日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

狂犬病,ワクチン,曝露後予防(PEP)  (2024/07/09 更新)
狂犬病PEP,狂犬病PrEP,HRIG,ERIG


ワクチン接種の適応

  • 曝露前予防(PrEP)を行っても,曝露後の狂犬病ワクチン追加接種が不要となることはない.
  • PrEPを行えば,曝露後予防(PEP)スケジュールが,3日間隔をあけての2回接種という非常に簡略化されたスケジュールとなり,狂犬病免疫グロブリン(高価で,海外では入手困難なことが多い)の実施が不要となる.
  • PrEPは,PEPが遅れた場合や,そうと認識せずに狂犬病へ曝露していた場合に,ある程度の予防効果を示すことがある.
標準コース(ルーチン)
  • PrEP
  • 狂犬病研究,診断,ワクチン生産などの職業によるリスク:コウモリ生物学者,獣医師,洞窟探検家,動物の世話をする職業,野生動物にかかわる職業.
海外渡航
  • PrEP
  • 高リスク地域,特に田園地帯への長期滞在(≧1ヵ月)渡航者
  • 最高リスク地域への短期滞在渡航者
  • リスクのある地域での広範なアウトドア活動(職業または冒険),短期滞在であっても
  • リスク回避型で低リスク国へ渡航するが,リスク行動をとる人
曝露後予防(PEP)
  • PEPは以下の場合に推奨される
  • 米国での咬傷の曝露:地域の蔓延状況からして狂犬病の可能性のある動物の歯の皮膚への侵入:地域の保健機関へのコンサルテーションが推奨される
  • 米国での州ごとの相談窓口-CDCリスト.ハワイは,どの陸生動物にも狂犬病はない
  • ■イヌ,ネコ,フェレット
  • 外見が健康そうなら10日間観察,動物が狂犬病の臨床徴候を示した場合にのみPEP
  • 狂犬病の疑いがあれば,ただちにワクチン接種
  • 逃げられた場合:地域保健機関に相談:米国では現在イヌの狂犬病は根絶されている.
  • ■アライグマ,スカンク,キツネ,他のほとんどの肉食獣,またコウモリも,検査施設での検査で陰性とはっきりと証明されないかぎり,狂犬病を考慮する.
  • ■咬傷は家畜,小型および大型の齧歯類(ビーバー,アレチネズミ,モルモット,ハムスター,マウス,ラット,ウッドチャック),リス,ウサギ(野ウサギ,ウサギ)によって引きおこされるが,ほとんどはPEP開始の必要はない.
  • ■サルでの狂犬病はまれ,あるいは存在しないが,渡航者に対するサル咬傷(よく起こる)後のPEPは念のために行ったほうがよい.
  • ■アフリカ,南アメリカ,アジアでのイヌ,他のイヌ科動物,マングースの咬傷では,一般に狂犬病と考えるべきであり,まず旅行医学専門家に相談すること.
  • 咬傷によらない曝露:ひっかき傷または開放創の汚染,すり傷,唾液その他の感染性のおそれがある物質の粘膜への付着
  • コウモリ曝露(世界のどの地域でも):すべてのコウモリは狂犬病の危険性があると考えるべき
  • 曝露のエビデンスが明確ではなくとも,曝露が起こらなかったと確実には言えない場合にはPEPが推奨される:個々の例に応じて検討する.
用量とスケジュール
 PrEP
商品名(製造元)
Rabavert(Bavarian Nordic),ほとんどの国では商品名Ravipurで販売されている
Imovax Rabie(サノフィ Pasteur)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
不活化ウイルス;精製ニワトリ胚細胞培養(狂犬病)
不活化ウイルス;ヒト2倍体細胞
年齢
≧0
用量,経路
1mL筋注
初回接種スケジュール-ルーチン
0,7日(ACIPの4日早く第2回のルールは適用できない)
初回接種スケジュール-加速化
なし
第1回追加接種 初回連続接種完了後>3年で曝露リスクが多い,または持続している海外渡航者
初回連続接種後の力価検査で<0.5IU/mLだった場合のみ,1mL筋注1回.他の選択肢:力価チェックを省くために,21日~3年で1回接種1
第1回追加接種 初回連続接種完了後≦3年で曝露リスクのある海外渡航者
力価チェックや追加接種は推奨されない
その後の追加接種2
CDCガイドラインで定められた狂犬病曝露があれば,0~3日で1mL筋注.それ以外では通常の海外渡航者にはルーチンでは行わない
  1. CDCリスクカテゴリー1および2の人(検査施設職員またはコウモリ曝露が多い人)は,初回連続接種完了後,6ヵ月ごと(カテゴリー1)または2年ごと(カテゴリー2)に力価をチェックし,力価が<0.5 IU/mLでリスクが持続している限り,毎回追加接種を受けなければならない.
  2. 既に曝露後狂犬病ワクチン追加連続接種(下記参照)を完了した人も,CDCが定めた狂犬病曝露がさらに起こった場合には0および3日での1mL筋注が必要となる.
  3. 狂犬病曝露の可能性があるが,>3年力価チェックがなく,2回接種(0,7日)ワクチンを受けた人は,ワクチン未接種者と同じPEPを受けなければならない.

