日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

COVID-19, SARS CoV-2  (2023/04/18 更新)


COVID-19の管理

初期臨床評価
  • 有症状で検査結果陽性(PCRまたは抗原)
  • 初期臨床評価の焦点
  • 起点は症状発症の日であり,最初に検査陽性となった日ではない(罹病期間と治療開始時点の決定のため)
  • 重症化のリスク因子
  • 年齢>65歳
  • 免疫不全状態
  • 肥満(BMI≧35)
  • 糖尿病
  • 慢性腎不全
  • 治療の障害となる臓器不全(腎,肝)
  • 重症度(下記参照)
  • 小児または青少年については,MIS-C/MIS-Aも参照
  • ワクチンの概要・一覧および予防については,COVID-19-ワクチンを参照.さらなる詳細については個々のワクチンのページを参照.
変異株
  • オミクロン変異株(XBB/XBB.1およびXBB1.5)(2022年12月~現時点)
  • 2種の異なるBA.2変異体(BJ.1およびBA.2.75)の組み替え変異体であり,2022年12月後半に米国ノースハンプシャーで検出された.
  • XBB株の中心的変異はスパイク蛋白のF486Pであり,既存の免疫性に対する免疫回避を増強,ACE-2結合受容体(受容体結合領域,RBD)に対する結合親和性を増大させ,変異株の感染性を増大させる.
  • XBB.1.5はBQ.1.1よりも増殖能が高く(以下に詳述),米国では変異株の>88%に及ぶ.
  • シンガポールは2022年10月にXBB感染の波を経験した.このため2022年12月にはCOVID患者数および死亡者数が急増した.
  • 2価BA.5ワクチン接種は,XBB株を含めたすべてのオミクロン変異株亜種に対する中和活性を向上させる.
  • オミクロン変異株(BQ.1;1.1;.4/5)(2022年11月)
  • オミクロンBQ.1,BQ.1.1,BF.7は,米国で蔓延しているウイルス変異株の>60%を占める.
  • これらの変異株は,現在使用可能な,どのモノクローナル抗体薬でも中和化されない.たとえば,
  • ■ モノクローナル抗体製剤Bebtelovimab,ソトロビマブ,カシリビマブ・イムデビマブ,Bamlanivimab+Etesevimabは,新しい変異株には効果がなく,使用すべきでない.
  • 残された治療選択肢
  • ■ 承認されている2つの経口抗ウイルス薬:パキロビッド(ニルマトレルビル+リトナビル)およびモルヌピラビルは,新しいオミクロン変異株(BQ.1,BQ.1.1,BF.7およびBA2.1)に対して活性を保っている.パキロビッドはモルヌピラビルより強力であり,より望ましい経口抗ウイルス薬である.
  • ■ レムデシビルは,SARS-CoV-2の(現在までに同定されている)すべての変異株に活性を保っている.通常は入院患者に使用するが,外来患者3日処方も有効である.
  • オミクロン変異株(BA.4/5)(2022年7月)
  • オミクロン変異株BA.4およびBA.5はBA.2より感染性が強い.ワクチン接種完了者(mRNAワクチン最初の2回の接種を受け,追加の3回目接種を完了した個人)でも,感染が起こるが,入院/死亡の予防効果はいまだに高い.BA.4およびBA.5は,BA.1およびBA.2.1より病原性が強いようである.
  • 重症化リスクの高い個人では,ワクチン最終接種(3回目の追加接種)から>5~6ヵ月後に4回目接種(第2回追加接種)を行うことが推奨される
  • COVIDワクチン初回連続接種を受けた人々には,二価ワクチン追加接種が好ましい(COVID-19-ワクチンを参照).
  • オミクロン変異株BA.2.1に対する治療選択肢
  • ・新しい抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体であるBebtelovimabは,オミクロンBA.2およびBA.1に活性があり,BA.4/5に対しては若干弱いものの活性がある.Bebtelovimabは,現在でもこれらの変異株に対して選択すべきモノクローナル抗体薬である.
  • ・承認された2つの経口抗ウイルス薬:パキロビッド(ニルマトレルビル+リトナビル)およびモヌルピラビルも,2つのオミクロン変異株(BA.1およびBA.2)のどちらに対しても活性がある.パキロビッドはモヌルピラビルより強力であり,より望ましい経口抗ウイルス薬である.モヌルピラビルは,妊婦に使用してはならない.
