日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ダニ媒介脳炎,ワクチン  (2024/07/16 更新)
TBEワクチン,ダニ媒介脳炎


ワクチン接種の適応

はじめに
  • ダニ媒介脳炎(TBE)は,主としてヨーロッパ西部・北部からアジア北部・東部の地域にかけて流行している.
  • バルト海沿岸諸国,チェコ共和国,スロベニア,ドイツ南部,スイス,オーストリアで高度蔓延している.
  • 近年,イングランド,オランダ,ベルギーのごく一部の地域で,ごくわずかな発症がみられている.
  • 旅行リスクを考えるうえで,4~11月の季節性を考慮に入れることが重要である.
  • 3つの株:ヨーロッパ,シベリア,極東.
  • ポワッサンウイルスに緊密なフラビウイルス.
  • デング熱,黄熱病,西ナイルウイルス,SLEウイルス,ジカ熱もフラビウイルスである.
  • 森林地帯でIxodes種のマダニによって媒介される.
  • 都市近郊で感染することもある.都市公園で感染することはまれである.
  • 非殺菌乳(通常はヤギの乳)により感染することは少ない.
  • まれな感染経路:授乳,輸血,固形臓器移植,ウイルス感染動物の屠殺.
  • 臨床:急性神経疾患(ヨーロッパでは通常は発熱期,寛解期の2期),その2~3日後の神経疾患を発症する.
  • びまん性神経症状で通常は入院となり,多くの場合は永続的な神経学的または認知学的後遺症を伴い,時に死に至る.
  • シベリア株や極東株はより重篤で,多くの場合は神経症状を早期に発現する.
  • 米国人旅行者での結核はまれ.
  • 2001年から21年にかけての移民入国者での症例は12例.
  • 海外で診断された症例や帰国者のうち未診断の軽症例があるため,過小評価されている可能性がある.
  • 2012~21年の米軍感染者12例はすべて南ドイツ.
診断
  • 髄液または血清中のTBE IgM.
  • 他のフラビウイルスや,黄熱ワクチン,デング熱ワクチン,日本脳炎ワクチン接種によるものとの鑑別では,多くの場合プラーク減少中和試験(PRNT)が必要である.
  • 臨床検体でのPCRは感度が低い.
  • 米国では診断検査できるのは,CDCのみである.
  • MRIは診断の感度が低い.
ワクチンの適応
通常コース(ルーチン)
  • 中央および東ヨーロッパの流行諸国のすべての小児
  • 高リスク国ではワクチン接種が普及しているため,ヒトでの感染率は低い可能性がある.
  • TBEウイルスに暴露される可能性のある実験室従事者に推奨される.
  • 研究者あるいは生ウイルスを用いたきわめて特殊な診断業務従事者
  • ルーチンの臨床サンプルの取り扱いを除く
海外渡航
  • 野外活動や旅程の計画からしてマダニに暴露される可能性が高い風土病流行地域への旅行者や滞在者に推奨される.
  • 広範囲な曝露は,旅行期間や曝露頻度によって以下のように考えられる.
  • 短期滞在(1ヵ月未満)の旅行者で,毎日または頻繁にマダニに暴露される場合.
  • マダニ感染の可能性のある地域で定期的に(例えば月に数回)暴露されている長期滞在旅行者.
  • マダニが蔓延している可能性の高い地域で野外活動を行う可能性のある者に対して考慮してもよい.
  • 予定されている活動のリスク評価,旅程,予後不良となる危険因子,年齢60歳以上,および個々のリスク認識と許容度に基づいて判断する.
  • リスクの高い活動:ハイキング,キャンプ,サイクリング,狩猟,釣り,バードウォッチング,キノコやベリーの採取.
  • リスクの高い旅程:場所(森林地帯),田舎,季節(4~11月),旅行/滞在期間.
用量とスケジュール             
商品名(製造元)1
TicoVac(ファイザー):ヨーロッパではFSME-Immunとして販売されている
ワクチン(タイプ,CDC略語)
全細胞,不活化ウイルスワクチン;西部(ヨーロッパ)TBEサブタイプウイルス(Neudoerfl株)含有
年齢
≧1歳
用量,経路
1~15歳:0.25mL筋注
≧16歳:0.5mL筋注
初回接種スケジュール-標準コース,
1~15歳
0,1~3ヵ月で各1回,第2回接種の5~12ヵ月後に第3回
初回接種スケジュール-標準コース,≧16歳
0,14日~3ヵ月で各1回,第2回接種の5~12ヵ月後に第3回
初回接種スケジュール-短縮コース
欧州の類似製剤ワクチンのVE推定値は83~99%であった.出国が5カ月以内であっても,2回接種すべき.
第1回追加接種,全年齢
初回接種第3回接種後3年
その後の追加接種
ACIPによる追加投与の推奨はない.WHOとEMA:16~49歳は5年ごと,50歳以上でリスクが持続する場合は3年ごと.
  1. 西部株TBEを含有する成人用Encepur(Bavarian Nordic/Valneva)はヨーロッパで入手可能であり,極東株を標的とした数種のロシア製ワクチンが地域によっては入手可能.TicoVacおよびEncepurは東部株に対して強い反応性をもつ.

