日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

酵素/トランスポーターが媒介する薬物相互作用  (2023/06/27 更新)


概説

  • 全薬物のおよそ50%は,CYP450システムの1つ以上の酵素によって代謝される.薬剤が特定のCYPの基質であり,その酵素の過剰産生が他の薬剤によって誘導される場合,過小投与および治療失敗につながる.逆にCYPが他の薬剤によって阻害される(代謝がゆっくりとなる)場合,過剰投与および毒性の発現につながる.これらの酵素に関する知識は,臨床的に関連する薬剤の相互作用を理解する上で有用であり,知られていない相互作用を前もって予測する助けともなる.
  • しかし実際は複雑であり,1つの薬剤が1つ以上の酵素の基質として機能することもあり,多数の酵素を阻害または誘導することもある.一般にCYP450の阻害過程は迅速であり,誘導はより緩徐である.酵素を阻害または誘導する薬剤が2剤以上使用される場合,血清中薬物濃度変動のリスクは増幅される.薬剤の相互作用に関与することが多いCYP450酵素として,CYP3A4, CYP2C9/19, CYP1A2, CYP2D6などがある.
  • 薬物トランスポーターシステムも薬剤の相互作用に関わっている.トランスポーターは腎臓,消化管などの多くの組織に存在しており,薬剤を細胞内に輸送(influx)したり細胞外に排出(efflux)したりする.重要な薬物トランスポーターシステムとして,P糖蛋白(PGP),有機アニオントランスポーター(OAT),有機カチオントランスポーター(OCT)がある.
  • 個々の抗微生物薬についていえば,以下にあげる薬剤の処方を行う場合はつねに薬物相互作用をチェックする.これらの薬剤は1つ以上のCYP450酵素を阻害し,そのため治療濃度域を超える血清中薬物濃度(毒性発現)を引き起こすことがある.
  • マクロライド系薬
  • CPFX
  • MNZ
  • ST
  • INH
  • アゾール系抗真菌薬
  • 抗レトロウイルス薬
  • 抗HCV薬
  • これに対し,Nafcillin,リファマイシン,一部の抗レトロウイルス薬はCYP450の過剰産生を誘導し,血清中薬物濃度を治療域以下にすることが知られている.
  • 薬物相互作用の可能性が認められ,適切な代替薬処方が存在しない場合には,(可能ならば)影響を受ける薬剤の血清中濃度を測定し,用量調整および毒性のモニターを行う.
【略語】
BCRP:乳がん耐性蛋白;BSEP:胆汁酸排出トランスポーター;CYP450 命名法,たとえば3A4 なら,3= ファミリー,A= サブファミリー,4= 遺伝子;MATE:多剤・毒性化合物排出;MRP:多剤耐性関連蛋白;NTCP:ナトリウム依存性胆汁酸共輸送体;OAT:有機アニオントランスポーター;OATP:有機アニオン輸送ポリペプチド;OCT:有機カチオントランスポーター;PGP:P 糖蛋白;UGT:ウリジン二リン酸グルクロン酸転移酵素

相互作用

  • 抗菌薬
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
アモキシシリン
OAT
  
  
予想される影響なし
アンピシリン
OAT
  
  
予想される影響なし
アジスロマイシン
PGP   
PGP(弱い)
 
軽度上昇
Ceftobiprole
  
OATP181/3
  
上昇
セファレキシン
MATE1

   
予想される影響なし  
クロラムフェニコール
 
2C19, 3A4

上昇
シプロフロキサシン
   
1A2, 3A4(副次的)

上昇
クラリスロマイシン
3A4
3A4, PGP, OAT

上昇
クリンダマイシン
3A4
 
 
予想される影響なし
Dicloxacillin


2C9, 2C19, 3A4
下降
Eravacycline
3A4


予想される影響なし
エリスロマイシン
3A4, PGP
3A4, PGP, OAT

上昇
Flucloxacillin
 
 
3A4?PGP?
下降
フシジン酸
3A4
3A4, BCRP, OATP1B1

上昇
イミペネム/シラスタチン/レレバクタム
REL:OAT3, OAT4, MATE1, MATE2K




予想される影響なし(VPA相互作用は異なる機序)
Lefamulin
3A4
3A4

上昇
レボフロキサシン
 
MATE, OCT2
 
上昇
メロペネム
OAT1, OAT3


予想される影響なし
メトロニダゾール
 
2C9

上昇
Nafcillin
 
 
2C9(?), 3A4
下降
ノルフロキサシン
 
1A2(弱い)
 