  • ・レムデシビルは,SARS-CoV-2のあらゆる変異株に活性を保っている.通常,入院患者に対して投与されるが,外来3日処方は有効である.
  • モノクローナル抗体製剤のソトロビマブ,カシリビマブ/イムデビマブ,Bamlanivimab+Etesevimabはいずれもオミクロン株に対して活性がなく,使用すべきでない.これには予防的なモノクローナル抗体合剤Tixagevimab/Cilgavimabも含まれている.BA.1,BA.1.1,BF.7変異株には活性がなく,これらが優位な状況では使用すべきでない
  • オミクロン変異株(BA.2.1)(2022年3月)
  • オミクロンBA.2.1はオミクロンBA.1に比べて少なくとも2倍感染力が強い.初期のエビデンスでは,特にワクチン接種完了者(最初のmRNAワクチン2回を接種し,追加の第3回接種も受けた人)での臨床症状は最初のオミクロン株による場合と同じであった.
  • 最終接種(追加接種,第3回)から>5~6ヵ月で重症化高リスクの人は,第4回接種(第2回追加接種)が推奨される.COVIDワクチン初回連続接種を受けた人々には,二価ワクチン追加接種が好ましい(COVID-19-ワクチンを参照)
  • オミクロンBA.2.1の治療選択肢
  • ・新しい抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体であるBebtelovimabは,オミクロンBA.2およびBA.1に活性があり,これらの変異株に対して選択すべきモノクローナル抗体薬である.
  • ・ソトロビマブはオミクロンBA.2に対して活性がなく,使用すべきでない.
  • ・承認された2つの経口抗ウイルス薬:パキロビッド(ニルマトレルビル+リトナビル)およびモヌルピラビルも,2つのオミクロン変異株(BA.1およびBA.2)のどちらに対しても活性がある.パキロビッドはモヌルピラビルより強力であり,より望ましい経口抗ウイルス薬である.
  • ・レムデシビルは,SARS-CoV-2のあらゆる変異株に活性を保っている.通常,入院患者に対して投与されるが,外来3日処方は有効である.
  • オミクロン変異株(BA.1)(2021年12月)
  • オミクロン株はデルタ株より少なくとも2倍感染力が強い.初期のエビデンスでは,特に「ワクチンを完了した人」(つまり,mRNAワクチン最初の2回接種+3回目の追加接種を受けた人)では,デルタ株より症状は軽症であることが示唆されている.ワクチンを受けていない人でのオミクロン株の病原性は不明である.
  • オミクロン株に対する治療選択肢
  • ・ソトロビマブはオミクロン株BA.1に対しては活性がある(しかし,BA.2にはない.下記参照)
  • ・新たに承認された2つの経口薬:パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル),モルヌピラビルもオミクロン株に活性がある.
  • モノクローナル抗体製剤のカシリビマブ・イムデビマブ,Bamlanivimab+Etesevimabはいずれもオミクロン株に対して活性がなく,使用すべきでない.
  • デルタ変異株(2021年8月)
  • 主要な特徴:感染力が強くウイルス量が多い.
  • COVID-19に関する臨床的,疫学的知見,治療および診断的側面のほとんどは,デルタ株の出現以前に行われた研究に基づいており,デルタ株出現以前の論文に基づく推奨もその点を考慮して解釈する必要がある.もちろん,われわれは最新の知見に基づき,COVID-19に関する情報と推奨を更新し続ける予定である.
  • ワクチン状態(vaccination status)に基づく現在のCDCの推奨については,下記の「隔離(Isolation/Quarantine)」を参照.
  • 予防
  • 曝露前/後予防については,COVID-19ー曝露前/後予防を参照
重症度
重症度
指標
無症候性
症状なし
軽症
発熱,咳,喉の痛み,悪心/嘔吐,下痢,味覚または嗅覚喪失があるが呼吸困難はない.酸素飽和度正常で胸部X線上も正常
中等症
軽症症状+下気道感染の所見(検査および/または画像),室温での酸素飽和度≧94%
重症
中等症症状だが酸素飽和度<94%,PaO2/FiO2<300mmHg,呼吸数>30/分,肺浸潤>50%
重篤
重症症状だが挿管されていて呼吸不全,敗血症性ショック,および/または多臓器不全

