
どのような代替療法(たとえば,タラ肝油ステロイド)も支持するデータはない
ビタミンA
は低栄養小児での死亡率を下げることが示されているが,栄養十分な小児での有用性は不明.にもかかわらず,AAPは麻疹の全小児患者にビタミンA1日1回・2日を推奨している.
生後≧12ヵ月:20万単位(6万レチノール活性等量[RAE])
生後6~11ヵ月:10万単位(3万μgRAE)
生後<6ヵ月:5万単位(1万5千μgRAE)
ビタミンAの用量は月齢によって異なる:生後<6ヵ月の乳児では5万単位,6~11ヵ月では10万単位,生後12ヵ月以上の小児では20万単位
第二選択
なし
予防
曝露前予防に関するワクチンの適応,使用可能な製剤,用量,ワクチンの特徴については
麻疹・おたふく風邪・風疹ワクチン
参照
麻疹ワクチン(MMRとして入手可能)1回接種で,麻疹予防効果は93%
2回接種の予防効果は97%
ワクチン接種を完了した人が麻疹に感染することは非常にまれだが,ないわけではない.
ビタミンAの麻疹予防効果は示されていないが,小児麻疹患者で合併症を低下させるかもしれない(「支持療法」参照).
医療者は,患者の近くではN95マスクを着用しなければならず,患者は陰圧室に隔離されなければならない.
成人,小児7~8歳,小児0~6歳でのワクチン接種スケジュール(
N Engl J Med 381: 349, 2019
).
曝露後予防(PEP).年齢12歳以上,免疫機能に障害のある宿主またはHIV感染者でCD4>200:免疫グロブリンよりもMMRワクチンの方が好ましい.曝露72時間以内に接種.
他の予防選択肢は,免疫グロブリン0.5mg/kg筋注で,曝露後6日まで投与可能.免疫グロブリンが投与された場合でも,その後3~6ヵ月にMMR接種.
重症の免疫不全(CD4<200のHIV感染を含む):免疫状態,ワクチン接種歴にかかわらず免疫グロブリン(400mg/kg)静注,曝露後6日以内に投与
麻疹免疫のエビデンスがない妊婦:免疫グロブリン静注,400mg/kg
急速な多発状況でのワクチン接種または追加接種の適応
【日本の情報】
国立健康危機管理研究機構-麻しん予防接種情報
コメント
一般的な情報は,
CDCの医療専門家向けサイト
を参照.最新情報は,各地方の保健機関の情報(たとえば,
Texas公衆衛生サイト
)を参照.
臨床上の議論については,
N Engl J Med 381: 349, 2019
および
N Engl J Med 393: 2447, 2025
を参照.
リバビリンが成人での重症度を改善したという小規模症例シリーズの報告(
Clin Infect Dis 19: 454, 1994
).
その他の情報源としては,
Lancet 390: 2490, 2017
.
麻疹に関するCDC臨床概説
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2026/03/17