 PEP
  • ただちに,大量の石鹸(または消毒液)と水(可能なら流水)で,少なくとも15分すべての傷を徹底的に洗う.
  • 殺ウイルス作用のある薬品(ポビドンヨードなど)で傷を洗う
  • 曝露からの経過時間にかかわらず,たとえ数ヵ月または数年前に起こったものでも,PEPは行わなければならない.
  • 疑われた曝露源の動物が狂犬病なしと明らかになった場合,あるいは飼い猫,犬,フェレットの曝露で,その動物が10日間発病しなかった場合にはPEPを中断してもよい.
  • 免疫機能正常者を対象とした狂犬病PEPの用量とスケジュールはPrEP歴に基づく
PrEP状態
年齢
用量,経路
スケジュール
RIG1
PrEPまたはPEP連続接種を既に完了した人
PrEP完了者:ワクチン接種2回(0,7日)または以前の推奨どおり(0,7,21~28日)および力価チェック/リスクカテゴリー別推奨に従って追加接種
≧0
1mL筋注
2回接種,0,3日で1回ずつ
なし
PrEPまたはPEP連続接種未完了の人,または
PrEP2回連続接種完了後3年以上で1~3年での力価チェックがない,あるいは21日~3年での追加接種がない人
≧0
1mL筋注
4回接種,0,3,7,14日にそれぞれ1回ずつ2
必要.創傷の周囲に浸潤させ,創傷から離れた部位に残りのRIGを筋注する3
HRIG4,5(望ましい):20 IU/kg体重を投与
または
ERIG:40 IU/kg体重を投与
  1. HRIGは,最初のワクチン接種と同じシリンジまたは同じ部位で投与してはならない.しかし,後続の接種(たとえば,第3,7,14日)では,最初にHRIGを投与したと同じ部位に投与してもよい.
  2. 28日の第5回目は,RIGが使えないような医療資源の乏しい国への渡航者で行うことがある.若干の遅れがあっても,多くの場合は患者のスケジュール通りであるかのようにワクチン接種を再開してよい.たとえば,患者が第7日に予定していた接種を受けずに,第10日の接種を受けに来た場合は,その日に第7日の接種を行い,同じ接種間隔で接種コースを再開させる.この場合には,残りの接種は第17日と31日に受けることになる.スケジュールから大幅な逸脱が起こった場合には,最終接種後に血清検査を行う.
  3. 多数の大きな創傷では,HRIGはすべての傷に浸潤させるために希釈することがある.医療資源の乏しい状況で抗原を節約するために,RIG用量が局所浸潤のために過剰である場合,WHOは筋注を推奨していない.
  4. 米国では3つの剤形のHRIGが使用できる:HyperRab(Grifols Therapeutics, Inc),Imogam Rabies-HT(サノフィ Pasteur),KEDRAB(Kedrio BioPharmaおよびKamad, Ltd).注意:HyperRabは他の薬剤より2倍濃縮されている.古い剤形のHyperRab S/Dは現在市販されていないが,一部の病院の倉庫には残っているかもしれない.
  5. HRIGは,部分的に抗体産生を抑制する;推奨用量以上の投与は行ってはならない.

