日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

肺炎球菌,ワクチン,成人  (2024/09/03 更新)
肺炎球菌ワクチン,年齢18歳以上


ワクチンの適応/
用量とスケジュール

はじめに
  • 2024年6月にFDAは,PCV21(Capvaxive:メルク)は成人に対してのみ承認した;2024年後半に市販される予定.
  • 適応範囲はもっとも広い
  • おそらくPrevnar(PCV20)およびVaxneuvance(PCV15)/ニューモバックス23連続接種に取って代わり,すべての適応に対しても用いられる唯一の肺炎球菌ワクチンとなるだろう.
  • ACIPは公式にはPCV20と同等としている;最終的評価はMMWR誌上に発表される予定
  • PCV13は現在米国では使用されておらず,CDCのすべてのスケジュールから削除されている.
  • 過去にPCV13コースを一部だけ接種または完全に接種した人でのPCV20またはPCV21への移行は,数年間は混乱するだろう.
  • PCV21の小児での使用は承認されていない
 渡航前の十分なワクチン接種を評価するための概要:
  • 生後2~23ヵ月の小児は,PCV15またはPCV20を接種しなければならない.
  • キャッチアップワクチン接種:生後24~59ヵ月の健康な小児で,PCVワクチン接種未完了の場合,および生後24~71ヵ月で基礎疾患があり,PCV接種未完了の場合は,PCV15またはPCV20を接種しなければならない.
  • 年齢2~18歳の小児でなんらかの高リスクとなる疾患があり,6歳以前に推奨されるすべての接種を受けている場合,少なくともPCV20を1回接種していれば,追加接種は必要ない.
  • PCV13またはPCV15は接種しているが,PCV20は接種していない場合には,PCV20を1回接種しなければならない.
  • 年齢6~18歳の小児でなんらかの高リスクとなる疾患があり,PCV13,PCV15,PCV20のどれも接種していない場合には,PCV15またはPCV20の1回接種を受けなければならない.
  • PCV15接種を受けている場合,それに続いてPPSV23を(以前に接種していない場合)少なくとも8週後に接種しなければならない.
  • いままでワクチン未接種の人には以下とする.
  • Prevnar 20(PCV20)単独,または
  • 2種類の異なるワクチンの経時的接種,Vaxneuvance(PCV 15),≧1年後にPneumovax 23(PPSV23).
  • 年齢>65歳で健康な人および>18歳で基礎疾患のある人に対して標準的推奨
  • PPSV23だけは若干の適応縮小がある:どの適応も現在では結合型(PCV)ワクチンを必要とする.
  • Prevnar13は,現在ではどのような状況でも成人には推奨されない(下の表を参照).
  • PPSV23はある状況では第二選択肢となるが,現在臨床では,全ての状況に対応するためにPCV20だけを保持しておくことが必要である.
  • ACIPの規則では,薬局と診療所ではPCV20のみが備蓄でき,すべての臨床的処方をカバーすることができるとしている.
   
標準コース(ルーチン)
  • 年齢≧65歳の全員
  • 年齢18~64歳で,以下の条件がある人
  • アルコール依存
  • 慢性的な心疾患(うっ血性心不全,心筋炎など),肝疾患,肺疾患(COPD,肺気腫,ぜんそく[すべての病因]など)
  • 喫煙者
  • 電子たばこ(蒸気吸い込み),またはマリファナだけに関するデータはない;ワクチンは推奨されない.
  • 人口内耳
  • 脳脊髄液漏出
  • 糖尿病
  • HIV
  • 免疫不全状態(慢性腎不全,先天的または後天的無脾(地中海貧血は除外),先天的または後天的免疫不全,補体欠損,食細胞機能異常症,全身性悪性疾患,HIV,ホジキン病,医原性免疫抑制,白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫,ネフローゼ症候群,固形臓器移植)
海外渡航
  • 適応は上記と同様だが,渡航と呼吸器疾患との関連があるため,より急を要する.
用量とスケジュール
 肺炎球菌ワクチン未接種者に対する望ましい処方
商品名(製造元)
Prevnar 20(ファイザー),英国ではApexxnarという商品名
ワクチン(タイプ,CDC略語)
肺炎球菌20価結合ワクチン,ジフテリア CRM197タンパク(PCV20)
年齢
≧19歳
用量,経路
0.5mL 筋注
初回接種スケジュール-19~64歳,
基礎疾患のあるひとだけ
1回接種
初回接種スケジュール-≧65歳,
健康または基礎疾患あり
1回接種
第1回追加接種
なし