軽度上昇
Omadacycline
PGP
 

予想される影響なし
Oritavancin
 
2C9(弱い), 2C19(弱い)
2D6(弱い), 3A4(弱い)
軽度上昇または下降
ペニシリン
OAT


予想される影響なし
Plazomicin

MATE1, MATE2-K

上昇
Pristinamycin

3A4

上昇
Quinupristin/Dalfopristin
 
3A4
 
上昇
リファンピシン
PGP, OATP1B1
OAT, OATP1B1
1A2, 2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 2D6(弱い), 3A4
PGP, UGT酵素
下降
リファキシミン
3A4, PGP, OATP1A, OATP1B1/3
PGP
 
予想される影響なし
Sarecycline

PGP

上昇
テジゾリド

BCRP(腸)

上昇
Telithromycin
 
3A4, PGP(?)
 
上昇
チゲサイクリン
PGP


予想される影響なし
ST
S:2C9(主要), 3A4
T:2C8, S:2C9
 
上昇
Trimethoprim
 
2C8
 
上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗真菌薬
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
フルコナゾール
 
2C9, 2C19, 3A4
 
上昇
Ibrexafungerp
3A4
2C8, 3A4, PGP, OATP183

予想される影響なし
イサブコナゾール
3A4
3A4, PGP, OCT2

上昇
イトラコナゾール
3A4
3A4, PGP
 
上昇
ケトコナゾール
3A4
3A4, PGP
 
上昇
Oteseconazole

BCRP

上昇
ポサコナゾール
PGP
3A4, PGP
 
上昇
テルビナフィン
複数
2D6
 
上昇
ボリコナゾール
2C9, 2C19, 3A4
2C9, 2C19, 3A4
 
上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • Mycobacterium 薬(リファンピシンは抗菌薬を参照)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
ベダキリン
3A4
 
 
予想される影響なし
デラマニド
3A4
 
 
予想される影響なし
イソニアジド
 
2C19, 3A4
2E1
上昇または下降
Pretomanid
3A4
OAT3

上昇
リファブチン
3A4
 
3A4
下降
Rifapentine
 
 
2C9, 3A4
下降
サリドマイド
2C19
 
 
予想される影響なし

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗寄生虫薬
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
アルテメテル・ルメファントリン
3A4 (Art, Lum)
2D6 (Lum)
3A4 (Art)
上昇または下降
Artesunate
AS:BCRP, PGP
DHA:UGT1A9, 2B7


予想される影響なし
Chloroquine
2C8, 2D6
2D6
 
上昇
ジアフェニルスルホン
3A4
 
 
予想される影響なし
Fexinidazole

1A2, 2B6, 2C19, 2D6,3A4/5
OATP1B1/3, OCT2, OAT1, OAT3, MATE1, MATE2-K
1A2, 2B6
上昇または下降
Halofantrine
3A4
2D6

上昇
メフロキン
3A4, PGP
PGP
 
上昇
プラジカンテル
3A4
 
 
予想される影響なし
プリマキン
2D6, その他
 
 
予想される影響なし
プログアニル
2C19
 
 
予想される影響なし
Quinacrine
3A4, PGP


予想される影響なし
Quinine
3A4(主要), また1A2, 2C9, 2D6も
2D6

上昇
Tafenoquine

OCT, MATE1, MATE2K


上昇
チニダゾール
3A4
 
 
予想される影響なし
Triclabendazole


2C19

上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗ウイルス薬(コロナウイルス)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
バリシチニブ(JAK阻害薬)
PGP, OAT3, BCRP, MATE2-K



ニルマトレルビル
3A4, PGP
3A4, PGP

上昇
レムデシビル
2C8, 2D6, 3A4
PGP, OATP1B1
3A4
OATP1B3, BSEP, MRP4, NTCP

予想される影響はごくわずか
トファシチニブ
3A4
 
  
予想される影響なし

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗ウイルス薬(HBV)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
エンテカビル
OCT2


上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗ウイルス薬(HCV)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
Daclatasvir
3A4
PGP
PGP
OATP1B1/3, BCRP

上昇
Dasabuvir
3A4
PGP, OATP1B1
2C8
UGT1A1, OATP1B1, OATP1B3
 
上昇
Elbasvir
3A4, PGP
BCRP

上昇
Glecaprevir
PGP, BCRP, OATP1B1/3
1A2(弱い), 3A4(弱い)
PGP, BCRP, OATP1B1/3, UGT1A1(弱い)
 