有効性,予防効果持続期間/選択,互換性

有効性,予防期間
  • 何年もにわたって多くの処方が承認され多くの異なった剤形があるため,ワクチン効果の確定は困難である.
  • ACIPガイドラインに従って初回連続接種と追加接種がなされた場合は,狂犬病曝露があっても適切な曝露後予防を行えば100%近くは生存できる
  • 初回抗原刺激を受けていない人がHRIGを含むPEPを受けた場合には,感染のどの時点で治療を受けたかによって生存率は異なる.
  • ACIPガイドラインに従って初回抗原刺激をうけた場合には,生涯にわたって抗原刺激が続くと考えられ,その後曝露があっても,その都度に3日間隔での2回接種を行うだけでよい.
選択,互換性
  • 現在の細胞培養ワクチンは,有効性においては同等と考えられるが,一般には連続接種を通じて同一商品が用いられるべきである.
  • ImovaxはRabAvertより若干反応源性が低い.
  • 世界的に,低価なVerorabがもっとも広く用いられている細胞培養(ベロ細胞)ワクチンであるが,米国では入手できない.

毒性

禁忌
  • 以前のワクチン接種での,またはワクチン成分に対するアナフィラキシー反応.
  • 卵または卵タンパクに対するアナフィラキシー反応の既往はRabAvertの禁忌.
警告
(定義:一般にワクチン接種は延期すべきだが,副反応のリスクよりもワクチンによる予防の有用性が上回る場合には適応となることがある.)
  • PrEPについて:中等症または重症急性患者(発熱の有無にかかわらず)
  • エピネフリンをいつでも使えるように準備しておく.
副作用
  • 局所反応としては,注射部位の痛み(Imovax接種で21~77%,RabAvertで2~23%),硬結,発赤,腫脹,痒み.
  • じんま疹,痒み,悪心がImovax再接種で6%に起こることがある;RabAverでは発症率は低いようだ.
薬物相互作用
  • RIGは,ワクチン反応への干渉を防ぐために,PEPワクチン連続接種開始の7日以内に投与しなければならない.
  • 連続接種のワクチンはすべて同一商品でなければならないが,接種スケジュールを遅らせることなく,使用可能なワクチン接種を行う.
  • クロロキンによる抗マラリア化学予防開始前にPrEPを完了させなければならない:他の抗マラリア薬には薬物相互作用はない.
  • 狂犬病ワクチンは他のワクチン(COVID-19ワクチンを含む)と同時(または前後のどの時点でも)併用可能.