 肺炎球菌ワクチン未接種者に対する他の選択肢
  • 2種類の異なるワクチンを経時的に接種することが必要
商品名(製造元)
Vaxneuvance(メルク)
Pneumovax23(メルク)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
肺炎球菌15価結合ワクチン,ジフテリアCRM197タンパク(PCV15)
肺炎球菌23価多糖ワクチン(PPSV23)
年齢
≧19歳
≧19歳
用量,経路
0.5mL筋注
0.5mL筋注または皮下注
初回接種スケジュール-19~64歳,
基礎疾患あり
1回接種
1回接種,1年後以降にPCV151
初回接種スケジュール-≧65歳,
健康または基礎疾患あり
1回接種
1回接種,1年後以降にPCV151
第1回追加接種
なし
なし
  1. HIV,人工内耳,脳脊髄液漏,特定の免疫不全のある人,あるいは緊急の渡航予定のある人では8週後以降のVaxneuvance接種を考慮する.

 既にPCV13および/またはPPSV23の接種を受けている成人で考慮すべきこと
  • 下表は以下のような状態の人についてのもの:アルコール依存,慢性心疾患(うっ血性心不全,心筋症),慢性肝疾患,慢性肺疾患(COPD,肺気腫,ぜんそく),喫煙者,糖尿病
  • 2022年以前の処方にはPCV13/PPSV23が,この順序で含まれているか,PPSV23のみ(数種の適応)である.
  • 多くの成人が連続接種を完了していないか,間違った順序での接種を受けており,訂正の必要がある.
  • どの肺炎球菌ワクチン接種を接種してきたかを問診で聴取しても,ガイドラインが数回改定されているため,信用はできない.
  • PneumoRecs VaxAdvisor APP(CDCからのフリーソフト)適切なワクチン接種のためのiOSおよびAndroidで使用可能なソフト
ワクチン接種歴
今後のワクチン接種
PCV13およびPPSV23を65歳前または以降で完了(健康または基礎疾患あり)
≧65歳:もっとも近日の肺炎球菌ワクチン接種から≧5年でPCV20を接種してもよい(共同意思決定)
基礎疾患があり,PCV13,およびPPSV23を1回または複数回(65歳以前)受けたが,PPSV23の以前に推奨されていた全用量を完了していない
第一選択: もっとも近日の肺炎球菌接種から≧5年でPCV20接種
第二選択:以前の推奨どおりにPPSV23
≧19歳で,以前にPCV13・その後PPSV23(どの年齢でも基礎疾患がある場合,または健康で≧65歳)が推奨されていたが,PCV13しか接種していない,
第一選択:PCV13接種後少なくとも1年後にPCV20
第二選択:以前に推奨されていたようにPPSV23(PCV13の≧1年後)
PPSV23を≧18歳で(健康または基礎疾患あり)
PPSV23接種の≧1年後にPCV20またはPCV15.これ以後の肺炎球菌ワクチン接種は不要
  1. PCV20を使用すれば,PPSV23の備蓄は不要.以前にPCV13接種を受けている成人にPCV20を接種して有用性が増加するかどうかについては,臨床試験で具体的に評価されたことはない.
  2. 人工内耳,脳脊髄液漏,免疫不全のある人,または緊急の渡航の予定がある人では,≧8週の接種を考慮する.

有効性,予防効果持続期間/
選択,互換性

有効性,予防期間
  • ワクチンは,それぞれの血清型の細菌による疾患だけを予防する.
  • 3ワクチンのすべての血清型で,成人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の60~75%がカバーされる.
  • 2018~2019年には,年齢≧65歳の成人中PCV13,PCV15,PCV20,PPSV23血清型によるIPDの割合は,それぞれ27%,42%,54%,62%だった.
  • 現在汎用されているPCV20のワクチン効果は,PCV13と比較すると,共通に含まれている13の血清型については同等,またPPSV23と比較しても,共通の7種の血清型については同等.
  • PCV13はワクチン血清型の肺炎球菌による肺炎に対しては46%,ワクチン血清型の菌血症でない肺炎球菌による肺炎に対しては45%,≧65歳の成人でのワクチン血清型の成人侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対しては75%の有効性を示した.
  • 肺炎球菌血清型2,9N,17F,20はPCV15/PPSV23の組み合わせには含まれているが,PCV20には含まれていない.
  • 血清型2,9N,17F,20による侵襲性肺炎球菌感染症:年齢≧65歳(8%),慢性的な疾患あり(15%),免疫不全状態(12%).
  • PCV20の1回接種がPCV15+PPSV23併用接種に非劣性であるという臨床試験のデータはない.
  • PCV20は,PCV15には含まれていないがPPPSV23には含まれている5種の血清型に対して,より良い予防効果を示す可能性がある.
  • 免疫不全のある成人でのPCV20の使用に関しては特異的なデータはない.
  • 脾摘後または脳脊髄液漏のある患者での劇症敗血症に対しては,ワクチンは100%の予防効果はもたない.
選択,互換性
  • PCV20単独処方は,PCV15-1年後にPPSV23という処方よりも,理論的にはより望ましい.
  • より多くの血清型により早く免疫性が得られる.
  • この処方のカバーする血清型は4種少ないが,いずれも主要なものでなく,処方の劣性を示す臨床データはない.
  • ACIPの規則では,薬局と診療所ではPCV20のみが備蓄でき,すべての臨床的処方をカバーすることができるとしている.これにより,多くのワクチンを備蓄することに比べて,エラーが少なくなる.
  • 従来のpCV13処方からの以降は,特に過去にワクチン接種を完了していない人では,数年は混乱を引きおこすだろう.