治療

治療の一般原則
  • 迅速なCOVID-19診断
  • 重要な注:治療の決定は最初の症状発症日を起点とする(最初の検査陽性の日ではない)
  • 2段階の病期
  • 1~7日目:ウイルス複製が活発
  • ■この段階では抗ウイルス治療がもっとも有効と考えられる
  • 例:レムデシビル,抗ウイルスモノクローナル抗体および直接作用型抗ウイルス薬(ニルマトレルビル・リトナビル,モルヌピラビル)
  • ■推奨されない:全身性コルチコステロイドおよびその他の免疫調整薬(たとえばIL-6阻害薬)
  • 有用である可能性は低く,おそらくは有害で,ウイルス複製期間を延長する可能性がある
  • 8~14日目,あるいはそれ以降:免疫障害(たとえば,呼吸不全,その他の重症病変)
  • ■この段階では抗ウイルス治療の効果は低く,おそらくは無効
  • ■重症患者にはコルチコステロイドなどの免疫調整薬が有用である可能性がある
重症度別の治療推奨
  • 薬剤の用量/適応については以下の推奨処方を参照.また,個々の薬剤のページも参照.
状況,重症度,重症化リスク
治療
コメント
外来または入院,無症候性
推奨なし.支持療法
緊密な臨床的監視
外来,軽症~中等症,重症化高リスクではない
推奨なし.支持療法
緊密な臨床的監視
外来,軽症~重症,重症化高リスク
望ましい処方の順序(NIH治療ガイドライン

パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル) 300/100経口1日2回・5日(パキロビッドリバウンドについては下記コメント参照),または

レムデシビル200mg静注を1日目,その後100mg静注を2~3日目,または
モルヌピラビル800mg経口1日2回・5日
抗ウイルス治療薬および/またはモノクローナル抗体は,発症後できるだけ早期(3日以内)に投与する.
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル):5日以内
レムデシビル:7日以内
モルヌピラビル:5日以内

ソトロビマブとBebtelovimabは新たなオミクロン株,BQ.1,BQ.1.1,BF.7に対して活性がない.

デキサメタゾン/全身性ステロイドは初期には推奨されない(最初の7~10日,入院および充血の場合を除く)
入院,軽症(下気道疾患なし),重症化高リスク
レムデシビル(用量は下記参照),または
COVID-19以外の理由で入院している場合はモノクローナル抗体

予防的抗凝固療法(下記参照)
モノクローナル抗体はできるだけ早期に投与する.症状発症から7~9日以後は投与しないこと

デキサメタゾンは推奨されない
入院,中等症(下気道疾患の所見あり)だが酸素吸入の必要なし.重症化高リスク
レムデシビル

予防的抗凝固療法(下記参照)
デキサメタゾンは推奨されない
入院,重症(酸素飽和度<94%,および/またはPaO2/FiO2<300)で酸素吸入が必要
レムデシビル+デキサメタゾン±トシリズマブ

バリシチニブ:入院患者で,人工呼吸器やECMO未使用で,重症・重篤な場合;入院後72時間以内に投与するのが理想的.

治療的抗凝固療法:妊娠していない患者でDダイマー>ULN,出血リスクが高くなく,高流量酸素吸入やICUレベルの治療を必要としない場合(詳細は下記抗凝固療法参照).