上昇
Grazoprevir
3A4
PGP, OATP1B1/3
3A4(弱い), BCRP

上昇
レジパスビル
PGP, BCRP
PGP, BCRP
 
上昇
オムビタスビル
3A4
PGP
2C8, UGT1A1
  
上昇
パリタプレビル
2C8, 2D6, 3A4
PGP
UGT1A1, OATP1B1
   
上昇
Pibrentasvir
PGP, BCRP
1A2(弱い), 3A4(弱い)
PGP, BCRP, OATP1B1/3, UGT1A1(弱い)
 
上昇
Simeprevir
3A4
PGP, OATP1B1/3
1A2(弱い), 3A4 (腸のみ), PGP, OATP1B1/3
 
上昇
ソホスブビル
PGP, BCRP
 
 
予想される影響なし
Velpatasvir
2B6, 2C8, 3A4
PGP, BCRP, OATP1B1/3
PGP, BCRP, OATP1B1/3, OATP2B1
 
上昇

太字:CYP450


  • 抗ウイルス薬(ヘルペスウイルス)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
アシクロビル
OAT1, OAT2, OAT3


予想される影響なし
Cidofovir
OAT1, OAT3


予想される影響なし
レテルモビル
2D6(副次的), 3A4(副次的),
OATP1B1/3, PGP, UGT1A1/3
2C8, 3A4,
OATP1B1/3
2B6, 2C9, 2C19
上昇または下降
Maribavir
3A4(主要), 1A2(副次的)
3A4(弱い)
PGP,BCRP

上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗ウイルス薬(インフルエンザ)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
ファビピラビル
  
2C8

上昇

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗ウイルス薬(ポックスウイルス)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
Brincidofovir
OATP1B1/3
1A2,2B6,2C8/9,
2C19,2D6,4F2

BCRP,MRP2, BSEP, OATP1B1,OAT1,OAT3

上昇
Tecovirimat
UGT1A1, 1A4
2C8(弱い), 2C19(弱い)
BCRP(弱い)
3A4(弱い)
上昇または下降

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗レトロウイルス薬
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
アタザナビル
3A4, PGP
1A2, 2C8, 3A4
UGT1A1
 
上昇
Bictegravir
3A4, UGT1A1
OCT2, MATE1
 
上昇
Cabotegravir
PGP,BCRP
腎OAT1,OAT3
  
  
コビシスタット
2D6, 3A4
2D6, 3A4
PGP, BCRP,OATP1B1, OATP1B3
 
上昇
ダルナビル
3A4
3A4
 
上昇
ドルテグラビル
3A4
UGT1A1, UGT1A3, UGT1A9, BCRP, PGP
OCT2, MATE1
 
上昇
エファビレンツ
2B6, 3A4
2B6, 2C9, 2C19
2C19, 3A4
上昇または下降
Elvitegravir
CYP3A4, UGT1A1/3
PGP(弱い)
2C9(弱い)
軽度上昇または下降
エトラビリン
2C9, 2C19, 3A4
2C9, 2C19(弱い)
3A4
上昇または下降
ホスアンプレナビル
3A4
3A4
 
上昇
Foatemsavir
3A4, PGP,BCRP
OATP1B1/3,BCRP
 
上昇
ラミブジン
PGP, BCRP, MATE1, MATE2-K, OCT2


予想される影響なし
ロピナビル
3A4
 
 
上昇
マラビロク
3A4, PGP
2D6
 
上昇
ネビラピン
2B6, 3A4
 
3A4
下降
ラルテグラビル
UGT
 
 
予想される影響なし
リルピビリン
3A4
 
 
予想される影響なし
リトナビル
3A4, PGP
2D6, 3A4, PGP
1A2, 2B6, 2C9, 2C19, 3A4(長期)
PGP(長期), UGT
上昇または下降
テノホビルアラフェナミド
PGP, BCRP, OATP1B1/3


予想される影響なし
テノホビルジソプロキシル
PGP, BCRP


予想される影響なし

太字:CYP450,並字:トランスポーター


  • 抗微生物薬以外(H. pylori治療の合剤中の成分)
薬剤
基質
阻害
誘導
他の薬剤の血清中濃度への影響
オメプラゾール
2C19, 3A4, 3A4/5, 2B6
2C19  
  
上昇
ボノプラザン
2C9, 2C19, 2D6
2B6, 2C19, 3A4/5
  
上昇

太字:CYP450, 並字:トランスポーター


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2023/06/26