毒性

禁忌
  • 以前のワクチン接種での,あるいはワクチン成分に対するアナフィラキシー反応.
  • PCV15またはPCV20については,ジフテリアトキソイド含有ワクチンに対するアナフィラキシー反応.
警告
  • 定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.
  • 中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず)
  • 重症の免疫不全のある心血管および/または呼吸器機能疾患患者には,より強力な注意を払う.
副作用
  • もっとも多くみられるのは,注射部位の反応,疲労,筋肉痛,関節痛,頭痛
  • 後続の接種で副反応が増大することはない.
薬物相互作用
  • Prevnar20とVaxneuvanceは,COVID-19ワクチンを含む他のワクチンと同時(または前後のどの時点でも)併用可能.
  • ワクチンに含まれる肺炎球菌血清型の一部に対する抗体反応の鈍化を抑制するために,PVC13,15,20の最終接種と同時にMenveo(MenACWY-CRM)を,または≧4週後にメナクトラを接種する.
  • 肺炎球菌結合ワクチン接種前1年以内にPneumovax23を接種すると,Pneumovax23接種をしない人と比べて免疫反応を減弱させる結果になる.
  • 肺炎球菌ワクチンは,どの抗体含有製剤とも同時(または前後のどの時点でも)併用可能.

特に注意の必要な対象

妊婦,授乳
  • Prevnar20(PVC20)またはVaxneuvance(PCV15)の妊娠中の使用についてのヒトでのデータは不十分;しかし,動物での胎児発達に関する問題はなかった.
  • PCV13またはPPSV23では妊娠関連リスクはない.
  • どの肺炎球菌も接種が授乳の禁忌となることはない.
免疫不全/HIV
  • 上記参照
  • 表はHSCT患者には適応されない(下記参照)
どの年齢でか
接種したワクチン
望ましい処方
代替処方
なし/不明
PCV20を1回接種
PCV15を1回接種,その後PCV15接種から≧8週間隔でPPSV23を1回接種
PPSV23のみ
PPSV23最終接種から≧1年間隔でPCV20を1回接種
PPSV23最終接種から≧1年間隔でPCV15を1回接種
PCV13のみ
PCV13最終接種から≧1年間隔でPCV20を1回接種
PCV13最終接種から≧8週間隔でPPV23を1回接種.最終PPV23接種から≧5年間隔で第2回PPSV23を接種.患者が年齢65歳になったら,肺炎球菌ワクチン推奨を再確認
PCV13,およびPPSV23を1回(接種の順序は問わない)
PCV13またはPPSV23最終接種から≧5年間隔でPCV20を1回接種
PCV13最終接種から≧8週間隔,PPSV23最終接種から≧5年間隔でPPSV23を1回接種.患者が年齢65歳になったら,肺炎球菌ワクチン推奨を再確認
PCV13,およびPPSV23を2回(接種の順序は問わない)
PCV13またはPPSV23最終接種から≧5年間隔でPCV20を1回接種
患者が年齢65歳になったら,肺炎球菌ワクチン推奨を再確認

  • 成人HSCTレシピエントでは,PCV20をHSCT後3~6ヵ月後に開始し,4回接種を行うことが推奨される.
  • HSCT後3~6ヵ月後にPCV20を開始し,4週ごとの接種で,3回
  • PCV20の第3回接種の≧6ヵ月後,またはHSCT後≧12ヵ月のどちらか遅い時点で第4回PCV20接種を行う.
  • 臨床試験では,非反応のHIV患者に対する再接種は無効であり,上乗せ接種の適応はない.
  • 化学療法や放射線療法中のワクチン接種は避ける.
  • 免疫抑制治療,人工内耳埋め込み,脾摘術の>2週前にPPSV23の接種を行う.

血清検査

  • いかなる状況での適応となることはない.

コメント

  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
  • 情報源
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/09/02