全員に:予防的抗凝固療法(詳細は下記抗凝固療法参照).
デキサメタゾン投与が受けられない患者では,第二選択としてバリシチニブ(+レムデシビル)を用いる.トシリズマブの使用については推奨処方の注を参照.
入院,重篤-機械的人工呼吸またはECMOが必要
デキサメタゾン±レムデシビル±トシリズマブ

人工呼吸またはECMO使用開始後2日以内の患者では,標準的処方にVilobelimabを追加できる

予防的抗凝固療法(下記参照)
レムデシビルの有用性は証明されていないが,一部の専門家は推奨している

ICU入室の最初の24時間ではIL-6受容体阻害薬を考慮(レムデシビルおよびデキサメタゾンとは併用可能だが,バリシチニブとの併用は推奨されない)

デキサメタゾンを投与できない患者では,バリシチニブを考慮する.トシリズマブの使用については,下記「推奨される処方,用量」を参照.

  • 外来患者:アセトアミノフェン,イブプロフェン(またはナプロキセン),グアイフェネシン,オンダンセトロン,イモジウム,吸入アルブテロール,吸入ステロイド,H2拮抗薬および/または睡眠薬(たとえばメラトニン)などによる補助治療を必要に応じて行う.
  • 軽症~中等症の入院患者または機械的人工呼吸/ECMOが必要な重症患者には,ヘパリンによる予防的抗凝固療法が推奨される.酸素吸入が必要でD-dimerが上昇(>正常上限値)している重症患者(妊婦以外)には,ヘパリンによる治療的抗凝固療法を考慮すること.(下記の抗凝固療法を参照).
  • パキロビッドが適応の場合には,パキロビッドリバウンドの懸念から使用を遅延させてはならない.最近の研究では,臨床試験でパキロビッド使用後のリバウンドはプラセボ投与患者でみられたものと違いはなかった(Ann Intern Med 176: 348, 2023). 治療を中断した時には,リバウンドを警戒.パキロビッドでさらに5日再治療を行うかは臨床的に判断するべきだが,ほとんどの専門家は再治療しようとしない.リバウンドの状況では,通常はCOVID-19の重症化は起こらない.
  • 重度の免疫不全患者の治療において抗ウイルス薬2剤(たとえば,パキロビッドとレムデシビル)の使用が有用でありうるという症例報告が発表された(Clin Infect Dis 76: 926, 2023).
推奨される処方,用量
種類
薬剤
用量/期間
適応
コメント
抗ウイルス
モルヌピラビル
800mg(200mgカプセル4錠)経口12時間ごと・5日,食事の影響を受けない
軽症~中等症で,1つ以上の重症化リスク因子(肥満,年齢>60歳,糖尿病,心血管疾患)のある成人患者

抗ウイルス
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル)
ニルマトレルビル 300mg(150mg錠2錠)+リトナビル 100mg(1錠),計3錠経口1日2回
SARS-CoV-2ウイルス検査陽性で,1つ以上の重症化リスク因子(肥満,年齢>60歳,糖尿病,心血管疾患など.薬剤のページを参照)のある12歳以上のすべての患者
薬物間相互作用に注意(リトナビルは強力なCYP3A4阻害薬)

パキロビッド 治療最終投与後3~4日にリバウンド(症状の再燃)が起こる.リバウンドの症状が重大な場合には再治療が推奨される
抗ウイルス
レムデシビル
成人(体重>40kg):初回200mg静注・1日目,その後維持用量100mg静注1日1回,各回30~120分かけて投与

小児(体重3.5~40kg):初回5mg/kg 1日目,その後維持用量2.5mg/kg

期間:人工呼吸/ECMO使用がなければ5日.5日で臨床的改善がみられなければ10日まで延長.機械的人工呼吸/ECMO使用患者では10日
重症の入院患者.中等症および重篤患者でも考慮する.
   
