日本語版サンフォード感染症治療ガイド－アップデート版

抗菌薬の薬物力学 (2022/8/30 更新)

はじめに

抗菌薬の薬力学（PD）的効果とは，感染部位で細菌が抗菌薬の非結合成分に曝されることで起きる効果である．これに対して薬物動態（PK）は，薬物（抗菌薬）が投与された後の吸収，分布，排泄の結果として生じる，体液中の薬物濃度の時間変化である．単純に言えば，PDとは薬物が生体に対して何をなすかであり，PKとは生体が薬物に対して何をなすかである．
抗菌薬は，殺菌的薬剤と静菌的薬剤の2つに大別される．殺菌的薬剤は細菌を殺すのに対して，静菌的薬剤は細菌の増殖を阻害するのみであり，感染を除去できるかは宿主の免疫システムに依存する．
濃度依存的殺菌効果とは，殺菌の速度と程度が薬物濃度と相関することを意味する．したがって，CmaxとAUCが重要な決定要因である．
時間依存的殺菌効果とは，殺菌作用の程度が主に薬物曝露時間に依存することを意味する．最大限の殺菌効果を得るためには，遊離（非結合）薬物の濃度をMIC以上に維持するよう，それぞれの薬物に応じた投与間隔で投与する必要がある．

ペニシリン系：50％
セファロスポリン系：50～70％
カルバペネム系：40％

PAE（Post-antibiotic effect）とは，抗菌薬曝露後に持続する細菌増殖抑制のことである．PAEの機序は不明である．細菌が増殖し続けるために重要なタンパク質を取り戻すために時間がかかるからかもしれないし，または抗菌薬が結合部位に残留しているからかもしれない．
PK/PDの原則を知ることで，より合理的な投与法が選択できる．
参考文献：Infect Dis Clin North Am 23: 791, 2009；Infect Dis Clin North Am 17: 479, 2003．

抗菌薬の薬物力学

　

抗菌活性	PAE（Post-Antibiotic Effect）	薬剤	治療目標	PK/PDパラメータ
殺菌的，時間依存的	グラム陽性球菌に対しては短期間，グラム陰性桿菌に対してはなし，または短期間（例外的に，カルバペネム系薬は多くのグラム陰性桿菌に対するPAEがある）	βラクタム薬，VCM	曝露期間を長くする	Time above MIC
殺菌的，濃度依存的	長期（濃度依存的でもある）	アミノグリコシド系薬，フルオロキノロン系薬，DAP，コリスチン，MNZ，AZM（？），ケトライド系薬	抗菌薬濃度を高くする	Cmax/MIC， AUC24/MIC
静菌的	中程度～長期	マクロライド系薬，CLDM，ストレプトグラミン，テトラサイクリン系薬，TGC，LZD	抗菌薬量の増大	AUC24/MIC

ライフサイエンス出版株式会社　© 2011-2024　Life Science Publishing↑ page top

2022/08/25