特に注意の必要な対象

妊婦,授乳
  • 妊婦への狂犬病ワクチン接種の胎児に対するリスクについてはエビデンスがない.
  • 妊娠はPEPの禁忌とは考えられない.
  • PEPでの狂犬病ワクチン接種は授乳の禁忌ではなく,母子にリスクを及ぼさない.狂犬病曝露リスクが現実的なら,授乳中の母親にもPrEPは適応となることがある.
免疫不全/HIV
  • 免疫不全が解消するまで,または免疫抑制剤が中止されるまでPrEPは延期する.
  • 抗体力価チェックはPrEP第2回接種後少なくとも1週後(2~4週後が望ましい)に行う:力価が0.5 IU/mLを下回れば,追加接種を行い,力価チェックを繰り返す.十分な力価がない人は高リスク行動を控えなければならない.
  • PEPの2つのワクチン(5回接種;0,3,7,14,28日に1回ずつ)およびRIGは,それ以前にワクチン接種を受けていない免疫不全者に接種しなければならない.
  • 第5回接種が必要かどうかを決めるために,第4回接種の72時間後に力価チェックを行うことがある.
  • 28日後の力価チェックを行わねばならない
  • 第5回接種後にも無反応の場合についての特別な指針はない.
  • ACIP承認の狂犬病ワクチン接種コースを完了した人でのPEPでは,2回接種の追加コースを第0,3日に行い,追加接種コース終了後7~14日に力価チェックを行う.
  • 血清検査が利用できない,または7~14日後になるかもしれない場合は,HRIGによる5回接種コースを完了させることを考慮する;可能ならば,それに続いて力価チェックを行うことが推奨される.
  • 免疫抑制剤は,他の疾患の治療に不可欠な場合でなければ,PEP中に投与してはならない.
  • 免疫抑制剤使用中の患者では,初回ワクチン接種後に力価チェックを行う.
  • TNF阻害薬単独の治療を受けている場合は,3回接種の狂犬病PrEPコースの後に2回接種のPEPコースをおこなえば,それ以前のワクチン接種がどうであろうとも,十分な免疫原性が得られるので,5回接種/HRIG処方の必要はなくなる(J Travel Med 30: taac148, 2023):それ以前のワクチン接種状況にかかわりなく,5回コース完了後に力価チェックを行う.

血清検査

  • CDCリスクカテゴリー1および2(検査施設職員またはコウモリ曝露が多い人)では,初回連続接種後に,力価チェックまたは追加接種が推奨される.初回連続接種完了後,6ヵ月ごと(カテゴリー1)または2年ごと(カテゴリー2)の力価チェックを行い,力価が<0.5 IU/mLでリスクが持続していることになれば,そのつど追加接種を行う.
  • 2回接種(0,7日)後1年で力価が得られる場合は長期の免疫原性(3年まで)が期待でき,既往の反応を上回ることが可能というデータがある.
  • 2回初回連続接種後3年以上経過している場合は,追加接種の前に力価チェックをしなければならない;力価チェックは追加接種より費用がかからない.追加接種は力価チェックのかわりに行うこともできるが,それでも力価チェックは追加接種≧1週(2~4週が望ましい)後に行わなければならない.

コメント

  • 過去にACIP推奨の3回接種スケジュールのPrEPを受けた人は,その活動および渡航先でリスクがあっても,実際に狂犬病曝露が起こらないかぎり,さらなる力価チェックも追加接種も必要ではない.
  • PrEPでの皮内接種(0.1mL)0および7日(現在WHOが推奨)または0,7,21~28日(以前には米国FDAが承認していた)は,現在ACIPは推奨していない.しかし,皮下接種(0.1mL)0,7,21~28日は有効であり,適応外処方として考慮してもよい.現在米国で使用可能なワクチンバイアルでは,皮内接種は承認されていないが,多くのクリニックで1.0mLバイアルを分割している(適応外処方).臨床医が皮下接種できるようにするべきである.
  • WHOガイドラインは接種経路(皮内および筋注)の多様化および,医療資源の乏しい国でPrEPおよびPEP双方のために用量節約の目的でのスケジュール変更を許容している.一部の医療資源の豊富な国では,こうした選択肢の一部を代替方法として採用している.
  • PEPについて,WHOは0,3,7日での短期の2または4箇所皮内接種を許容している.こうした処方に関するデータには,米国では使用できないベロ細胞狂犬病ワクチンが使用が含まれている.
  • 他の国で開始されたワクチン連続接種は,米国スケジュールおよびCDC指針に従っておらず,一般には米国ガイドラインに従ってワクチン接種を再開しなければならない.
  • CDC ACIPの推奨は,実際にワクチン接種を行う医療従事者がアクセスすることの多いFDA添付文書と比べて,より広い(適応外使用)こともより狭いこともある.
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2024/07/09