抗ウイルス(モノクローナル抗体)
Bamlanivimab
+Etesevimab
(Bamlanivimab 700mg+Etesevimab 1400mg)医療施設で1回同時投与
軽症~重症で,さらなる重症化や入院のリスクが高い外来患者
発症後早期の投与でもっとも効果が大きい.デルタ・プラス株またはオミクロン株が疑われる場合には使用しない.
抗ウイルス(モノクローナル抗体)
Bebtelovimab
175mg静注1回
軽症~中等症で,さらなる重症化や入院のリスクが高い外来患者
オミクロンBA.2亜種に対して活性があるが,BQ.1,BQ.1.1,BF.7には活性がない
抗ウイルス(モノクローナル抗体)
カシリビマブ・イムデビマブ
カシリビマブ・イムデビマブ
合剤1200mg
(カシリビマブ600mg
+イムデビマブ600mg)
1回静注
軽症~重症で,さらなる重症化や入院/死亡のリスクが高い外来患者
発症後早期の投与でもっとも効果が大きい.各抗体の用量は2021年6月3日に600mgに引き下げられた.オミクロン株が疑われる場合には使用しない.
抗ウイルス(モノクローナル抗体)
ソトロビマブ
500mg30分以上かけて静注
軽症~重症で,さらなる重症化や入院のリスクが高い外来患者
発症後早期の投与でもっとも効果が大きい.ほとんどのオミクロン株亜種には無効
抗炎症(IL-6阻害薬)
トシリズマブ
8mg/kg,実際の体重で最大800mgを1回静注,改善がみられなければ12~24時間後に2回目投与
重症または重篤な入院患者.RECOVERY試験の登録基準はCRP≧75mg/Lで定義された全身性炎症反応を含む
早期(つまり入院48時間以内またはICU入室後<24時間)の投与で効果は最大.
特にコルチコステロイドとの併用時に感染リスク増大の可能性.細菌,真菌および他の日和見感染による二次感染を臨床的にモニターすること.
抗炎症(JAK阻害薬)
バリシチニブ
4mg経口1日1回(14日まで)+レムデシビル200mg1日目,その後100mg静注1日1回10日まで±デキサメタゾン
入院患者で,重症または重篤だが機械的人工呼吸またはECMOを使用していない場合,理想的には入院後72時間以内に投与する.
コルチコステロイドが使用できないまれな状況で,レムデシビルとの併用で用いてよい.また,IL-6阻害薬の代わりにコルチコステロイドと併用することもあるが,IL-6阻害薬とは併用しないこと.
抗炎症(JAK阻害薬)
トファシチニブ
10mg経口12時間ごと(14日まで)+レムデシビル200mg1日目,その後100mg静注1日1回・10日まで+デキサメタゾン
入院患者で,重症または重篤だが機械的人工呼吸またはECMOを使用していない場合,理想的には入院後72時間以内に投与する.
バリシチニブの代わりに使用可.理想的には,IL-6阻害薬の代わりにデキサメタゾンとの併用で用いるが,IL-6阻害薬とは併用しないこと.
抗炎症(抗補体(C5a))
ビロベリマブ
800mg静注(最大6回投与),第1,2,4,8,15,22日
入院患者で重症,機械的人工呼吸またはECMO使用開始後48時間以内
標準的治療(SOC)との併用でSOC+プラセボより死亡率を低下させたという臨床試験が2つある
抗炎症
デキサメタゾン
酸素吸入または機械的人工呼吸患者で6mg1日1回静注または経口・10日
重症および重篤な入院患者
酸素吸入を受けていない患者には推奨されない

RECOVERY試験(N Engl J Med 384: 693, 2021)では28日死亡率が低下.重篤な患者に関するメタアナリシス)(JAMA 324: 1330, 2020)では,デキサメタゾンで28日生存率が上昇した.
  • レムデシビル;バリシチニブ;Bamlanivimab+Etesevimab;カシリビマブ・イムデビマブ;ソトロビマブ;トシリズマブ;トファシチニブ;ニルマトレルビル・リトナビル;モルヌピラビル

入院患者の臨床検査に関する推奨
時期
検査依頼の順序
入院時
・血算および分画,トロポニン,肝機能検査,生化学検査Chem10,CPK
・フェリチン,CRP,LDH,Dダイマー,PT/PTT/フィブリノゲン
・リスク層別化のため(患者が臨床的に悪化したら繰り返す)
 LDH(上昇したら毎日繰り返す)
 トロポニン
 治療前心電図
・ウイルス血清学(最近チェックしていなければ)
 HIV
 HCV抗体
 HBs抗体,HBc抗体およびHBs抗原
・臨床的に適応の場合:
 血液培養2セット,喀痰培養,培養を反映する検尿,
 尿中Streptococcus/Legionella抗原
 妊娠可能な女性ではβHCG
推奨される毎日の検査(安定するまで)
・血算および分画(特に総リンパ球数)
・全代謝検査
・CPK
・入院1週目にCRP.1週を過ぎると炎症マーカーは解釈が困難
推奨される1日おきの検査(上昇するか患者がICUに入室したら毎日)
・PT/PTT/フィブリノゲン
・Dダイマー
放射線検査
入院時にポータブル胸部X線.評価に基づき,二次細菌感染,肺塞栓などの懸念がある場合にはさらなる画像検査を行う.