有効性,予防効果持続期間/選択,互換性

有効性,予防期間
  • 現在の米国の製剤で,米国の承認スケジュールに従ってVEを評価した試験はない.
  • FDAの承認は,欧州製剤のVEに基づく力価を用いた免疫ブリッジングのデータに基づいている.
  • 第1回接種の有効性は,さまざまな効果指標(全TBEおよび入院など)の予防に対して91~99%である.
  • 第3回接種後の血清陽性率は,承認試験で99.5%(1~15歳),98.7~100%(16歳以上)である.
  • 90%以上の被接種者において,追加接種後の抗体価は最終追加接種後少なくとも6年間は安定している.
  • ACIPは,ヨーロッパのデータが2回接種後12ヵ月までの時期で83%~99%の有効性を示しているため,5か月以内の出発の場合での旅行前2回接種コースを推奨するデータを明らかにしている。渡航前に3回接種を完了できない旅行者は,予防接種を受けるべきである.
  • ワクチンは極東(シベリアを含むロシア,中国,モンゴル)株にも有効と思われるが,データは少ない.
  • 免疫学的データから,TBEワクチンに対する反応は50歳以上の成人では有意に低下し,特に65歳以上では著しく低下することが示唆されている.
  • 高齢者はワクチン最終接種後の年に,若年者よりも血清陰性になる可能性が高い.
選択,互換性
  • Tico Vacは米国で入手可能な唯一のワクチン
  • 欧州で販売されているEncepurとFSME-Immunは,フォローアップ接種において互換性があると思われるが,具体的なデータはない.

毒性

禁忌
  • 以前のワクチン接種での,またはワクチン含有成分に対するアナフィラキシー反応.
  • 鶏卵または鶏蛋白質に対する重篤なアナフィラキシーが知られている.
警告
  • 定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.
  • 中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず)
  • データによれば,このワクチンは免疫不全者にも安全に投与できるが,免疫反応が低下する可能性がある.
副作用
  • 軽症~中等症の局所反応(たとえば,注射部位の痛み,発赤,腫脹)
  • 米国で販売されていないワクチンのうち,てんかん患者のけいれん発作を増加させるものがあるが,これはTicovacの重要な試験では報告されていない.
薬物相互作用
  • 他のワクチンと同時(または前後のどの時期でも)併用可能.
  • TBEワクチンと他のフラビウイルスやフラビウイルスワクチン(例えば黄熱ワクチンや日本脳炎ワクチン)との免疫学的相互作用の可能性に関するデータが必要.
  • 限られたデータではあるが,黄熱病ワクチンとの相互作用はないと考えられる.

特に注意が必要な対象

妊婦,授乳
  • 妊娠はワクチン接種の禁忌でも予防策でもない.
  • TBEウイルス感染症は,妊婦に重篤な疾患リスクをもたらす可能性がある.従って,妊婦で感染の可能性が高い場合にワクチンを接種することの利点は,潜在的リスクを上回ると考えられる.
  • 不活化ワクチンだが,妊娠中の安全性と免疫原性は確立されていない.このような場合には,個々のリスク/有用性評価が必要である.
  • TicoVac接種は授乳の禁忌ではない.
免疫不全/HIV
  • 免疫不全者はTBEワクチンに対する反応が低いことがある.

血清検査

  • どのような状況でも適応とならない.

コメント

  • 特異的な抗ウイルス治療はない.
  • FDAは2021年にTicoVacを承認し,米国では主要な薬品卸売業者からルーチンに入手可能である.
  • ヨーロッパでは2001年から同一のワクチン製剤が使用されている.
  • TBE-Moscow(Chumakov Institute),Encevir(Microgen),極東株に基づくTBEワクチンはロシアで製造されている.そのほとんどが,旧USSR地域で入手可能.
  • 安全性と有効性のデータについては,殆ど発表されていない.
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2024/07/16