重症,予後不良の指標となる臨床検査
  • リンパ球絶対数の減少
  • 好中球数絶対値/リンパ球数絶対値>3.5
  • CPK,CRP,フェリチン,Dダイマー,LDH,トロポニン,PT上昇
  • 血小板減少症
  • 肝機能検査値が正常の5倍以上
  • 急性腎障害

抗微生物薬適正使用の検討

  • 細菌性肺炎の重複感染は少ない.人工呼吸器装着時の気管支肺胞洗浄液で,細菌性病原体が検出されたのは21%であった(Am J Respir Crit Care Med 204: 921, 2021).
  • したがって,細菌の重複感染に対するルーチンのカバーは推奨されない.
  • COVID-19肺炎での入院患者は医療施設内で細菌性および真菌性肺炎を発症することがある.
  • 2020年3月1日~4月28日までのNew York市で一施設の入院患者4267例を対象とした研究(Infect Control Hosp Epidemiol 42: 84, 2021)では,細菌性および真菌性の全感染は3.6%であり,呼吸器のみの感染が46%,血液のみが40%,両者の感染が14%であった.呼吸器培養陽性患者の95%が挿管されていた.同様の所見は,これに続く多施設研究でもみられた(Open Forum Infect Dis 8: ofaa578, 2020).

コメント

他の治療法:推奨されない
  • 回復期血漿:有用性は証明されていない
  • NIH治療ガイドラインは免疫機能正常な入院患者に対する使用に反対しており,免疫不全患者での推奨を裏づける十分なエビデンスもないとしている.
  • コルヒチン:有効性は証明されていない
  • COVID-19と確診されたまたは疑いがある外来患者を対象としたランダム化プラセボ対照試験(ピア・レビューを受けていない,pre-printがMedRXivでみられる)では,COVID-19による死亡または入院の主要有効性複合エンドポイントについて,主要解析集団では統計的な有意差はみられなかったが,COVID-19のPCR検査陽性例のサブ解析では,有用である可能性が示された(4.6% vs 6%).
  • インターフェロンβ1-a:効果は不明,臨床試験以外では推奨されない
  • 2020年7月のSynairgenからのプレスリリースでは,吸入インターフェロンβの第II相プラセボ対照試験の結果は良好であった.
  • イベルメクチン:推奨されない
  • 4つの大規模ランダム化試験で,有効性は認められなかった(JAMA 325: 1426, 2021BMC Infect Dis 21: 635, 2021N Engl J Med 386:1721,2022JAMA 329: 888, 2023).最後の研究はイベルメクチン高用量(600μg/kg)が用いたものだが,この用量は,より低用量を用いた臨床試験でのエビデンスがないにもかかわらずイベルメクチンの治療的有用性を主張する人々が推奨する用量である.軽度~中等度の症状を示すCOVID-19患者1206例を対象としたランダム化試験であり,症状回復までの時間は高用量イベルメクチン群とプラセボ群で差はなかった(どちらも11日).入院,死亡,救急搬送を組み合わせても差はみられず(イベルメクチン群34,プラセボ分36,ハザード比1.0),死亡はイベルメクチン群で1例,プラセボ群で0例だった.
  • 製薬会社(メルク)はCOVID-19の治療にイベルメクチンを用いることに反対している.
  • IL-1阻害薬:効果は不明,臨床試験以外では推奨されない
  • Chloroquineまたはヒドロキシクロロキン±アジスロマイシン:有効性がなく,重大な,致死的となりうる不整脈のリスクがあるため,いかなる状況でも推奨されない.
  • HIVプロテアーゼ阻害薬:推奨されない,臨床的有用性が証明されなかった
抗凝固療法
  • COVID-19感染は凝固能亢進を伴う.予防的抗凝固療法と治療的抗凝固療法を比較したいくつかの大規模研究の結果からは,中等度感染患者での治療的抗凝固療法の有用性が示唆されたが,重症感染での有用性は認められなかった.酸素吸入を必要とするが高流量鼻カニュラや人工呼吸器は必要ではないCOVID-19入院患者は,予防的ヘパリン療法に比べ,治療的ヘパリン療法では酸素吸入なしで生存退院する可能性が高くなったが,全生存率は改善しなかった.重症患者(たとえばICUでの治療や高流量酸素)には治療的抗凝固療法の有用性はなく,出血リスクが高まることがあった.文献(N Engl J Med 385: 790, 2021N Engl J Med 385: 777, 2021),NIHガイドライン
  • 予防的ヘパリン抗凝固療法
  • 用量:通常の静脈血栓塞栓症予防のためのヘパリンまたはエノキサパリン皮下注用量
  • 推奨される患者
  • ・ 酸素吸入を必要としない患者またはCOVID-19以外の理由で入院している患者
  • ・ 酸素吸入を必要とする患者で,患者自身または医療者が治療的療法よりも予防的療法の方が望ましいとする(たとえば,出血リスクが有用性を上回る)場合
  • ・ 非侵襲的陽圧呼吸療法,>20Lの酸素療法,ICUレベルでの治療を必要とする患者
  • 禁忌
  • ・ 治療的または予防的抗凝固療法に対するすべての禁忌,たとえば,活動性の中枢神経系出血,血小板数<25,000の重症血小板減少症,ヘパリンによる血小板減少症の既往
  • 治療的ヘパリン抗凝固療法
  • 用量:通常の静脈血栓塞栓症治療に抗凝固薬として用いるヘパリン用量を用いなければならず,治療期間は14日までで,退院すれば中断.
  • ・ CrCL<15あるいは他の禁忌がなければ,未分画ヘパリンよりもエノキサパリンの方が望ましい.
  • ・ 以下のような場合は,予防用量への減量を考慮する:臨床状態が改善した(たとえば酸素吸入が中止できた)場合,またはICUレベルでの治療や>20Lの酸素治療が必要となるほど臨床状態が重症化した場合,ただし,この領域でのデータが少ないため医療者の慎重さが必要.
  • ・ 既に持続的なフルドーズの抗凝固療法(たとえば,直接作用型経口抗凝固薬,ワルファリン)を受けている患者は,ヘパリンの抗凝固治療ではなく,現在受けている治療を継続してもよい.
  • 推奨される患者
  • ・ 酸素吸入が必要だが非重症,または高流量鼻カニュラ<20Lで安定/改善している患者.注:予防ではなく治療的な抗凝固療法開始の決定は,予想される有用性とリスクおよび患者自身の希望を勘案して上でなされなければならない.
  • 予想される有用性:酸素吸入の必要性減少,ただし,生存率に差はない.
  • 予想されるリスク:出血の合併
  • 禁忌
  • ・ ヘパリンまたは治療的抗凝固療法に対する禁忌のすべて,たとえば,2剤併用抗血小板療法,直近30日以内の大出血,後天的または遺伝的出血疾患がある,ヘパリンによる血小板減少症の既往,最近の虚血発作,血小板数<50×109/L,ヘモグロビン<8g/dL,主治医の臨床判断.
感染伝播
  • 主として飛沫感染であり,エアロゾル感染は多くない:無症候の人からでも感染伝播が起こることがある.
  • 汚染された物体の表面(感染の媒介物)との接触での感染伝播の可能性は低い(一般に 1:10000);2021年4月5日のCDCガイダンスによる.
  • ウイルス排出のピークは発症前に生じる.下図参照(Nat Med 26: 672, 2020;図1cを許可を得て引用).

  • 平均潜伏期間は曝露後5日までと推定される(範囲4.1~7.0日,ただし最短では36時間).
  • 感染性ウイルスは発症後1週以降には分離されることは少なく,2週間後では5%にまで落ちる.
  • 唾液および鼻咽頭分泌物からのRT-PCR検査によるウイルスRNA排出は,約6日は高く,発症第2週では大幅に低下し,通常2~3週後にはみられなくなる.
  • 変異型SARS CoV-2の出現
  • 変異型の出現とワクチンの有効性への影響および再感染の可能性については,CDCの現在の情報を参照.
  • アルファおよびベータ株は,最初の野生型株よりも約50~60%感染力が強い.
  • デルタ株はアルファ株よりも約60%感染力が強く伝播しやすい(最初の野生株よりも約90%感染力が強い).
  • オミクロン株はデルタ株よりも約2倍伝播しやすい.基本再生産数は麻疹に近い.
  • 再感染
  • 再感染はCOVID-19症例の<1%である.デンマークで行われた観察コホート研究(Lancet 397: 1204, 2021)では,COVID-19感染既往がある場合の予防免疫は全体で~80%,65歳以上で~47%と推計される.予防効果は7カ月以上持続する.
ワクチン接種状態(Vaccination Status)
  • マスクはKN-95,N-95(布製でないもの)を使用する
  • 公衆衛生上の目的,米国入国のための評価
  • 「ワクチン接種完了」とは,COVID-19ワクチンの最初の(連続)接種を受けた人を意味する.米国FDAの認可/承認ワクチン:2回接種ワクチン(モデルナ[≧18歳で0.5mL,100μg]またはファイザー[5~11歳で0.2mL,10μgまたは≧12歳で0.3mL,30μg)の2回目接種,あるいは1回接種ワクチン(ヤンセン/J&J[≧18歳で0.5mL,5×1010virions])の接種から2週間以上後.中等度または重度免疫不全者では,「ワクチン接種完了」となるためには最初の接種における追加的な接種が必要.
  • 「Up to Date Status(ワクチン接種において完全に最新の状態にある人)」のCDCによる定義
  • Up to Date Statusとは,適応がある場合の追加接種(全年齢で追加接種が適応になるわけではない)を含めた,推奨されるCOVID-19ワクチン接種をすべて受けた人を意味する.追加接種を受けた後には,追加接種完了者であると同時にUp to Dateともみなされる.Up to Dateであることのみが,隔離の推奨に影響する.
曝露/隔離(Exposure/Isolation/Quarantine)
  • 適正なマスクとはKN-95,N-95(布でない)のこと
  • CDCガイダンス(2022年1月16日)によるワクチン接種状態
  • Up to Date Statusとは,最初の連続接種完了+追加接種(適応となる場合)を受けたことを意味する
  • ワクチン接種完了(Fully vaccinated)とは,最初の連続接種完了を意味する
  • 曝露(Exposure)
  • ただちに予防策を開始:曝露されたとわかったら,ただちにマスク着用.曝露後10日は警戒を継続
  • 直近の曝露から5日以内に検査を受ける.陰性なら,10日は予防策を継続.陽性なら,ただちに隔離
  • 隔離(Isolation)
  • COVID-19陽性の場合は,ワクチン接種状態にかかわらず,隔離する
状態
隔離期間
隔離期間後
注意
COVID-19陰性の検査結果
5日後に隔離終了
  
  
ワクチン状態にかかわらずCOVID-19陽性または症状あり
少なくとも5日隔離(isolate).他の人から隔離し,適正なマスクを着用
5日後,24時間発熱がなく,症状が改善していれば隔離終了
中等症または重症となった場合は,少なくとも10日間は隔離を継続
検査陽性または発症から10日間
マスク着用.旅行は禁止.高リスク者との接触は避ける

地域社会レベルでの予防ステップ
  • 地域社会レベルでの予防ステップのためのCDCガイダンス(2022年2月25日)は,法,メディア,地域社会でのCOVID-19高感染率(米国での病床使用率および新規患者数で定義される)に基づく.
低(グリーン)
中(イエロー)
高(オレンジ)
ワクチンのUp-to-date化
症状検査
ワクチンのUp-to-date化
症状検査
重症感染へのリスクが高い場合はマスク着用
重症感染へのリスクが高い場合はマスク着用
ワクチンのUp-to-date化
症状検査
リスクに応じて他の対策も考慮する

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